Posted: 08 Mar. 2024 5 min. read

女性の力で日本の「防衛」を変える

【防衛×女性 日米対話】

国家安全保障、防衛は「男」の職場というイメージが色濃い。かつて米国もそうだったが、そこに挑んだ者がいた。日本でも変革が始まろうとしている――。米国防総省で25年のキャリアを積んだDeloitte USのBeth McGrathと、2023年3月31日に新設されたデロイト トーマツ スペース アンド セキュリティ合同会社(英名:Deloitte Tohmatsu Space and Security LLC、略称:DTSS)の藤本 真里絵、菅原 萌による「防衛×女性」の日米対話をお届けする。そして、DTSS人事担当執行役 兼 組織・人材領域リードの上杉 利次が総括する。

藤本 真里絵 私たち(藤本、菅原)は、2023年に新設されたデロイト トーマツ スペース アンド セキュリティ合同会社(DTSS)に所属し、日本の防衛・治安の発展のため、防衛省、自衛隊、民間企業の支援を行っている。国家安全保障は我々全国民の生活にも関わる重要なテーマにもかかわらず、この分野への女性の関わりは非常に少ない。かつては米国も同様だったと聞くが、その原因は何で、どのように向き合ってきたのか?

藤本 真里絵の写真。肩までの茶髪の日本人女性で、白いシャツとグレーのスーツを着ている。

藤本 真里絵  / Marie Fujimoto
マネジャー、デロイト トーマツ スペース アンド セキュリティ 合同会社

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社に新卒で入社し、テクノロジー分野(特にAI等の最新テクノロジーの利活用)を専門に様々なグローバル企業への中長期戦略策定から組織改革までの幅広い経験を持つ。「テック」「グローバル」をキーワードに企業や業界/官民等の枠を超えたコラボレーションを可能にするための”架け橋”となることをゴールとし、デロイト トーマツ スペース アンド セキュリティ合同会社にて、Deloitte USをはじめとするグローバルとの連携や宇宙を含む防衛領域の戦略策定に従事・貢献している。

 

Beth McGrath 過去数十年を振り返ると、国防を支える女性の役割は確実に進化してきた。第一次・第二次世界大戦の頃は、多くの女性が米国の工場や農場で働いた。中には看護師、医師、救急車の運転手、通訳などとして前線を支援する者たちもいた。1970年代には、米国で初めて女性が士官学校に入学し、1990年代には戦闘任務に就き、海軍の戦闘艦に乗船することが認められた。女性の役割は拡大したが、その比率は低いままだった。

だが、現代においてはどのような組織であっても、ダイバーシティとインクルージョンの重要性をしっかり認識することが、チームを活性化し、成果を生み出し、成長を持続することにつながる。それは防衛分野も例外ではない。多様性の高いチームによる判断・決断は、個々人によるそれを凌駕するという調査結果もある。ただし、軍隊というものは高度に統制された組織であり、国家安全保障の盤石さを維持することに集中しなければならない。適切な変革のためには、これまでに築き上げてきた制度や仕組みを尊重し、理解したうえで取り組むことが大前提となる。

私は国防総省に25年間勤務したが、当初女性は指折り数えるほどしかいなかった。私の部門では私だけだった。退職時にはもう少し増えていたがマジョリティには程遠かった。

それでも、組織文化は変わりつつあり、ダイバーシティが向上している。女性が重要な役職に抜擢されている。2022年には、米軍初の女性海軍作戦部長が誕生した。2023年9月には統合参謀本部議長(制服組トップ)に黒人男性が就任した。女性や人種的マイノリティに対しても門戸は開かれつつあり、経験値を上げているところなのだ。

ワークライフバランスなど課題を挙げればきりがない。長い戦いを勝ち抜いていくために何より大切なのは、「防衛のミッションに携わりたい」という強い動機と意志を持ち続けることだ。そして、データ分析でも組織設計でも何でもいい、自分自身の強みを最大限に発揮することだ。私は軍服を着たことも軍隊に所属したこともない。私のフィールドは国防総省であり、そこで目に見える成果を生み出すことに集中してきた。

