Deloitte Insights

デロイト・グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド2024 #7 マイクロ・カルチャー

全てに一概に当てはまるものはない:労働者と組織の躍進を支えるマイクロ・カルチャー

組織は、一つの共通した文化を追求するのではなく、組織に共存する複数の価値観に焦点を合わせ、チーム独自のニーズに合った「文化の中にある文化」の存在を認めるべきです。

はじめに、組織文化というものについて、採用プロセスを例に考えてみましょう。一般的に、候補者は面接時に「組織文化」について質問するよう推奨されていて、採用担当者は候補者が「組織文化と合っているか」を評価するように指示されます。このアドバイスは、多くの組織において労働者が適合すべき文化は一つの固定的で均一なもので、経営陣から労働者へ伝えられ強制されるようなものであるという前提に基づいています。しかし、組織の文化がこのように発展することは稀です。多くの労働者は、より大きな組織に参加しながらも、そのごく一部のチームの文化に適応していきます。組織文化が期待と異なる場合、その影響は甚大です。新入社者の約3分の1が採用から90日以内に仕事を辞めてしまいますが、その最大の要因は採用時の期待と実際の文化がマッチしていないことです。2

労働者が求めている文化が、組織全体の文化とは異なるため、面接プロセスでは十分に、あるいは正確に説明されていないことも考えられます。その結果、労働者は心を動かされず、離職の意向を強めてしまいます。例えば、非テクノロジー組織で仕事を探しているテクノロジー人材は、しばしば、高リスク・高リターンで厳格なルールがない起業家的で協働的な文化を求めます。そのような文化はテクノロジー部門では確かに存在するかもしれませんが、リクルーターは労働者が求めるものとは大いに異なる企業全体の文化を強調してしまうかもしれません。これは、組織が競争力を持つために必要なタレントを引きつけ、リーチすることに対する障壁となります。

この一元的な文化に対する考え方は、人々がより強い自主性と個々に合った労働体験を求めており、標準化やトップダウンでの統制よりもアジリティや顧客の対応力による競争が求められる世界では、もはや目的に合致していません。

経営陣による組織文化に対する発言はどれも同じように聞こえるかもしれません。実際、研究では、多国籍企業の組織価値は大部分が互いに似ていること、「誠実さ」が4つのうちの3つに表れ、「イノベーション」「チームワーク」「卓越性」「安全性」等の素晴らしいものだが共通の価値も頻繁に現れることがわかっています。3 これらの価値は似通ったキーワードで表現されるものの、組織文化は互いに大きく異なると「感じられる」場合があり、これらの価値観を実際に体現していく場であるマイクロ・カルチャーが、差別化の源であることを示しています。もし掲げられた価値観が全て同じに聞こえる場合、マイクロ・カルチャーは組織としてのアイデンティティを際立たせ、人材の引き付けと定着に大きな影響を与えます。

文化とは?

文化とは、組織における「物事の進める際の様式」であり、組織の共有された経験、価値、信念によって支えられる、時間を経て続く行動のパターンです。4

組織文化には、通常、組織全体で明示されているシェアード・バリューと、文化が実際に表れる日々の行動や成果物(規範、シンボル、言葉、行動)の両方が含まれます。5 これらの日々の行動こそが、マイクロ・カルチャーを受け入れた組織全体で柔軟に変化させることができ、また変化させるべきものです。

今必要なのは、特定のチーム、機能、場所、または労働者のタイプの独自のニーズに適応する組織内のマイクロ・カルチャーの多様性を受け入れ、促進することです。マイクロ・カルチャーは、異なるチーム、機能、地理的な条件で行われる仕事が少しずつ変化していくことを反映しており、組織が顧客等のサービスを提供する先へより近づき、より迅速に応答する上で重要な方法となります。

リーダーもこの変化を認識していて、デロイト・グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド2024の調査に回答した人々の約4分の3(71%)が、文化、流動性、アジリティ、多様性を育む最良の場所として個々のチームと作業グループを重視することが、彼らの成功にとって非常にまたは極めて重要であると述べています。更に、経営者の50%が、組織の文化が最も成功しているのは、適度な変化がある時だと報告しています。しかし、経営者はこれを最も推進が難しいトレンドとしてランク付けしてもいます。この難しさは、労働者にとっての組織文化の重要性を示しています。73%の人が、組織の文化になじめず、仕事を辞めたことがあります。そしてそこには、組織のリーダーたちにとって、組織文化を定義し推進することの「曖昧さ」が存在します。

