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ミレニアル世代の最新調査から読み解くグローバル人材マネジメント

Global HR Journey ~ 日本企業のグローバル人事を考える 第十八回

デロイトがグローバルで実施しているミレニアル年次調査から、人材マネジメントに関連する部分の結果をご紹介する。ミレニアル世代が労働力の中心になるに伴い、その価値観にあった組織を実現するために日本のグローバル企業がどのように人事に取り組むべきか考察する。

調査の概要

世界42カ国、13,416人のミレニアル世代(1983年から1994年までに生まれた世代)、および10カ国3,009人のZ世代(1995年から2002年までに生まれた世代)を対象とした「2019年 デロイト ミレニアル年次調査」では、各世代の就業観や消費動向に対する意識を分析している。

本稿では調査のうち人材マネジメントに関連する部分の結果をご紹介し、日本企業がどのようにグローバル人事に取り組むべきか考察する。

本調査の報告書詳細は、調査レポート 2019年 デロイト ミレニアル年次調査 日本版をご覧ください。

 

既に変化している価値観

まず、「人生の目標としてどのような目標を持っているか」という質問に対する回答結果から見てみたい。

「高収入を得る」「自宅を購入する」「子供/家族を持つ」という伝統的な価値観も依然として存在する一方、「世界を旅する」の回答者が最も多く、「コミュニティ、もしくは社会に良い影響を与える」も多くの回答を得た。

世界的に、社会・経済が成熟し、モノ消費からコト消費へ移っている中で、個人がその時にしかできない「経験」を重視する傾向がここにも表れていると考えられる。

「私たちはそれほど企業を信用していない。私たちの親は会社へ忠誠心を示しても職を失っているからだ。そして株も暴落するので私たちは信用せず、同じようなことがまた起きるのではないかと心配している。だから私たちは人生の大きなイベントを先送りし、お金を銀行口座に貯めておくか、『いいかい、明日にもまた経済は崩壊するかもしれないのだから、海外旅行にでも行こう』と言うんだ。」
Laura Banks, American millennial

 

図1:

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また、注目すべきは、これらの傾向は、ミレニアル世代(25~36歳)のみならず、Z世代(17~24歳)にも見られる点だ。一般的に、ミレニアル世代とその上の世代(Generation X)では、志向性が大きく異なるが、デジタル経済が進展したミレニアル世代以降は志向性が似通る傾向にある。ミレニアル世代をターニングポイントとして世代間ギャップが発生していると認識すべきだろう。

 

優秀な現地社員の獲得はより困難に

次は「今後離職の意思はあるか」「あるとすればその理由は何か」という質問の回答結果を見る。

本調査の開始以来、過去最も多い49%のミレニアル世代が、「もし選択できるのであれば2年以内に離職する」と回答している。2017年の調査では、この割合は38%だった。回答者の実に半数が短期での離職志向とは衝撃的な数字である。

離職理由としては、「報酬」「昇進昇格」等のいわゆる金銭的報酬という一般的な理由が最も多いものの、「学習・成長機会」「承認欲求」等の非金銭報酬に対する不満も大きな要因となっている。

日本企業の海外拠点の多くは、日本本社と比較すると人材マネジメントのレベルが低くなっている。日本本社では、2000年代に年功序列排除・成果主義導入を推進し、若手抜擢等も実施できるようになってきているが、海外拠点ではいまだに年功序列型の人事制度を運用している会社も多い。おそらく、そのような会社では、ここに挙がっているような離職理由がほぼすべて当てはまり、結果として現地で優秀な社員の獲得・リテンションは困難になっていることだろう。

離職の意向がまだ低かった数年前はまだ耐えられた現地法人のマネジメント層も、もはや人事のプロフェッショナル無しにはこうした課題を解決することは不可能に近いと思われる。

図2:

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ギグ・エコノミーに対する感度

今年から新たに追加された調査内容として、ギグ・エコノミー(インターネットを通じて単発の仕事を受注するやり方や、それによって成り立つ経済)に対する感度がある。

「ギグ・エコノミーに参加したいか」という問いに対しては、世界ではなんと80%以上の回答者が肯定的に捉えている。日本のミレニアルとの傾向は異なるが、世界のミレニアル世代はフリーランスや短期契約社員等の働き方について、抵抗感を持たず、一つのキャリアとして十分受け入れているようだ。さらに、肯定的と回答した人々に魅力について聞いたところ、「報酬水準の高さ」や「働き方の柔軟性」が挙げられた。確かに、アメリカのITエンジニアではフリーランスでも数千万円稼ぐことが可能と聞く。

一方、ギグ・エコノミーに対して否定的な回答者にそのデメリットを聞いたところ「報酬が予測できない」「労働時間が不規則/予測できない」「将来計画の難しさ」という回答を得た。ギグ・ワーカーの柔軟性はメリットの一方で、自らコントロールできないことも多く、その不安定さが懸念となっているようだ。

日系企業ではフリーランス等のギグ・ワーカーを活用している企業はまだ少ないだろうが、欧米企業ではオープンイノベーションの旗手として優秀なギグ・ワーカーをいかに労働力として確保すべきかが人材マネジメント上の重要論点に上がっている。デロイトでも、シリコンバレーのある企業に対して正社員ではなく、ギグ・ワーカーをどのように惹きつけ・リテインし、安定的な人材プールとして機能させるかというプロジェクトが発足している。

図3:

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今後グローバルで求められる人材マネジメントとは

上記のような志向性を持つグローバル各国のミレニアル世代・Z世代をどのように惹きつけ、リテインすべきか、日本のグローバル人事に突き付けられた大きな課題である。それをどのように解いていくべきだろうか?

