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【連載企画】教えて!デロイトさん!(第8回)
医療機関の組織・人事・労務について、デロイトさんが皆さんの疑問にお答えします。
組織・人事・労務の専門家であるデロイトさんが、日ごろ皆さまが業務に携わる中で生じる疑問に対して、Q&A形式でお答えします。今回のテーマも多くの医療機関が着手されている「医師の働き方改革」についてです。是非ともご一読ください。
本当にウチはA水準なのか
相談者:
私は、大規模急性期病院の事務部長です。当院では全診療科A水準で行く予定でして、打刻状況など見ていると、一部の診療科で少し微妙ではあるものの、一応上限ギリギリで行けそうだと聞いています。ただ、本当にそれでよいのか、個人的には少し不安も感じています。急いでB水準の準備をした方が良いのか悩みながら、現在まで特に手を打てておりません。
デロイトさん:
ご相談ありがとうございます。また、状況を率直に教えて頂き感謝します。確かに不安になりますよね。特に外科系、循環器系などの診療科は、非常にお忙しい現場であることは我々も重々承知しています。貴院のような大規模病院で、医師の人数が充足しているのであれば、A水準でも大丈夫かもしれませんが、大学病院クラスであっても診療科によってはA水準の枠内に収めることが難しい診療科があるという話を聞きます。
相談者:
そうですよね。ウチでもおっしゃるような診療科は激務でして、現場の先生方の献身的なご協力で現場が何とか回っているように感じています。こういった診療科は本当にA水準で良いのか、と疑問に感じてしまうこともあります。今は実際にどの程度の医療機関がB水準やC水準の申請をされているのでしょうか。
デロイトさん:
今、全国の多くの医療機関で、一斉に準備を始めています。医療機関勤務環境評価センターの情報では、4月5日現在で、評価センターに受審申込された件数が全国で51となっていました(※1)。2024年以降に3年毎にモニタリングがあることや、2035年にはB水準の上限の時間外労働時間数がA水準と同じになることを考えますと、上限ギリギリである診療科については、申請しておくことが望ましいのではないかと思います。
医師との対話が重要
デロイトさん:
ところで、現時点でA水準を選択される予定とのことでしたが、それはどのような情報に基づいて判断されているのでしょうか。
相談者:
先生方の勤怠打刻データを確認して、各診療部長と情報共有しながら決めています。勤怠打刻データ上は時間外労働時間数が月80時間以内に収まっているので、A水準で行けそうだと思っているのですが、実態がどうなっているのか、土日に出勤されている先生方も多くいらっしゃるようにも聞いているので、どこまで労働時間と捉えてよいのか判断が難しいと感じています。
デロイトさん:
記録上は80時間に収まっているが、感覚的にはそうではないと感じているということですね。
相談者:
はい、仰るとおりです。
デロイトさん:
我々も現場の先生方とお話させていただいた経験から、おそらくそういった医療機関は多いのではないかと推察しています。例えば、診療部長が実態を把握されているわけではなく、「私は早く帰っているので、若い人たちが何時まで残っているのかわからない」という話はよく聞きますし、中堅や若手の医師からは「土曜日はオペ後の患者を診に来ていますが、特に打刻はしていません」といったことを聞くことがあります。
貴院がそうであるかどうかはわかりませんが、先生方が勝手に「これは労働ではない」と判断したり、医師の働き方改革を理由に各診療部で80時間以内に抑えるように暗黙の指示が出ていたりするケースがあるとも聞いています。こういった実態は、現場医師との対話を通じて、初めて具体的な実態が見えてくるところがあるように思います。
労働時間の定義とマニュアル化の重要性
デロイトさん:
貴院では、何が労働で何が労働ではないとか、そのような考え方を周知したり、マニュアルにまとめたりされていますか?
相談者:
労働時間の定義についてはよく議論になりますが、残念ながらそれを具体的に取りまとめたりマニュアルにしたようなものはありません。
デロイトさん:
B/C水準の申請を行うにあたって、提出資料における根拠資料として勤怠管理マニュアルを整備しておくことがポイントの一つになっています。厚生労働省のホームページからも、労働時間の考え方を説明するための資料は利用できるようになっていますので、このような資料を活用しつつ、貴院内ではどのようなケースが労働時間とそうでない時間の判断が難しいのか、具体的に検討して、それを明文化しておくことが重要だと思います。
我々も、いくつかの医療機関に対して働き方改革を支援させていただいていますが、勤怠管理マニュアル作成・運用に関して助言させていただく機会が増えています。マニュアルを作っても、現場の先生方に読んでもらえないのではと懸念される方はいらっしゃいますが、まずは整備することが大事だと思っています。その上で、現場の先生から問い合わせが入ったときには、マニュアルの存在をお伝えして、「先生、マニュアルの〇ページをご確認ください」というように返答するようにします。この活動を繰り返すことによって、現場の先生方にご自身で調べればわかると気づいていただき、その結果、先生方の労働時間への意識が醸成されると考えています。
相談者:
なるほど。ありがとうございます。確かに最初から面倒だとか諦めているのは実は事務方の方かもしれませんね。私たちがやるべきことを改めて理解して、地道に進めてみようと思います。
次回掲載予定
今回は、医師の働き方改革に関する「現場医師との対話の重要性」と「労働時間の定義・マニュアル整備の必要性」について、デロイトさんが回答しました。次回もこのテーマで皆様からのご質問に答えていきたいと思います。
執筆
有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部 ヘルスケア
※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2023/04
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