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デロイト・グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド2024 #5 組織が最も必要とする「想像力」とは

混沌とした、境界のない時代に組織が最も必要とする「想像力」とは

生成AIやその他のテクノロジーの発展によって、組織における想像力の欠如が露呈しているかもしれません。好奇心や共感等の人間らしい能力を引き出すことで、組織はそれらを補うことができます。

私たちが生きる時代は混乱の時代である一方、可能性の時代でもあります。馴染みのある境界線が崩れ、人工知能(AI)等の新しい技術がどんどん進化していく中、変化に対する不安は自然な反応です。一方で、きっと驚嘆や感動を覚える人も多いでしょう。リーダーや労働者はこれらの技術の活用に伴うリスクを認識すると同時に、希望も見出しています。人間のパフォーマンスを高めるための素晴らしい機会が開かれており、それは組織、労働者、そして社会全体に利益をもたらすことが予想されます。このような未来を実現する上で、不安への対抗手段として、また想像力の促進剤として、共感や好奇心等の人間らしい能力が再評価されています。組織や労働者が自分たちに与えられた機会を最大限に活用するためには、人間らしい能力を引き出し、持続するための手段を効果的に活用する必要があります。これらの能力を豊富に生み出すことができる組織は、周囲からの差別化が可能となるでしょう。一方、これらの能力が不足している組織は、取り残されてしまうかもしれません。

これまで、組織は特定の、容易に複製可能な機能・技術スキルの開発に焦点を当ててきました。これらのスキルは教えるのが容易で、また、その当時の組織は比較的安定した、予測可能な環境で活動していました。そのため、標準化された製品やサービスを生むために同じプロセスを何度も繰り返すことが、大規模に事業を展開する最も効果的な手段であると考えられていました。今日、世界がますます相互に繋がりを持つようになったため、プロセスの効率的な実行よりも、市場の変化に適応し新しい価値¹を生み出す能力が重要になってきています。この能力は、起業家精神やイノベーションと密接に結びついており、特定の技術的なスキルを労働者に教えるのではなく、変化する状況に対応し、新たな未来²を想像することを可能とする好奇心やその他の人間らしい能力を育むことに重きを置いています。

 

新しい技術は、仕事の機能的・技術的な部分の再現が上手くなってきています。しかし、今後の多くの差別化要因は技術ではなく、人間が何をするか、またはどのように進化するかによってもたらされる可能性が高いでしょう。今日のAIは、音楽や美術の手法やツールを用いた創造活動が可能であり、この能力は技術が進歩する³につれて更に広がる可能性があります。とはいえAIは、想像力を刺激し、創造的な発明につながるような好奇心や共感を模倣することはできません。これらには、新しいことを探求する意欲、物語を紡ぐ才能、そしてチームで協力して働く力が求められます。つまり、ただ予め設定された目標を達成するだけでなく、研究者のように考え、適切な問いを立てることが必要なのです。

人間らしい能力を最大限に活用し、想像力を引き出すためには、組織と労働者の双方が重要な役割を果たします。組織は、好奇心や共感等の人間らしい能力を意図的に育て、組織文化に組み込むことで、これらの能力を拡大し実装できるようにする必要があります。また、労働者やチームには、これらの能力を活用して自分たちの仕事内容を自由に形成する権限が与えられるべきです。同時に、労働者はAIやその他の革新的な技術が仕事により大きな影響を及ぼす中で、自身の役割がどのように変化するかを予想するために、これらの人間らしい能力を育て、実践し、活用する必要があります。

組織は、労働者に実験や探求を行い、可能な未来を想像するためのツールや安全な空間を提供することで、これらの能力を育む手助けをすることができます。労働者に自分たちの仕事に関する問いを立てる能力を促すことで、リーダーは人間の持続可能性と組織全体での共創を重視する、よりオープンな進化と業務変革に取り組むことができます。

