調査レポート

姫路城に関する社会的価値分析

姫路城の存在価値および利用価値の可視化に関するレポート

国宝姫路城は平成5年12月、奈良の法隆寺とともに、日本で初の世界文化遺産となった。シラサギが羽を広げたような優美な姿から「白鷺城」の愛称で親しまれる姫路城。姫路城が存在することは、姫路市民や日本国民にその存在や利用に伴う価値をもたらしていると考えられる。本レポートでは、その価値が市民や観光客にどう受け止められているのかを調査し、価値を定量化した。結果として、姫路城の社会的価値は約2兆円と分析された。

姫路城の存在・利用による社会的価値

社会的価値とは、対象の存在や、対象を中心とした経済活動を通じて、地域や他産業などのステークホルダーに対してもたらされる公益的価値と定義される。社会的価値はその性質により利用価値・非利用価値に大きく分類することができる(図1参照)。利用価値はその財を直接・間接的に利用することにより得られる価値であり、例えば木材生産や食料生産があげられる。非利用価値は消費的な利用はできないものの、間接的に利用されることで得られる価値であり、レクリエーション利用等が挙げられる。非利用価値に分類される存在価値は、存在するという情報・認識により得られる価値である。例えば対象の存在が地域のシンボルとして住民のアイデンティティを形成している場合、対象が地域に存在価値をもたらしていると考えることができるため、存在価値があると定義できる。本レポートで姫路城の社会的価値を分析するうえでは、存在価値と利用価値を対象とした。

姫路城の社会的価値分析(PDF, 1.4MB)

社会的価値の分析方法

社会的価値は目に見えない価値であり、また当該財を取引する市場を持たないケースがあることから、消費者が得ている効用への対価を観測することが難しい場合がある。社会的価値の分析においては、費用便益分析(Cost Benefit Analysis)が最も長い歴史のある分析手法である。費用便益分析には、当該財により影響を受ける消費行動に関する需要曲線を推定して当該財により生じる消費者余剰の変化分を求める「消費者余剰法」や、当該財の利用者がどれだけの効用を感じているか(支払意志額:Willingness to Pay)をアンケート調査等を用いて分析する「仮想市場評価法」等がある。本件において姫路城の社会的価値を分析するうえでは仮想市場評価法を採用した。

分析結果

本件では、姫路市に協力いただき、姫路城の存在価値および利用価値に関するWebアンケートを実施し、2,066名(うち姫路市民118名、日本人訪問経験者780名、日本人訪問未経験者861名、外国人観光客307名)から回答を得て社会的価値の分析を行った。その結果、姫路城は、姫路市住民および観光客から、その美しさと、歴史的価値等の観点で評価されていることが確認できた。上記を踏まえた45年間の社会的価値の合計は、約2兆円となった。

社会的価値分析の実務への展開

経済学的手法を用いて市場で測ることが難しい価値を分析することにより、受益者が対象の財やサービス、あるいは取り組みのどのような要素に価値を感じているのかが可視化される。本件のように文化財の価値評価を行う場合、特に価値が感じられている部分がわかることで、今後この資産を活用して、どのような効果を目指すかを決定するうえで役立てることができる。

また、社会的価値の分析を継続的に実施することで、経年での評価の変化に着目し、政策の実効性を評価することも可能である。本件の場合、支払意思額の高い外国人観光客の誘致に向けた施策や、支払意思額が相対的に高くなる要素である歴史的価値等の認知促進を進めることで、将来的な社会的価値向上が実現すると考えられる。また、相対的に利用価値の支払意思額の低い市民にとって、イベントなどを通じて特別感を演出することで、利用価値を実感いただき、支払意思額を上げていくことも考えられる。

そのため、まずは今回の分析結果をもとに活用方法を検討し、数年後の社会的価値の増分がどのくらい達成されたかを観測することで、政策が及ぼす効果の定量的な評価が可能になるだろう。

お役に立ちましたか?