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事業再生局面におけるオペレーション理解の重要性

Financial Advisory Topics 第25回

事業再生において大きな山場と言えば、利害関係者間の交渉になるが、それを成功裏に収めるには、支援を要請する経営陣が、どのような道筋で再生を図るのかという計画を、説得力を持って語れなくてはならない。デロイト トーマツは、窮境の最中においても、事業の営みの最前線、すなわちオペレーションの課題解決を支援することで、これ以上ない具体的根拠を提供し、着実な再生の実現を後押ししている。

はじめに

昨今の事業再生においては、ノンコアの不良資産を実態に即して処分し、その分傷ついたバランスシートを金融支援で穴埋めするといった、バランスシート中心でのシンプルな再生シナリオを描くことが難しくなってきている。

業界によって背景・メカニズムこそ異なるが、概して、環境変化によりコア事業そのものの収益性が厳しくなっているケースが多く、一過性のバランスシート調整では、早晩ふたたび窮境に陥ってしまうのである。

多くのケースで、落ち込んだ収益性を埋め合わせようと作成された長大なコスト削減施策リストを目にしてきたが、決まって、物事をリードできる希少な人財に過負荷が生じ、活動を維持することができなかった。

どの産業においても、その事業収益は、一人一人の従業員の日々の営みの積み重ね、即ちオペレーションの結果として得られるものである。決して、望ましい収益水準を定めれば自動的にオペレーションがついてくる、という順番ではない。オペレーションの変革は、苦境に陥っているコア事業を再生する為には避けて通れない、本質的な課題である。

このような本質的な課題への取り組みは、言うまでもなく、経営陣にとってのみ重要なのではなく、支援を請われるステークホルダーにとっても極めて重要であり、その意思決定に影響するもの、ということを認識しておきたい。

我々のチームは、そのような問題意識を踏まえ、オペレーション変革の支援は勿論のこと、ステークホルダーとの共通認識の形成の支援もさせていただいている。以下に、その一端を紹介する。

 

事業再生局面におけるオペレーションとの向き合い方

緊急初動:今を生き延びるために

事業収益が悪化すると、資金繰りにその影響が表れ始める。状況が長期化・慢性化すると、財務部で実施できるような通り一遍の資金捻出策ではもたなくなるが、いざ金融機関の支援を得ようと申し入れても、先方もすぐには行内を説得できないというタイムラグが存在する。支援を申し入れようという経営陣の判断が遅いと、残り時間がギリギリ、場合によっては時間切れとなってしまう。我々のチームでは、そのような構図を踏まえ、先行して資金を捻出する支援を行っている。

止血
  • 赤字取引を止める、というのは言うは易く行うは難し、の典型である。これまで売上至上主義でやってきたので初めて赤字取引を認識した、というケースも中にはあるが、多くの場合、赤字を認識しつつも、“その取引を止められない理由“が存在し、従業員には如何ともしがたいという状況に接する。
  • 我々は、赤字取引の財務的分析だけでなく、その理由をも分類し、止めると確実に実害がでるものと、そうとは言い切れないものを峻別する。理由はバラエティ豊富で、マーケティング政策、長期供給義務の存在、唯一の供給者としての矜持、既に購入予約済みの大量の原料、消費者団体への説明責任、行政からのガイドライン等々、数字を眺めているだけでは分からないオペレーションの前提が集約されており、これらを無視して強引に取引を止めれば、想定外の損失が生じかねない。
  • 我々は、取引を止める判断ができる地位にある経営陣に、窮境であることも踏まえた取引方針見直しにあたっての論点を整理することで、判断の支援を行っている。結果として、取引の取りやめではなく、値上げ交渉によって黒字化を果たしたケースも少なくない。
短期的な資金源
  • 更に短期的な効果が求められるケースでは、在庫削減をテーマに支援する。なお、オペレーションを理解せずに過剰在庫削減をゴールに活動すると、設備の稼働率が落ちたり、仕入先との交渉が難航したり、顧客に品切れで迷惑をかけたりと、得てして予期せぬ問題が生じてしまいがちである。我々のチームは、豊富なオペレーション変革およびSCMの知見をベースに、しっかりと当該事業の仕入れや生産、供給等のオペレーション実態をつぶさに把握し、急所を踏まえたうえで支援を行っている。
  • まず、製品・商品の回転に着目し、必要以上に在庫を有している品目をスクリーニングする。一部、政策的な意図を以って積み上げている品目を除いて、生産や仕入れといった供給計画を見直し、その分の供給能力を品薄な品目に振り向ける等、より資金回収が早まるような案・考え方を提示することで、軌道修正の支援を行っている。
  • また、仕入れや外注加工等も同様に必要以上の原材料・仕掛品を抱えていないかをスクリーニングしたうえで、購買計画を見直し、不要不急の支出を抑制する支援も行っている。
初動支援の例
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合意形成:支援を得るために

経営陣が、金融機関やスポンサーからの支援を要請するにあたって、事業計画を媒体としたコミュニケーションが行われる。支援を要請する大前提として収益性の回復・改善を織り込む必要があるが、必然的に、窮境に陥った構図について考察しつつ、再生に向けた打ち手の蓋然性を説明する必要がある。なぜ今までうまくいかなかったかを考察しつつ、なぜ今後はうまくいくと考えるのかを説明するという、ややもすると矛盾しかねない主張をやり遂げなければいけない。我々のチームでは、オペレーションの前提がどのように変化し、収益性の改善に貢献するかという具体的かつ検証可能な観点から、この主張を支援している。

現状がダメなら伸び代はある
  • オペレーションを確実に日々回していくためのリソースや条件の整っていない現場であれば、それらを手当するだけで、確実にパフォーマンスが改善する。我々のチームは、オペレーションの現場をつぶさに把握して支援に臨むが、その際に、多くのケースでこうしたギャップを目の当たりにする。例えばメーカーの例だが、
    ✓ 新設備を導入したが作業者に使い方を教えられるトレーナーが多忙で教育が間に合っておらず、結果、マシントラブルが頻発している
    ✓ 検査ルールを全面刷新したが、記載の曖昧さがあちこちに残っており、検査員は全作業をすべて張り付きで記録せざるを得ず、全体のボトルネックになってしまっている
    ✓ 基幹システムを入れ替えた結果、原料の受入管理機能が無くなり、気づけば期限切れという理由で生産計画がキャンセルになる事態が頻発する結果、稼働率が低迷している 等々
  • ギャップや、それが生じた背景が分かりやすく、かつ手当の実現性が十分見込めるものは、改善シナリオに説得力を持たせやすい。
  • 必ずしも、分かりやすいギャップ、手当の容易なものだけではないが、我々のチームでは、十分な解像度で事実把握を行い、因果関係のメカニズムを代わりに説明する等、第三者に理解してもらえるよう、支援している。
課題把握の観点の例
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地に足の着いた再生仮説の説得力
  • スポンサーの立場であれば、事業計画の蓋然性が確認できただけでは足りない。更に、エクイティホルダーの使命として事業価値向上の切り口を模索する必要があるからである。
  • その切り口が、事業の質向上であれ、規模拡大であれ、オペレーションの更なる変革は不可避である。現状の実態を踏まえ、どのような順番で変革をしかけていくべきか、必要リソースや投資規模の想定は、といったスポンサーならではの論点に対応すること、事実と原理原則に立脚した回答で蓋然性を説明することにより、支援を得られる可能性を引き上げることができる。

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執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
ターンアラウンド&リストラクチャリング
ディレクター 内藤 貴世志

 

※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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