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地域医療再編における選択肢とスキーム

持続可能な地域医療体制を確保するために

地域医療構想の実現に向けた各医療機関の対応方針についての再調査を行い、2022年度から2023年度において、地域医療構想に係る、民間も含めた各医療機関の対応方針の策定や検証・見直しを行うとされています。既に、病院の現状や2025年に向け担うべき役割等の整理に着手し、地域医療構想調整会議で議論し始める自治体も見られており、今一度地域医療再編における各病院のとりうる選択肢とポイントについて整理します。

持続可能な地域医療体制の確保に向け、抜本策の検討が求められる背景

持続可能な地域医療体制の確保が求められる背景は、2025年問題に由来します。ご存じの通り、2025年問題とはいわゆる「団塊の世代」が75歳以上になることで、国民の4人に1人が後期高齢者となり、財政や医療、福祉等様々な分野に及ぼす影響のことを指します。

後期高齢者が増加することで、生産年齢人口割合は減少し、医療・介護の分野においては深刻な人材不足が懸念されます。特に、医師については地域偏在等の課題が大きく、都市部を除き医師の確保の困難さが増している地域は多い状況です。また、地域人口の減少、働き手不足により、看護師やその他の医療技術職の不足が深刻化している地域も見られます。

また、超高齢社会における医療では、ある臓器の疾病だけでなく患者の身体機能やこころの状態、またQOL等も含め身体の状況を全体的に着目した医療が必要といわれるようになっています。臓器別に機能分化してきた専門医はもちろんのこと、患者を全人的に診療できる総合診療医の必要性が高まっており、地域住民の医療ニーズに対して対応をとることができず、ミスマッチが顕在化した場合も抜本策の検討が求められる背景の1つと考えられます。

加えて、持続可能な社会保障制度を実現するためには、増え続ける医療費を抑制していくことが求められており、地域医療構想では病院の機能転換・機能分化、診療報酬制度の改定による機能転換の誘導等によって、医療費を抑制に働くような、制度的要請も強まっている状況にあります。このような中で、公立病院や中小規模の病院を中心に、持続可能な経営を行うだけの十分な収益を確保できず、厳しい経営環境に置かれた結果、病院統合を含んだ地域医療再編の検討が進むことがあります。

 

ネットワーク化による地域医療再編

超高齢社会・人口減少の環境に対応するために、地域で果たすべき役割について抜本策の検討を行う場合、単独の病院で医療再編を行うか、複数の病院で医療再編を行うか2つの選択肢があります。

単独の病院で行う地域医療再編の選択肢は機能転換または、病床のダウンサイジングという選択肢が挙げられます。一方、複数の病院で行う地域医療再編においては、病院間連携の強化(いわゆるネットワーク化)と病院統合の2つの選択肢が挙げられます。本稿では、特に複数の病院で医療再編を行う場合の選択肢について掘り下げていきます。

 

抜本策の検討が求められる背景と選択肢

スキーム① 「協定」による再編・ネットワーク化

協定は、病院相互に保有する医療資源を効果的に発揮し、病院間連携を円滑に行うことによって質の高い医療環境を整備することで、患者に適切な医療を提供するために、相互が緊密な医療連携を図ることを目的として結ばれるものです。協定により、再編・ネットワーク化を行う場合の特徴には、上記のような目的があったとしても、各病院の思惑が働いてしまい、地域医療再編において全体最適とならないことがあるため、その点に留意する必要があります。

協定による再編・ネットワーク化は、各病院の既存の病床機能を残すように調整する点で保守的な再編を好む場合には適していることや、新たに病院を建設しなければ実現しないものではないため、財政負担は先延ばしされる点で限定的にメリットがあります。一方で、協定を締結する際には、協議を重ねる必要があるため、時間を要する点や、協定には強制力があるわけではないため、各病院に個別最適を優先する余地があり、経営面における持続可能性、ひいては持続可能な地域医療体制の確保に結びつかない可能性がある点を考慮にいれておく必要性があります。

 

