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「SDGsビジネス」の市場規模

SDGsの企業への「認知」はかなり浸透してきた。一方でその取り組みについて日本企業では「コスト」と捉える割合が高く、事業として取り入れるまで広がっていない。果たしてSDGsは「コスト」なのか「ビジネスチャンス」なのか?その市場規模を試算してみた。

企業のSDGsへの取組は「コスト」か?

2015年、ニューヨークにある国連本部において193か国の首脳が一堂に会し「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を採択した。同アジェンダの中核をなす「持続可能な開発目標(SDGs(Sustainable Development Goals)」は「持続可能な社会」を実現するための17の目標とそれに付随した169のターゲット、230の指標を定めている(図1)。

図1: 国連の定めるSDGs(持続可能な開発目標)

持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals) - 17の目標
  • 2015年8月、国連加盟国は2030年に向けた「持続可能な開発目標(SDGs)」の最終文書に合意
  • 持続可能な開発課題や先進国・企業を含む地球全体で取り組むべき課題(17の目標と169項目の具体的な達成基準)を幅広くカバー
  • 開発課題の解決に向けて、国連は2030年まで年間2-3兆ドルの予算を投じる事を明言
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従前の「ミレニアム開発目標(MDGs)」と比較したSDGsの一つの大きな特徴は、企業をその達成に向けた主要な実施主体として明示的に位置付けていることだ。今日では既に「SDGs」という言葉がビジネス界においても浸透し始め、企業がSDGsに関連した広範な社会課題に取り組まなければならないということが認識されつつある。

他方で国連グローバル・コンパクト加盟企業を対象にした調査では、「SDGs」という言葉について85%の企業で何らかの認知があったものの、そのうち72%は「CSR担当だけが知っている」と回答している[1]。また、2017年に日本の一般企業を対象として実施された調査によれば「SDGsがビジネスチャンスにつながる」と回答した企業は37%にとどまり、欧州の64%に比べて非常に低いとの結果が出ている[2]。全体として社会課題に取り組まなければならないとの認識は共有されていても、個社レベルでは結局SDGsへの取り組みはビジネスチャンス(=事業部マター)というよりもコスト(=CSR部マター)であると捉えられているのではないだろうか。

今回は日本規格協会からの請負で実施した調査内容の一部を紹介する。まず「SDGsビジネス」とは何かを具体化することにより、現在意識的にSDGsに取り組んでいない日本企業も実はSDGsに繋がる製品・サービスを提供しているということを見ていく。その上で、「SDGsビジネス」の市場規模を試算することにより、各企業のSDGs達成に向けた取組がビジネスチャンスとなり得るということを示す。

[1] Global Compact Network Japan「会員向けSDGsへの取組状況調査」結果概要(2015年12月4日)
[2] 企業活力研究所「社会課題(SDGs等)解決に向けた取り組みと国際機関・政府・産業界の連携のあり方に関する調査研究報告書」(2017年)

「SDGsビジネス」を具体化、定量化する

企業にとってSDGsが事業部マターとして認識されにくい原因の一つは「SDGsビジネス」とは何かが具体的にイメージされていないことにあると考えられる。かつてビジネスとしては認識されていなかった「環境」についても、今日では環境コンサルティングや環境教育等の具体的な「ビジネス」がイメージされるように、SDGsについての「ビジネス」を具体化することが可能である。

今回はSDGsの本文からキーワードを抽出し、当該キーワードに基づいてSDGsの各目標の解決に資する製品・サービス等(以下「SDGsビジネス」)を導出した(図2)。例えば「目標1:あらゆる場所で、あらゆる形態の貧困に終止符を打つ」については「貧困」「社会保護」「基礎的サービス」等、貧困から直接的に連想されやすいキーワードが含まれており、ここから例えば教育やワクチン等の「SDGsビジネス」が導出される。さらに本文をよく見ると「災害」「強靭性(レジリエンス)「気候変動」等少し意外だと思われるキーワードも含まれており、ここから例えば「防災関連製品」「気象・災害予測・警報」等の「SDGsビジネス」も導出される(図3)。今回挙げたものは必ずしも「SDGsビジネス」の全てを網羅しているものではないが、実は既に日本企業が提供している少なからぬ製品・サービスが「SDGsビジネス」につながり得るものであると考えられる。

図2: 国連SDGsの169の「ターゲット」からキーワードを抽出し、SDGsに関連する個別ビジネス(SDGsビジネス)を洗い出した

SDGsビジネス洗い出しのプロセス
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図3: 目標1に関するSDGsビジネス (製品、サービス、プラットフォーム)

目標1(あらゆる場所で、あらゆる形態の貧困に終止符を打つ)
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「SDGsビジネス」がどのようなものか具体的にイメージできても、それが自社にどの程度のビジネスチャンスをもたらすかが数字で把握できない限りそれに取り組む意義を見出すことは難しい。今回は上記で導出した各「SDGsビジネス」について、2017年時点での世界全体での市場規模を算出し、それを目標ごとに積み上げる形で市場規模を試算した。試算の結果、「SDGsビジネス」の市場規模は小さいもので70兆円、大きなもので800兆円程度に上ることが明らかになった(図4)。経営層、事業部は日々自社に関連する「○○製品・サービス」の市場規模と同様に「SDGsビジネス」の市場規模の数字を意識する必要がある。

図4: SDGsは大きなビジネスチャンスをもたらす市場(各目標の市場規模は70兆~800兆円程度)

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SDGsへの取り組みは単なる「コスト」ではなく企業の「儲け」、すなわち企業の損益計算書の営業利益から上の部分に直結するものである。個々の企業がSDGsへの取り組みが実は自社にも関連が深いものであり、大きなビジネスチャンスにつながると認識した瞬間、SDGsは「CSR部マター」ではなく「事業部マター」となり、世界は大きく変わるだろう。

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