持続する人間らしい能力

「スキル」にはハードスキルやテクニカルスキル(コーディング、データ分析、会計等)、いわゆるソフトスキルと言われる人間らしい能力(批判的思考力、感情的知能等)、そして潜在的な能力(未開拓の資質や能力、将来的に成功につながる可能性のあるスキル等)⁴が含まれます。ハードスキルは重要ですが、特定のスキルや専門性を超越する人間らしい能力の価値は、ハードスキルでは考えられない形で持続するため、今まで以上に重要になるかもしれません。好奇心や共感といった、人間が生まれつき持っている能力を育むことで、イノベーションを推進することができます。一方、チーム連携や情報に基づくアジリティは、経験と実践を通じて養うことが可能です。持続する人間らしい能力は多く存在します。以下に組織において強化を検討すべき主要な能力を挙げています。

  • 好奇心:より多くの情報を求める欲求で、通常はその情報を得るための探求行動を引き起こします。好奇心はコミュニケーションやチームパフォーマンス、イノベーションを改善し、対立や意思決定のミスを減らすことができます。
  • 情報に基づくアジリティ:情報を継続的に蓄積、フィルタリング、そして統合することで、新たなニーズや環境に対応するために素早く転換する能力を指します。データに基づくアジリティによって、意思決定、変革管理、リスキリングを促す洞察力を養うことができます。
  • レジリエンス:急速な変化や困難な状況に直面しても、粘り強く前進する意欲を指します。レジリエンスは、いざという時の支援策を確認した上で、行動の前後で立ち止まって何がうまくいっていて、何がうまくいっていないかを理解することで強化することができます。
  • チーム連携:地域や組織、その他の境界を越えて効果的に協働する能力を指します。チームには、人間と機械が共に働く場合も想定されます。このような働き方は共感を育み、チームが各メンバーの強みや動機を最大限に活用することを可能にします。
  • 発散的思考:異なる視点や方法で物事を考える能力を指します。つまり、一見関連性のない情報やアイデアに共通性を見出し、それらを組み合わせて新しいアイデアや解決策を生み出すことを意味しています。様々なアイデアに対してオープンであることで、イノベーションや創造性、インクルージョンを促進することが可能です。
  • 社会的・感情的知能:他者との共感的・道徳的な交流中で自身の感情を適切に認知し、調整し、表現する能力のことを指します。個人や組織全体の価値観を支えると共に、成長を促す文化の醸成を促すことができます。

生成AIが人間の想像力不足にスポットライトを当てる

2021年にデロイトが行ったグローバル規模の労働者調査では、新型コロナウイルスが蔓延する状況下で、多くの労働者がいかに自分の仕事の進化とその進化への貢献を模索し始めているかが明らかになりました。5技術を用いることで自分たちの仕事をどのように改善できるかについて、労働者は次のような具体的なアイデアを提案しました。

  • AIが会議に参加し、会議内容を端的に、かつ正確にまとめることができたら、どれほど効率的だろうか? 
  • 技術を用いて自分が関与するプロジェクトの財務状況を整理し、複雑なスプレッドシートを作成することなく、プロジェクトのコストを管理できたら、どれほど効率的だろうか?
  • 私が普段使用しているカレンダーが自動的に関係者間のスケジュールを調整し、優先度の低い会議と高い会議を識別できたら、どれほど業務がスムーズになるだろうか? 
  • 技術を用いることで日々の仕事から時間を割くことなく、新しいスキルや能力を学べたら、どれほどの成長が期待できるだろうか? 

わずか数年の間に、AIの進歩、特に生成AIの進歩によって、これらのアイデアのほとんどが現実のものとなりました。生成AIツールとして最も知名度のあるChatGPTは、2022年のローンチからわずか5日で100万ユーザーを獲得しました。TikTokは同じユーザー数を獲得するのに9カ月かかっています。6AIは既に、コンピューティングの可能性の範囲外と考えられていた多くの領域を含む、ほぼ全ての領域で様々な仕事を変革するために使用されています。⁷最近の研究報告によれば、これらの変革は、電動モーターやPCの発明に匹敵するマクロ規模での生産の大幅な増加をもたらす可能性があります。⁸

しかし、生成AIの潜在的な変革は、多くの組織や労働者にとって、人間と技術双方の強みを活用した新しい働き方を想像する能力以上のものかもしれません。グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド2024では、回答者の73%が、組織の人間らしい能力が技術革新と同じスピードで進歩することが重要だと認識していると回答しましたが、その達成に向けて進歩を感じていると回答したのはわずか9%にすぎませんでした。多くの組織は、想像力不足という問題に直面している可能性があります。