スキーム② 「地域医療連携推進法人」による再編・ネットワーク化

平成29年に医療法一部改正に伴い、新たに地域医療連携推進法人制度が創設されました。地域医療連携推進法人として、複数の病院が連携することで、地域の医療機関相互間の機能の分担・連携を推進し、質の高い医療を効率的に提供することを目的としています。2022年4月時点で、全国に31法人が認定されており、それぞれの法人で定めた連携推進方針をもとに地域医療再編を進めています。

地域医療連携推進法人は、法人格を消滅させずに業務提携を行うことができるため、公立病院のみならず民間の医療法人を巻きこむ場合でも有効な手段となり得ますが、一方で協定と同様に、全体最適とならない可能性もあ

る点に留意が必要となります。

法人が存続するため、保守的な再編を好む場合には適しており、連携推進法人内での病床数の融通が可能であるため、地域における病床再編に伴う病床数の調整を弾力的に解決することが可能であることがメリットとして挙げられます。一方で、連携以上統合(合併)未満の仕組みであることから、緩やかな統合であり、一つの法人として機能させるためのガバナンスの構築が難しい点がデメリットとして挙げられます。そのため、現在ある31法人のほとんどが、病院統合の準備までは目指しておらず、機能分化の推進や共同購買・共同委託等の経営面での連携、人材の相互派遣などの交流を目指しているにとどまっている現状です。

 

病院統合による地域医療再編

病院統合は、人口減少に伴い医療需要が低下し患者が大きく減少している場合や、その結果、財務が悪化し病院の建て替えが困難な状況に陥ってしまった場合、同一の診療圏で診療機能が重複している場合、病院統合の検討が行われることがあります。近年の病院統合の事例を見ると、その多くは公立病院が中心となっており、地域医療構想に対する対応方針の見直しに合わせて、今後より一層病院統合の事例は増加することが予想されます。

公立病院の経営統合のスキームは組織の統合の有無や統合の強度により分類することが可能となります。

 

公立病院の経営統合スキームの類型(例)

公立病院同士の経営統合の事例で、組織の統合を伴う場合、その経営形態を定め新たな組織としてスタートを切る組織新設型か、病院事業をいずれかの統合先に移譲する組織吸収型か、に分類することができます。

また、公立病院と民間病院の経営統合の事例もあり、事業譲渡後、公営化もしくは民営化のパターンが見られます。

病院統合の最大のメリットは、人材や医療機能の集約を図ることで、結果的に病床機能の調整を迅速に解決することが可能になるという点が挙げられます。その結果、地域における医療提供体制の全体最適が進み、持続可能な医療提供体制の構築を実現することが可能となります。

実際、山形県の県立病院と市立病院の病院統合の事例では、再編の基本構想が完成し、新施設が完成するまでのわずか約4年の間に病床機能の集約、機能分化を成功させ、その結果経営的にも黒字転換につながったと報告されています。

しかし、その一方で病院統合は病院間連携・ネットワーク化とは異なり、互いに異なる人事制度等のルールや組織風土の法人が一つの組織になるため、そもそも合併・統合に反対する職員の離職や、合併後の組織文化の摩擦による現場の混乱が生じる可能性があるといったデメリットもあります。特に、従業員を含め、「利害関係者間との合意形成・又はその調整」が困難を極めることとなり、再編が進まないというケースもあります。

 

想定される利害関係者

地域医療ビジョンの明確化に向けて

2025年まで残りわずかな期間となり、今まさに地域医療ビジョンを明確にすることが求められています。また、地域医療ビジョンが明確になった後、医療機能再編に向けた病院間連携(ネットワーク化)・統合は益々進むことが想定されます。

このような状況に対応していくためには、地域の医療需要がどうなるかを見極め、連携する病院間で共通の目標を持ち、地域医療を維持していくための体制維持に努めることが重要となります。またそれと同時に、従属的な課題として医師不足や看護師・医療技術職の働き手不足といった地域全体での医療従事者の確保の見込についても併せて検討が必要です。上記の共通の目標を達成するためには地域の医療体制を構築する必要があり、体制を支える人材の確保が実現性を支える重要なポイントになります。

 

執筆

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部  ヘルスケア 

※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2022/10

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