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連載【保険ERM基礎講座】≪第13回≫

「資本とERM(その1)」

近年、企業経営を取り巻く環境が大きく変化し、リスクが複雑になりつつあります。デロイト トーマツ グループでは、保険毎日新聞に保険会社におけるERMつまり、「保険ERM」を分かり易く解説した連載をスタートしました。(執筆:有限責任監査法人トーマツ ディレクター 後藤 茂之)

出典:保険毎日新聞(3月31日発刊号)

≪第13回≫ 資本とERM(その1)

1. ERMにおける資本

ERMにおいて、資本は2つの機能を果たしている。すなわち、①ビジネス遂行に伴う不確実性から生じる潜在的な損失に対し、企業が備えておくべき資金(財務健全性の確保)②保有している資金を活用して、グループ全体として効率的なリスクテイクを行い、収益性を向上させる(資本効率の追求)-という2点である。このように資本は、重要な手段であるが故に、保険会社は、リスクに対してどの程度の資本を確保しておくべきか(財務健全性の管理)、リターンの源泉としてのリスクをどこでテイクするか(リスク予算: risk budgeting)を決定しなければならない。そして、結果どの程度の収益を挙げたかを管理する(収益性の管理)。
また、投入した資本に対してどの程度の収益性を生んでいるかを検証する指標として、リスク調整後業績指標(risk adjusted performance measurement)が利用されることが多い(資本効率の追求)。保険ERMでは、保有しようとするリスクに対して資本を配賦し、リターン、リスク、資本を体系的に管理する仕組みが組み込まれている。これを図示すると図表1のとおりである。

2.保険制度と資本

個々の保険事故はランダム性を有する。従って、仮に十分なデータにより保険のロスの期待値が正しく評価されていたとしても1年ごとの保険収支の実績を観察したとき、保険料収入と資産運用収入の合計額より、1年間の保険金支払額と管理コストの方が上回ることや、短期的には支払保険金の実績値が危険保険料を上回ることもある。また広域の自然災害、火災・爆発といった巨大事故、環境汚染によるクラスアクション(集団訴訟)といった賠償責任、広域におけるパンデミック(※) の発生等の巨大損失がランダムに発生する可能性もあり、資本を毀損する事態も起こりうる。それ故、このような保険事故の特徴を踏まえても保険事業を継続できる担保として適切な水準の資本を確保しておくことはなによりも重要である。保険会社の所有形態は、株式会社か相互会社である。前者の場合、会社スタートにあたって発行された株式を購入した投資家が所有者になる。後者の場合における所有者は、保険契約者である。設立に際し、投資家からの借り入れによって資本を確保し、この借入はその後の事業利益によって償却されることとなる。追加的な資本の必要性がなくなった場合においてのみ、その利益が保険契約者に配当として配分されることとなる。

3. 資本の希少性

ある保険市場において発生した予期せぬ巨損によってもたらされた保険金支払は、当該保険事故の特性を形成するデータに組み込まれていく。その後の期待保険金コストの上昇により当該市場の保険料水準を上昇させる可能性があるだけでなく、再保険取引を通じてグローバルに浸透するといった現象も起こる。また、巨大損失によって生じた資本の毀損は、資本を希少要素化し、保険会社に追加資本の調達を要請する可能性がある。その場合は、資本蓄積が進むまでの間、保険の供給能力が低下し、資本コストの上昇圧力として働く(「ハード市場」)。しかし、時間が経過すれば、資本の回復と、その蓄積が進み、保険供給能力が拡大し、需給の関係から保険料水準が引き下げられる(「ソフト市場」)。

(※)ある感染症(特に伝染病)の世界的な流行のこと。

 

※つづきは、PDFよりご覧ください。

(PDF、1,751KB)

資本配賦運営

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デロイト トーマツ グループでは、保険ERM態勢に関し、基礎的な情報提供から、各社固有の問題解決まで幅広く関わり、Deloitte Touche Tohmatsu Limited(DTTL)のグローバルネットワークを駆使し、最新の情報と豊富なアドバイザリーサービスを提供します。

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