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公立病院経営強化プラン策定時の主な検討ポイント

ガイドラインを踏まえた病院経営強化プランの検討ポイント

次期公立病院改革プランの策定に向けた「新たなガイドライン」として、「公立病院経営強化ガイドライン」が2022年3月29日に公表されました。本稿では、ガイドラインの内容を踏まえて、各公立病院において公立病院経営強化プランを検討する際のポイントや留意事項について解説します。

公立病院改革プランと公立病院経営強化プランの位置付け

令和4(2022)年3月29日に、総務省から「持続可能な地域医療提供体制を確保するための公立病院経営強化ガイドライン」(以下、「ガイドライン」という)が公表されました。各公立病院においては、令和4(2022)年度から令和5(2023)年度中に、新公立病院改革プランの取組み状況や成果を検証するとともに、当該ガイドラインを踏まえて、公立病院経営強化プラン(以下、「経営強化プラン」という)を策定することが求められています。

総務省|持続可能な地域医療提供体制を確保するための公立病院経営強化に関する検討会|持続可能な地域医療提供体制を確保するための公立病院経営強化に関する検討会 (soumu.go.jp)

 

新公立病院改革プランと経営強化プランの項目比較

新たに具体的検討を求められている項目を見ると、環境変化に合わせ、自院の役割・機能を詳細に検討し、医療提供体制の持続可能性を高めていくことが強く求められるガイドラインといえます。また、これまでの取組みを検証したうえでの策定が要請されており、マーケティングの視点も踏まえ、真摯に検討することを示唆しています。
 

以下の表は、新公立病院改革プランと経営強化プランの記載項目を比較したものです。経営強化プランで新たに具体的な検討が求められている項目を黄色で表示していますが、「環境変化に合わせた役割・機能の再検討」、「医師の働き方改革への対応」、「新興感染症の感染拡大時等に備えた平時からの取組」及び「施設・設備の最適化」が新たな記載項目として目立ちます。

コトラーによるマーケティングの定義は

「どのような価値を提供すればターゲット市場のニーズを満たせるかを探り、その価値を生みだし、顧客にとどけ、そこから利益を上げること」

とされていますが、まさに医療需要の変化や周辺病院の機能変化等を踏まえ、自院の役割・機能を詳細に検討していくことが強く求められているガイドラインといえます。特に、数値目標の記載について、詳細に複数の医療指標が例示されていることからも、策定時の詳細検討を求めていることがうかがわれます。

 

出所:「持続可能な地域医療提供体制を確保するための公立病院経営強化に関する検討会」(総務省)の公表資料より作成

ガイドラインにみる経営強化プランの特徴

公立病院が直面する様々な課題のほとんどは、医師・看護師等の不足・偏在や人口減少・少子高齢化に伴う医療需要の変化に起因するものとされ、「医療資源の最適配置」と「外部環境の変化を踏まえた役割・機能の検討」を強く求める内容となっています。
 

従来の新公立病院改革プランでは、主に経営の効率化(例:赤字解消)に向けた取組みの検討を促すものであり、焼き直しも含め、必ずしも全ての病院で真摯な検討が進められたわけではありませんでした。一方で、今回の経営強化プランは、自院の取組みを検証し、外部環境等の変化を改めて検討したうえで、自院の果たすべき役割・機能の具体化を求めています。

ガイドラインでは、「公立病院が直面する様々な課題のほとんどは、医師・看護師等の不足・偏在や人口減少・少子高齢化に伴う医療需要の変化に起因するものである」と述べられ、「医療資源の最適配置」と「外部環境の変化を踏まえた役割・機能の検討」が意識されています。

特に、「医師の働き方改革」と「医師の偏在対策」の視点から、基幹病院に対して、「中小病院等への積極的な医師・看護師等の派遣」を求めている点も特徴的です。

 

経営強化プラン策定にあたってのポイント

1.従来の改革プランは赤字減少に主眼が置かれてきましたが、経営強化プランにおいては、主に「周辺環境を踏まえた役割・機能の強化」と「経営体制と経営力の強化」に向けた検討が期待されていると考えられます。
 

