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グローバル企業のエシックスの取り組み

わたしのEthics Moment!

今回は、カーディナルヘルスのDevrayさん、マイクロソフトジャパンのAliceさんにお集まり頂きました!デロイトからは、デロイト トーマツ グループ エシックスオフィサーの久保さんが参加し、デロイト アジア パシフィック コンダクトリーダーのNikkiさんが進行役を務めます。

 





Devray Kirklandさん

カーディナルヘルス バイス・プレジデント ダイバーシティ&インクルージョン チーフダイバーシティオフィサー

チーフダイバーシティオフィサーを務め、組織のカルチャーを作り、ダイバーシティ戦略の開発と実行を担っている。複数社で数多くのヒューマンリソースマネジメントと人材開発を担当した経験がある。

Alice Grahamさん

日本マイクロソフト株式会社 執行役員 政策渉外・法務本部長 アシスタント ジェネラル カウンセル

2年以上にわたりマイクロソフトジャパンの政策渉外・法務本部長を務め、ビジネス主導のコンプライアンスを掲げて、法務、政府関連業務、慈善活動とデジタル犯罪のプロフェッショナルチームを率いている。法務領域では20年以上の経験がある。

Nikki Scott-Smithさん

デロイト アジア パシフィック コンダクトリーダー デロイト オーストラリア パートナー

アジア パシフィックのコンダクトリーダーで、APのエシックスプログラムをリードしている。目標は、従業員と会社が常に正しい理由で、正しい選択と決定を行う文化を醸成すること。

久保陽子さん

デロイト トーマツ グループ エシックス・オフィサー リスクアドバイザリー事業本部 パートナー

2年前にエシックスオフィサーに就任し、デロイト トーマツ グループ内のEthical culture醸成に努めている。過去10年以上にわたり、リスクマネジメントやカバナンスのコンサルティングを提供。

※ご役職・肩書はインタビュー日付時点のものです。

2021年3月3日取材

 

Nikki:皆さまの会社はエシックスに関する取り組みを積極的に行っていますが、その理由と活動を始めたきっかけについて教えてください。

Devray:エシックスはビジネス上の取り組みでもあると感じています。また、Diversity, Equity & Inclusion(DE&I)やエシックス、コンプライアンスを実現するのは、私のような担当者だけでなく、従業員一人ひとりだと思っています。

 

Alice:Devrayさんに賛成で、エシックスは従業員一人ひとりに関わるものです。例えば、マイクロソフトには「プライバシー・バイ・デザイン」という考え方がありますが、これは製品を作る人、サービスを提供する人、そしてお客様と話す人がそれぞれプライバシーを考慮して仕事をするということです。この考え方により、従業員一人ひとりの仕事の中に個人情報保護規制が、自然と組み込まれるようになります。同様の考え方として「ダイバーシティ・バイ・デザイン」や「コンプライアンス・バイ・デザイン」というものもあります。どこか一つの部門が各テーマを担当するのではなく、従業員一人ひとりが自分の仕事の中にそれらを組み込んでいくことを、テクノロジーを提供する会社として大切にしています。

 
 

Nikki:デロイトには様々なビジネスがありますが、共通のShared Valuesを掲げ、エシックスに関する機能も一元化しています。しかし、グループ共通のエシックスチームだけでは、全グループの従業員に対してエシックスを浸透させることは難しいため、エシックスアドボカシープログラムというものを始めました。このプログラムでは、各ビジネスにエシックスアドボカシーオフィサー(日本での名称:ビジネスエシックスリーダー)を置き、彼らにエシックス活動を推進してもらうようにしています。

久保:エシックスアドボカシープログラムを始めて5年経ちますが、良く機能しており、CEOやビジネスユニットのリーダーなどのトップマネジメント層はエシックスに力を入れ始めています。その一方で、現場からは直属の上司にあたるマネジャー層はあまり変わっていないという声が上がっています。今後は、現場レベルにまで変化をもたらすことに力を入れていきたいと考えています。

 

Devray:トップが発信するメッセージは重要ですが、組織の中を行き交っているとメッセージが薄まってしまうため、どのようにして、トップの熱意をダイレクトに伝え、組織の知見と結びつけるかについて頭を悩ませています。それができるようになれば、ミドルマネジャーも有意義な方法でエシックスに関するコミュニケーションを行えるようになると思っています。また、研究開発部門などのプロフェッショナルな役割と、製造現場のようなノンプロフェッショナルな役割の違いも苦労している原因の1つで、私たちが伝えるメッセージを正しく理解してもらうために、異なる方法で伝える必要があると感じています。

 

Alice:現場はビジネス目標を達成することで頭が一杯なので、彼らの関心を引くためには、DE&Iをビジネス目標の一部にする必要があると思います。マイクロソフトでは、例えば、雇用の多様性についての目標を達成した場合、つまりDE&Iを実現した場合、その人は評価され、報酬を得られる仕組みを導入しています。これにより、弊社のDE&Iの進捗管理も容易になっています。この仕組みを成功させるカギは、目標が明確かつ測定可能であること、また現場が主導となっていることです。一方で、重大な違反があった場合には、契約上できないこともありますが、事実と名前を含めて、「このミドルマネジャーがこんなことをしたために、職を失った」というように、広く伝えるようにしています。このように、ミドルマネジメント層に対しては、いわゆる「アメとムチ」の両面から施策を行っています。

 
 

Nikki:素晴らしい取り組みですね。マイクロソフトでは、違反があった際、全従業員に共有していますか、それともグループリーダー層とのみ共有していますか? 