組織が想像力不足に直面している可能性があることを示すサイン

  • 労働者、マネージャー、取締役会、経営陣は、生成AIの時代における仕事の再構築の必要性を認識しているが、最初の1歩をどのように踏み出すべきか分からない
  • 採用担当者は、発散的思考、協働、社会的知能等の人間らしい能力を求め、候補者にもソフトスキルの必要性を強調している
  • 新たな思考方法やアイデアを取り入れるために、採用やM&Aが強化されている
  • 未経験者歓迎の業務が少なくなっている

破壊的な技術が急速に進展する中、生成AIはその最先端を走っています。従来の新興技術やその他の変革も組織や労働者にスキルの開発や雇用、未知への恐怖等の不安をもたらしていましたが、生成AIはこれまで以上に人々の熱意や緊急性を引き出しています。既に労働者の28%が自分の仕事で生成AIを使用していると報告しており、労働者の8%は生成AIの利用が職場において期待または奨励されていると回答しています。今後数年間で、米国労働者のうち約5人に4人は、業務の10%以上が生成AIによって自動化される可能性があり、約5人に1人は、業務の50%が生成AIによって自動化される可能性があるという予測も出ています。⁹ また、最近発表されたグローバルの報告書では、生成AIによって現在人間が行っている業務の約4分の1がすぐにでも代替可能であると推定されています。¹⁰

例えば、生成AIのプログラミングスキルは、特にSTEM(科学、技術、工学、数学)の分野における需要の高い職種にどのような影響を及ぼすでしょうか。最近の研究では、生成AIによってプログラマーがコードを書くスピードを上げることができる、と示されています。¹¹ 金融サービス企業のWestpacでは、既にこの動きが始まっています。同社では、生成AIを活用したプログラマーと、同じタスクを単独で行ったプログラマーとを比較して、前者の方が品質の低下なく生産性が46%も向上したと報告しています。¹²この結果は、新人からベテランのエンジニアまで幅広く見られ、プログラマーが単純作業にかかる時間を減らし、人間らしい創造的な思考を必要とするより高度な仕事に時間を割けるようになることを示しています。

自動化されるタスクの多くは、執筆、翻訳、プログラミング等、知識労働の分野にあると思われます。¹³しかし、ほぼ全ての職種が何らかの影響を受ける可能性があり、AIの進化はあらゆる仕事の在り方に影響を及ぼすでしょう。例えば、農業の分野では、AIを活用した技術が既に雑草の除去、植物の健康管理、畑に落ちた石の識別等に使われています。¹⁴また、小売業界では、リアルタイムでの在庫管理や、パーソナライズされた顧客体験の提供が実現されています。¹⁵労働者たちは、技術が自分たちの業務を奪う可能性や、技術の進歩に対応するために新たなスキルを身につける必要性について懸念を抱く一方で、¹⁶ポジティブな側面にも着目しています。労働者の70%は、他のタスクの時間を確保し、自分たちの創造性を高めるために、可能な限り多くの仕事をAIに委ねることを望んでいます。¹⁷

業務におけるAIの活用が進むほど、人間の想像力が不可欠になる

この時代の驚くべき可能性を最大限に活用するために、組織と労働者は恐怖心を捨て、好奇心と想像力を持つべきです。事実、私たちの仕事の在り方は変わりつつあります。しかし、それが良い方向に変わっているのだとしたらどうでしょうか?従来の技術とは異なる性質を持つ生成AIを活用する上で、想像力が果たす役割は特に重要です。インターネットブラウジングソフトや文書作成ソフト等、うまく機能するかしないかの2択である一般的な技術とは対照的に、生成AIの効果は単純には測定できません。なぜなら、生成AIは精度や正確さに問題がある結果を出す場合があり、人間は結果に対する信頼性を評価する方法を考案しなければならないからです。¹⁸

 

この時代の驚くべき可能性を最大限に活用するために、組織と労働者は恐怖心を捨て、好奇心と想像力を持つべきです。

 

