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自治体における事業・業務改善の検討方法

少子高齢化、人口減少、とりわけ生産年齢人口減少による労働力の供給制約は、社会全体が抱える避けがたい課題です。自治体にとっても、税収の減少により、厳しい財政運営を求められる環境下において、行政サービスの質や水準を維持し、持続的かつ安定的に提供していくための体制の構築が課題となっています。 今回は自治体の事業及び業務プロセスをどのように分析・整理し、改善策を検討するか、その手法を紹介します。

我が国の自治体の現状

我が国の総人口は、2008年をピークに長期の人口減少過程に入り、国内出生数は約86万5千人(厚生労働省,2019年人口動態統計月報年計,2020年6月5日発表)で、1899年の調査開始以来過去最少となり、人口減少・少子高齢化が加速している。少子化は社会保障の支え手の減少に直結し、高齢化に伴う生産年齢人口減少による労働力の供給制約は、社会全体が抱える避けがたい課題であり、日本は人口減少を前提とした社会、経済に転換していく必要がある。

自治体職員も減少傾向

地方公務員にも人口減少・少子高齢化の影響が表れている。1999年に市町村等の職員数は約154万人であったが、20年後の2019年には約135万人と約24%減少している(総務省,地方公務員数の状況,平成31年地方公共団体定員管理調査結果)。なお、保健・介護等の福祉関連は国の法令等に基づき配置基準が定められている場合が多いが、必ずしも全市町村が定数を満たせているわけではない。福祉関係の職員数減少は住民サービスに影響が及ぶが、持続可能な形で住民サービスを提供し続けなければならない。

ICTの導入

こうした自治体の状況に対し、ICT、AIを活用し、業務の効率化、生産性の向上、新しい住民サービスの在り方の創出といった取組みが自治体で積極的に推進されつつある。一方で、これまで庁内の部課単位で個々にカスタマイズしたシステムや業務プロセスを利用している、あるいは一部はシステムを利用し、一部は個別エクセルで管理しているといった実態があり、システムの改修費を考慮すると簡単にシステムの標準化、共同化を進めることが難しいという課題も抱えている。

5月に厚生労働省が保健所等の業務負担軽減及び情報共有・把握の迅速化を目的に導入した「HER-SY」は、自治体側の環境が整わず、利用できる自治体が7割にとどまっている。未利用の理由の一つに、既に独自のシステムを利用しているためデータ移行が必要になるとあった。まさに個々にカスタマイズしたシステムや業務プロセスを保有するがゆえの状況と考えられる。

図表1 自治体におけるICT活用パターンの概略図

自治体における業務改善の手順

自治体戦略2040構想研究会 第二次報告書(2018年7月)において、ICTの活用を前提とした自治体行政を展開する必要性が示されており、またデジタル・ガバメント閣僚会議でも自治体のシステムの統一・標準化の必要性などが議論されている。全国の自治体が全庁的に取り組むことが理想的であるが、実際に自治体の業務効率化を検討する場合、課の単位で複数事業を推進しており、業務が細分化されている。今後のICTの活用で業務改革を進める上でもまずは課等の単位で主管している事業や業務の状況を正確に把握する必要があると考える。以下に事業や業務の現状を把握する方法を紹介する。

事業・業務の全体像の把握

本来は業務改善の目的に応じて業務設計をするが、今回は基本的な手順を示している(図表2)。
ステップⅠは、当該課が主管している全事業の業務量を把握する。一つの事業に従事している職員・非正職員の労働時間から、課が推進する事業で労働負荷が高い事業を明確化する。ステップⅡは、各事業の業務の作業フロー(手順)、処理件数、1処理件数当たりの処理時間、作業内容、作業特性(専門性、個別性、判断・調整の有無等)を整理する。ステップⅢは、目的に応じてステップⅠとⅡの結果から検討・分析する。

 

図表2 事業・業務の把握フロー

事業・業務の明確化

ステップⅠ~Ⅲの調査イメージを次に示す。

全事業の業務量調査

図表3では、事業(1)に従事した正職員・非正職員の労働時間を年間作業時間として整理し、全48事業を整理している。そのうちの12事業(全事業の4分の1)に某課の総労働時間の約70%を費やしていることが分かる。事業➀については4200時間=525日分(1日8時間計算)を費やしている。また、事業(1)の労働時間の内訳として正職員の割合と非正職員の割合、給与情報等と合わせて実態を把握することで某課における各事業の位置づけを可視化することができる。

