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人口減少に直面する不採算地区病院の今後の在り方
地域で唯一の救急・入院機能を担いながら経営難に直面する不採算地区の公立病院
不採算地区にある公立病院の多くは、地域で唯一の救急・入院機能を担う地域住民にとっての重要なインフラでありますが、現在多くの課題に直面しており、今後の役割やあり方を病院単体ではなく地域全体で考えていく必要があります。
不採算地区にある公立病院の近年の状況
地方には、採算面から民間医療機関による診療が期待できない医療過疎地域に設置され、診療を行っている公立病院が多くあります。中山間地域や離島など、一般病院までの移動距離が15キロメートル以上離れ、病床数が150床未満の「不採算地区病院*」の割合は、全公立病院のおよそ4割を占めています。経営主体別にみると、政令指定都市では1割であるところ、市では3割になり、町村に至っては9割をも占めています。
図表1 全国の公立病院の経営主体および規模別病院数
図表2では近年の公立病院の経営主体別の医業収支比率の推移を表していますが、町村立病院の医業収支比率が、他の経営主体の病院と比較して著しく悪化していることが分かります。また、医業収益に占める他会計からの負担金の割合も大きく増加しており、自治体の財政に影響を与えていることが想定されます。人口減少とともに自治体の税収が減少し一般会計自体が厳しくなってきているなかで、公立病院を支えていくための体力が限界を迎えている自治体もあるものと考えられます。
地域の人口減少に伴い患者数が減少しているのに対して、診療報酬の体系上、看護師等の職員の配置がほぼ固定的であるため費用が横ばいで推移し、収支が悪化しているものと考えられます。
図表2 公立病院の経営主体別医業収支比率推移
図表3 医業収益に占める他会計負担金額割合の推移
これらの病院の多くは、地域で唯一の入院機能を持つ医療機関として、一次救急や休日時間外にも対応するなど、限られた医療資源および提供体制で、地域住民のための幅広い医療サービスを提供しています。加えて、救急病院として24時間地域住民の命を救う役割を担っている病院もありますが、こうした病院の多くが莫大な赤字を抱え、存続の危機を迎えているのです。
こうしたなか、厚生労働省は今年9月に公立病院と日本赤十字社などが運営する公的病院の4分の1にあたる全国424の病院について「再編統合について特に議論が必要」とする分析をまとめ、病院名を公表しました。病床数や診療機能の縮小なども含む再編を地域で検討し、来年9月までに対応策を決めるよう求めています。不採算地区で診療密度の高い医療を提供することは困難であり、再編の検討対象の要件に該当する病院は少なくないものと考えられます。
不採算地区の公立病院が直面している課題
人口が急激に減少していく不採算地域において、地域で唯一の救急や入院機能を持つ病院として運営を維持していくためには、数多くの課題が山積しています。
1.患者数の減少
人口減少地域においては、当然のことながら患者数も減少しています。特に既に高齢化が非常に高い地域においては、高齢者の割合が増加することによる患者の増加は見込めず減少の一途をたどる場合も多くあります。国土交通省によると、2045年には全国の4分の1の市町村で、総人口が5,000人未満となり、約4分の3の市町村で2015年に比べて総人口が2割以上減少することが予測されています。
図表4 2045年までの市町村人口減少の予測
しかしながら、診療報酬は医療資源の少ない地域への配慮は十分とはいえず、人口減少による患者の減少で、病院の収益は減少する一途をたどっています。
2.医師確保
人口減少地域にとって医師不足の問題は古くて新しい問題です。医師が全体的に不足していると認識している公立病院は、不採算地区で53%と、不採算地区以外の病院の38%を16ポイントも上回っています。
図表5 不採算地区病院の医師不足の状況
医師の地域偏在問題による医師不足にとどまらず、人口減少が進む中山間地域等においては、医師自身の家族(子弟)の教育の問題や専門医志向など、医師を確保できない理由を挙げればキリがありません。
こうした中で、新たに医師の働き方改革がスタートしており、医療現場は法令順守のために、更なる医師の確保が必要となり頭を抱えています。
3.移動手段の確保
近年の高齢ドライバーの問題等から高齢者が自動車免許を返納するケースも増えてきており、今後は患者の高齢化とともに通院のための車の運転も困難となります。重要な代替移動手段として公共交通が期待されますが、多くの中山間地域では病院と同様に公共交通の維持も困難になっている地域が多くあります。
例えば医療機関の診察予約とオンデマンド交通予約の連携サービスなど、ICTを活用した新たな患者アクセスを検討していく必要があります。
図表6 診察予約とオンデマンド交通予約の連携サービスイメージ図
4.施設の老朽化
多くの病院が1960年~1980年代に新設されており、現在は老朽化が進み、診療を継続するための建替えもしくは大規模改修の時期を迎えています。都心部においては公立病院の建て替えの波も一巡した感がありますが、人口減少地域においては、未だ建て替えていない病院も多く残されており、年度の赤字が膨らむなかで、さらなる病院建て替え費用が発生する現実を抱えています。
上記のように人口減少地域における公立病院を取り巻く環境は非常に厳しい状況にあります。基本的な経営改善に加えて、仮に規模の縮小や無床化などによって収支を一時的に改善できたとしても、持続的に医療提供体制を継続することは極めて難しい状況にあると考えられます。
恐らく、数年後に病院の在り方検討委員会を立ち上げて、再び同じ議論を繰り返し、解決できない課題と向き合うことになりかねません。
人口減少地域の病院の今後の在り方検討に必要な観点
こうした多くの課題に直面している不採算地区の公立病院について、病院単体で改善の可能性を検討することも必要ですが、地域における医療供給体制を将来に亘って持続可能な体制にするためには、加えて2つの観点で考えることが重要です。
1.地域において経営状況が悪化しているのは当該公立病院だけか?
忘れがちな視点ですが、一般に目に触れにくい民間病院の経営状況・医師確保の状況がどうなっているのか、すなわち、公立病院以上に地域において重要な存在である民間病院が潰れるような状況ではないかを確認する必要があります。
公立病院だからこそ、経営悪化や医師不足が表面化しますが、民間病院は状況が悪化しても特に表に出ることなく突然廃業することも考えられます。これは、後継者のいない医療機関も同じようなことが言えます。また、残業規制が強化される医師の働き方改革についても、これまでの働き方を続けていると2024年以降は罰則の対象となるケースも出てくることが予測され、診療体制に大きく影響してきます。
目的は、公立病院を改善することではなく、地域の医療を維持することであるということを改めて認識する必要があり、そのためには地域全体で何を優先的に支えるのか、少し視野を広くして検討する必要があります。
2.住民にもやれることはないのか?
地域医療を守るためには、一方的に供給側のみで取り組みをしても不十分であり、需要者である住民の理解・協力なくしては改善しません。
厚生労働省は、「上手な医療のかかり方を広めるための懇談会」を開催し、「医療を守る国民プロジェクト宣言」が取りまとめられました。不要不急の夜間受診や軽症での受診は、患者にとっても医師にとってもマイナスになることもあり、患者となり得る住民一人一人があらためて行動を考える必要があります。
以上のように、人口減少地域における公立病院は非常に厳しい環境にありますが、対象となる公立病院単体での改善に固執せず、視野を広げて検討することで改善の光明が差す可能性が大いにあります。 地域医療の維持のために力を尽くしていらっしゃる先生方の声を直接住民が聞き、現在の医療を取り巻く環境を理解するとともに一緒に変革に取り組むなど、自治体における検討方法も変えていく必要があると考えます。
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