 

経営者の50%が、組織の文化が最も成功しているのは、適度な変化がある時だと報告しています。しかし、経営者はこれを最も推進が難しいトレンドとしてランク付けしてもいます。

 

文化に対する「マイクロ」アプローチを採用することで、組織とリーダーは、「ここでの働き方」を詳細に描くことができます。これにより、労働者と組織の双方にとって相互に利益をもたらす経験と結果に繋がります。実際、われわれの研究によれば、マイクロ・カルチャーを採用した組織は、ポジティブな人間の成果を達成する可能性が1.8倍、望ましいビジネス結果を達成する可能性が1.6倍になります。

マイクロ・カルチャーの力を引き出す鍵は、グローバルな価値観を一致させつつ、機能、チーム、地域に一部の自律を奨励することです。これは、各機能、チーム、地域の文化の発展を許容するだけでなく、それぞれの文化の特色を確立するために必要なリソースを提供することも指します。7 組織はこれにより、各マイクロ・カルチャーが促進しようとしている思考、イノベーション、アジリティ、そして働き方の多様性を受け入れることができます。JPMorgan ChaseのCHROであるRobin Leopoldは「私たちのような大きさと規模の組織において、チームがマイクロ・カルチャーを持つのは当然です。しかし、それらの文化がどのように合流し、私たちの企業全体の価値観であるサービス、ハート、好奇心、勇気、卓越性を結集されていくかが組織としての成否を左右するのです。」8 と認識しています。

 

一部のリーダーにとって、労働者を支援するために異なる行動と慣行を意図的に育むという考え方を受け入れるのは難しいことでしょう。実際、一部の慣行は規制に準拠するために標準化する必要があるかもしれません。しかし、全てのユニークな慣行と行動を根絶する試みは、組織のアジリティを制限し、労働者のエクスペリエンスと定着率に影響を与える可能性があります。米国の大手消費者製品会社の元チーフ・グロース・オフィサー(CGO)であるSanjiv Gajiwalaとの対話で、彼はマイクロ・カルチャーと組織のアジリティとの直接的な繋がりを指摘し、「変化を常だと認めるならば、「単一の組織文化」は変化に対して極めて脆弱だと認識しなければなりません。」9 と述べています。

 

「変化を常だと認めるならば、「単一の組織文化」は変化に対して極めて脆弱だと認識しなければなりません。」
—Sanjiv Gajiwala

 

パンデミック以降、組織文化がどのように変わったかを尋ねられた時、ほとんどのリーダーはより良くなったと述べています(60%)。この一因として、ハイブリッドまたはリモートワークの増加によるマイクロ・カルチャーの増加が考えられます。10 メディアでは「組織として強力な共通の文化を持つことがオフィス回帰の主要なドライバーとなる」と報じられることがありますが、そのような内容とは対照的な傾向を示しています。むしろ研究においても、そのような共通の文化によって労働者のエクスペリエンスが悪化する可能性が指摘されています。11 私たちの研究では、経営陣はマイクロ・カルチャーにあまり価値を見出していませんが、実業務に近いディレクターと労働者は、マイクロ・カルチャーを重要な成功要因として認識しています(図2)。

 

自分たちの働き方、儀式、規範を定義し、実践するためのチームを強化することは、人間の持続可能性の新しい時代においてますます重要になります。組織の目標と調和して労働者の自律を可能にすることは、ビジネスと人間の結果の促進剤として機能することがあります。12

組織がマイクロ・カルチャーを強化すべきサイン

  • 経営陣は、組織文化から逸脱する動きに対し、修正を呼びかけている
  • 労働者は、チーム、オフィス、部署毎の進め方に応じて、独自の規範を形成している
  • イノベーションや迅速性の欠如を感じ、それが固定的なプロセスやポリシーの画一性に起因していると思われる
  • 現在の画一的な組織文化が、戦力のある人材の獲得・定着を難しくしている
  • 労働者やマネージャーが、働き方に関する長年の規範(始業と終業に関するルール等)がもはやニーズを満たしていないと言っている