当初、公立病院改革プランの策定が求められた背景には、多くの公立病院における「経営悪化」や「医師不足等による医療提供体制維持の不確実性(困難さ)」がありました。そのため、地域医療構想における将来医療需要を踏まえた必要病床数等と整合を図りながら、多くの公立病院が役割の明確化に取り組むこととなり、その結果として、再編・ネットワーク化の検討を通じ、公立・公的・民間病院を含めた再編統合や経営改善が一定程度実現してきました。

しかし、コロナ禍により、新興感染症に対応するための体制整備はもとより、患者受療動向の変容による中長期的な経営環境にも不透明感が漂うことから、経営強化プランにおいては、様々な環境変化に対応できるように経営体制を強化していくための取組みの検討が求められています。

出所:「持続可能な地域医療提供体制を確保するための公立病院経営強化に関する検討会」(総務省)の公表資料より作成

(1)役割・機能の最適化と連携の強化
「医療需要の変化」に対して、単独病院ではなく、機能分化と連携強化で対応していくことが重要です。ガイドラインでは、所定の項目(例:新設・建替等、病床利用率の低迷、医師・看護師不足)に該当する病院に対しては、特に詳細な取組みの検討を求めています。

都市部に所在する公立病院や、中山間地域に所在する公立病院など、それぞれの立地条件によって期待される役割・機能に違いがあることは明らかです。そのため、ガイドラインでは、地域医療構想を踏まえたうえで、地域包括ケアシステムの構築に向けて、どのような役割・機能を果たしていくかを詳細に検討し、記載することを求めています。特に、病院の規模や特性等に応じた役割・機能の明確化・最適化を求めています。

また、「機能分化・連携強化」の視点においては、医療資源を地域全体で最大限効率的に活用するため、基幹病院から基幹病院以外への医師・看護師等の派遣を強化することが期待されています。検討会では、「機能別病床数の見直しは一定程度進んだものの、急性期を名乗らないと医療従事者を集められないことが回復期への移行を阻んでいる可能性があること」等が議論されてきましたが、経営強化ガイドラインでは、「基幹病院に急性期を集約した結果、基幹病院での医師等の確保が進み、派遣を考慮すると関係病院全体で医師等が大幅に増加した例」に触れ、機能分化・連携強化を促しています。

 

なお、すでに機能分化・連携強化に取り組んでいる場合でも、さらなる取組みの必要性について検討することを求めています。例えば、公立病院同士だけでなく、公的・民間病院等との組み合わせや、地域医療連携推進法人制度の活用も推奨されています。加えて、以下に該当する公立病院については、特に詳細な検討を要することとされています。これらの項目は、再編統合に至る兆候として、当法人でも様々な分析に活用してきた項目ですが、ガイドラインに具体的に記載されたことで、より真剣な検討を求める総務省の姿勢が垣間見えます。

 

【地域の実情を踏まえつつ十分な検討を行い、必要な機能分化・連携強化の取組について記載することを求められる病院】

(ア) 新設・建替等を予定する公立病院

(イ) 病床利用率が特に低水準な公立病院(令和元年度まで過去3年間連続して70%未満)

(ウ) 経営強化プラン対象期間中に経常黒字化する数値目標の設定が著しく困難な公立病院

(エ) 地域医療構想や今般の新型コロナウイルス感染症対応を踏まえ、病院間の役割分担と連携強化を検討することが必要である公立病院

(オ) 医師・看護師等の不足により、必要な医療機能を維持していくことが困難な公立病院

 

(2)医師・看護師等の確保と働き方改革
医師・看護師等の不足・偏在や働き方改革への対応に向け、基幹病院には医師・看護師等を派遣する役割・機能が期待されています。加えて、若手医師確保に向けた環境整備や、タスクシフト/シェアの担い手を確保・育成することも重要な検討事項とされています。