更に、生成AIは過去の多くの技術とは異なり、活用場面が必ずしも特定のタスクや領域に限定されるわけではありません。むしろ、大量のデータやアイデアから知識を生成し、関連性を見つけることに長けているため、まだ想像すらされていない様々な方法で労働者をサポートする可能性があります。同時に、生成AIが不正確な情報を生み出したり、訓練データやそれを設計した人に由来するバイアスを増幅させたりする可能性もあることに注意が必要です。¹⁹これらの不正確性やバイアスを解決するためには、生成AIを使用する労働者の好奇心や共感が欠かせません。

技術が進歩し、人間が生成AIの活用方法をより多く発見するにつれて、生成AIは製品設計、ネーミング、品質テスト、マーケティング等のタスクを支援し、真の創造的パートナーとなる可能性があります。労働者は生成AIと協力して複雑なテキストを作成したり、ソフトウェアを開発したり、より効果的な方法で顧客と対話したりすることができるようになるでしょう。一部の組織では既に、これまでに可能とされてきた想像の範疇を超えた、新たな生成AIの利用方法を見つけ始めています。例えば、最近のZapata Computing、BMW、およびMIT量子力学センターの共同研究では、量子技術を応用した生成AIが利用され、自動車生産ラインの生産性向上が実現されています。²⁰

これらの協力関係の成功は、組織や労働者がどれほど好奇心、レジリエンス、発散的思考、感情的知能等の人間らしい能力の向上にどの程度焦点を当てることができるかによって、大きく左右されるでしょう。

これらの人間らしい能力の重要性については、世界的に認識が高まっています。世界経済フォーラムの調査によると、2023年の労働者に求められる主要なコアスキルとして、好奇心、創造的思考、共感力、レジリエンス等が挙げられています。²¹一方で、上位10個のコアスキルの中で唯一挙げられたテクノロジースキルは、「テクノロジーに対するリテラシー」でした。特に人間らしい能力に関連するスキルには大きなギャップがあり、本調査の回答者のうち、これらのスキルを持っている労働者は、現在の労働力のうち10%未満であると推定されています。

 

これらの人間らしい能力を開発するプロセスは、地域や業界特有の文化によって異なることが多いです。例えば、日本では、好奇心が既存の確立された方法に基づく確実な実行を妨げるものと見なされてしまうことがあります。そのため、新しいアイデアへの好奇心よりも、認識された課題の解決がイノベーションのきっかけとなることがしばしばあります。²² このような文化的背景を踏まえて、塩野義製薬では、任意の週休3日制を試験的に導入し、労働者が平日のうちの1日を、仕事の枠組みの中では得難い経験を得る機会として利用することを許可しました。この取り組みを通じて、労働者がデジタルスキルと創造性を養い、これらをビジネスに取り入れることが期待されています。²³

人間らしい能力を拡大することで、組織と労働者に価値をもたらす

コスト削減や新製品・新サービスの開発等、従来の差別化戦略にのみ焦点を当てる組織は、技術の進化が加速するにつれて、短期的に得た利益が長期的には持続しないことに気づくかもしれません。今求められているのは、人と技術が一緒になって知識を共創し、これまで見過ごされてきた問題に取り組み、新たな価値創造の機会を見つけ出すためのアプローチです。このような仕組みを実現するためには、人間らしい能力を意識的に拡大し、育成することが求められます。私たちは、これらの特性を引き出すために組織は技術を活用すべきだと考えていて、多くのリーダーがこの点に同意していることが調査で分かっています。リーダーの71%が自組織の生成AIに関する計画において、労働者の人間らしい能力を向上させるための利活用が含まれていると回答しました。

スウェーデンの小売メーカー、IKEAを例にとってみましょう。この世界的な家具メーカーでは、AIを用いたグローバル規模のコールセンター業務変革を通して、効率性の向上とコールセンター担当者のデザイナーへの転換を目指しています。つまり、コールセンター担当者の役割の焦点を、手続きやプロセスに準拠するものから、創造性と人との繋がりを創出するものに移そうとしているのです。同社は、一般的な問い合わせ対応をAIロボットのBillieに任せ、8,500人ものコールセンター担当者向けの包括的なスキルアップトレーニングに投資し、デザインスキルと人間らしい能力の強化を図りました。²⁴

人々が自身のユニークなスキルと能力を持ち寄って組織内外で協働することで、学習は加速し、価値は拡大し、想像力の欠如は縮小、もしくは解消されるでしょう。このアプローチを採用することで、組織は真の差別化を達成する機会が得られます。

