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 公立・公的病院の再編統合について

病院の再編・統合における検討ポイントについて考察します

厚生労働省は2019年9月26日に「地域医療構想に関するワーキンググループ」の第24回会議で、高度急性期もしくは急性期の病床を持つ公立・公的医療機関のうち、424の医療機関に対して、再編統合など、2025年の地域医療構想を踏まえた具体的対応方針の再検証を要請しました。

再編統合が与えるイメージについて

厚生労働省が2019年10月から全国各地で、公的・公立病院の再編統合に関する外部公表の趣旨等について、意見交換会を実施しています。報道発表等によれば、各地域では今回の発表について必ずしも好意的に捉われているわけではありませんが、それはなぜでしょうか。
これは再編統合自体が簡単に実施できるものではなく、失敗するリスクが低くないことや、医療費の削減のための病院を廃止したり、病床を削減したりといった地域医療が後退するような負のイメージが先行していること等が要因だと考えられます。 

ここで、再編統合の目的とメリット・デメリットを整理しつつ、再編統合の有用な効果を享受するために検討すべきことについて考察したいと思います。
 
まず再編統合の目的は、経営のグローバル化や高度化等の急激な環境変化に対応するために、経営資源の選択と集中を行い、効率性を高めて経営を強化することになります。再編統合の主なメリットは、同じ組織になることにより、連携がより強化されたり、組織で働く職員間で協働の意識が醸成されることによる組織の強化等により、病院の機能自体が強化されることが挙げられます。事務部門等においては、業務統合や事務系のシステム統合により、業務効率化や間接費の削減効果も期待できます。一方で再編統合のデメリットは、業務統合等におけるルールの統一化の手間がかかり、負担が増えることや、異なる組織と統合する事に対する職員の不安やストレスによるモチベーションの低下等の可能性等が挙げられます。再編統合後の職員間の不公平感をなくすために、諸手当の創設等をした結果、病院の人件費率が上昇したり、事前に想定していなかった医療訴訟等への対応等が必要になる可能性もデメリットと言えます。

そのため、公的病院の再編統合を検討するにあたり、『経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報等)の選択と集中により、地域の医療強化につながるのか』慎重に検討することが重要です。ここでメリットを十分に享受するために、事前に準備が必要な事項について整理したいと思います。

 

具体的な検討ポイント(医療提供機能・財務)

再編統合のメリットを享受し、デメリットを回避するために事前に検討すべき事項を具体的に考察したいと思います。

(1)  医療提供機能における検討ポイント
地域によって病院が置かれている状況が異なるため、再編・統合が成功するためには、定量面及び定性面から検討を進めることが必要です。診療内容や医師等の医療職の人員数、DPCデータ等の内部データに加え、地域の人口動態等による将来の患者動向の推計等の外部データを合わせることにより、病院の置かれている状況を客観的に見ることは重要です。ただし、再編統合が成功するためには、関係者が信頼し、医療機能の強化に向けて協働することが必要であるため、各病院の責任者等で意見交換を進め、再編統合に向けたボトルネックの有無や、課題解決の実現可能性について中立的に検討することが重要になります。

(2) 財務における検討ポイント
日本の医療機関は、複数の組織形態が認められていることが特徴です。例えば、国立病院は独立行政法人を採用し、自治体病院は地方独立行政法人や公営企業等を採用しています。その他、社会福祉法人、公益法人等、別の法人形態を採用している病院もあります。法人形態ごとに定められている会計基準が異なっていたり、病院ごとで採用している会計のルールが違うため、単純比較すると誤まった意思決定をする可能性があります。

例えば、多額の未計上債務や資産の評価誤りについては、再編・統合の前にボトルネックとして整理して、関係者間で情報共有をすることが重要です。数値的に可視化した上で、再編・統合の検討を進める必要があります。

 

具体的な検討ポイント(人事・情報システム)

(3) 人事・給与・労務の検討ポイント
再編・統合を行う病院間で、人事制度・給与制度・労務制度の事前整理と方向性検討をすることは重要です。職員の給与表や諸手当の内容・金額等の違いだけではなく、同一の役職者の再編・統合後の取扱や、人材育成やキャリア設計の方針の違い、有給の取得方法や日々の勤怠管理、超過勤務の管理方法等、人事・給与・労務制度の違いは多岐にわたることが予想されます。職員間の不公平感や労務管理方法の変更等による戸惑い等により、再編・統合後の病院運営にマイナスの影響を与えないように事前に検討しておくことは重要です。また再編・統合後の人事・給与・労務制度の新しい方向性が、病院の将来収支にどのような影響を与えるのか、シミュレーション等を検討しておくことも必要です。
こういった検討を関係者間で事前にしておくことで、人材交流や共同の教育研修実施等のプラスの効果も期待できると思います。

(4) 情報システム・設備等の検討のポイント
再編・統合前に病院間で情報システムや設備の重複等を調査して、システム統合や設備の一部廃止等をすることも重要な検討ポイントです。電子カルテ等の医療情報システムについては、各部門の情報システムと複雑に連携していることも多いため、システム統合等は簡単にはできません。ただし、事務部門で利用している財務会計システムや人事給与システム等の事務系システムについては、医療情報システムに比べると、システム統合の弊害が少ないため、業務効率化や保守費用等の削減等の観点から、事務系システムの最適化の検討をすることが有用です。

最後に

公的・公立病院の再編・統合については、地域の実情も踏まえて決定される必要があります。ただし、将来的な人口減少は確実であり、患者だけではなく、病院の労働力不足は今以上に深刻になることが予想されます。

10年後、20年後の生き残りをかけた重要事項に対して、本考察が参考になれば幸いです。

 

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