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開発型不動産流動化の投資ビークルの評価

Financial Advisory Topics 第33回 開発型不動産流動化の投資ビークルにおける定量評価・定性評価のポイント

不動産流動化(証券化と同義)スキームを活用した不動産投資が浸透してきています。資産と投資家とを結ぶ機能を担う組織体を投資ビークルといいます。投資家は、投資ビークルを介して不動産流動化スキームに投資します。投資家が投資ビークルに出資を検討するにあたり、投資ビークルの評価を行います。ここでは、開発型不動産流動化の投資ビークルの評価において、事例を一部紹介しながら、定量評価・定性評価の重要なポイントについて整理していきます。

1. 不動産流動化の投資ビークルのポイント

不動産に投資するスキームの一つとして不動産流動化が利用されています。(図1)不動産投資スキームに対して当社が提供する業務スコープは、スキームに関する会計助言、税務助言に加えて不動産鑑定評価や開発不動産のプロセスマネジメント等があります。

不動産流動化スキーム
① TMK スキーム
② 受益権型 GK-TK スキーム
③ REIT スキーム
④ 不動産特定共同事業スキーム

図1 開発型不動産流動化に内在するリスク(抜粋)
出典:国土交通省「国土交通大臣 建設流通政策審議官 所管事項説明」(https://www.mlit.go.jp/common/001059020.pdf)
※図中のSPVは、Special Purpose Vehicleの略で、投資ビークルの意味です。

最近では、投資家が不動産流動化スキームの投資ビークルに投資を判断するプロセスにおいて、投資ビークルに関して幅広いスコープで支援を行うこともございます。(図2)事例では、ビークルに関する会計助言・税務助言(オフショア)に加えて不動産流動化スキームで開発する不動産事業の分析、オリジネーターの財務・税務デューデリジェンスなどの業務スコープで支援を行いました。今回は、開発不動産事業の評価のポイントを整理していきます。なお、本文は、2024年5月時点の内容となります。

図2 開発型 不動産流動化の投資ビークルに対する業務スコープ例

 

2. 開発不動産事業の評価のポイント

開発不動産事業の評価は、主に定性評価の項目として、開発リスク(スケジュール)、ストラクチャ―、リソースなどがあり、定量評価の項目として開発リスク(コスト)、キャッシュフロー変動リスク、パイプライン、出口戦略があります。今回は、足元建築コストの上昇や工事従業者の不足等の課題を抱える開発リスクに重点を置いて説明します。開発リスクは、定性評価項目の開発スケジュールの遅延リスクと、定量評価項目の開発コストの増加リスクの2つで構成されています。開発スケジュールの遅延リスクを評価するためには、開発スケジュールの妥当性、建築計画の妥当性、開発計画の関係フォーメンションの検証を実施します。開発コストの増加リスクを評価するためには、コストアロケーションの検証を実施します。(図3)

図3 開発不動産事業の評価

開発スケジュールの妥当性検証のポイントは、まず、開発許認可に関する法例・条例等の法的リスクの整理の上、リスク分析が行われているかを確認します。特に土木造成やインフラ工事を伴う計画では、適正なスケジュールの想定、施工会社選定・契約スケジュールを含めて蓋然性の確保が必要です。土木造成・インフラ整備は、敷地の状況によりスケジュールが変動しますが、早期の段階で地盤調査・測量調査・インフラ整備状況調査を行い、リスクの整理、対応シナリオの想定がなされているかが評価のポイントなります。次に、工事施工会社の確保が重要です。近年建設業界における労働環境変化や需給の逼迫による工事従業者不足などの要因から施工会社を確保できないケースが多数発生しています。施工会社に早期にヒアリングを行い、請負可否を正しく把握、設備工事などサブコンストラクター等も含めた体制構築が必要になります。そして、各設計フェーズにおける工事費算出後のVE(バリューエンジニアリング)・CD(コストダウン)の検証期間を確保できているか否かも評価ポイントとなります。VE、CDは、労務費の高騰等から工事請負契約時よりも工事予算が超過するリスクを抑制する効果があります。

建築計画の妥当性検証のポイントは、開発許認可を早期に取得できるかに拠ります。開発対象が大規模敷地で造成工事を含む場合は、都市計画法第29条で定められている「開発許可」、環境影響評価法に定められている「環境アセスメント」、令和5年に改正された「宅地造成及び特定盛土規制法」の確認が必要となります。適切な調査が行われ、法的リスクが整理されて、対応シナリオが想定されているか否かで評価を行います。

