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わが国における物流の近代化(その1)

~“より大量に”から“より早く、より便利に”へ~

大量生産・大量消費社会の終焉とともに、わが国の物流には、単にモノを運ぶだけの「作業」から運ぶ行為によって新たな価値を提供する「サービス」への変革が求められています。 筆者 公認会計士 渡邊 徳栄

1、時代の変遷と物流に求められる役割の変化

物流は、産業や生活の基盤であり、経済社会にとって不可欠な機能です。
このため、時代の変遷に伴う産業構造の転換や経済社会の変化に応じて、物流に求められる役割も変化してきました。

(1)「物流」の誕生
例えば、江戸時代に年貢米を馬や船で運んでいたように、モノを運ぶという経済活動は昔からありましたが、1950年代頃までは日本に「物流」という概念はありませんでした。
状況が変わったのは1960年代半ば頃からであり、高度経済成長期に入った日本では物流量が急激に増大したため、まずはモノを大量に消費地まで運ぶ輸送機能が求められました(図表1-1参照)。また、産業構造上も重厚長大型産業が中心であったため、その点からも物流量増大への対応が緊急の課題でした。

そこで、当時の日本政府は「物流」の近代化を掲げて道路や港湾整備を急ピッチで進め、また、企業においても徐々に「物流」が意識されるようになり、自動化・機械化された物流拠点が各地に建設され、官民挙げて現在につながる近代的な物流体制が整えられました。

(2)物流を取り巻く環境の変化
それまでの日本のビジネスモデルは、“つくれば売れる”という大量生産・大量消費を前提に、規格化された商品をつくり続け、汎用的に売り続けるというモデルであり、国内物流量も右肩上がりで増加していきました。
しかし、バブル崩壊後の経済環境の悪化により国内物流量は1991年をピークに横ばい傾向となり、さらに、2004年を境に人口が減少し始め、2007年に超高齢社会に突入したことで国内需要が低迷し、最近では国内物流量の減少傾向が顕著になっています。

また、産業構造面では、重厚長大型から軽薄短小型産業へシフトするとともに公共事業の削減や、グローバルな競争激化に伴い、国内の立地優位性が失われ製造業を中心に海外移転が進んでおり、これらも国内物流量減少の一因となっています(図表1-2参照)。

図表1-1 

図表1-1 国内貨物輸送量の推移(重量ベース)

(出典)日本物流団体連合会「数字でみる物流 2014」国内物流の動向(6ページ)から作成

図表1-2 

図表1-2 品目別の自動車貨物輸送量の変化

(出典)国土交通省「自動車輸送統計年報」業態別・車種別・品目別輸送トン数より作成
(注)「食料工業品」・・・製造食品、飲料、など
   「窯業品」・・・セメント製品、コンクリート製品、れんが、など
   「工業用非金属鉱物」・・・石灰石、りん鉱石、原塩、原油、など
 

「質」へ変化

(3)「量」から「質」へ
不況により消費行動が“必要なときにしか買わない、欲しいものしか買わない”と変化し、また、消費社会の成熟による商品ライフサイクルの短縮化とともに消費者ニーズも多様化した結果、ビジネスモデルが“消費者に買ってもらうために”という消費者起点のモデルへと切り替わりました。
これに伴い、消費者と接点を持つ小売業の存在感が増し、物流に求められる役割も、大量一括輸送の「量」から、リードタイム短縮、小ロット・多頻度化の「質」へとシフトしていきました。

小売業の中でもコンビニ業界や総合スーパー業界では、売れ筋商品の発注形態が小ロット・多頻度化しているため、これがさらに商品輸送の小ロット・多頻度化に拍車をかけています。特にコンビニ業界は右肩上がりで成長しており、5万店を超える全国各地の店舗からの注文を、網の目のように張り巡らされた全国配送網と、効率的な物流体制によって対応しています。
この結果、例えば東京-北海道間の物流時間は、1990年には1日半以上(39.9時間)要していましたが、2010年には約1日(25.4時間)に短縮されています(図表1-3参照)。
また、1990年に2.43トン/件であった物流ロットは、2010年には0.95トン/件と半分以下のサイズになっています(図表1-4参照)。

なお、リードタイム短縮のために、これまでの多層的かつ複雑な物流チャネルから脱却し、中継地点を中抜きし、物流チャネルをシンプルかつ短縮する動きが強まっています。
最近では、製造業の工場・物流センターから卸売業を経由せず小売店舗に直送されるケースも増加しており、製造業から卸売業を経由して輸送される件数割合は、1990年の27.9%から2010年の21.4%へ6.5ポイント低下(△23.3%)しています(図表1-5参照)。
 