直近のトレンドは、こと文化に関しては「小さい単位で考える」ことの重要性を示している

職場におけるマイクロ・カルチャーの重要性が増しているのは、労働者の嗜好、テクノロジー、働き方に関連するいくつかの変化によるものです。

ハイブリッドやリモートによる勤務形態:マネージャーは、ハイブリッドな環境下で組織文化を育む方法について確信が持てず、従来の画一的な文化をハイブリッド型の働き方に適用することに苦労しているかもしれません。調査によれば、リモートおよびハイブリッドな働き方は労働者のエクスペリエンスと定着に大きな影響を及ぼします。ハイブリッドな働き方は離職を35%減らし、従業員の満足度を改善することができます。実際、米国の人事リーダーの61%が、オンサイトの労働モデル以上にハイブリッドな働き方では組織文化が重要になると言っています。13 逆に、リーダーの3分の1以上は、リモートな働き方が組織の文化を弱めており、その懸念から「オフィスに戻る」ことを推進する必要があると考えています。14 全世界の労働者の約70%がハイブリッドな働き方を好むという事実を考えると、リーダーにはオフィスという物理的空間を超えてチームの文化を強化する新しい方法が必要かもしれません。15

マイクロ・カルチャーは、ハイブリッドとリモートの両方で組織文化を育む上での解決の方向性を提示します。チームレベルでの繋がりを重視することで、マネージャーと労働者は、最適な働き方を共に考えていくことができます。調査によれば、ハイブリッドチームの労働者はチーム内でより密接な繋がりを作り上げていますが、組織全体での繋がりは弱いものとなっています。16 しかし、場所とスケジュールについて裁量の高い労働者は、そうでない労働者に比べて繋がりの度合がはるかに高いと報告しており、労働者の繋がりに伴いパフォーマンスも高くなります。17

労働力の多様化:一層の多様化が進む労働力に単一の文化を適用しようとしていては、今日の労働者のニーズを満たすことは難しいでしょう。労働者は、地理的な位置から雇用形態(臨時、ギグ、フルタイム、パートタイム)、勤務形態(オンサイト、ハイブリッド、リモート)、人口統計(ライフステージ、教育レベル、アイデンティティ)、そして更にはモチベーションや考え方、ネットワーキングのスタイルに至るまで様々なニーズを抱いています。

例えば、MIT-Sloan Management Reviewの労働力エコシステムの調査に回答した人々の80%は、外部の労働者は組織の文化に適応することが重要だと述べていますが、内部の従業員と外部の貢献者の統率に統合的なアプローチを取るのはわずか18%です。18 しかし、外部労働者を組織の単一の、一枚岩の文化に統合しようとする試みは、現実的な理由と法的な理由の両方で、しばしば困難であることが多く、マイクロ・カルチャーがより良いルートであることを示唆しています。PlanOmaticのCEOであるKori Covrigaruは、「ベンダーに文化を受け入れさせるのは本当に難しい。一般的に、ベンダーは複数の仕事をしています。彼ら自身がブランドを保持しており、独自の文化を有しているのです。週に1,2日の勤務であるベンダーに自社のコアバリューを浸透させ、賛同を求めようとすることや、そもそも社外の人にどこまで賛同を求めるかを考える際、答えはひとつではないということに留意が必要です。」19

グローバルに分散したチームの働き手が多様なアイデンティティを有する中で、マイクロ・カルチャーはチーム・機能内で深く有意義な繋がりを可能にします。マイクロ・カルチャーは公平性と同一性を区別します。公平性ではなく平等性(または同一性)を確保することで、マイクロ・カルチャーは個々とチームの違いを賞賛し、組織の原動力とすることができます。

技術の進歩:新たな技術は、組織全体の働き方をリーダーに向けて可視化し、制御しやすくし、組織内の様々な文化を受け入れやすくします。例えば自然言語処理は、社内SNS上で使用される用語や言い回しの使い方の違い等の文化の微細な要素を分析することができます。
これにより、改善に向けた潜在的な問題や機会を明確にすることができます。生成AI対応ツールは、既存のデータを活用し、リアルタイムの洞察を生成することで、その情報を組織レベルで統合できます。例えば、あるグローバル製薬会社は、コラボレーションプラットフォームのデータに基づいたリアルタイムの従業員の意見から、組織文化の観点で解決が必要と思われる課題の特定を行っています。20