人間らしい能力への投資は、組織のレジリエンス強化だけでなく、労働者のレジリエンス、ウェルビーイング、メンタルヘルスの改善にも繋がります。これらは全て、人間の持続可能性を支える重要な要素です。グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド2021で触れたように、変化のスピードが加速していることや仕事があまりにも動的になっていることを踏まえると、従来のスキルアップの取り組みだけでは不十分です。²⁵ 最近の研究が示すように、これらの状況によって、現代の職場における広範なメンタルヘルスの問題が引き起こされています。²⁶ 組織は、労働者に対して、未来の変化に対応するための具体的なツールと戦略を提供するべきです。これにより、労働者のウェルビーイングを向上させ、不確実性に備える最善の方法として、自己を再定義するダイナミックな可能性を最大限に活用することができます。これは、予想外の問題から学び、プレッシャーに屈することなく、長期的な成功を実現する組織を作り出すための一助となるかもしれません。²⁷

 

人間らしい能力への投資は、組織のレジリエンス強化だけでなく、労働者のレジリエンス、ウェルビーイング、メンタルヘルスの改善にも繋がります。これらは全て、人間の持続可能性を支える重要な要素です。

想像力でポジティブな変化を創出する

想像力を十分に発揮するために組織は、短期的な解決策を優先する考え方から、適応力、レジリエンス、想像力を重視する長期的な視点へと方針を転換するべきです。多くの組織にとって、これは人と技術が共同で価値を創出する新しい仕事の在り方を反映した、成功の再定義を意味するかもしれません。組織が人間らしい能力への投資を始めるために取るべき主要な4つのステップは次の通りです。

  • 人間らしい能力を人事戦略の一部として活用する。まず、組織全体の人間らしい能力、特に共感力や好奇心の現状を分析するとよいでしょう。多くの組織は、このような広く定義された特性よりも、具体的な機能や技術に紐づくスキルの分析をした経験の方が豊富だろうと思われます。デロイトのSkills Based Organizationに関するグローバル調査によれば、ビジネスやHRのリーダーの68%は、労働者のハードスキルに関する正確で有効な情報を持っている自信があると回答していますが、人間らしい能力について自信があると回答したのは全体の48%でした。²⁸人間らしい能力を測定するには、ハードスキルを測定するほどの直接的なアプローチを取ることはできませんが、様々な方法が考えられます。例えば、同僚や上司からのフィードバックやアセスメント、能力を裏付ける行動実績等が収集可能です。また、性格診断やシミュレーション、課題演習等のデジタルアセスメントを用いることも可能です。労働者の同意が得られれば、AIを利用して、オーディオやビデオ通話の分析等を通じて労働者の日常的な行動や仕事のパフォーマンスを分析し、人間らしい能力を推定することもできます。²⁹

    組織は、労働者の人間らしい能力の相対的な強さを理解し、能力のギャップが特定できると、そのギャップを埋めるための能力開発を始めることができます。まず、既に多くの組織が行っているように、これらの能力を持つ人材を新たに採用するアプローチが考えられます。例えば、デザインやコンサルティング事業を営むIDEOでは、「T字型」の従業員を優先的に採用しています。「T字型」の人材とは、創造性等の人間らしい能力(Tの縦線)と、分野横断で協力する意欲(Tの横線)を持つ人材を指します。T字型の候補者は、自分が応募している職務とは直接関連のない組織についても質問し、過去の成功体験がいかに自分の力でなく周囲の協力によって実現できたかについて話す傾向があるとIDEOは考えています。³⁰

