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【連載企画】教えて!デロイトさん!(第10回)

医療機関の組織・人事・労務について、デロイトさんが皆さんの疑問にお答えします。

1年間にわたって、組織・人事・労務の専門家であるデロイトさんが、日ごろ皆さまが業務に携わる中で生じる疑問に対して、Q&A形式でお答えしていきます。テーマは、多くの医療機関が着手されている「医師の働き方改革」についてです。是非ともご一読ください。

代償休息をどうシフトに組み込むのでしょうか?

相談者:

医師の働き方改革に着手しており、各診療科において1ヶ月・1週間の勤務の流れについて見直しているところです。
勤務の流れを見直すにあたり、「代償休息」はどのようなタイミングでシフトの中に組み込んだら良いのでしょうか?

デロイトさん:

ご相談ありがとうございます。
勤務間インターバル中に、やむを得ない理由により実働が発生した場合に、その労働時間に相当する時間分の休息を「事後的に付与」するのが代償休息となります。
そのため、予め勤務シフトの中に組み込むものとはなっていないのです。

相談者:

そうなんですね。
その他、付与する際に気を付けた方が良いことはありますか?

デロイトさん:

代償休息を付与する方法としては2つあります。1つ目は所定労働時間の中で対象時間数を付与する方法です。

相談者:

所定労働時間の中での付与ですか…。
忙しい勤務シフトの合間を縫って、所定労働時間中に代償休息を取得するのが難しい診療科もあるかもしれません。
その場合は他の方法も検討したいのですが、2つ目はどのような方法でしょうか?

デロイトさん:

勤務間インターバルの延長により付与する方法もあります。
勤務間インターバルの延長は、睡眠の量と質の向上が期待されると考えられています。

相談者:

所定労働時間中に取得してもらうか、勤務間インターバルを延長して取得してもらうか、対象となった診療科や医師に決めてもらうのが良さそうですね。

デロイトさん:

そうですね。
代償休息は、発生日から翌月末までに取得する必要があります。
ただ、代償休息は疲労回復に効果的な休息を取ってもらうことを目的としているので、できる限り早く取ってもらえるのが望ましいです。
そのためにも、どの曜日のどの時間帯に付与できそうなのか、各診療科にヒアリングをして確認しておくと、2024年4月以降、代償休息の付与が必要となった際に運用しやすくなると思います。

相談者:

ありがとうございます。
どのタイミングで付与できそうなのか予め把握しておくために、各診療科に確認してみようと思います。

 

参考資料

代償休息を所定労働時間以外に取得しても良いのでしょうか?

相談者:

代償休息を所定労働時間以外の、例えば休日である土曜日や日曜日に付与することは可能なのでしょうか?
診療科にヒアリングしてみたところ、平日の日勤中に代償休息を当てられるような余地はなさそうなのですが…。

デロイトさん:

代償休息の付与は、所定労働時間中に時間休を取得すること、または勤務間インターバルを延長することのどちらかを原則としています。
医師の働き方改革の推進に関する検討会の中間とりまとめにも、「代償休息は予定されていた休日以外で付与することが望ましい」と記載されています。

相談者:

たしかに、休日以外で取得できると良いんだろうなと思います。
そうなんですが、診療科内でマンパワーが足りていなかったり、絶対にずらせない業務があったりして、所定労働時間中の取得は難しいと言っている診療科もあるみたいなんです。

デロイトさん:

なかなか難しい診療科もありますよね。想像できます。
2022年10月19日に厚生労働省が出した「医師の働き方改革制度への照会と回答内容」を見ると、休日に当たる土曜日・日曜日に代償休息を取得することも可能としています。

相談者:

そうなんですね。
では、所定労働時間中か否かに関わらず、どこかの時間で対象時間分の代償休息を取れれば良いということですね。

デロイトさん:

はい、そのように解釈することができます。
とは言っても、繰り返しになりますが、所定労働時間中における時間休の取得が原則とされているので、代償休息を休日に取得することを可とするか否かは、各病院でご検討いただくのが良いと考えます。

相談者:

どういうことでしょう?