現場の労働者に意思決定を委ねる重要性:新たな技術は、顧客に最も近いところにいる労働者が顧客のニーズの変化を迅速に感知し、対応できるようにします。リーダーたちはこのことをより一層認識しているため、現場の労働者がデータへのアクセスできるようにし、組織の末端にも自律的な意思決定をさせることができるようになっています。例えば、Michelinの工場労働者たちは、様々な種類のタイヤの在庫レベルを視覚化するデジタル・ワークフロー・ボードを持っており、リアルタイムの情報に基づいてどの種類のタイヤの生産を優先するかを従業員が工場で判断できるようにしています。現場の従業員がデータに基づいて意思決定できるようにしたことで、年間生産量の増加、より大きな機動性、そして専門知識に基づいて生産ラインの問題を迅速に解決できるようになり、労働者のエンゲージメントを高めることに繋がりました。21

労働者の交渉力の増加:今日の労働者は、いつ、どこでどのように働くかに関して、以前よりも更に選択肢と影響力を持っています。22 そして、労働者たちは、自分たちのチームの働き方を反映した独自の文化を強く求めています。われわれの調査に回答した労働者の3人に1人は、職場でのエクスペリエンスにおいて最も重要なのは、自分の直属のグループやチームのユニークな文化だと言っています。

人間の持続可能性の重要性の高まり:人間の持続可能性は、労働者のエクスペリエンスと組織の人々や社会へ貢献する上でますます重要な要素として認識されています。イギリスで実施されたプロフェッショナル層を対象にした調査では、80%の回答者が、協力的な職場文化を育むことが組織のパーパスのひとつであるべきだと述べました。23 組織のリーダーは協力的な文化について広範なガイドライン・プリンシプルを策定することはできますが、それを具現化し、マイクロ・カルチャーを作り上げるのは主にマネージャーです。マイクロ・カルチャーを促進することで、労働者のニーズと優先事項を感知し、キャリア開発を支援します。

M&A活動:多くのリーダーは、新たに買収した会社や合併した会社が独自の文化を持っていることを理解しています。標準化する必要があるものもありますが、多くのリーダーは、新たに買収した組織の独自の文化を潰すことはかえってビジネス悪影響を及ぼす可能性があることも認識しています。これは、頻繁に買収を行う組織に対し、マイクロ・カルチャーを採用する機会となります。例えば、バイオテクノロジーおよび医療ソリューション企業RocheのChief People OfficerであるCristina A. Wilburは、「当社が会社を買収する時、買収先の組織の文化を壊すことなくRocheの組織と結びつけることを最も重要なものであると強く意識しています。もし会社を買収してからその組織の文化を完全に一掃してしまったら、その会社を買収した当初の道理も見失ってしまいます。文化はその組織を構成する大きな要素なのです。」24 と説明しています。

マイクロ・カルチャーを促進することのメリットと障壁

マイクロ・カルチャーの促進は、組織全体の文化という考え方を捨てることと同義ではありません。むしろ、組織全体の文化を幅広い価値観や共通のビジョンとパーパスを持ったものに転換すべきで、その文化はチーム毎の成功のために必要な独自の働き方を肯定している経営陣によって提唱されるべきです。その結果、非常に明確なアイデンティティを持つ組織(人々はそれを「北極星(組織共通で進むべき方向)の群れ」とも呼ぶかもしれません)が生まれ、個々のチームと全体のニーズや利益に合わせて柔軟な働き方を開発することができます。

オランダのヘルスケア・栄養関連会社Royal DSMの「艦隊スタイル」の文化が良い例です。同社では、戦略と全体的な方向性は中央から発せられますが、実行は独自のマイクロ・カルチャーを持つアジャイルなチームが担い、望ましい結果を引き出しています。会社は「艦隊」に正しい方向を目指すための「羅針盤」を提供しますが、進みゆく「船の上」²⁵での規範と行動を規定しません。

