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医療現場におけるRPA導入のポイント
RPAの医療現場における活用可能性と、BPRの観点からRPAを導入する際のポイント
国全体で働き方改革が推進されるなか、病院においても働き方改革を進めていく必要に迫られています。「業務量削減」に向けた業務フロー見直しの観点から、民間事業会社などで導入が進む「作業自動化のためのテクノロジー(RPA: Robotic Process Automation)」の医療現場における活用可能性について概観した後、病院で実際にBPRの観点からRPAを導入する際のポイントを整理します。
はじめに
労働基準法や労働契約法など8本の改正案で構成される「働き方改革関連法案」が閣議決定(2018年4月6日時点)されるなど、国全体で働き方改革が推進されるなか、病院においても働き方改革を進めていく必要に迫られています。働き方改革を進める観点の1つとして、「業務量削減」に向けた業務フローの見直し(Business Process Re-engineering、以下「BPR」と言います)が挙げられます。BPRにおいては、診療など医療行為に直接関わる部分よりも、医療現場で一定量を占める事務作業の見直しから進めていくことが有効と考えられます。
そこで本稿では、BPRの推進にあたり、民間事業会社などで導入が進む「作業自動化のためのテクノロジー(Robotic Process Automation、以下「RPA」と言います)」の医療現場における活用可能性について概観するとともに、病院で実際にRPAを導入する際のポイントを整理します。
医療を取り巻く構造変化を踏まえた働き方改革の必要性
医療現場における働き方改革の方向性を考える際には、現在の医療を取り巻く構造変化を認識することが重要です。医療需要の変化に対応し供給(人材等)を確保していくには、「医療の質確保に向けた取組み」及び「医療現場の業務負担軽減に向けた取組み」を両輪で進めていくことが必要です。このうち、医療現場の業務負担軽減に向けた取組みの観点から、RPA活用の検討が進められています。
1. 2025年に向け、高齢化をはじめとする需要側の構造変化は続きます
団塊の世代が75歳を迎える2025年に向けて高齢化が進み、医療や介護のニーズはこれまで以上に高まると見込まれます。加えて、高齢化の影響により、疾病構造についても変化が見込まれます。
例えば、認知症患者数は2025年には700万人を突破するとも言われており、このような変化に対応するため、医療機能や体制の見直しが各種施策等により進められているところです。
2. ライフスタイルや価値観の多様化を踏まえた供給側の対策が必要です
医療は社会的意義がある事業である一方、長い労働時間に加えて、職員の自己犠牲や士気に依存して成り立っている一面もあることから、引き続き質の高い人材を医療業界に集めるためには、業務のあり方を再構築していく必要があります。また、職員の育児・介護との両立など、多様なライフスタイルや価値観を受け入れられる職場環境の構築も必要になると考えられます。
このような状況を受け、いくつかの病院では、医療現場の業務負担軽減に向けた取組みの観点から、RPA活用の検討が進められています。
医療現場におけるRPA導入余地
RPAの活用により、職員の事務作業量を削減できる余地は十分にあると考えられます。
例えば、医師は本来の診療行為以外の事務作業に勤務時間の一定割合を費やしています。また、医療職・事務職は、院内の相互連携していない複数システムを手作業でつないでいます(例:手入力や目視による転記作業など)。これらの作業は、RPAによる自動化の余地がある作業と考えられます。
1. 医師の業務のうち、1日当たり約41分は他職種に分担可能な業務が含まれます
「医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査(厚生労働省医政局)」によると、医師が担っている「医療記録(電子カルテの記録)」、「患者への説明・合意形成」、「医療事務(診断書等の文書作成、予約業務)」、「血圧等の基本的なバイタル測定・データ取得」、「院内の物品の運搬・補充・患者の検査室等への移送」のうち、約17%(1日当たり約41分)はコメディカル等の他職種で分担可能とされています。診療報酬において、医師の事務補助を担う職員に係る点数づけも進められていますが、対象範囲は限定的です。
この課題解決に向け、他職種がそれらの作業を分担するタスクシフティングやRPA導入が選択肢として考えられます。なお、タスクシフティングは業務をシフトされる側の負担調整等が必要になるため、RPA導入による課題解決の方が院内で進めやすいケースもあると考えられます。
2. コメディカルや事務職の担う事務作業には、RPA活用による効率化・省力化の余地があります
医療現場におけるテクノロジー活用の代表例として、電子カルテ等の医療システム導入があります。しかし、多くの病院では複数の電子システムが併存し、連携していない状況にあることも事実です。例えば、医療現場では職員の手入力や目視による転記作業によって、複数システムを人力でつないでいる現状も多く見受けられます。
この課題解決に向け、複数システムを一本化するための大規模投資は不可能であるとしても、職員の手作業を代替するRPAの導入によって、事務作業を効率化・省力化していく余地は十分にあると考えられます。
RPAの特性を踏まえた導入の進め方
RPAは、設定された業務処理方法(以下「ワークフロー」と言います)に従って、正確・迅速、かつ24時間365日業務をこなせる強みを有しています。一方で、この強みゆえに想定されるリスクもあることから、RPA導入と同時に内部管理体制の維持・強化が重要です。