開発計画関係フォーメーションの検証ポイントは、開発対象の規模・グレード・ブランドコンセプトなどに対応できる体制が構築されているか評価します。業務を遂行するアセットマネージャーやプロジェクトマネージャー、ゼネコン、設計監理等関与する会社組織の能力・実績はもとより、担当するリーダーやメンバーの能力・実績も確認します。必要に応じて面談やヒアリングのうえで評価を行います。併せて関係各社の業務を確認し、フォーメーションの抜け漏れを検証、評価します。事例では、新ブランドホテルを複数開発する計画であることから、スケジュール・品質・コストなど、プロジェクトマネジメントの強化が求められるため、プロジェクトマネージャー・マスターアーキテクトの能力・実績を評価しました。ホテル開発計画においては、様々な役割、能力を持った多数の関係者が関与する形となります。そのため、課題の抽出や課題の早期解決策を整理し実行する能力が重要となります。開発計画のレベルに応じた関係フォーメーションを構築することは、評価項目の中でも重要な位置付けとしております。

開発コストの妥当性検証ポイントは、開発コストが業界平均値から逸脱していないか、計画段階で予測できないリスクに対する予備費が工事費に適正に計上されているか、地域特性に対するコスト変動要因が反映されているか、という視点になります。計画初期的段階で開発コストを検証するには、同規模・同グレードの計画との比較や複数ゼネコンへのヒアリングで総額規模を把握することが望ましく、計画段階で予測できないリスクに対しては、建築資材や労務費などの高騰等に対する予備費の見積が考えられます。近年建築資材に対し高い上昇率が続いていましたが、材料によっては高止まり傾向にあります。一方、労務費は建設業界の労働環境変化への対応や円安傾向、国際情勢による燃料費・輸送費の高騰などの要因から今後の上昇リスクは否定できません。(図4)予備費の算出には、建築資材・労務費上昇の傾向と工事着手までの期間を考慮して算出することが望まれます。コストに影響のある地域として、離島・寒冷地など輸送や工期に影響がある地域、極端に開発が集中している地域が考えられます。例えば、大型半導体工場関連で、建設が進行している九州地方や、建設予定地である北海道千歳市などでは人員確保が厳しくなるなど周辺への影響が顕著に表れており、近接する地域では余裕ある予備費の見積が必要となります。

図4 「主要建設資材・価格動向調査結果(令和6年3月1~5日現在)」(国土交通省、直近時点調査結果に洗い替え)
出典:国土交通省(https://www.mlit.go.jp/toukeijouhou/chojou/mon.htm

 

3. その他の評価ポイント

開発リスク以外の評価ポイントについては、出口戦略、ブランドコンセプトなどがあります。出口戦略については、出口で売却する際のキャップレートの定量評価に加えて、パイプラインにより開発案件が増加した場合の投資家候補や活用する仲介業者等も評価に加味しました。ブランドコンセプトでは、開発対象がホテルなどのオペレーショナルアセットの場合で、特に新ブランドを立ち上げる場合のADR(平均客室単価)、OCC(客室稼働率)などホテルのKPIの定量評価を行ったことと、新ブランドの送客ネットワークの規模やパイプラインにより新ブランドのホテルのポートフォリオが構築された場合のKPIのアップサイドの可能性などを評価しております。

 

4. まとめ

このように 開発型不動産流動化スキームには、税務・会計的な課題以外に不動産開発の課題が多く、当該課題が開発型不動産流動化スキームのボトルネックになる可能性があること、またホテルの様なオペレーショナルアセットの場合には、キャッシュフローの変動リスクやブランドコンセプトなどの論点も関係してくることから、スキームの検討段階から、幅広い専門家への相談が望まれます。デロイト トーマツでは、開発型不動産流動化スキームに関連する会計助言、税務助言、建築開発のプロセスマネジメントおよびホテルアセットの評価・ブランドコンセプトの評価などをグループ横断で提供しています。

以上

※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。

執筆者

不動産アドバイザリー
シニアヴァイスプレジデント 住吉 敬
ヴァイスプレジデント 濵﨑 孝浩
シニアアナリスト 葭田 真希

(2024.5.2)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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