最新動向/市場予測

バーチャルヘルスの加速化とバランス

米国で見られる新たなケアデリバリーモデルの例

パンデミック前後に米国のデロイト・ソリューションセンターが600人以上の医師を対象に実施した調査によると、パンデミックがバーチャルヘルスを明らかに加速させた。一方で、2021年の調査でヘルスケア業界のリーダーは、バーチャルヘルスの普及レベルは、パンデミック中に到達した水準がピークに近いと回答しており、対面によるヘルスケアとバーチャルヘルスがバランスしていくと考えられる。

米国で見られたCOVID-19によるバーチャルヘルスの加速化

バーチャルヘルスとは

ここでのバーチャルヘルスとは、デジタルおよび通信技術を介した継続的なケアと定義している。

これには、電話またはビデオ通話によるバーチャルビジット、リモートモニタリング、非同期型遠隔診療、および遠隔コンサルトや遠隔セカンドオピニオンなどの臨床医またはヘルスケアプロバイダーと呼ばれる医療提供者へのソリューションが含まれる。日本で認識されている遠隔診療より広範囲の定義としている。

対面からバーチャルヘルスへ向かう戦略

2020年3月中旬には、多くの医療機関が不要不急の医療サービス等を停止し、多くの患者の足が医療機関から遠のくこととなった。 インタビュー調査に答えた大手医療機関の経営者や医師資格を有する幹部ら、調査対象の半数(52%)が、パンデミックの最初の数か月間の経験によって、今後の医療関係機関のバーチャルヘルス戦略を変更することになったと回答している。

また、24%が一定程度はバーチャルヘルス戦略の変更に影響したと回答している。COVID-19により2021年のバーチャルヘルス戦略を変更するに至った要因は大きく、①患者、利用者からの需要、②医業経営の収支及び競争優位性の維持、③医療請求制度と規制対応であるという。


図1 医師が活用しているバーチャルヘルスのアプローチ(2018年と2020年)

介護経営の視点を踏まえた今後の展望

令和3年度の介護報酬改定の目玉として導入されたLIFEについては、診療報酬とのダブル改定となる次期改定において、更なる拡充が予測されています。現在、厚生労働省では、介護報酬改定の効果検証及び調査研究を行う「介護報酬改定検証・研究委員会」を立ち上げ、LIFEの活用促進に資する実態調査や、今回のLIFE関連加算の対象外であった訪問介護や居宅介護支援への展開を踏まえた調査検証が、重点的に行われる予定となっています。
このように重点施策としてLIFEが普及されていく背景には、高齢化の進展に伴う介護給付費の増大が大きく影響しています。社会保障制度の持続可能性を確保することは、我が国において待ったなしの課題であり、介護分野においては、LIFEを用いて介護サービスの成果を可視化することで、ストラクチャーやプロセスに偏重していた介護報酬上の評価体系を、将来的にはアウトカム(成功報酬型)に切り替えて、介護給付費の適正化を図っていきたいという政策の意図を読み取ることができます。
アウトカムの指標としてLIFEを用いて推進していく方針が明確に打ち出されている以上、LIFEが今後も強化されることは容易に想像することができますし、介護サービス事業所においてLIFEに対応することは、「やりたい、やりたくない」「できる、できない」の問題ではなく、「やらなければいけない」ものであるということが分かります。仮にLIFEに対応することができなければ、中長期的に事業収益は目減りしていくことが想定されますし、結果として、事業経営も大変厳しい状況に陥ってしまうのではないでしょうか。(図④)

図2 Covid-19が契機となり2021年のバーチャルヘルス戦略を変更するか

 

世界的には、対面でのヘルスケアはバーチャルヘルスへ一気に代替していくのであろうか。米国での調査では、大手医療機関等の経営者や幹部医師が、遠隔診療・相談の最適な普及割合のレベルはパンデミック中に到達した水準がピークに近いと回答している。つまり、対面への揺り戻しがあり、今後は対面でのヘルスケアとバーチャルヘルスがバランスしていくと考えられる。

 

新たなケアデリバリーモデル1 メンタルヘルス領域の非同期型遠隔診療

バーチャルヘルスは医療者の働き方、患者・利用者の医療・健康サービスの受け方であるケアデリバリーモデルを革新する可能性がある。

メンタルヘルス領域の相談件数急増に応需する手段

COVID-19パンデミック下では、カリフォルニア州の大学病院でメンタルヘルスの相談件数が年間約3,000件から15,000件に急増した事例が報告されている。

これに伴い、勤務医のバーンアウト率が増加し、応需の手段として“Asynchronous telemedicine”(非同期型遠隔医療)と呼ばれる手法の積極活用が進んだという。

