調査レポート

「タレント・エコシステム」とは?

内外すべての人材を最大限に活用するための新たな戦略的アプローチ

昨今の社会環境・事業環境の変化により企業の「労働力」の概念は拡張し、外部の取引先企業や個人事業主、ギグワーカー、AI等のテクノロジーを含んだ広範な「タレント」を「エコシステム」として形成し、それぞれの関与者が共通の目的・ゴールの下にシームレスに協働する形へと変化しています。本稿ではこの「タレント・エコシステム」の形成と、DEIやWell-beingの施策を通じて社内外全ての人材を活用するためのポイントについて解説します。

日本語版発行に寄せて

多くの企業活動において、その労働力・従事者の大きな部分を自社の外部のリソースに依存している反面、タレントマネジメントの仕組みや運用は自社の社員にフォーカスし最適化されたものになっていることが今後の企業運営上の課題であることは、既に広く認識されている。本稿では、この状態を「タレント・エコシステム」、すなわち、「社内外のリソースが組織は別でも顧客に対して共に価値を提供している状態(補完性)とし、これらが共通の成功のために相互に依存している状態(相互依存性)によって成り立っている組織のための、価値創造に重点をおいた構造」に転換してくために必要なポイントを示唆している。

これは「古くて新しいテーマ」であると言える。従前より企業はそのバリューチェーンにおいて、広く様々な取引先企業、グループ会社、個人事業主と共に事業を作り上げており、取引先とWin-Winの関係を築くことに一定注力してきた。他方、新しさの源泉は昨今の社会構造や事業環境変化にある。働く人の価値感の多様化と共に、その価値観を労働の中で実現できる環境やプラットフォームが整いつつある。絶えずイノベーションを求められる企業としては、内部人材だけでそのリソースを調達することが困難であると共に、企業の体力としても「終身雇用」を前提とした運営が困難となってきている。仕事はスピード、革新性、関係性に重点を置いたチームベース・プロジェクトベースへと変化している。ソーシャルメディアの発達に伴い、外部の取引先企業や個人事業主、パートタイム社員等を含めた活動が自社のブランドへ直接的に影響を与える状況となっている。そして、人だけではなく、AI等のテクノロジーが労働力として明確に組み込まれつつある。これらの社会構造・事業環境に対応し、事業活動を進めていくためには、必要な外部の知見・リソースを「タレント・エコシステム」として形成し、関与者全体がWin-Winの関係にあり、幸せである状態とすることに真っ直ぐに取り組むことが、極めて重要な要素となってきている。

しがたって、企業は多岐にわたるチャレンジに取り組まなければならない。自社最適の形に確立した仕事のプロセスを見直す必要がある。企業の掲げるDEI(Diversity, Equity, Inclusion)やリーダーシップのあり方も、Well-beingの捉える範囲も、エコシステムの参加者までを含めたものにする必要がある。既にグループ企業や外部企業も含めた要員計画や人材獲得の取り組みを始めた企業もある。パフォーマンスマネジメントや報酬・福利厚生、ラーニング・リスキルやキャリア形成プラットフォームも今後広がりを見せると考えられる。各種法制度も整備が進むことが見込まれ、企業は対応を迫られると考えられる。当該トレンドは日本に限らず、世界中で取り組まれているテーマであるが、本レポートには世界各国のビジネスパーソンが認識している課題や取りくみをご紹介しており、読者の皆様には十分にご参考にしていただけるのではないか。

 

解説者紹介:

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
Workforce Transformationユニット 副事業運営責任者
執行役員 パートナー 坂田 省悟
※所属・役職は執筆時点の情報です。

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