最新動向/市場予測

クラウド型電子カルテの最新動向と導入検討のポイントを考える

大規模病院向けのクラウド型電子カルテにフォーカスし、その最新動向や導入検討の観点を解説します

診療所や中小規模の病院に比べ、大規模病院向けのクラウド型電子カルテは、情報セキュリティや性能面での不安、或いはシステム会社側からの提案がなく、導入事例も少ないなどの理由からシステム導入検討の際、選択肢から除外してしまう医療機関も多いと思います。一方で大規模病院向けクラウド型製品の拡販が一部システム会社で本格化し、導入事例も徐々に増えつつあり、その動向も変わり始めています。そこで今回は、その最新動向と導入検討する際のポイントを解説します。

1.クラウド型電子カルテの特徴とは?

はじめに、クラウド型電子カルテの特徴についてみていきます。まずは、「クラウド」について、一般的にクラウドコンピューティングの略を「クラウド」と呼んでおり、インターネットを経由して、離れたところにあるソフトウェアやデータを利用するコンピュータ資源の利用形態の一つを指します。この形態で提供されるサービスが「クラウドサービス」であり、その利用形態によって、「SaaS」「PaaS」「IaaS」の3種類に分けられます。

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クラウド型電子カルテは、1つ目のSaaSに分類されます。SaaSのクラウドサービスは、一般的に不特定多数のユーザーが利用できるオープンな環境を提供する「パブリッククラウド」となります。しかし、特に大規模病院向けのクラウド型電子カルテの場合、「ハイブリッドクラウド」になることが多いという特徴があります。これは、BCPや情報セキュリティの観点から一部参照用などのサーバー群がオンプレミスとして病院に残るケースがあるためです。

このような特徴から、一般的なパブリッククラウドで期待されることの多い、初期費用を抑えるという面での効果は限定的になる傾向があります。また、外部との接続に際して、情報セキュリティの観点から運用面や技術面で整備が必要となる、レスポンス性能面で回線環境に影響される懸念があるなど安全性と安定性の観点も相まって、検討自体を避ける病院も少なくありません。

こうした特徴や背景から、電子カルテシステム会社における大規模病院向けクラウド型電子カルテシステムの開発や拡販も積極的に行われておらず、導入が進んでいない状況がありました。

2.クラウド型電子カルテのシステム会社動向について

上記のような状況がみられる中で、政府としては、電子カルテの普及促進という観点や、クラウドサービスを取り巻く技術進歩とそのサービス拡大を背景に、クラウド型電子カルテを前提とした規定やガイドラインの整備を進めています。

具体的には、医療分野におけるクラウドサービスの提供について、2010年の厚生労働省通知「診療録等の保存を行う場所について」の一部改正により実質解禁しています。そして、直近では2023年5月に大幅改訂された「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第6.0版」の中で、クラウドサービスの利用を前提としたリスク対策や責任分界の考え方を示しています。また、電子カルテデータの標準化や全国的な医療情報ネットワークの基盤整備など、クラウドサービスとの親和性が高い外部ネットワークを介した医療情報の共有・収集・分析を促す政策も進めています。

このように、クラウド型電子カルテを取り巻く環境が変わりはじめ、大規模病院においてもクラウド型電子カルテの検討や導入を進めるケースが徐々に出てきています。そして、ニーズの変化に応じて、クラウド型電子カルテの開発・販売を本格的に進める動きが一部電子カルテシステム会社で出てきています。

では、主要な電子カルテシステム会社において、クラウド化への対応にどのような違いがあるのかその最新の動向をみていきます。具体的には下図表のとおり、大きく3つの傾向がうかがえます。

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各電子カルテシステム会社が一斉にクラウド型電子カルテの開発・拡販を進めているというわけではなく、逆にその取組みには大きな違いがあることがわかります。これはシステム会社の持つ開発体制や技術的なノウハウ、データセンターや回線サービスといった付随するサービスの有無など様々な理由が考えられます。また、特にコスト面でクラウド化によりインパクトあるメリットが出せないと考えているシステム会社があることも推察されます。

メリットが出せないと考える理由の一つには、1節でも触れましたが、クラウド構成上一部サーバー群がオンプレミスとして院内に残ることに加え、図表2で示しているとおり、電子カルテと医事会計システム以外の大多数の部門システム群がオンプレミス型になるという側面があり、クラウド化で期待できるメリットが限定的になるためです。

3.クラウド型電子カルテの検討ポイント

では、システム会社によってその提案方針がわかれる中、クラウド型電子カルテの導入検討をどう進めていくべきか、その留意点を整理しながらみていきます。

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今回は5つの観点に分けて想定されるメリット・デメリット例を、特にコスト面への影響にフォーカスして挙げながら、そのポイントを整理しました。こういった多角的なポイントを押さえた上で、バランスを取ったクラウド化のあり方を検討することが現実的な対応として重要です。

その上でオンプレミス型と比較し、限定的となる傾向が強いその導入効果をシステム環境や人員体制などを踏まえて評価し、費用対効果を見極めていくことになります。その際、他医療機関での実績が非常に有用なファクトとなるため、システム会社からの積極的な情報収集がその入り口として不可欠であると考えます。

システム会社からの情報収集においては、2節で示したとおり、その収集先が取組みを進めているシステム会社に限られてしまうことに加え、提案できるシステム会社が絞られてしまうことも想定されます。特に調達フェーズにおいては、1社しかプロポーザルに参加できないといったケースが考えられるので、クラウドのサービス形式を具体的に指定せず、ハウジング形式も許容するような要件にするなど競争環境を構築するための工夫が必要になる点に注意が必要です。

4.おわりに

ここまで大規模医療機関向けのクラウド型電子カルテに対するシステム会社の動向と、その導入検討のポイントについてみてきました。ここで紹介した内容は2023年10月時点のものであり、今後の技術動向や政策、それに伴う病院のニーズの変化などによって、各システム会社の提案傾向やそれに応じて検討ポイントは変わることが予想されます。

デロイト トーマツ グループでは、国・地方自治体での医療ICT施策の支援実績、医療機関における病院情報システム導入検討の支援実績、それらを通しての多くの病院情報システム会社との情報共有体制を有しています。

それらのコネクション・実績をもって、常にその動向やそれに伴うシステム会社へのアプローチ手法などアップデートしていますので、システム会社から情報提供や提案がうまく引き出せないなど喫緊の課題をお持ちであれば、是非お気軽にご相談下さい。

執筆

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部  ヘルスケア 

※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2023/11

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