Alice:センシティブな場合もあるので、ケースバイケースです。ハラスメントのクレームであれば、結果を関係者と共有しますが、一般的に少数の人たちにしか共有しません。一方で、何年も前に起きた汚職問題の場合は、パートナーの名前、関わった従業員、行為、金額などの詳細を会社全体で共有しました。また、実際に起きたシナリオを個人情報が分からない形でコンプライアンス研修やエシックス研修に組み込んだりもしています。

 
 

Nikki事後の情報共有と未然の問題解決は非常に有効です。エシックスの話題を取り上げるとき、一般的にネガティブな行動に注目しがちですが、日本のデロイトでは、ポジティブな行動をロールモデル化し、正しいことをした人を紹介したり、表彰したりすることをしてきました。続いて、エシックスに関する取り組みを従業員に浸透させるために、どのような施策を行っているのか教えてください。

Alice:より具体的な情報を共有することで、従業員にエシックスに関する取り組みを理解してもらうようにしています。エシックスやコンプライアンスの考え方は、少しわかりづらい部分もあるので、日々働く中でのエピソードが効果的だと思っています。日々の仕事の中での良いエピソードによって、従業員は正しい行いを知り、逆に失敗したエピソードによって、ミスをしたり、思った通りにいかなかったときに、自分も声を上げていいのだと気付けます。Speak Upしやすい環境を作ることで、つまり従業員に対して心理的安全を作り出すことで、更に良い循環が生まれると思っています。

 

 
 

Nikki:デロイトでは、自分たちの活動状況を把握するために、毎年、エシックスサーベイを実施してフィードバックを得ていますが、皆さまの会社ではどのようにフィードバックを得ていますか?

Devray:カーディナルヘルスではフォーカスグループという取り組みを行っています。フォーカスグループでは、シニアレベルのリーダーがセッションを開始し、その後リーダーなしで少人数のZoomグループに分かれて話をしてもらいます。そして、最後に各グループの代表に、話し合ったテーマやインサイトを経営陣に報告してもらいます。この取り組みにおいて重要な点は、匿名性を保った信頼・安心できる空間を作ることです。そのため、録音やビデオ撮影は基本的には行わず、シニアレベルのリーダーが直接話し合いに参加しないようにしています。この方法によって、匿名性を保ちつつ、エシックスの問題にシニアレベルのリーダーがどのくらいの時間を費やしているのか従業員に示すことができます。

 

 
 

Nikki:皆さまの取り組みの中で、エシックスを組織に根付かせるための優先事項を教えてください。

Devray:まず、カーディナルヘルスのコアバリューの1つであるIntegrity(誠実さ)を従業員に理解してもらうことが大切だと考えています。今日の企業において、顧客やサービスを提供する人々に対するIntegrity(誠実さ)はブランドを確立する要素の一部であり、非常に重要です。また、Accountable(説明責任)というバリューにも力を入れています。ルールを守らず物事を進めた場合、どのようなことが起こりうるか、そしてどのような説明責任を負うのかについて従業員に理解してもらう必要があります。これらのバリューは2つで1つで、どちらか一方だけではいけないということと、従業員がインシデントを起こした際には、それが誰であっても例外なく同じポリシーと手続きによって処理・処罰される、ということを知ってもらうことが重要で、私たちのCEOも従業員に対するメッセージを発信するときには気を付けています。

 

Alice:マイクロソフトでは、3つの観点からエシックスについて考えるようにしています。1つ目は、外部のステークホルダーや政策立案者、影響力のある人たちとの関わり、2つ目は、エシカルな公共政策の主張、そして3つ目はエシックスが組み込まれている製品という観点です。例えば、政府機関がエシカルなAIをどうやってデザインするかについて提案する等、ステークホルダーや学者、政府の政策立案者から話を聞いたうえで、私たちが考えるエシカルな対応を提唱しています。私たちが提唱するテーマはかなり広範囲で、その多くが製品に関するものではありませんが、エシカルな意見を共有することが私たちのやるべきことであり、意見を出すことそのものがエシカルだと考えています。

 

久保:本日話し合ったことを踏まえると、皆さま同じ困難に直面していると感じました。デロイトでは、エシックスを根付かせるために、FY22はミドルマネジメント層に注力したいと考えています。さらに、「これはやってはダメ」というメッセージではなく、「それは良い取り組みです」と前向きなメッセージを発信して、エンパワーしていきたいと思っています。スタッフもネガティブなメッセージに辟易していると思いますので。

 

Alice:一方で、日本人はエンパワーされることに抵抗がある人が多いのではないでしょうか。何をすべきか教えてもらいたがる人が多いように感じます。内容が分かりやすく、手取り足取り教えてくれるガイドラインが欲しいのでしょう。私が「自信を持って(エンパワーされているから)、これをやってください」とお願いしても、「えっ、どうすればいいの?」といった感じです。かなり驚きましたが、日本ではエンパワーメントは上手く行かないので、トップマネジメント層がリードしてあげる必要があります。

 
 

Nikki:皆さま、本日は貴重なお話をありがとうございました。これからの数年間は、デロイト全体に行動のマインドセットを根付かせることに力を入れて、常に正しい理由で正しい選択と意思決定ができるように従業員とビジネスサイドをエンパワーしていきたいと思っています。

編集後記

文中でNikkiが言及していたエシックスアドボカシープログラムは、AP全体ではFY22から始まるのですが、日本ではすでに数年前からビジネスエシックスリーダー、ビジネスエシックスチャンピオンという形で定着しています。日本での事例がAP全体でのBest Practiceとして更に発展していることは素晴らしいですし、デロイト トーマツ グループのEthics Officerとして誇らしく思います。

デロイト トーマツ グループ
Ethics Officer 久保陽子

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