コンサルタントとして防衛分野を支援していくのなら、まずはクライアントを深く理解することから始めなければならない。関係者は、どのような課題を抱え、どのように解決したいのか。業界特有の専門用語や表現、組織や階級などを頭に叩き込むことは基本中の基本だ。そして、本当の勝負は、課題の本質を見極め、その解決のために自分のスキルや知識、能力を活かし切れるかである。

Beth McGrathの写真。肩までの金髪のアメリカ人女性で、グレーのスーツを着ている。

Beth McGrath
Global Government & Public Services Leader, Deloitte US

ベス・マクグラスは、Deloitte USの政府・公共サービス(G&PS)部門のグローバルリーダーである。クライアントのニーズとソリューションを第一に、グローバル産業および政府・公共サービスの連携・協働の強化に貢献している。 米国政府機関における25年以上の実績から、広範かつ学際的、戦略的、実務的なマネジメント経験を持つ。Deloitte’s Strategy practiceのメンバーとして、政府機関や企業に対し、イノベーション促進や業務改善のための戦略アドバイスを行っている。

 

遠慮は禁物、やりたいことがあるならまずはテーブルに上げてみよう

藤本 真里絵 防衛分野では情報の機密性の高さからリモートワークの導入が難しいことや地理的な異動もあり、ワークライフバランスは特に難しい課題だと思う。Bethさんが得た教訓は?

Beth McGrath 私は元々インターンとして国防総省に入り、25年後に政治任用されて退職した。国防に関する仕事のペースは常に速く、自分には無理かもしれないと思うようなこともあった。当初はワークライフバランスを犠牲にしなければならないかもしれないと心配していたが、良きメンターに恵まれたことと充実したサポート体制もあって、なんとかこなすことができた。今では、国防総省で積ませてもらった素晴らしい経験と国家の安全保障に貢献できたことに心から感謝している。

そうした経験から私が学んだことは、ワークもライフも、やりたいことがあるならまずはテーブルの上に出してみるということだ。そして、心の底から溢れ出る自分自身の言葉で、大切だと思うことを主張することだ。

もう一つは、予見性(predictability)、柔軟性(flexibility)、透明性(transparency)を常に心がけること。私たちは様々なチームに属して仕事をしている。チームメンバーの一人ひとりにそれぞれのワークライフバランスがある。誰かが午後に半休をとれば、その分の仕事を他の誰かが担当する。チームで仕事をすることの利点の一つはそうした支え合いにある。それを上手に回していくためには、予見性、柔軟性、透明性がとても大切なのだ。幸いにもデロイトにはそうした組織文化が根付いていて、自分の事情を話す場と機会がしっかり確保されている。

 

日本の防衛を変える女性先駆者として果敢にチャレンジを

菅原 萌 私は、社会人になってまだ4年足らず。防衛分野に携わり始めたのはつい最近で、いろいろなことを学ばなければならないと思っている。防衛分野で女性が実力を発揮しキャリアアップしていくうえで、どのようなスキルが必要なのか?

菅原 萌の写真。後ろで結んだ黒髪の日本人女性で、グレーのセーターを着ている。

菅原 萌  / Moe Sugawara
シニアコンサルタント、デロイト トーマツ スペース アンド セキュリティ 合同会社

デロイト トーマツ ファイナンシャル アドバイザリー合同会社に新卒で入社し、ライフサイエンス・ヘルスケア分野の企業価値算定業務に従事。現在はデロイト トーマツ スペース アンド セキュリティ合同会社にて、宇宙・防衛領域の戦略策定に貢献している。

 

Beth McGrath 第一に、防衛の仕事を好きになること。これは防衛に限らず、どんな仕事にも共通する大原則である。私自身、防衛は非常に興味深い仕事だと思っている。一流の人材が集まっているので、常に刺激を受け、学び、成長できる。国を守るというミッションに貢献できることを誇りに思う。