令和6(2024)年度から時間外労働規制が開始される医師の働き方改革への適切な対応が求められています。各病院が検討する経営強化プランの取組みを実現するためにも、医師・看護師等の医療従事者確保は極めて重要な課題と認識されており、都道府県が策定する医師確保計画等を踏まえ、医師・看護師等の派遣や派遣受入、職員採用の柔軟化、執務環境の整備等に取り組むべきとされています。

中でも、基幹病院に対しては、今回拡充する地方財政措置も活用して、医師・看護師等を適切に確保した上で、医師・看護師等の不足に直面する中小病院等に積極的に医師・看護師等を派遣することにより、地域全体で協力・連携して医療提供体制を確保していく役割・機能を求めています。

関連して、医師確保の視点からは、臨床研修医、専攻医、地域枠医師等の若手医師の確保に取り組むことが重要とされ、研修プログラムの充実、指導医の確保、学会・大学(研究室)等への訪問機会の確保、多施設合同カンファレンスへの参加を可能とするICT環境の整備など、若手医師のスキルアップを図るための環境整備にも注力すべきとされています。

また、医師の働き方改革への対応においては、適切な労務管理の推進、タスクシフト/シェアの推進、ICTの活用、地域の医師会や診療所等との連携などにより、医師の時間外労働の縮減を図ることが必要であることから、そうした取組みの概要を記載することとされています。その際、医師の負担軽減のためのタスクシフト/シェアの担い手の確保という観点から、看護師、薬剤師、臨床検査技師、医療事務作業補助者等のコメディカルの確保・育成も重要な検討事項となります。

 

(3)経営形態の見直し
経営の柔軟性や医師確保の観点から、経営形態の見直しを求め、主な選択肢として地方独立行政法人が示されています。すでに経営形態の見直しを行っている場合でも、その成果を検証するとともに、更なる見直しの必要性について検討するよう求めています。

今回のガイドラインでは、地方独立行政法人(非公務員型)、地方公営企業法の全部適用、指定管理者制度、事業形態の見直し(例:診療所への転換、民間譲渡等)を選択肢としつつ、最適な事業形態の見直し検討を求めています。

検討会では、「コストカットのみを目的とした安易な経営形態変更は望ましくない」旨の発言や、「経営の柔軟性や医師確保の観点では、地方独立行政法人化にメリットがある」旨の発言がありました。そのため、ガイドラインでは、地方独立行政法人を選択した病院においては、人事面・財務面での自律性が向上し、医師・看護師等の確保に効果を上げていることも示され、総務省として地方独立行政法人化を主要な選択肢として想定していることが見受けられます。なお、現状の経営形態で比較的多いと思われる全部適用の選択肢については、「全部適用を選択した場合でも、所期の効果が達成されない場合には、地方独立行政法人化など、更なる経営形態の見直しに向け直ちに取り組むことが適当」と述べられています。

指定管理者制度の導入については、日本赤十字社や大学法人等の民間法人を指定管理者として指定することで、民間的経営手法の導入効果が見込まれることが記載されています。

(4)新興感染症の感染拡大時等に備えた平時からの取組
コロナ禍において、公立病院の果たす役割が再認識されたこともあり、平時から各病院の機能を確認し、緊急時に円滑な連携体制がとれるように検討していくことを求めています。

ガイドラインでは、「感染拡大時に活用しやすい病床や転用しやすいスペース等の整備、感染拡大時における各医療機関の間での連携・役割分担の明確化、感染拡大時を想定した専門人材の確保・育成、感染防護具等の備蓄、院内感染対策の徹底、クラスター発生時の対応方針の共有等を行っておく必要がある」と例示されています。平時から新興感染症等の対策を立てておくことは、災害時への備えにもなるため重要と考えられます。

(5)施設・設備の最適化
策定病院の役割・機能を果たすため、必要な施設・設備の検討を求めていますが、長期的な投資額の抑制等を考慮し、適正規模などを十分検討するよう求めています。また、医療の質の向上、医療情報の連携、働き方改革の推進と病院経営の効率化を推進するため、デジタル化対応への検討を求めています。