    人材を新たに獲得する活動と並行して、未来志向の組織は、人間らしい能力の活用を開発・支援・奨励するための施策に取り組んでいます。例えば、現場スタッフを多く抱える組織では、共感力に関するトレーニングや育成に取り組んでいることが多いです。³¹トレーニングや育成施策の中では、あえて不慣れな状況に身を置く練習をしてみたり、共感的な対応を観察しそれを実践する機会が提供されたりします。例えば、ベストウェスタンホテルでは、疲れてイライラした旅行者に対して労働者が共感力を高められるよう、VRを活用しました。³²
  • 人間の持続可能性を実現するために想像力を活用する。今日の労働者の発言権は増していて、多くの人が仕事により大きな意味を見出そうとしています。³³外発的な報酬は重要かもしれませんが、創造性を発揮する上で最大の報酬のひとつは、個々人にとって意味のある結果に向けて創造性を発揮する機会であると、研究で示されています。³⁴労働者が自身と組織にとって重要な結果を生み出すために人間らしい能力を使うことを奨励すると、よい循環を生む可能性があります。これらの能力は生まれ持ったものかもしれませんが、定期的に使わないと衰える可能性があります。そのため、リーダーは、これらの能力の発揮を模範として示し、奨励することが非常に重要です。興味のあるプロジェクトを追求するための安全なスペースと時間が提供されれば、労働者は人間らしい能力を磨き、強化する機会を得て、組織と自分自身にとってより大きな価値を生み出すことができます。このようにして、組織は、ほとんどの人にとって最も強力なモチベーションである、内発的な情熱を活用することができるのです。³⁵
  • 人間らしい能力の重要性を労働者やチーム、マネージャーに強調する。労働者が「何を達成すべきか?」から「私はどのような可能性を引き出すことができるか?」へと、即時に考え方を変えることは難しいでしょう。リーダーは、彼らに好奇心と共感の大切さを伝え、それらの能力をどのように活用するかを行動で示す役割を担っています。リーダーやマネージャーが好奇心を発揮する最も効果的な方法のひとつは、常に質問を投げかけ、労働者の言葉に真剣に耳を傾けることです。特に危機的状況下において、リーダーは自分が全ての答えを持っているべきだと思い込みがちです。しかし、実際には、労働者にとって自分がどのように行動するのが最も彼らに役立つのかを尋ねることが、組織全体の結束を強化しながら、前進するためのより良い方法に繋がります。マネージャーやチームリーダーも、労働者が自分の役割を再考する機会と時間を提供することができます(図3)。

 

一部のリーダーにとって、労働者の自主性やフィードバックを重んじる考え方は、受け入れにくいかもしれません。なぜなら、マネージャーや経営陣は、特定の目標の達成や問題の解決に集中しすぎて、全く新しい視点やアイデアを考えることの価値を見落としてしまうことがあるからです。人材開発の責任者520名を対象としたある調査によると、組織が従業員の好奇心を奨励できない理由のひとつに、従業員の関心の追求を許すことで組織の管理が難しくなってしまう恐れがあることが分かっています。³⁶創造性を育む行動や文化を確立するためには、リーダーが投資の判断基準として創造性を重視するようなガバナンスの枠組みを作り、それを推進する必要があります。

労働者にとって好奇心や創造性がますます重要になっている事実を踏まえると、組織はこれらの能力に対する先入観を排除する必要があるかもしれません。図4に示されているように、経営陣は人間らしい能力を自分自身にとって非常に重要(10ポイント中8ポイント)と考えていますが、労働者にとってはそれほど重要ではない(10ポイント中6ポイント)と考えています。

 

このような結果が出た背景には、組織内における創造性への複雑で、根源的な認識があるかもしれません。創造性は、しばしば効率と相反するものとして捉えられてきましたが、実は長期的に見ると大きな価値を生む可能性があります。³⁷最近の研究では、多くの人が表面的には創造性を肯定的に評価しながらも、実際は混乱を引き起こす不確実な要素として捉えている場合が多いことが明らかになりました。³⁸好奇心もまた、時には肯定的な要素として、時には混乱を引き起こす可能性のある要素として見られてきました。³⁹最近、16の業界で働く人々を対象に実施された調査では、65%が新しいアイデアを見つけ、仕事の問題を解決する上で好奇心が重要であると述べていますが、それと同程度の60%の回答者が、仕事のルーティンや縦割りの組織のため、好奇心を仕事に活用することは難しいと感じています。⁴⁰

組織の全ての階層において、好奇心や想像力の重要性が強調され、日々の行動を通じてそれらの価値が示されると、労働者は不確実性に対してより安心して立ち向かい、自分たちの役割の変革に対して想像力をもって取り組み、組織と労働者の信頼関係が強化されます。更に、組織が労働者のスキルや能力の向上に投資することで、既存の労働者のレジリエンスを強化し、新に採用する労働者を惹きつけ、人材獲得とリテンションに役立てることができます。