RPA導入と内部管理体制の維持・強化を並行して進めるため、比較的導入が容易で病院運営への影響が軽微な業務から試行的にRPA導入を進めていくことが有効と考えられます。
1. RPAはルールに基づく作業や繰り返し作業を正確・迅速かつ休みなく進めることができるところに特長があります
RPAとは、ソフトウェアを活用して人が実施している定型業務を自動化することにほかなりません。そのため、自己学習や自己判断はできませんが、ルールに基づく作業や繰り返し作業を正確・迅速かつ休みなく進めることができます。取り扱い可能な業務処理例は、「検索・抽出」、「転記・実行」、「集計・加工」、「照合・チェック」、「帳票・レポート作成」となっており、民間事業会社等でも導入が進んでいます。
また、職員自らが柔軟にワークフローを構築しカスタマイズできることも大きな特徴です。
RPA導入で期待される効果としては、「スピード向上」、「クオリティ向上」、「コスト削減」、「24時間365日稼働」、「拡張性」、「セキュリティ向上」等が挙げられます。RPA導入による職員の業務負担軽減や業務効率化を通じて、「判断や意思決定を伴う高付加価値業務にこそヒトを割り当てていく」という施策の実行にもつながります。
2.RPAは「導入して終わり」ではなく、RPAのリスクを踏まえた内部管理体制の維持・強化が重要です
設定されたワークフロー)に従って正確・迅速に繰り返し実行する点がRPAの強みですが、一方で、この強みゆえに想定されるリスクもあります。例えば、以下の3つのリスクが想定されます。
(1)エラー処理の拡大リスク(ワークフローにエラーが内在していた場合、そのエラーが繰り返し処理されてしまうリスク)
(2) 業務停止リスク(基幹システムの変更や参照先データベースの変更などにより、ワークフローが停止してしまうリスク)
(3)不正処理の発生リスク(ワークフロー設定権限を職員に開放した結果、処理内容がブラックボックス化してしまい、適切な処理を経たアウトプットか判別できなくなってしまうリスク)
以上のようなリスクに対応するためには、「内部統制の観点からの運用ルール整備」及び「バックアップ体制整備」といった、内部管理体制の維持・強化が重要となります。
3. RPAは財務・経理系業務や総務・人事系業務だけでなく、医事系業務や看護系業務への導入可能性もありますが、導入が容易な業務から試行を進めることが重要です
RPAが得意とする業務処理パターンを鑑みると、病院における財務・経理系業務や総務・人事系業務はRPAとの親和性が高いと考えられます。また、医事系業務や看護系業務においても、Excelなどで作業・管理している業務等を中心にRPA導入の可能性があると考えられます。
RPA導入では、RPAとの親和性が高く、かつ、移行しやすい業務から試行していく形が望ましいと考えられます。具体的には、財務・経理系業務や総務・人事系業務の中でも、「ワークフローが複雑になりすぎず、比較的導入が容易な業務」かつ「病院運営への影響が軽微な業務」から試行的にRPA導入を進めていくことが肝要です。
将来的には、RPAと他のテクノロジー(OCRや音声認識等)との組み合わせにより、さらに幅広い業務へ導入が期待されています。
医療現場におけるRPA導入のポイント
RPAには業務効率化・省力化への高い効果が期待できる反面、特有のリスクもあることから、導入時は、「導入効果が見込まれる適切な業務選定」と「内部管理体制の維持・強化」の両輪で進めることが重要です。
1. RPA導入時に想定される課題は多いため、現場職員だけで対応するには限界があります
職員だけでRPA導入検討を進める場合、導入業務選定にあたり客観的な判断が難しい可能性や、内部管理体制の観点がおろそかになる可能性等が想定されます。
また、RPAのワークフロー構築にあたっては、ITベンダーだけに頼ると、人材育成が不十分となり管理体制を構築できない可能性や、病院特有の事務事情が全く考慮されないワークフローになる可能性等が想定されます。
2. トーマツは、RPAの知見に加えて、監査で培った内部管理体制に係る知見を活かして、貴院のRPA導入に貢献します
デロイトトーマツグループでは、RPA導入に係る知見に加えて、豊富なBPRや内部管理体制(内部統制)構築に係るアドバイザリー業務の知見を有しており、職員の皆様やITベンダーとも連携のうえ、RPA導入をトータルでサポートすることが可能です。
例えば、「導入効果が見込まれる適切な業務選定」においては、関与職員や工数といった定量面に加えて、職場環境改善等の定性面からの改善効果も考慮したうえで、導入業務選定について助言します。
また、「内部管理体制の維持・強化」のうち、「内部統制の観点からの運用ルール整備」では、事前申請制により許可されたワークフローのみ実行できる体制を整備することや、RPA導入を機にダブルチェック可能な業務フローに修正する等の対応が考えられますので、これらの実行について助言します。加えて「バックアップ体制整備」では、RPA管理チームを発足し、定期的に実行ログを確認する体制や担当者の異動や退職があってもRPA管理に空白が生じない体制の整備等の対応が考えられますので、これらの実行について助言します。
このように、トーマツでは、豊富な知見を活かし、RPA導入に係るアドバイザリーサービスを実施することで、「業務の効率化」と「内部管理体制の維持・強化」の両立に貢献します。そして、比較的導入が容易な業務からRPAへの移行を進め、院内の意識を醸成しながら、導入業務を拡大していくことで、医療現場での無理のない働き方改革の実現に貢献します。