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連載【保険ERM基礎講座】≪第9回≫

「意思決定の科学(その3)」

近年、企業経営を取り巻く環境が大きく変化し、リスクが複雑になりつつあります。デロイト トーマツ グループでは、保険毎日新聞に保険会社におけるERMつまり、「保険ERM」を分かり易く解説した連載をスタートしました。(執筆:有限責任監査法人トーマツ ディレクター 後藤 茂之)

出典:保険毎日新聞(1月28日発刊号)

≪第9回≫ 意思決定の科学(その3)

第7回目からは、意思決定に介在するリスク(バイアス)への対処と合理性の担保について考察いたします。

1. 知見の有効活用

われわれは、日頃特段自覚していないものの、事業計画を立てたり、新たな投資判断をしたりする場合、経営戦略論やコーポレートファイナンスの理論に基づいて考え、行動を起こしている。理論とは、一般に、自然現象や社会現象を、法則的、統一的に説明できるよう、筋道を立てて組み立てられた知識の体系、と考えられている。そして、ある条件下において、何が、何を、なぜ引き起こすか、といった知見を得ることができる。

2.知見の体系化と検証

自ら保有したリスクの持つ不確実性をいかにマネージするかを問われる保険会社にとって、認知されている危険に対して不確かさを理解する一つの体系的手段として内部モデルがある。保険会社は、内部モデルの構造を理解し、モデルを使った分析により、リスクの特性を理解することが可能である。しかしながら、内部モデルは原則として過去のデータに基づく蓋然性を前提とする、いわば、現時点におけるナレッジの集大成、当該リスクに対する評価の仮説である。従って、その後把握したデータや経験によって常にモデルを検証し、さらに納得感のあるものにしていかなければならない。

3. バイアスの回避・是正

われわれが犯しやすい判断上のリスクのパターンが存在することについては既に述べた。事業計画を立てる際、将来のキャッシュフローを描いたとしよう。マネジャーは、あたかも未来をコントロールしているかのような感覚にとらわれ、知らず知らずのうちにそのシナリオに近い形で事が運ぶような幻想にかられる。このようにわれわれの意思決定には、無意識の介在するバイアスが存在し、これに向き合い、それを回避・是正する必要がある。われわれは無意識で行っていることが多いだけに、取扱いが難しいのが、この「本判断上のリスク」の特徴といえる。以前引き合いに出したミュラー・リヤーの矢(意思決定の科学その1)を参考に、どのようなアプローチが必要か考えてみたい。図1のように二本の補助線を引いてみよう。そうすると2つの線の両端(A,BとC,D)が強く意識されることとなる。そうすることで錯視の原因となっている矢への意識が弱まるからであろう。ある意味バイアスは意識の偏りから生じるので、それを回避・是正するための仕組みを組織の中に組み込んでいかなければならない。

4. ORSAプロセスへの参考

リスクは、様々な管理の視点、時間軸、ポートフォリオの切り方から検証することによって理解を深めていくものである。そもそも実務で扱うリスクの大半は、「サイコロの1の目の出る確率が1/6である」といったような、数学的な確率(先験的確率: a priori probability)が成り立つ世界ではなく、歪みのある世界であり、不確実な要素を多く含んでいる。そのような特性を持つリスクの管理を業とする保険会社としては、リスクの持つ尽きない深淵さに対抗しうる重層さでリスクを検証していく宿命を負っている。

 

※つづきは、PDFよりご覧ください。

(PDF、1,603KB)

ミュラー・リヤーの錯覚を是正するための補助線

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