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地域で生き残るケアミックス病院戦略とは

地域医療の課題からニーズを探る

地域医療構想により病床削減及び回復期機能病床への転換が後押しされています。2016年に地域包括ケア病床が創設され、急性期病床を地域包括ケア病床へ転換して、新しい形のケアミックス病院という役割を担う病院が増加してきました。地域医療を担う病院の経営状況を踏まえ、病院経営の観点からケアミックス病院が担う役割について考察します。

ケアミックス病院のメリットは

厚生労働省では「一般病床と療養型病床または精神病床の混合型の病院」をケアミックス病院と定義しています。一方で、地域医療構想及び病床機能報告制度が開始されて以降、病床機能の議論が進んでおり、「急性期機能に加え、回復期機能や慢性期機能を有し、複数の病床機能に対応している病院」といった考えが一般的になってきたのではないかと思います。

患者さんの生活を支えるシームレスな医療提供体制


複数の病床機能を有するケアミックス病院のメリットは、1つの病院で急性期医療から回復期医療、さらには看取りまで一貫してシームレスな医療サービスが提供できることが挙げられ、また職員の意識が患者さんの生活を支える視点を有しているもしくは持ちやすい病床機能の構成だと言えます。地域住民、患者さん、患者ご家族からみると、困ったとき、何かあったときに、しっかりサポートしてもらえ頼りになる病院として、ケアミックス病院は患者さん想いのサービス形態ではないでしょうか。

「地域完結型」でポストアキュートを受け入れられるか

「病院完結型」から「地域完結型」医療への転換と言われて久しいですが、外来を中心に地域の急性期医療・救急医療を確保・維持するために地域連携が進められてきました。現在、地域医療構想では急性期機能病床が多く、回復期機能病床が不足しているといった議論が進められていますが、更に患者の高齢化が進み、多くの病院で高齢者患者への対応や退院先の調整で追われている病院が少なくないと思います。

近年、急性期機能病床から回復期機能病床へ転換した前述のケアミックス病院が増えてきています。しかし、その実態の多くは自病院の急性期後のいわゆる「ポストアキュート」対応にとどまっています。急性期病院として従来役割を担ってきた地域の病院が他病院から患者を受け入れることはなかなか心理的なハードルが高いようです。

ポストアキュートでは、合併症を有していたり、急変するリスクが高いため、技術的に急性期機能がない他病院への転院が難しいケースがあるかと思います。そのため、従来急性期機能を中心に担ってきたケアミックス病院だからこそ担える他院からのポストアキュートを受け入れる体制を整備し、地域完結型医療を支えていくことが重要となっています。

「治す医療」から「治し支える医療」へ

また、慢性疾患や認知症を抱え急性期疾患を繰り返し発症する患者への対応として、「治す医療」から「治し支える医療」として在宅療養体制を整備することが重要であり、そのバックアップ体制として地域包括ケア病棟が重要視されています。患者さんには基本的にご自宅等住み慣れた環境で過ごしていただき、必要に応じて入院し、十分な支援のもとですみやかに在宅・生活復帰することをサポートすることが期待されています。

一般社団法人地域包括ケア病棟協会では、前述の「ポストアキュート機能」のほかに地域包括ケア病棟の役割機能として、在宅や介護施設からの軽症急性疾患の受入れである「サブアキュート機能」や化学療法/緩和ケア、糖尿病教育入院、減薬調整、医療必要度の高いレスパイトケアなどの入院患者の受入れである「周辺機能」を提言しています。軽症急性期や周辺機能への対応には急性期患者の棲み分けをしつつ、多職種でアプローチすることが重要となります。この点においても、多職種が活躍する急性期機能を有したケアミックス病院が有利と考えられます。

 

地域医療における課題

地域完結型医療、治し支える医療の展開の重要性は認識されてきていますが、多くの地域でなかなか進まない地域医療の実態があります。

その要因としては、やはり経営的課題、人的課題が挙げられます。日本の多くの地域では、公立・公的病院が地域の急性期機能を担っている場合が少なくありません。特に不採算地区に該当する地域についてはその傾向がより高くなります。そうした公立・公的病院の経営状況は、図表2及び3にあるように年々悪化基調にあり、その要因は、収益以上に費用が増加していることが挙げられます。

 

出所:総務省 平成26年度、27年度、28年度、29年度、30年度地方公営企業年鑑より作成
出所:総務省 平成26年度、27年度、28年度、29年度、30年度地方公営企業年鑑より作成

人的課題としては、地域の人口減少が進み、働き手が地域に不足していることが挙げられます。特に不採算地区における働き手不足はかなり深刻ではありますが、それでも図表4に示す通り、公立病院の平均職員数は増加基調となっています。地域における人材は少なからず地域の中核病院へ集まる傾向であり、近隣医療機関はより人材確保が困難になっている地域もある状況が伺えます。

 

出所:総務省 平成26年度、27年度、28年度、29年度、30年度地方公営企業年鑑より作成

地域医療におけるケアミックス病院としての経営戦略

では、地域におけるケアミックス病院は今後どのような戦略をとることが望ましいのでしょうか。

地域に自病院以外の高次医療機関がある場合には、高次医療機関が救急、急性期に注力できるよう、ケアミックス病院としてポストアキュートを早期に受け入れられる体制を整備することを検討すべきでしょう。そのためには特に、医師の受入れに対する理解や看看連携を進めることが重要となります。

ケアミックス病院として、何より地域包括ケアシステムの要としては、サブアキュートや周辺機能としての役割を発揮していくことが重要だと考えます。外来や介護施設等から紹介の軽症急性期の入院受入れや在宅療養患者における医療必要度の高いレスパイトケア、減薬調整、糖尿病教育入院、更にはADLが低下した患者のリハビリといった周辺機能は地域に求められる地域に密着した機能となります。そのためにも、ケアマネージャーとの連携促進や訪問看護ステーションの併設や連携、在宅療養支援病院、在宅療養後方支援病院として役割を推進していくことが打ち手として考えられます。地域の医療資源によってとるべき戦略は多様となるでしょう。

また、これらの機能を発揮するためには、ケアミックス病院で働くことのメリットを明確にして人材を集め、病院職員の意識改革を図り、回復期機能で重要なKPIを意識したマネジメント改革が必須となります。前述したように、現在、多くの病院は収益増加以上に費用が増加してきており、高度急性期医療になればなるほど、ヒトも物も多くの医療資源が必要となってきます。一方で、急性期機能から回復期機能へ転換した場合においても急性期機能と同水準で医療資源を投入してしまい、経営状態がさらに悪化してしまう病院が見受けられます。

これからのケアミックス病院は、急性期機能に加え、回復期機能としての他の急性期病院との連携、在宅・介護施設との連携が必須です。そのためにも、地域住民・患者の生活を支えていく視点で地域の実情に応じた病床機能転換を果たし、多様な入院経路を確保して業務効率化を図り、いかに医療資源の投入をコントロールして改革を進めていくことがポイントとなっています。

 

執筆

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部  ヘルスケア 

※上記の部署・内容は掲載時点のものとなります。2021/2

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