第二に、自分の強みを知り、活かすこと。例えばアナリティクスに長けていれば防衛にはチャンスが山ほどある。組織の再設計、予算の最適化、兵器の能力・コスト分析、等々。自分の強みを活かして国家安全保障に貢献することはできる。

第三に、国防というリアリティーに真正面から向き合うこと。私は民主主義、自由主義を信奉しているが、それらは誰かから無償で与えられるものではない。戦争は望まないが、世界中の人々は全て良い人ばかりというわけではない。平和を守るために、現実を直視することが必要だ。

若い二人にもう一つだけアドバイスするなら、あなたたちが日本の防衛を変える女性先駆者なのだという自覚をもって果敢にチャレンジしてほしいということ。厳しい上司から「私には絶対にできない」と思うような難しい仕事をアサインされることもあるだろう。でもそれは、成長のために与えられたチャンスだ。諦めずに懸命に取り組んで乗り越えた時、視座が一つ上がり、もっと強く成長し、次はもっと困難なタスクに取り組めるようになる。

藤本・菅原 貴重なお話をいただいた。深く共感し、心から感謝する。

◇       ◇       ◇
 

まとめ:多様性が変革・創造の源泉となる

日本の防衛分野に新風を吹き込み、変革を推進するためには、人的基盤の強化が欠かせない。人材と発想の多様性(ダイバーシティ)が日本の組織の変革推進力になる――。

これは、デロイト トーマツ スペース アンド セキュリティ合同会社(DTSS)の組織・人材領域リードとして私が信じているところである(参考:スペース アンド セキュリティを日本新創造の起爆剤に――挑戦者11人の提言)。

Beth McGrathの来日を機に、あえて“女性だけ”にこだわった対談(分断深まる世界、今こそ「多様性」について語り合おう)と対話(本レポート)を企画した。いうまでもなく多様性はジェンダーだけではないが、「最大のマイノリティ」としての女性ならではの本音を話しやすい場を提供できるのではないかとの思いからだった。結果、多様性に向き合うことの意義、そのための対話の重要性を確認できた。

Bethが発した言葉の中で「やりたいことがあるなら、まずはテーブルに上げなさい」というメッセージはデロイトに共通する価値観を体現している。すなわち、デロイトには変化や発言を受け入れる土壌があり、だからこそ多様性を変革・創造の源泉として活かし、クライアントの課題に向き合うことができる。DTSSもそのような価値観を継承する。

DTSSは、デロイト トーマツ グループ各社の多種多様な人材によって組成している。戦略立案、M&A、イノベーション、官民連携、サプライチェーン、人事などの専門知識・経験を持つプロフェッショナル陣に加え、防衛分野の出身者も参画している。多様性に溢れるチームによる斬新な発想力、確実な実行力、分野横断の総合力を最大限に引き出し、大きな転換期にある日本の安全保障、防衛・宇宙分野の発展に貢献していく。

 

上杉 利次 / Toshitsugu Uesugi
デロイト トーマツ スペース アンド セキュリティ合同会社
人事担当執行役 兼 組織・人材領域リード

藤本と菅原とBethが笑顔で並んで映っている写真。

 

(注記)日本のデロイト トーマツ合同会社およびその関係法人(デロイト トーマツ グループ)は、デロイト トウシュ トーマツ リミテッド(DTTL、Deloitte Global)のメンバーファームであるデロイト アジア パシフィック リミテッドのメンバーですが、資本関係は無く、法的に独立した組織です。これは、Deloitte USなど海外メンバーファームとの関係性においても同様です。デロイト トーマツ スペース アンド セキュリティ合同会社(DTSS)は、日本資本の日本企業であり、Deloitte USとの資本関係はありません。

 

(構成=水野 博泰 DTFAインスティテュート主席研究員、平木 綾香DTFAインスティテュート研究員)

 


「分断深まる世界、今こそ「多様性」について語り合おう」
Beth McGrathと永山 晴子(デロイト トーマツ グループ および 有限責任監査法人トーマツ ボード議長)による「防衛×女性」の対談も合わせてお読みください。

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