図表3

各事業の業務内容調査

図表4では、各事業の業務フローを作成し業務内容を整理する。業務内容を調査すると、どの業務に労働時間が費やされているか、誰がその業務に従事しているのか等を具体的に把握することができる。なお、福祉関係に従事する職員は専門性を生かした住民サービス提供時間が多いと考えがちであるが、実は簡易事務作業の労働時間が多いということも可視化できる。業務内容調査は、質問票形式以外に特定の職員の労働を実際に測定するタイムスタディ手法を行うこともある。

図表4

目的に応じた検討・分析

最後に、目的に応じた検討・分析を行い、業務改善を図る糸口を整理するが、業務量調査、業務改善、組織改善等の取組みは、このステップに入ると「削減すること」のみに焦点がいきがちである。業務改善の本質は捻出できたリソースを本当に投資すべき業務、つまり強化すべき業務への配分、新しい取組みへの配分に充当することにある(図表5)。
例えば、専門職がすべき業務(コア業務)と他へ任せられる業務(ノンコア業務)が明確化され、効率的かつ働きやすい職場を作る視点に立ち戻り、検討・分析を進めることが大切である。
以下に事業改善例と業務改善例を紹介する。
 

図表5

事業改善例

事業改善を目的とする場合の例として検討の視点と改善の方向性を図表6に示した。
前述のⅠ、Ⅱの調査と併せて事業の「妥当性」「効率性」「公平性」「有効性」の観点から検討し、事業の改善の方向性を決めていく。
・事業内容の検討(例):事業を開始して以来、一度も見直しが図られていないような場合は「効率性」「有効性」の観点から検討が必要
・事業継続の妥当性の検討(例):社会環境の変化により受益者(住民)のニーズに合わず利用者が減少している、社会のICT化に反しアナログ処理をして職員が業務過多となっているような場合は「効率性」「有効性」「妥当性」の観点から検討が必要
など、見直しを進めていく。

図表6

業務改善例

業務改善を目的とする事例として、正職員の労働負荷を軽減する検討の視点と改善の方向性を図表7に示した。
全事業の業務量調査、事業ごとの業務内容調査と併せて、業務の「専門性」「個別性」「判断・調整」「機微性」の観点から検討し、業務の改善の方向性を決めていく。
・業務の量・質の見直し:業務が「専門性」「個別性」「機微性」を伴わず、汎用性の高い季節業務(年間の一定時期のみ発生)があるとする。仮に四半期に1回実施していたことを半期に1回に変更することで、業務量は6~7割程度の業務量に調整減可能となる。
・業務プロセスの見直し:業務プロセスはルーティン化しており硬直化しやすい。個々業務のプロセスと共に、プロセスを繋ぐ判断・調整でプロセスの流れを止めている可能性もある。
・業務外注の検討:業務で「専門性」「機微性」が不要な入力業務や、封入・封緘・発送業務は外注業務として検討しやすい。一つの業務量が少なくても、全事業の同種の業務をまとめれば外注可能な業務量になり可能なケースもある。
・システム改修・導入の検討:業務ごとに図表1のパターン3の状況を「専門性」「機微性」等ともに整理を進める。また、システム改修・導入は業務量、業務プロセスと密接に関連する。量が少ないためにスケールメリットが出ない、業務プロセスの見直しと配置を適切に行わないことから業務の二重化で十分な効果を得られないという状況になりうる。

図表7

また公務の特殊性として、昨今の新型コロナウィルス感染症のような危機対応や災害発生時には担当業務+災害業務の兼任となったり、住民と関わりの多い福祉関係の業務では感情労働(好むとこのまざるに拘わらず、自らの感情の感じ方や、相手への表し方を適切にコントロールすることが求められる)の割合も少なくない。こうした視点も含めることが大切と考える。

我が国は2040年頃には高齢者人口がピークを迎える一方、現役世代が急激に減少する大きな変化が直前に迫っている。これに伴い自治体の事業や行政サービス提供のあり方も変えていく必要がある。10年先、20年先の地域における自治体の役割を見据え、自治体内部の資源、住民理解を得た行政サービスの継続・質の担保の両面から事業や業務プロセスの整理・見直しを図る時期に来ていると考える。

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