しかし、マイクロ・カルチャーの促進はリスクとなる可能性もあります。例えば、個々のマイクロ・カルチャーが組織全体のコアバリューと一致していない場合、「我々」対「彼ら」という思考の温床となり、組織全体の目標への貢献に影響を与える可能性があります。その他の潜在的なリスクとしては、働き方が多様であることによる不公平感、マイクロ・カルチャー間の連携の取り方が曖昧あるいは機能していない場合のコラボレーションの低下、そして組織内の様々な部門を異動する労働者が、規範ややり方の変化への適応に苦労し疲労してしまうといったことがあります。これらのリスクを回避するためにも、組織は意図的に明確な相互接点を持つことでコミュニケーションや協調姿勢を取ることを優先して行うべきです。これにより、機能と地域を越えたコラボレーションが可能になります。

マイクロ・カルチャーを機能させる

組織、リーダー、チーム、個々の労働者によるマイクロ・カルチャーの受容度合に影響を与える要素はたくさんあります。マイクロ・カルチャーの数や種類は、以下の特性の一部、または全てに基づいて組織毎に異なります:

  • 意思決定の速度とスタイル(例:合意型、分散型)
  • 労働力の多様性(例:労働力タイプ、アイデンティティの多様性)
  • 地理的な多様性
  • ガバナンスのアプローチ(例:指揮統制型、分権型)
  • M&A活動
  • 規制監督
  • リスク許容度
  • 規模と組織の成熟度
  • 勤務形態(リモート、ハイブリッド、オンサイト)

組織のリーダーがマイクロ・カルチャーを受け入れると、以下のポジティブな結果が期待できます:

才能ある人材を引きつけ、定着させられる。組織の企業文化から派生する様々なマイクロ・カルチャーを創出し、伝えていくことは、多様な労働者を引きつけ、組織としても求めるスキルを確保しやすくなります。例えば、デジタル変革の取り組みを進めているヘルスケア組織が高度な技術的スキルを求めているとしましょう。テクノロジー機能やそのチームがマイクロ・カルチャーとしてスタートアップのような雰囲気を持っていれば、ソフトウェア開発者の期待と好みに応えられるかもしれません。

より良いビジネスの成果を達成する。素晴らしい職場と評価された組織は、市場を上回るパフォーマンスを発揮しており、文化はその実績の主要なドライバーとなっています。26 マイクロ・カルチャーによって、リーダーはチームに合わせて働き方を調整することができ、これによりビジネスの成果の達成に向け労働者の能力が向上させることができます。更に、その文化に共感し、それを尊重する労働者は、他の労働者よりも最大で37%高いレベルでパフォーマンスを発揮し、組織に残る可能性が36%高くなります。27

将来の需要や変化を予測し、それに対応する能力が高まる。マイクロ・カルチャーを促進することで、組織の顧客、市場、労働者、およびステークホルダーのニーズへの対応能力が強化され、更にアジリティを高めることができます。チームが広範な組織プリンシプルのもとにマイクロ・カルチャーを定義する自律性を与えられると、「何を目指すのか」は一致しつつ、「どうやって実現するのか」は自由と柔軟性を与えられます。28 例えばNASAは、より大きな柔軟性の実現をするためにマイクロ・カルチャーの発展を許容しています。「NASAには、多数のNASA宇宙研究センターに分散している分散型労働力の結果として生じた複数のマイクロ・カルチャーがあります。」NASAのチーフ・テクノロジストであるNicholas Skytlandは言います。「これにより、NASAは柔軟性を保ち、効果的に仕事を分業しているのです。」29

人間の持続可能性の進展を実現する。チームの文化において更なる流動性をもつことで、マネージャーはチームのウェルビーイング目標達成を支える能力を大幅に強化することができます。マネージャーの 70% は、企業文化等の内部障壁により、チーム メンバーのサポートが困難になっていると報告しています。30 チームメンバーの個々のニーズに応じて、組織は従業員のウェルビーイングとパーパスをサポートするニーズを満たすことができるようになります。

マイクロ・カルチャーを促進し、成功させる方法

マイクロ・カルチャーが発展する条件を作り出すには、組織のリーダーシップ、チームリーダー、およびHRの間での調整が必要です。マイクロ・カルチャーを促進するために、組織は以下のステップを検討する必要があるでしょう。