デロイトさん:

病院の方針として、まずは法に準拠させることを優先するというお考えで働き方改革を進めるのであれば、「何も当番のない日を代償休息にしましょう」「日勤終わりで、自宅で寝ている時間を代償休息としましょう」と掲げるのも一案かと思います。

ただ、医師の働き方改革に関する取組は、医師の考え方や意識を変えていく取組になると考えています。

医師の考え方や意識を変えるという視点で考えると、「当院では代償休息を所定労働時間中に取得するんだ」と方針を掲げることで、各科に時間の使い方の工夫を促すことにつながるのではないでしょうか。

診療科や医師が、日々の業務や主治医制などを見直し、自発的に工夫や改善活動に取り組んでいただけることも期待されると考えます。

相談者:

なるほど。医師の働き方改革を法対応すべきものと捉えるのか、医師の意識改革と捉えるのか、病院としての考え方を示した方が良さそうですね。

デロイトさん:

そうですね、その方が良いと思います。
例えば、マンパワーが限られ、診療業務も長いと一般的に言われている心臓血管外科や循環器内科などは、現実的には所定労働時間中に代償休息をとることは至難の技であると考えられます。

このような診療科は現実的に、所定労働時間帯以外での代償休息を目指すことになることも考えられます。

ただ、そのような場合、本来の医師の働き方改革の目的を考えて、「例外(休日での代償休息等)で代償休息を取るから何も変えずに対応できる」と妥協案をお伝えするのではなく、「まず所定労働時間中での取得に何とか努力してもらい、どうしても無理ならば例外での代償休息対応を使う」という考えをお伝えするというのはどうでしょうか。

各診療科できちんとご理解いただいた上で、所定労働時間帯以外で代償休息を取得するのが良いのではないかと考えます。

このようにお伝えすることが、働き方改革≒意識・考え方改革の布石になると思います。
 

 

参考資料

代償休息のルールはどのように定めれば良いのでしょうか?

相談者:

代償休息のルールを整備するにあたり、どのような点がポイントになりますでしょうか?

デロイトさん:

ポイントは4つあるのではないかと考えます。
1つ目は、【代償休息を付与する時間帯】です。
先ほどお伝えしたように、代償休息を原則所定労働時間内に取得するように周知するのか、まずは法対応として休日も含めて検討して良いと周知するのか、病院としての考え方を整理されるのが良いかと考えます。

相談者:

そうですね。それは院内でも検討しようと思います。

デロイトさん:

2つ目は、【代償休息の付与単位】です。

相談者:

代償休息は、分単位で取得することが可能なのではないですか?

デロイトさん:

仰る通りです。
代償休息は分単位で付与することが可能なのですが、例えば、15分や30分、1時間単位に切り上げて付与することも可能となっています。

1分単位で付与するということも良いと思いますが、そうすると事務処理や代償休息時間数の管理など、煩雑になることが予想されます。
効果的な代償休息や事務の簡便性を考慮して、付与単位を検討されるのが良いと思います。

相談者:

たしかに、1分単位で管理していくとなると、煩雑になりそうですね。
代償休息付与の目的もかなえつつ、管理の仕方も考えておいた方が良いですね。

デロイトさん:

まさに仰る通りですね。
関連して3つ目のポイントになるのですが、【代償休息の申請方法】についてもご検討いただくと良いと思います。

現在使われている勤怠システム、あるいは導入予定とされている勤怠システムで、代償休息の取得時間や未消化時間などを把握できるのか否かを確認しておくことをお勧めします。

もし、現行の勤怠システムで代償休息の申請や付与を行うことが難しい場合は、勤怠システムとは別途自己申告などにより申請してもらうことになるかと思いますが、その申請方法などを整備しておくと良いでしょう。

相談者:

今使っている勤怠システムで、代償休息の管理までできるのかどうか、確認してみようと思います。
もし管理できないようでしたら、Excelなどで別途管理ツールを作ってみようと思います。

デロイトさん:

そのようにされるのが良いと思います。

相談者:

4つ目のポイントは何でしょうか?

デロイトさん:

4つ目のポイントは、【給与】です。
所定労働時間中に代償休息を付与した場合、その代償休息時間に対する給与の取り扱いを検討する必要があります。
必ずしも有給での付与を義務付けるものではありませんが、医師との関係性や事務負担を考慮のうえ、取り扱いを明確にしておく必要があります。

ただし、勤務間インターバルの延長または休日に付与した代償休息時間はそもそも固定的な賃金の基礎時間ではないため、賃金の保障や控除の検討は不要と考えられます。

相談者:

なるほど、給与についても整理しなければですね。

デロイトさん:

労使間で話し合われて、院内ルールを明確にしておくことが良いと思います。

執筆

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部  ヘルスケア 

※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2023/06

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