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医療DXの必要性について
どうして医療DXを進めないといけないのか
医療DXという言葉をよく耳にするようになりました。医療DX(医療業界のデジタル化)を進めることによって、医療格差をなくすことや医療費の抑制などの効果が期待されています。医療機関においてDXを進めるとどのような効果が生まれるのか、どのようにしてDXを進めればよいのかを解説します。
はじめに~医療DXとは~
新型コロナウイルス渦において、「ウィズコロナ」や「ポストコロナ」の考え方が示され、「新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)」「新型コロナウイルス感染症医療機関等情報支援システム (G-MIS)」といった医療資源情報の共有から本格的なICT化の動きが始まった。2022年9月には「医療 DX 令和ビジョン 2030」厚生労働省推進チームによって医療 DX の実現に向け、「全国医療情報プラットフォーム」の創設、電子カ ルテの標準化等、診療報酬改定DX等の施策が推進されている。
「DX(デジタルトランスフォーメーション)」とは何か。経済産業省が取りまとめた「デジタルガバナンス・コード2.0」によると、「企業がビジネス環境の激しい変化に対し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会ニーズをもとに、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確保すること」と定義している。
医療DXは、「医療機関の業務を効率化するためのDX」と「患者が効率的・効果的に医療機関を受診するためのDX」に大別できる。例えば、前者の例としては、紙カルテの使用から電子カルテシステムの利用へ、対面診療からオンライン診療へ、各種診療データのDWHシステムを活用した効率的な集計等が該当する。後者の例としては、マイナンバーカードを活用したオンライン資格確認や電子処方箋のように、データを活用した医療サービスの質の向上や文書の受領や申請手続等の簡素化等が該当する。
本稿では、前者にフォーカスし、医療機関の業務効率化にDXが期待されている理由、医療機関のDX推進方法について以降に述べる。
なぜ医療DXへの期待が高まっているのか
日本は人口減少局面に直面しており、国内産業全体に個人の生産性向上が求められる。特に医療現場では「人手不足」「働き方改革」「医師労働時間短縮に向けた取組」といった課題が存在し、その課題解決の手法としてDXの期待が高まっている。
(ア) 病院における生産性向上の必要性
医療機関における業務を効率化させ生産性を向上させるためにはDXが必要である。 2019年4月から働き方改革関連法が施行されたが、医師の業務の特殊性上、医師の働き方改革は非常に難しく、2019年4月の時点では、勤務医がいる医療機関に対し、働き方改革関連法の適用が5年間猶予されることとなった。年間の時間外・休日労働時間数が 960 時間を超える医師が勤務する医療機関については、医師の働き方改革を計画的に進める必要がある。例えば、年間の時間外・休日労働時間数が 960 時間を超える 36 協定を締結する医療機関又は副業・兼業先の労働時間を通算すると予定される年間の時間外・休日労働時間数が 960時間を超える医師が勤務する医療機関は医師労働時間短縮計画を作成する必要がある。前述のとおり、医師の労働時間を短縮するのはもちろんのことだが、看護師、コメディカルスタッフ、事務職員等、病院全体で労働時間の短縮を図り、生産性を向上させなければならない状況でもある。
(イ) 医師の生産性向上の必要性
医師の労働時間を短縮させ生産性の向上を図るには、効率よく診療を行わなければならない。例えば、診察、手術、処置、検査等を効率的に行い、1件当たりの時間を短縮する方法がある。しかし、実際にはその実現は容易ではなく、それほど大幅な改善を見込めない。
そこで、医師が行う業務を他職種に移行する(タスクシフト)方法が挙げられる。これは医師事務作業補助者や特定行為研修修了者の導入等により多くの医療機関で試みられている。さらにタスクシフトに加えて、IT技術による診療支援による業務効率改善が求められる。現時点でも電子カルテシステム等は一定の診療支援の機能を有するが、今後はAIによるレントゲン画像の読影支援等が期待されるなど、医師の働き方改革を通じた生産性の向上にはDXが欠かせない。
(ウ) 医療の質向上の必要性
近年は、限られた医療従事者で、より高品質の医療提供が求められている。例えば、疾病の早期発見といった医療技術の進歩も医療の質向上にとって重要である。
さらに外来での待ち時間や平均在院日数の短縮も医療の質向上に寄与する。この患者待ち時間や入院期間短縮に向けた様々なデジタル技術活用等が求められ、限られた医療従事者を医療の質と患者満足度を維持・向上させるにはDXが必須となる。
医療機関に対するDXの実現に向けたアクション
前節で述べたように、医療機関におけるDXの推進は生産性の向上や医療の質向上といった働き方改革の実現や患者満足度向上に資するものである。それでは医療機関がどのようにしてDXを進めていけばよいのであろうか。
その基本的なアイデアが「「DX推進指標」とそのガイダンス」に見てとれる。同ガイダンスは、各企業がDX推進に向け以下の機会の提供を目的としている。
- ・自社の全社的な意識を簡易な自己診断で把握できるようにすること
- ・経営幹部や事業部門、DX部門、IT部門などの関係者の間で現状や課題に対する認識を共有すること
- ・上記を踏まえ次のアクションにつなげる気づきの機会を提供すること
まず、指標の活用については、自己診断を基本とし、経営層以下の関係者(経営幹部や事業部門、DX 部門、IT 部門等)が DX 推進時の課題への気付きの機会となることを想定している。具体的な活用方法は以下の3点である。
①認識共有・啓発
「DX推進のための経営の仕組み」と「その基盤としてのTシステムの構築」に関して、経営部や事業部門、DX部門、IT部門などの関係者が、議論通じて認識の共有を図り、今後の方向性について議論を活性化すること。
なお、議論の前に、個々に自己診断し、関係者間でのギャップを明らかにすることが求められる。このような経営幹部、事業部門、DX 部門、IT 部門の現状や課題に対する認識の違いが明らかになることは、認識に齟齬がない形でその後の取組みを進める上で有用である。
②アクションにつなげる
自社(自院)の現状や課題の認識を共有し、あるべき姿の実現に向けたアクションについて議論を行い、実際のアクションにつなげること。
各項目に点数をつけるだけでなく、実際のアクションにつなげることが重要である。
③ 進捗管理
翌年度に再度診断を行い、アクションの達成度合いを継続的に評価し、DX推進の取組みの経年変化を把握し、自社のDXの取組みの進行状況を管理すること。
特に一度の診断のみではDXの持続的な実行につながらないため、自社のマネジメントサイクルに年次よりも短期的なサイクルで確認すべき指標・アクションを取り込んで管理することが重要である。
おわりに~医療DX推進の必要性~
医療業界は公的社会保険制度下での経営が行われるという特殊性を有している。このため、制度が足かせとなり経営革新や業務改革などはなかなか進めがたい傾向にある。
特に地域医療構想に見る病院の統合・再編、医療従事者の確保などの課題が多くあり、医療提供体制の見直し、医療従事者の労働環境の変革が求められている等、DXの必要性は他の業界よりも大きいと考えており、医療業界のDXには他産業が採用しているDX推進のプロセスの活用は必須と考える。
執筆
有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部 ヘルスケア
※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2022/12
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