デロイトは、「Simply Irresistible Organization Model」というミレニアル世代・Z世代に対する人材マネジメントモデルを提唱している。ミレニアル世代・Z世代の惹きつけやリテイン、またエンプロイー・エクスペリエンスの改善には以下の5つの要素を各企業・各職場で実現することが有効となる。

 

  • 有意義と感じられる仕事の提供
    • 自らの仕事に対して誇りを持ち、有意義と感じられる環境をいかに提供するかという観点。ドライバーとしては、自律性・適所適材・権限を与えられた小チーム・自由な時間という観点が存在する。
    • 適所適材は、本人のキャリア志向性・経験・能力と仕事内容をマッチさせるという意味で会社の生産性だけではなく、海外のミレニアル世代のモチベーション向上にも有効となる。デロイトのある調査では、チームメンバーが強みを活かせていると考えるチームの生産性は、そうではないチームの生産性をはるかに上回ったという結果も出ている。
  • 支援的なマネジメントの実現
    • 社員が日常的に接する上位者が、トップダウンではなく、メンバーをリスペクトしながら、成功を後押しするようなマネジメントを実施できているかという観点。ドライバーは、クリアでわかりやすいゴール・コーチング・マネージャーの能力開発・アジャイルなパフォーマンスマネジメント。
    • アジャイルなパフォーマンスマネジメントの一つである1 on 1は、近年日本でも各社取り入れているが、グローバルのミレニアル世代・Z世代にも求められる施策となるため、グローバル展開を推奨する。
  • 快適な職場環境の提供
    • 物理的に快適な職場というだけではなく、仕組みやカルチャーの観点から長く働き続けることができる環境かどうかという観点。内容は、時間や場所を選ばない働き方・人間性を尊重する職場・認め合う文化・ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の推進。
    • 日本での働き方改革やD&I推進は進んできているが、海外現地法人ではまだまだ未着手の企業も多い。日本国内と同様のレベルかそれ以上の環境を提供することで、金銭面以外での要素としてリテインを図ることができるだろう。
  • 成長機会の提供
    • 短期的な能力開発だけではなく、中長期的なキャリアの後押しや、カルチャーとして常に学び続けることができているかという観点。OJTとOff-JTのバランス・個人を活かす異動(個人のキャリア志向を踏まえた異動)、自律的でオンデマンドな学習・価値に繋がる学習を促す文化等が求められる観点。
    • 中長期でのキャリアビジョンを描き、Off-JTとOJTを組合せ能力開発に臨むことは、かねてから日系企業が行ってきた取り組みであるが、それは世界の若手層のニーズにも合致している。海外現地法人の社員の戦力化に向け、改めて海外社員の能力開発にきめ細かく取り組むことが求められている。
  • 経営に対する信頼感醸成
    • 社員が経営に対して継続的に信頼感を醸成することができているかという観点。ドライバーは、存在意義とミッション・継続的な人材への投資・透明性と誠実性・知的な刺激と励まし。
    • 日本国内ではマネジメント層が現場に行き、顧客や社員と会話することで透明性を担保しており、それを知る従業員もマネジメントを信頼する、というサイクルが存在するだろう。一方、海外現地法人では、言語や商習慣・カルチャーも違う中でなかなか日本のような動きができていないという声を多く聞くが、そこを一歩踏み込み、直接間接問わず様々な発信・交流を図ることで信頼感を獲得していくことが望ましい。

 

図4:

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ただし、日系企業がこれらをグローバル各国で実現するには、非常にハードルが高いというのが現実だろう。これまでグローバル人事といえば、グローバルグレードやグローバルパフォーマンスマネジメントの導入、グローバル報酬ガイドラインの展開、eラーニングプラットフォームの導入・エンゲージメントサーベイの実施等、ソリューションベースで本社が展開することが多かった。だが、上記のようなモデルを活用し、各国/各拠点の多様な課題を解決するためには、各拠点が自律的に人材マネジメント上のPDCAを回す必要があり、そのようなケイパビリティが求められる。

現実的には、そういった能力を持ち、海外拠点の運営ができるマネジメント層/人事は限られているというのが海外拠点の現状だろう。とはいえ、そういった現状を打破できなければ、欧米企業に人材を取られるだけではなく、アジアの新興企業にさえ人材獲得競争で敗れることになってしまうため、可能な限り前倒しでこういったケイパビリティをもつグローバル人事に革新していかなければならない。
 

 

全社課題としての推進が重要

世界的な傾向として、誰もがSNSアカウントを持ち、各社の風土・報酬が透明化され、会社と社員の情報格差がほぼ無くなりつつある中で、企業は社員を選ぶよりも、社員から選ばれる時代になってきていると言われる。

そのような中で、今後の世代の志向性を研究し、各企業が彼らを受け入れられるような変革を起こしていかない限り、優秀な社員どころか、一般的な社員も惹きつけ、リテインすることが困難になっていくだろう。欧米企業は既にそのような変化を真摯に捉え、世界各国で自己変革を行っている。

一方、日系企業では依然として各国の人材マネジメントにグローバル人事のプロとして責任を持つ部署が存在しない、存在しても十分機能していないという状況が散見される。

「今後の成長戦略の要は海外である」と経営層が方向性を提示するのであれば、海外拠点のヒトについても全社課題として捉え、各海外事業と人事で連携しながら、全社として推進していくことが重要である。

 

筆者紹介

澤田 修一(シニアマネジャー) 

組織・人材コンサルティング歴15年以上。直近では、グローバル人事構想策定、グローバルタレントブランディング戦略策定、海外現地法人における人事戦略策定・人事制度構築・人事業務改革等を手掛けている。

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