興味深いことに、機械との協働は労働者にとっては最も重要度が高いテーマのひとつとなっている一方で、経営幹部にとっては最も重要度が低いテーマのひとつとなっており、リーダーはAIが自身の役割に与える影響を過小評価している可能性があると言えます(図4)。

  • 労働者が探索、実験、破壊、共創するための機会と場を提供する。イノベーションは、奨励するだけでは起こりません。組織は、労働者が同僚や最新のデジタル技術と共に探索し、実験し、破壊し、共創するための「遊び場」を提供するべきです。新たな可能性を追求するための安全な実験の場と、組織からの応援があれば、労働者は生まれ持った好奇心を自ら引き出し、リスクを恐れることなく新しいことに挑戦できるでしょう。
    想像力を刺激するための時間を意図的に作ると同時に、日常業務の中にも取り入れましょう。例えば、ハッカソンは創造的な時間を作り出すひとつの方法としてしばしば活用されます。ハッカソンでは、創造性を発揮する自由が最も重要視されます。ハッカソンの事務局の役割は、イノベーションのプロセスを管理することではなく、参加者が必要とするツールへのアクセスや、創造性を引き出すための問いを提示することを通して、創造の舞台を整えることです。

想像力豊かな未来に向けて

技術の進化と繋がりの強化によって引き起こされる破壊は、組織や従業員の問題解決やコラボレーション、そして創造の在り方を根本から変えようとしています。そして、この先発見される未来の技術も、この変化を更に加速させることが予想されます。これらの先進的な技術によって、創造性の一部は自動化できるようになるかもしれませんが、新しい問題に対する答えを見つけたいと思う気持ちや、未知を探求したいと思う心は、自動化することのできない、人間特有の能力です。

技術に依存する世の中において、組織が人間らしい能力に焦点を当てることは不可欠です。つまり、好奇心や創造性、批判的思考を重視する採用や、全ての労働者の能力開発、労働者が自由に実験し実践できる安全な環境の提供、そして自身の可能性を最大限に引き出し、組織、そして全てのステークホルダーの利益のために新たな可能性を探求できる労働者を報いること等が重要です。

新たな可能性の探求は、もはや組織のリーダーだけの役割ではありません。それは組織全体、更にはその外部にまで及ぶ共同の活動であり、新たな技術を取り入れることで革新的な成果を生み出すことができます。想像力が組織の全ての階層に期待されるようになると、労働者は新たな機会を見つけ、組織は常に自己変革とイノベーションに向けて前進することができるでしょう。

調査方法

デロイトのグローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド2024は、世界95カ国の様々な業種・業界における14,000人のビジネス・人事リーダーを対象に実施されました。基礎データを形成する広範囲な調査に加えて、今年は労働者とリーダーそれぞれに特化した調査の視点を反映し、リーダーの認識と労働者の現実とのギャップを明らかにすることを目指しました。リーダー向けの調査は、最新の組織・人事課題に関するリーダーの考え方を理解するため、Oxford Economicsと共同で、世界中の経営者と役員1,000人を対象に実施されました。更に、これらの調査データは、複数の先進的な組織のリーダーとのインタビューによって補足されています。これらの洞察により、本レポートのトレンドが形作られました。

Endnotes

1 Francesca Gino, “The business case for curiosity,” Harvard Business Review, September- October 2018).

2 John Hagel, John Seely Brown, Maggie Wooll, Skills change, but capabilities endure, Deloitte Insights, 2019.

3 IBM, “The quest for AI creativity,” accessed December 17, 2023.

4 Michael Griffiths and Robin Jones, “The skills-based organization,” Deloitte, November 2, 2022.

5 Deloitte, “Work re-Architected,” accessed December 17, 2023.

6 Fabio Duarte, “Number of ChatGPT users (Dec 2023),” Explodingtopics.com, November 30, 2022.

7 Claire Cain Miller and Courtney Cox, “In reversal because of AI, office jobs are now more at risk,” The New York Times, August 24, 2023.

8 Jan Hatzius, Joseph Briggs, and Devesh Kodnani, Global Economics Analyst: The potentially large effects of artificial intelligence on economic growth, Goldman Sachs, March 23, 2023.