図表1-3 

図表1-3 東京都から主要エリアへの物流時間の推移(件数ベース)

(出典)国土交通省「全国貨物純流動調査(2000年)」図3-3-22 東京都から主要県への物流時間の推移(件数ベース)(147ページ)及び「全国貨物純流動調査(2010年)」図3-3-23 東京都、大阪府から主要県への物流時間の推移(件数ベース)(187ページ)より作成

図表1-4 

図表1-4 物流ロットの小口化(1件あたりの貨物重量の推移)

(出典)国土交通省「全国貨物純流動調査(2010年)」図3-2-2 流動ロットの推移(74ページ)より作成

図表1-5 

図表1-5 製造業から卸売業経由の流通量の減少(件数ベース)

(出典)国土交通省「全国貨物純流動調査(2000年)」図3-3-30 製造業の発業種別着産業間の物流量(件数ベース)(155ページ)及び「全国貨物純流動調査(2010年)」図3-3-30 製造業の発業種別着産業間の物流量(件数ベース)(196ページ)より作成

2、物流サービスによる差別化

物流は、わが国にとって不可欠なインフラでありながら、いまだに単にモノを運ぶだけの「作業」(コスト)として捉えられる風潮があります。
しかし、物流は、商品を届けるにあたり新たな価値を付加することが可能な経済活動であり、いまや物流によって消費者にとっての商品価値を高め、事業の差別化を図るという「サービス」としての側面が強く求められるようになっています。

(1)通販業界を支える物流サービス
物流をコストではなく「サービス」として捉え、“顧客にどう価値を届けるか”に関して古くから向き合ってきた業界として、通販業界が挙げられます。
特にネット通販業界は、インターネット利用者の激増に伴い急速に普及し、一気に我々の日常生活の一部となりました。このため、国内物流量が減少している中でも、宅配便等の取扱個数は大幅に増加しています(図表2-1参照)。

大手通販会社では、365日24時間注文を受け付け、注文された商品を当日配送、時間指定配達するというサービスレベルが当たり前となっています(図表2-2参照)。これらは、宅配便事業会社を中心とする高度な小口貨物配送ネットワークにより支えられており、消費者が満足するスピードで正確に低コストで商品が届けられるという物流サービスのクオリティが、通販会社の競争力の源泉にもなっています。
さらに、最近では、物流サービスの中で宅配業者が商取引機能(代引き決済機能など)を担ったり、コンビニなど自宅以外の指定された場所での受取サービスが導入されたりと、物流サービスの高付加価値化・多機能化が進んでいます。
 

図表2-1 

図表2-1 インターネット利用者数と宅配便等取扱個数の推移

(出典)総務省「情報通信白書」インターネットの利用状況、国土交通省「宅配便等取扱実績(平成25年度)」宅配便取扱個数の推移より作成
 

図表2-2 

図表2-2 到着日指定の状況(件数ベース)

(出典)国土交通省「全国貨物純流動調査(2000年)」図3-3-46到着日時指定の状況(1)(188ページ)及び「全国貨物純流動調査(2010年)」図3-3-31 到着日時指定の状況(1)(198ページ)より作成

新しい時代へ

(2)オムニチャネル時代の到来
最近では、「オムニチャネル」という言葉をよく耳にします。
スマートフォンなどの携帯端末の普及により、消費者が時間と場所を問わず買い物が出来るようになったことで、あらゆる場面が消費者との接点になり得る時代となりました。そこで、企業側は、実店舗などのリアル分野とネット上のデジタル分野を双方向でつなぎ、消費者ひとりひとりが求めるサービスを提供しなければならなくなってきています。
このようなオムニチャネル時代において、物流にはオムニチャネルの利便性をバックアップし、顧客満足度を高める役割が求められます。すなわち、消費者ひとりひとりの顧客満足度をさらに上げるために、あらゆる場所で受け取ることができ、かつ、分単位で正確に届けることが出来るかどうか、という物流サービスのクオリティが、今後の企業競争力を左右し、企業経営に大きな影響を及ぼす時代になってきたとも言えるでしょう。
 

3、おわりに

わが国の物流は、世界的に見ても高品質であることが知られていますが、企業活動における物流軽視の傾向はまだ根強く残っており、物流の重要性に対する認識は、諸外国と比べて決して高いとは言えません。
しかし、激化する国内及びグローバル競争で勝ち残っていくためには、物流サービスのクオリティが重要であり、物流を単なる「作業」ではなく「サービス」として、その高度化に注力することが必要であると考えられます。


※ 本文中の意見に関わる部分は私見であり、デロイト トーマツ グループの公式見解ではございません。
 

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