業務に着目してマイクロ・カルチャーを定義する。マイクロ・カルチャーをどこで、どのように作りたいかを定義しようとするなら、業務を起点に始めてください。業務はしばしば、マイクロ・カルチャーの発展を促進します。組織が達成しようとしている結果から逆算して、業務をその構成部分として分解すると、何を達成する必要があり、そしてどこで、どのように行うべきかを理解することができます。
一部の企業では、業務起点で始めることで、従来の機能的なサイロを横断する職場のマイクロ・カルチャーを作り上げています。例えば、ITインフラの専門家といった役割を持ちオンサイトで働く人々の間では、マイクロ・カルチャーが存在している可能性があります。これは、業務は独立して行われますが、遂行には特殊な機器が必要となるためです。対照的に、カスタマーエンゲージメントマネージャーやHRBPのような役割は、その業務は協働的ですが、場所または時間に特定されていないため、よりリモートで柔軟な時間の使い方が可能なマイクロ・カルチャーを持っているかもしれません。

マイクロ・カルチャーをタレントライフサイクルに取り入れる。採用、パフォーマンス管理、能力開発、配置等の人材管理のプロセスは、チーム、機能、または場所のユニークな文化に応じて柔軟にする必要があります。タレント獲得について言えば、組織は各採用チームの個々の文化的要素を踏まえて採用コミュニケーションをカスタマイズしてもよいでしょう。組織が顧客セグメントに対するターゲティングにおいて洗練された方法を持つのと同様に、内部または外部の労働力セグメントに対して特定のマイクロ・カルチャーに特有のカスタマイズされたメッセージングと慣行でターゲットにすることができるのです。

これはチームレベルでも行うことができ、どのマイクロ・カルチャーが最も適しているかに基づいて労働者を雇用したり、チームに配置したりすることができます。例えば、製造企業のACSは、人材獲得プロセスに行動評価を追加することで採用効率を向上させました。より質の高い候補者をその行動プロファイルとチーム文化に合ったところに配置することで、チームの生産性の向上と、業務従事時間の大幅な削減が実現しました31

マイクロ・カルチャーの取り組みを強化する際に、報酬が強力なレバーとなる可能性があります。リーダーは、パフォーマンス管理プロセスと報酬が、各チームの独自の働き方と一致しその働き方を強化するような、または少なくともそれらの働き方と矛盾が生じていないようなものになっていることを保証するべきです。パフォーマンス管理プロセスにマイクロ・カルチャーを組み込んでいる組織の1つに、Google Cloudがあります。Google CloudはBtoB企業で、BtoC企業であるGoogle本体とは異なるため、Google CloudのPeopleチームは、顧客への共感を高める独自のマイクロ・カルチャーを持つ必要性を感じていました。顧客への共感の原則は、Googleのパフォーマンス評価プロセスのチームワーク属性に組み込まれており、全てのGoogle社員がチームワークを体現することが期待されていますが、Cloud Google社員のチームワーク評価は、顧客への共感の原則と連動するようになっています。32

マネージャー、リーダー、バウンダリー・スパナーをマイクロ・カルチャー間で「モジュール化」する。マイクロ・カルチャーは組織のリーダーシップから一部の統制機能を移管しますが、リーダーは組織全体に適用されるガイドラインを定め、明示し、マネージャーがチーム間で繋がりを作ることができるようにするという重要な役割があります。マネージャーやチームリーダーは、共通の目標を達成するため潜在的に異なるカルチャーを調整するチーム同士の接点となることができます。

例えば、ある大手消費者製品会社の成長組織には、イノベーション、研究開発、マーケティング機能が含まれています。これらは広義には好奇心という価値観に基づいて統合されていますが、仕事の性質の固有の違いにより、各々が独自のマイクロ・カルチャーを持っています。研究開発機能は高度な技術を要するため、そのマイクロ・カルチャーは中長期的な成果物を見据えた教育と発見のプロセスにより重点を置いています。対照的に、ソーシャルメディアマーケティングチームは、ソーシャルメディアのトレンドに合わせてバイラルコンテンツを生み出すために、スピード感と創造性を重視しています。33 イノベーションも含め、これら3つのグループが異なるマイクロ・カルチャーを持つにも関わらず、これらのチームリーダーは、好奇心という同じ価値観により、コラボレーションとエンゲージメントはより促進されています。

組織ネットワーク分析は、マイクロ・カルチャー間のコラボレーションの接点を特定するのに役立ちます。この分析により、複数のマイクロ・カルチャー間にまたがっている人々を特定し、彼らに文化を横断する大使役として機能してもらうだけでなく、特定のマイクロ・カルチャー間で最適な形で協力できていないケースの特定もすることができます。34

