事例紹介

学校法人における監事業務のあり方

学校法人における監事の役割

監事は学校法人に必ず存在する機関であり、近年私立学校法の改正等が行われ、監事業務に対する期待は今まで以上に高まっています。

執筆者: 公認会計士 利根川 亮

 

監事制度について

監事は理事の業務執行を監査する機関であり、学校法人を運営する上で必ず設置しなければならない機関となります。監事の主な業務は学校法人の業務の監査、財産の状況の監査、理事の業務執行の状況の監査であり、監事業務の執行にあたっては独立性、公平性を保つ必要があるため、監事は理事、評議員、学校法人の職員との兼務は禁止されており、監事の選任は評議員会の同意を得て、理事長が選任します。

学校法人が適切に学校運営を行っていくためには、理事機能の強化だけでなく、学校法人の公共性及び運営の適正性を確保するための機関である監事機能の強化を図ることが必要になります。

一方で近年、少子化等により経営困難な状況に陥っている学校の増加や、一部私立大学等における運営上の不適切事例など様々な課題が指摘される中で、私立大学等のガバナンスの在り方等の検討を行う「私立大学等の振興に関する検討会議」が平成28年4月から平成29年5月まで開催され、検討会議の結果を受け「学校法人制度改善検討小委員会」が平成29年11月から平成31年1月まで開催されました。

この小委員会で学校法人制度の改善方策に関する報告書が取りまとめられ、当該報告書の内容を踏まえ令和元年度に私立学校法の改正が行われました。

 

令和元年度私立学校法改正に伴う監事への影響について

令和元年度に公布された私立学校法改正では、監事に影響する部分として以下の改正が行われました。

①理事・監事の善管注意義務(私立学校法第35条の2)
学校法人と役員との関係は、委任に関する規定に従う旨が新設されました。公益法人等の他の非営利法人においては役員は善管注意義務を負うことから、私学法においても同様の規定を整備すべきであるとして、改正にあたり明文化されたものとなります。

②任務懈怠による理事・監事の法人に対する損害賠償責任(私立学校法第44条の2)
役員がその任務を怠ったときは、学校法人に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う損害賠償責任について、私立学校法において新たに規定されました。
また、理事又は監事の責任が加重となり、高額の賠償責任を負担することを恐れて経営判断が委縮することがないようにするために、損害賠償責任の減免の規定も新たに規定されました。

③理事・監事の職務について悪意又は重過失によって第三者に生じた損害賠償責任(私立学校法第44条の3)
上記②同様、改正よって新たに規定されています。また、監査報告書に記載するべき重要な事項について虚偽の記載をした監事についても、損賠賠償責任を負うこととされています。

④役員の連帯責任(私立学校法第44条の4)
他の役員が学校法人又は第三者に対する損害賠償責任を負うときは、役員は連帯債務者になります。

①で善管注意義務を負う旨が記載されているように、監事は、監査に関する能力及び識見を有する者として通常期待される程度の注意義務をもって監査を行うことが求められています。

 

監事業務の在り方について

監事が円滑な監査を行う前提として、学校法人で監事監査規程を策定し、監事としての権限を明記することが大事です。また、監事監査基準・監査計画も合わせて策定し、あるべき監査を明確にすることも重要です。

平時においては重要な会議への出席、契約書等の文書の閲覧、必要に応じて会計監査人や内部監査部門からの意見聴取等を行い、不正の兆候を見逃さないことが監事の主たる業務となります。

通常の業務を実施する中で、不正の可能性がある事項が発見された場合は、理事会での質問や意見陳述、対象者へのヒアリング等、より深度のある手続を実施することが求められます。

上記手続の結果、不正を発見した場合、又は法令や寄附行為に違反する重大な事実を発見した場合は、理事長へ理事会の招集を請求、理事長による理事会の招集が行われない場合には監事自ら理事会を招集することを検討します。このとき不正を発見しているにもかからず、理事会を招集しない場合、善管注意義務違反となる可能性があるため注意が必要です。

また、理事が学校法人の目的の範囲外の行為その他法令や寄附行為に違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがある場合において、当該行為によって学校法人に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、監事は差止め請求権を行使する責務があり、これを行使しない場合も善管注意義務違反となる可能性があるため注意が必要です。

 

おわりに

不正の兆候を見逃さないためには、文部科学省で開催されている監事研修会等に参加し、監査業務の重要性の再認識や学校法人の動向を把握することが重要となります。

また、同じく監査を行っている会計監査人や内部監査人と日頃から連携を図り、現在の学校法人の状況や認識している課題を共有することも大切です。

 

当該記事は執筆者の私見であり、有限責任監査法人トーマツの公式見解ではありません。

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