外部環境(医療需要)の変化を考慮し、長期的な視点で施設・設備に係る投資を検討することにより、財政負担を軽減・平準化するとともに、投資と財源の均衡を図ることが重要です。そのため、経営強化プランの計画期間内における施設・設備に係る主な投資について、長寿命化・平準化や当該病院の果たすべき役割・機能の観点から、必要性や適正な規模等について十分に検討を行う必要があることが示されています。

また、ICTの活用やデジタル化により、働き方改革や病院経営の効率化を推進するとともに、利用者・患者の利便性向上にも配慮したデジタル化の検討が必要とされています。特に、近年、病院がサイバー攻撃の標的とされた事例も踏まえ、当該地方公共団体の情報政策担当部局と連携しながら、情報セキュリティ対策を徹底していくことも求められています。

(6)経営の効率化等
これまでと同様に、「経営指標に係る数値目標の設定」や目標達成に向けた具体的な取組みの検討が求められています。策定病院においては、経営強化プランの実効性確保のため、「マネジメントや事務局体制の強化」に加え、外部アドバイザーの積極活用が推奨されています。

自院の経営課題を十分に分析し、経常収支比率や修正医業収支比率に係る目標を設定のうえ、その実現に向けて必要な数値目標を設定することが求められています。数値目標として、収支改善、収入確保、経費削減、経営安定性に係る指標が多岐にわたり例示されており、自院の課題解決手段としてふさわしい数値目標の詳細な検討が求められています。なお、ガイドラインでは、医師・看護師などを積極的に確保することで経営改善につながったケースが例示されていることから、単なる人件費・経費の抑制・削減による経営改善ではなく、当該病院の役割・機能に的確に対応することの重要性が示されています。

また、これらの目標達成に向けた取組みを進めるため、経営感覚に富む人材の登用・育成などの重要性について触れられています。さらに、経営人材の確保・育成に加え、コンサル等の外部アドバイザーを活用することの有効性にも触れられています。

 

経営強化プラン策定にあたってのポイント

2.都道府県の役割・責任の強化にも言及されています。具体的には、地域医療構想や医師確保計画を踏まえ、都道府県から策定病院への積極的な助言を求めています。

都道府県は、持続可能な地域医療提供体制を確保していく上で、大きな役割・責任を有していることから、経営強化プランの策定にも積極的に関与・助言することが求められています。特に、管内病院の新設・建替え等に際しては、持続可能な地域医療提供体制の確保の観点から、当該公立病院の役割・機能、必要な機能分化・連携強化の取組、適切な規模、医師・看護師等の確保方策、収支見通し等について、地域医療構想等との整合性を含めて十分に検討し、積極的に助言すべきとされています。具体的には、策定過程における関係者間の調整支援や、策定された経営強化プランのチェック等が期待されていると考えられます。

まとめ

経営強化プランの検討会の趣旨・目的において、「感染症への対応の視点も含めた持続可能な地域医療提供体制の確保に向けた取組を進めるための方策を検討する」と述べられており、そのうえで、「持続可能な地域医療提供体制を確保するための公立病院経営強化に関する検討会」と位置付けられていることから、検討開始当初から、新興感染症対策に加えて、公立病院経営の効率化・改善への取組みを重視していることがうかがわれていました。

特に、経営強化の観点では、従来以上に多様な経営指標の検討と目標設定が求められています。加えて、働き方改革が医師確保に与える影響が注目される中、医療提供体制と経営強化の両面から、人材確保・育成策についての検討が求められており、各公立病院の担当部署においては、外部アドバイザー等を活用しながら、幅広い視点からの情報収集と検討が求められます。

 

有限責任監査法人トーマツでは、新公立病院改革プラン策定支援や様々な「あり方検討支援」、「経営改善支援」、「独法化支援」等の実績に加えて、「働き方改革への適応支援」の実績を有しています。これらの知見を活かし、公立病院の経営強化プラン策定をご支援しておりますので、お困りのことがあれば、ぜひお問い合わせください。

執筆

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部  ヘルスケア 

※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2022/4

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