General Motorsは、組織ネットワーク分析を活用して、イノベーションと変化を促進するアジャイルチームを通じて新たな働き方を推進しました。これらのチームは、ネットワークの役割に基づいて形成され、新しい働き方を推進するために様々な場面で活用することができるものです。35 例えば、テクノロジー企業を買収した際は、創業者たちがもつマイクロ・カルチャーを守るために、チームの完全な吸収を避けました。むしろ同社は、「バウンダリー・スパナー」を活用して、起業家チームをエンジニアリングやテスト等のリソースへのアクセスを持つビジネスの運営側と連携させました。このマイクロ・カルチャーを保持することで、General Motorsは、大量生産設備での自動運転テスト車両の組み立てにおいて、他企業をリードすることができました。36

継続的な検知のためのツールとデータを提供する。リアルタイムでマイクロ・カルチャーを把握できるようになるために、組織レベルで、調査ベースのツール、AI、その他のデータ収集と分析メカニズムへの投資を検討してみてください。マイクロ・カルチャーの検知は、組織全体の文化から逸脱したチームやグループの修正に使用することもできますが、グループ間でのベストプラクティスや学びにスポットライトをあてることにも使用することができます。このアプローチは、仕事上のグループの機能について洞察を提供し、リーダーによるマイクロ・カルチャーの厳格な統制を不要にします。37

オランダのソフトウェア会社KeenCorpは、内部の(集約され、匿名化された)メールやチャットをスキャンして、組織文化やエンゲージメントを評価し、潜在的な問題をフラグ付けしています。³⁸例えば、特定のマイクロ・カルチャーでマイクロアグレッションがある場合、分析では一部の集団に対する通常のエンゲージメントパターンを見つけるかもしれませんが、他の集団ではエンゲージメントが低下している可能性があります。

マイクロ・カルチャーの未来を展望する

組織のリーダーは、マイクロ・カルチャーを許容し、その数が増えることにより、組織がアイデンティティやフォーカスポイントを失うのではないかと心配するかもしれません。しかし、マイクロ・カルチャーを把握するためのデータと新たな技術を慎重に用いて、境界のない人事のアプローチにより人材の専門知識を持つマネージャーにマイクロ・カルチャーのオーナーシップを持たせることで、統制とエンパワーメントの間の適切なバランスを取ることができます。

―既に存在するマイクロ・カルチャーを受動的に無視するか、積極的にマイクロ・カルチャーの存在を阻止するかに関わらず―マイクロ・カルチャーを受け入れないことは、労働者とリーダー間の不一致を生み出し、ビジネスや人間の成果の達成を妨げる可能性があります。むしろ、組織のリーダー、マネージャー、労働者は、組織のガイドや方針に沿った一連のマイクロ・カルチャーの促進を共に推進するべきです。その結果として期待されるのは、より良いコラボレーション、より強力なビジネスと人間の成果、そしてアジリティの増加といったもので、これらは全て組織の長期的な成功に大きく貢献するものなのです。

調査方法

デロイトのグローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド2024は、世界95カ国の様々な業種・業界における14,000人のビジネス・人事リーダーを対象に実施されました。基礎データを形成する広範囲な調査に加えて、今年は労働者とリーダーそれぞれに特化した調査の視点を反映し、リーダーの認識と労働者の現実とのギャップを明らかにすることを目指しました。リーダー向けの調査は、最新の組織・人事課題に関するリーダーの考え方を理解するため、Oxford Economicsと共同で、世界中の経営者と役員1,000人を対象に実施されました。更に、これらの調査データは、複数の先進的な組織のリーダーとのインタビューによって補足されています。これらの洞察により、本レポートのトレンドが形作られました。

Endnotes

1 Roberta Matuson, “So you want to quit your brand-new job…,” Harvard Business Review, December 6, 2021.

2 Human Capital Institute, “Why new employees quit,” December 3, 2019; Rachel Pelta, "Great resignation: Survey finds 1 in 3 are considering quitting their jobs,” Flexijobs, accessed December 15, 2023.

3 Notre Dame Deloitte Center for Ethical Leadership, “Do corporate values make a difference?,” University of Notre Dame, accessed December 15, 2023.

