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2022年度診療報酬改定が病院経営に与える影響
今回改定は急性期医療機関に対しどのような経営戦略変更を促すことになるか
コロナ禍での改定となった2022年度診療報酬改定は、病院経営にどのような影響を与えるのか、改定内容から示唆されるメッセージを読み解き、病院経営者がどのように対応していくべきかを急性期医療を中心に説明します。
厳しい改定となった2022年度診療報酬改定
近年の診療報酬改定の薬価等を除いた医科本体改定部分の推移を見ると、年々改定率が低下しています。2022年度の改定率はこの10年間で過去最低の+0.26%となりました。
さらに、この改定率+0.26%の中には、コロナ禍で始まった看護処遇改善等処遇改善事業を引き継ぐ形で始まる「看護職員処遇改善評価料(2022年10月~)」の+0.20%や、不妊治療の保険適用のための対応+0.20%が含まれていることを考慮すると、今回改定が極めて厳しいものであったと考えることができます。
一方、この厳しい改定の中にあっても「急性期充実体制加算」が新設されるなど、急性期医療に対する評価は手厚くなりました。つまり、今回の診療報酬改定は、充実すべき医療機能について手厚く評価し、その原資については別の機能の診療報酬適正化によって補う、いわば「再配分」が行われた改定と見ることができるでしょう。また、地域包括ケアシステムの構築に向け、より強い政策誘導のメッセージ性を感じられる改定であるとも言えそうです。
本記事では、急性期医療に係る改定内容を中心に解説するとともに、この改定が地域医療提供体制に及ぼす影響について考察します。
急性期医療への重点配分と、基準厳格化の推進
2022年度改定では、高度急性期医療の提供を評価する「急性期充実体制加算」が新設されました。この基準は、全身麻酔手術件数が年間2,000件以上、緊急手術年間350件以上といった実績要件を主とした施設基準であり、既存の急性期医療体制を評価する「総合入院体制加算」のいわば上位基準と見ることができます。
この急性期充実体制加算を出来高点数で見てみると、総合入院体制加算1が入院1日につき240点の加算であるのに対し、入院1日につき最大460点という点数設定となっています(入院日数によって加算点数は変化)。
乱暴な計算になりますが、仮に入院症例年間10,000例、総合入院体制加算1届出の病院で出来高計算をしてみると、10,000例×7日間×(460点-240点)≒1.5億円といった増収効果を期待することができます。この診療報酬の施設基準要件が設備投資や職員採用を前提とするものではなく、多くの患者受入れによるものであるという面を考慮すると、大規模急性期病院の経営において大きな意味合いを持つことがわかるでしょう。
厚生労働省 令和4年度診療報酬改定の概要 (令和4年3月4日)
なお、この診療報酬はDPC対象病院における機能評価係数Ⅰでの評価ではなく、入院日数に応じた点数で出来高算定されます。つまり、回転率が高く、平均在院日数の短い病院ほど当該加算による収益改善効果が高まることになります。
この効果を高めるためには、上述の平均在院日数の短縮に加え、そのための在宅復帰困難な患者の転院先となる後方病院の確保も重要となります。また、稼働率維持のために、これまで以上の入院症例確保が必要となることも想定されます。
こうした急性期機能の評価がある一方で、今回改定では、医療、重症度・看護必要度における「心電図モニターの装着の有無」が評価項目から外れました。そのほか「輸血や血液製剤の管理」「点滴ライン同時3本以上の管理」といった評価項目に変更が行われています。厚生労働省のシミュレーションでは、今回の看護必要度の変更により、急性期一般入院料1を届け出ている200床以上医療機関のうち、おおよそ1割が改定後基準を満たせなくなるとされています。
中央社会保険医療協議会 総会(第509回)2022年1月12日「入院(その9)について」
こうした急性期医療への充実した評価と一方での厳格化は、地域の急性期医療の集約化・寡占化を促していく効果があると推察されます。
診療報酬の獲得にあたって、連携が重要なカギとなった
近年の診療報酬改定で大きなポイントとなっているのが、医療機関間の連携です。
入院から在宅まで切れ目のない医療を提供するための取組みとして、医療機関の機能・規模ごとに、提供する医療内容に見合った診療報酬評価へと見直しがされる一方で、その機能分化した医療機関間の連携を評価する診療報酬が新設されるようになりました。この連携に関する診療報酬は、年々評価が高まりつつあるほか、様々な診療報酬の要件に追加されています。
今回の改定で特に注目したい項目として、「感染対策向上加算」が挙げられます。新型コロナウイルス感染症の流行を受け、既存の感染防止対策加算が名称変更されて大幅点数増となったものです。
当該加算では、個々の医療機関の感染防止対策の取組みだけではなく、地域の医療機関間での連携による感染対策を重視する要件へと見直しがされました。特に感染対策向上加算1においては、新型コロナウイルス感染症重点医療機関であることや自治体HPでの受け入体制公表など地域における役割が評価されるとともに、平時から保健所、地域の医師会との連携や連携医療機関との合同カンファレンス・指導助言を行うなど、地域における感染対策への貢献が求められています。
こうした行政との連携も求められるようになったことは、感染症対策をはじめとする急性期医療機能の公的意味合いが一層強くなっていることの表れであるとも考えられます。
厚生労働省 令和4年度診療報酬改定の概要 (令和4年3月4日)
もう一つの注目項目として、診療録管理体制加算において、医療機関間等の情報共有及び連携を推進する観点から電子カルテの標準規格導入に係る取組情報を報告することが要件化されました。今後の改定では、標準規格の導入や情報共有の実施について新たな評価が新設される可能性が示唆されます。前段で示した大規模急性期医療機関においても、患者紹介/逆紹介や退院支援といった連携活動の推進と併せ、検討を進めていきたいポイントであると考えられます。
診療報酬改定の注目ポイント
急性期医療を中心に解説いたしましたが、診療報酬上で症例数等の実績が評価される傾向にあることは注目に値します。逆に見れば、こうした症例数が確保できない中小規模の医療機関では、今後、急性期医療の維持に課題が生じると考えられます。特に人口減少が進む地方においては、地域で複数の医療機関が急性期の施設基準を維持していくことが難しくなるでしょう。
その場合、急性期機能の集約化、及び急性期機能を支えていく周辺医療機関の機能転換といった地域医療全体の再デザインが求められると考えられます。
近年の診療報酬制度は、グループ経営や地域連携推進法人といった事業体に有利な制度設計に変わりつつあり、医療機関に対し、経営の多様化と効率化の両面を促す傾向があります。特に大規模急性期医療機関には、充実した評価がされる一方、単独でかかりつけ患者から救急・周術期、その後の通院まで一手に引き受ける垂直統合的な医療提供体制が制度上不可能となってきており、これまで以上に近隣医療機関との機能分化と連携が求められています。
このような地域の主たる急性期医療機関の経営戦略は、今後、地域医療提供体制を全体最適化の方向へ変えていく契機となることが考えられます。
執筆
有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部 ヘルスケア
※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2022/9
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