最新動向/市場予測

未来介護

2040年における介護経営のあり方

日本の介護市場は、高齢者人口の増加に伴った市場の成長が見込まれる反面、介護給付費の増加や介護人材の不足といった、大きな課題を抱えています。そのため、2040年以降においても、現状の介護制度や介護事業経営が持続できている保障は無いと考えられます。そのような厳しい経営環境下において、デロイト トーマツ ヘルスケアは、介護サービス事業者が目指すべき介護経営のあり方を「未来介護」と提唱して解説します。

1. 介護業界を取り巻く環境

  •  日本の総人口は減少の一途を辿るが、高齢者(65歳以上)人口は、2020年から高齢者人口のピークとされる2040年頃までに約300万人が増えると見込まれている。高齢者人口の増加は介護需要をもたらすため、介護業界の明るい側面として、2040年頃までは堅調な市場の成長が期待される。
  •  一方、介護業界の暗い側面として、介護保険サービスの需要増加に伴う「介護給付費の増加」と「介護人材の不足」が大きな課題として挙げられる。介護給付費は2025年から2040年にかけて約10兆円の増加、介護業界を担う介護事業の就労者数は2035年に約68万人(経済産業省による推計)が不足すると見込まれている。
  • 上記課題がさらに深刻化すると、日本の介護制度自体の存続が危ぶまれることになる。

 

日本の人口動態と高齢化

出所:内閣府「令和2年版高齢社会白書」

介護業界が抱える課題

出所:厚生労働省「2040年を見据えた社会保障の将来見通し(議論の素材) -概要-(内閣官房・内閣府・財務省・厚生労働省平成30年5月21日)」、 経済産業省「将来の介護需給に対する高齢者ケアシステムに関する研究会報告書(2018年4月9日)」

2. 未来介護とは

  •  これからの介護業界における厳しい経営環境において、デロイトトーマツヘルスケアは、2040年以降も事業継続を可能とする介護経営のあり方として、未来介護を提唱する。
  •  未来介護のコンセプトは、エビデンスに基づいた介護ケアを実践する「科学的アプローチ」、地域包括ケアシステム(自助・互助・共助・公助)を基盤とした高齢者の自立支援を推進する「社会的アプローチ」を組み合わせた、未来における介護の姿である。
  •  未来介護は介護業界の様々なステークホルダーにメリットが期待されている。介護サービスの利用者に対しては、健康寿命を延伸させつつ生活の質を向上させること。介護サービス事業者に対しては、介護の質を向上させつつ業務の効率化を図ること。行政(国・地方自治体)に対しては、日本全体の介護提供体制を整備しつつ介護給付費を適正化することである。
  •  未来介護は、ロボットやAI等の最新のテクノロジーを介護現場に実装させることで、高齢者が自宅中心の生活を維持できる地域包括ケアシステムを実現化するための手段になることが期待される。

 

未来介護のコンセプト

3. 古典介護~近代介護~未来介護、介護経営レベルの3ステージ

  •  介護サービス事業者は介護経営レベルに3段階のステージがあると考えられる。ステージ1とは人とアナログが中心の古典介護、ステージ2とは人を機械(ロボット・AI等)が支援する近代介護、ステージ3とは、人と機械が融合(最適な役割分担)かつデジタルがプラットフォームになる未来介護である。
  •  日本には約21万の介護サービス事業者が許認可されているが、その大半は古典介護の状態と考えられる。古典介護から一足飛びで未来介護に移行することは現実的に不可能であり、中間段階となる近代介護の時期を経由する必要があると考えられる。古典介護の状態にある介護サービス事業者が未来介護を目指すためには、いち早く近代介護に移行し、近代介護から未来介護に脱皮するための経営努力が求められる。
  •  古典介護から近代介護の状態、近代介護から未来介護の状態において、それぞれの経営課題が異なるため、まずは自組織の介護経営レベルを客観的に把握することが重要である。

 

介護経営の3ステージ

4. 未来介護に向けたアプローチ

  •  自組織の介護経営レベルを客観的に把握するために、デロイトトーマツヘルスケアは、介護経営チェックリストを用いたスコア化を推奨している。自組織が近代介護の水準に達していなければ、まずは基本的な経営基盤の強化が必要であり、近代介護の水準に達していれば、未来介護を実装するためのプロセスに着手することが可能と考えられる。
  •  未来介護を実装するための準備フェーズとして、介護経営指標ごとに具体的なコンセプト(未来介護として目指すべき姿)と目標値の設定を行い、それらを達成するために最適なツール(例:新テクノロジーを活用した商品・サービス等)の選定や組み合わせを検討する。次の実装フェーズにおいては、未来介護を経営・現場に実装させるための詳細な行動計画を作成し、PDCAサイクルを回した徹底的な実行が求められる。

 

介護経営度チェックリスト

未来介護を実装するためのプロセス

5. 行政による未来介護の環境整備

  •  未来介護を推進する社会を創るためには、行政(国・地方自治体)による制度設計・法整備といった、介護サービス事業者のための環境整備が必要不可欠である。
  •  介護サービス事業者における介護経営のステージによって、主たる業界的課題は異なる。古典介護から近代介護においては、現状の介護報酬改定や介護保険法等の改正で検討されてるテーマが中心であるが、近代介護から未来介護においては、蓄積された介護データをいかに利活用するか、DX化への対応等が課題になると予想される。
  •  デロイトトーマツヘルスケアは、社会全体で未来介護を推進するために、行政や介護サービス事業者にとって有益な情報を今後も継続的に発信する予定である。

 

未来介護における行政の役割

執筆

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部  ヘルスケア 

※上記の部署・内容は掲載時点のものとなります。2021/2

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