4 Deloitte, "Catalyze culture change in the workplace for sustained results,” accessed December 15, 2023.

5 Edgar H. Schein, “Coming to a new awareness of organizational culture,” MIT Sloan Management Review, January 15, 1984.

6 Robert Walters, “Professionals report leaving a job due to poor cultural fit,” accessed December 15, 2023.

7 The use of “global” and “local” in this context extends beyond the geographic sense of the words.

8 Online interview with Robin Leopold, chief human resources officer of JPMorgan Chase, 2023

9 Online interview with Sanjiv Gajiwala, former chief growth officer of a leading US consumer products company, 2023

10 Kylie Matthews, “How businesses are adapting to the post-pandemic cultural shift,” CEO Magazine, July 29, 2022.

11 Gallup, “Indicators: Hybrid work,” accessed December 15, 2023.

12 Holger Reisinger and Dane Fetterer, “Forget flexibility. Your employees want autonomy.,” Harvard Business Review, October 29, 2021.

13 Alex Christian, “How should HR respond to the rise of workplace microcultures?,” HRM, November 10, 2022.

14 Schein, “Coming to a new awareness of organizational culture.

15 Johnny Wood, “Hybrid working: Why there’s a widening gap between leaders and employees,” World Economic Forum, December 20, 2022.

16 Oliver Pickup, “How hybrid working brings teams closer but also creates ‘micro cultures’ and internal conflicts,” Worklife, January 10, 2023.

17 Harvard Business Review, “Revitalizing culture in the world of hybrid work,” November–December 2022.

18 Elizabeth J. Altman, David Kiron, Robin Jones, and Jeff Schwartz, Orchestrating workforce ecosystems, MIT Sloan Management Review and Deloitte, May 2022.

19 Elizabeth J. Altman, David Kiron, Jeff Schwartz, and Robin Jones, Workforce Ecosystems: Reaching Strategic Goals with People, Partners, and Technologies, The MIT Press (2023).

20 Aware, “Filling gaps between traditional employee experience surveys,” accessed December 15, 2023.

21 Andrew Hill, “Power to the workers: Michelin’s great experiment,” Financial Times, May 11, 2017; Patrick Gilbert and Ann-Charlotte Teglborg, “Empowering employees in the age of the digital revolution: a practical approach,” ESCP Business School, November 4, 2022.

22 Sue Cantrell, Karen Weisz, Michael Griffiths, Kraig Eaton, Shannon Poynton, Yves Van Durme, Lauren Kirby, and John Forsythe, Harnessing worker agency, Deloitte Insights, January 9, 2023.

23 31% probably should, 49% definitely should; Deloitte’s power of purpose research and analysis 2022.

24 Altman, Kiron, Schwartz, and Jones, Workforce Ecosystems.

25 DSM, “Preparing the future people & organization strategy,” accessed December 15, 2023.

26 Ted Kitterman, “5 ways workplace culture drives business profitability,” Great Place To Work, February 13, 2023.

27 Harvard Business Review, “Revitalizing culture in the world of hybrid work.”

28 Alicia Boisnier and Jennifer A. Chatman, “The role of subcultures in agile organizations,” American Psychological Association, 2003, pp. 87–112.

29 Nick Skytland, “The future of work,” Nasa, October 17, 2019.

30 Jen Fisher, Paul H. Silverglate, Colleen Bordeaux, and Michael Gilmartin, As workforce well-being dips, leaders ask: What will it take to move the needle?, Deloitte Insights, June 20, 2023.

31 Humantelligence, “Customer stories,” accessed December 15, 2023.

32 Online interviews with Heather Riemer, chief of staff to the CEO; Monica Morrella, head of strategy and business operations; and Tracey Arnish, vice president and head of HR; Google Cloud, 2023.

33 Online interview with Sanjiv Gajiwala, former chief growth officer of a leading US consumer products company, 2023.

34 Mark S. Granovetter, “The strength of weak ties,” American Journal of Sociology 78, no. 6 (1973), pp. 1360–1380.

35 Rob Cross, Heidi Gardner, and Alia Crocker, Networks for agility: Collaborative practices critical to agile transformation, Connected Commons, March 2019.

36 Ibid.

37 Deloitte, “Beyond productivity: The journey to the quantified organization,” accessed December 15, 2023.

38 Keencorp, “Maximize your most valuable asset with the leader in workforce analytics,” accessed December 15, 2023.

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