例えば、患者は、問診をはじめ精神科医が予め準備した質問に回答して、そのデータ等を担当医の用意した電子的なIN-BOXに提出しておく。医師側は、臨機応変に回答をレビューした上で、本人とのビデオ診療に臨むことができ効率的である。患者家族が録画した画像を医師が視聴する方式もある。

なお、労働負荷軽減のため、一人の医師でなくチームでひとつのIN-BOXを担当する方法もある。

非同期型遠隔診療のメリット

非同期型遠隔診療において、医師側には、①労働負荷の軽減、②自律的な働き方の選択余地、③より意味のある患者との関係性づくり、一方、患者側には、①ペイシェントエクスペリエンスの向上、②移動時間やコストの削減、③自分の病状をありのままに伝える手段、といったメリットがあると報告されている。

なお、米国内であっても一部の州ではこの非同期型遠隔診療というケアデリバリーモデルは公的保険の償還対象として認められていない。

 

図3 非同期型遠隔診療

新たなケアデリバリーモデル2 新生児専門医と地方の小児科医の連携モデル

大学病院に相当する高度急性期病院と地方の小病院がバーチャルテクノロジーを活用して連携する「ハブアンドスポークモデル」が小児科領域でも存在する。

新生児の呼吸蘇生を遠隔コンサルテーション

高度急性期病院の新生児遠隔診療部門の専門医が、人口7,000人規模の地域に立地する分娩数が年間150件程度の病院で、出生時に呼吸蘇生を必要とする場合にエキスパートコンサルテーションを行っている。

以前は電話相談を行っていたものをビデオ会議システムを利用している。

専門医が、ビデオを介して新生児のリアルタイム画像を見ながら、現地の小児科医や看護師をはじめ医療スタッフに画像診断のオーダー等を行い、診断のアドバイスも行う。専門医は、直接新生児の家族とも会話する。のちに、専門医の医療機関へ患者搬送するケースもあるものの、遠隔で現場医療スタッフと一体で初期対応することがより良いアウトカムにつながるという。バーチャルヘルスは対面と比較して触診できないなど一定のリスクがあると言われてきた中、時間を争う局面では活用しないことがリスクという意見もある。

専門領域の小児科医不足

米国南部の州では小児科専門医が州都に一局集中しており、州内の人口少数地域では、エキスパートコンサルテーションへの高いニーズが恒常化している。

州都以外の地域では、各専門領域の小児科医が不足しており、患者は対面診療のために長距離ドライブを強いられるなど、子供を持つ親にとって通院は経済的時間的負担が大きいという従来からの要因があった。

パンデミック下では感染リスク回避ができる遠隔診療が有用との声が強い。

 

図4 新生児救急における新生児専門医と地方の小児科医の連携モデル

新たなケアデリバリーモデル3 COVID-19感染者急増時のTele-ICU活用モデル

フロリダ州では、COVID-19感染者急増の事態が2020年4月前後と2020年7月以降の2回発生、同州内の2つの病院でICUの稼働が過去にないレベルまで上昇し、集中治療専門医の深刻な不足に直面した。

州境を超えたTele-ICU診療

Tele-ICUの仕組みを活用して、フロリダ州の数か月前に同様のピークを経験したニュージャージ州の集中治療専門医がフロリダ州の重症患者治療を主に日勤帯に遠隔から支援し、現地の医師たちの労働負荷を軽減した。パンデミック下において、このケースに類似する複数のTele-ICU活用事例が報告されている。なお、死亡率、ICU滞在日数等のアウトカムは、オンサイトとTele-ICUでは扱う患者の重症度割合に左右されるため単純比較が難しい。

規制緩和や既存の職域を超えた診療

米国では医師免許が州ごとであるため、国家緊急事態下において時限的に州境を越えた診療を可能とする規制緩和が行われた。また、遠隔から集中治療専門医が、患者ベッドサイドの麻酔科医など非集中治療専門医に対して助言を行ったという。

なお、日本においてもパンデミック下で県境を越えた医師・看護師の派遣応援が行われた事例があり、今後はTele-ICUというケアモデル普及の方向性もあり得るのではないだろうか。

 

図5 Tele-ICUを活用したCOVID-19重症者ケア

執筆

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部  ヘルスケア 

佐々木留美|マネジャー

※上記の部署・内容は掲載時点のものとなります。2021/9

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