9 Tyna Eloundou, Sam Manning, Pamela Mishkin, Daniel Rock, “GPTs are GPTs: An early look at the labor market impact potential of large language models,” OpenAI, March 17, 2023.

10 Jan Hatzius, Joseph Briggs, and Devesh Kodnani, Global Economics Analyst: The potentially large effects of artificial intelligence on economic growth.

11 Peter Cihon and Mert Demirer, “How AI-powered software development may affect labor markets,” Brookings.edu, August 1, 2023.

12 Kate Weber, “Westpact sees 46 percent productivity gain from AI coding experiment,” ITnews, June 1, 2023.

13 Claire Cain Miller and Courtney Cox, “In reversal because of AI, office jobs are now more at risk.”

14 Nate Bek, “AI on the farm: Ag-tech startups help zap weeds, fertilize crops – but still face challenges with data,” GeekWire, August 11, 2023.

15 Geoff Williams, “How artificial intelligence will change retail,” National Retail Federation, June 28, 2023.

16 Deloitte, 2024 Global Human Capital Trends research.

17 Microsoft, “Will AI fix work?” blog, May 9, 2023.

18 Mike Bectel and Bill Briggs, Tech Trends 2024, Deloitte Insights, 2023.

19 Zachary Small, “Black artists say AI shows bias, with algorithms erasing their history,” The New York Times, July 4, 2023.

20 Jacob Bourne, “BMW, Zapata, and MIT test quantum-inspired generative AI in production,” Eingineering.com, June 29, 2023.

21 World Economic Forum, The future of Jobs report 2023, April 30, 2023.

22 Fangqi Xu, “The strengths and weaknesses of Japanese innovation,” Kindai Management Review vol. 2, (2014).

23 Ayano Shimizu, “Focus: Japan Inc. turns to 4-day workweek to offer flexibility to employees,”
Kyodo News, May 3, 2022.

24 Stealthesethoughts.com, “How Ikea upskilled 8,500 employees to boost sales by $1.4 billion,”
September 1, 2023.

25 Jeff Schwartz, Brad Denny, David Mallon, Yves Van Durme, Maren Hauptmann, Ramona Yan, and Shannon Poynton, Beyond reskilling: Investing in resilience for uncertain futures, Deloitte Insights, May 15, 2020.

26 Gabriella Rosen Kellerman and Martin E.P. Seligman, “There’s a mental health crisis at work because life is changing too fast,” TIME, January 24, 2023.

27 John Hagel III and John Seely Brown, Unlocking the passion of the explorer, Deloitte Insights, September 17, 2013.

28 Michael Griffiths and Robin Jones, “The skills-based organization.”

29 These tools need to be responsibly used. See: Deloitte, “Beyond productivity: The journey to the quantified organization,” May 2023.

30 Francesca Gino, “The business case for curiosity.”

31 Ashley Abramson, “Cultivating empathy,” American Psychological Association, Vol. 52, no. 8 (2021) p. 44.

32 Allan V. Cook, Michael Griffiths, Siri Anderson, Laura Kusumoto, and Cary Harr, A new approach to soft skill development, Deloitte Insights, May 8, 2020.

33 Sue Cantrell, Karen Weisz, Michael Griffiths, and Kraig Eaton, Harnessing worker agency, Deloitte Insights, January 9, 2023.

34 Markus Baer, Greg R. Oldman, and Anne Cummings, “Rewarding creativity: when does it really matter?” The Leadership Quarterly vol. 14, Issues-4-5, (August-October 2003), pp. 569- 586.

35 John Hagel III, Maggie Wooll, John Seely Brown, and Alok Ranjan, Passion of the explorer, Deloitte Insights, August 17, 2020.

36 Francesca Gino, “The business case for curiosity.”

37 Peter Evans-Greenwood, Robert Hillard, Robbie Robertson, Peter Williams, Setting the stage for creative performance, Deloitte Insights, October 29, 2021.

38 Matt Richtel, “We have a creativity problem,” The New York Times, April 16, 2022.

39 Shayla Love, “This is how to nurture curiosity in children (and yourself),” Psyche, August 22, 2023.

40 Yu-Yu Chang and Hui-Yu Shih, “Work curiosity: A new lens for understanding employee creativity,” Human Resource Management Review vol. 29, Issue 4, (December 2019).

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