最新動向/市場予測

大学におけるガバナンス・コードの近況

大学トップへの牽制強化と監事体制拡充の傾向

国立大学法人と学校法人ではガバナンス・コードが改訂され、公立大学法人では新たにガバナンス・コードが策定されました。国立大学法人、公立大学法人及び学校法人のガバナンス・コードの最新の内容について紹介いたします。

はじめに

日本社会の急速なグローバル化やICTの普及をはじめとする社会環境の変化により、大学への期待はグローバル人材の育成やイノベーションの創出、地域再生等拡大しています。そのような期待に応え、教育研究の基盤を発展させるためには大学のトップによるリーダーシップの発揮とそれに対する牽制機能、さらには多様な関係者への理解を得るための情報公開を通じた透明性の確保が求められるようになりました。これらへの対応として、国立大学法人においては令和2年3月にガバナンス・コードが策定され、学校法人においても各団体からガバナンス・コードが策定されました。

近年、大学のトップの執行状況に対する牽制の強化や、監事の役割の強化が求められるようになるなど、大学のガバナンス体制に対する社会の期待がより一層の高まりを見せ、令和4年4月に国立大学法人において、令和5年3月に日本私立大学連盟においてガバナンス・コードの改訂が行われました。また、公立大学法人においては令和5年1月に、「公立大学ガバナンス・コード (第1版)」が新たに策定されました。

 

国立大学法人のガバナンス・コード

「国立大学法人法の一部を改正する法律」が令和3年5月に公布され、令和4年4月より施行されました。この法改正を受け、「国立大学法人ガバナンス・コード」が令和4年4月に改訂され、「学長選考会議」と記されていた箇所が「学長選考・監察会議」へ変更されています。

「国立大学法人法の一部を改正する法律」の内容は学長の職務執行状況の報告を求めることができる権限が追加されたことや、当会議には学長や理事の参加が不可となったこと、監事は学長の不正行為等の報告を当会議に行うことができること等、学長への牽制がより強化されるものとなりました。

出典:国立大学法人法の一部を改正する法律の概要(外部サイト)

国立大学法人は、国からの財政支援を得ていることから高い公共性が求められる一方で、当ガバナンス・コード「基本原則2.法人の長の責務等」に記述されている通り、その役割を果たすためには法人の長のリーダーシップの十分な発揮が重要です。そのため、ガバナンス強化がより一層求められています。

【参考】
一般社団法人国立大学協会「国立大学法人ガバナンス・コード」(外部サイト)

 

公立大学法人のガバナンス・コード

令和5年1月30日に、「公立大学ガバナンス・コード (第1版)」が策定されました。公立大学においては、令和元年5月に「公立大学の将来構想-ガバナンス・モデルが描く未来マップ-」が公表されていました。こちらは、ガバナンスという観点から設置自治体との関係についての課題を議論し、報告書として取りまとめたものでした。

公立大学ガバナンス・コード (第1版)の構成は以下の通りです。

  • はじめに
  • 基本原則1 公立大学の自主性・自律性に基づいた計画策定と体制構築
  • 基本原則2 公立大学の適正な経営の展開
  • 基本原則3 教育研究の発展
  • 基本原則4 地域社会への貢献
  • 基本原則5 持続可能性・多様性のある社会への対応

公立大学の組織は、自治体が直接設置する場合と公立大学法人に設置させる場合がある等、多様な組織構造をもっています。このような背景を踏まえ、本ガバナンス・コードにおいては、コンプライ・オア・エクスプレインの原則を基に、公立大学の設置目的や歴史的経緯に即したガバナンスを確立することを述べた上で、「設置自治体と伴走し、相互のコミュニケーションにより信頼を醸成することが重要である」と記載されていることが特徴的であるといえます。

なお、各大学に対して本コードへの適合状況の公表や個別大学のガバナンス・コードの策定・公表を求めるものではなく、適切なガバナンスの確立のために、設置自治体と大学、その他の関係者と対話を行う際に「参照されるべき共通理念としての意義を持つ」とされています。

【参考】
一般社団法人公立大学協会「公立大学ガバナンス・コード(第1版)」(外部サイト)

 

学校法人のガバナンス・コード

学校法人においては、日本私立大学連盟から「私立大学ガバナンス・コード」、日本私立大学協会憲章から「私立大学版ガバナンス・コード<第1版>」、日本私立短期大学協会から「私立大学・短期大学版ガバナンス・コード」が公表されていましたが、日本私立大学連盟「私立大学ガバナンス・コード」が、令和5年3月に第1.1版へ改訂されました。

主な改訂内容は以下の通りです。

  1. ガバナンス・コードの遵守状況5種類(遵守・限定付遵守・遵守不十分・未遵守・意見不表明)を6つの状況に分別し、「エクスプレイン」を実施すべき状況が具体的に記載されました。
  2. 監事の独立性の確保、監事が作成する監事監査計画等の有効活用、会計監査人の選任においては監事の意見を踏まえる旨の記載が追加され、監事の役割が強化されました。
  3. 理事及び評議員、学長(総長を含む)の選解任過程、報酬の決定方法の開示が求められるようになりました。

また、令和5年の私立学校法の改正が行われたことを受け、日本私立大学連盟は「私立大学ガバナンス・コード【第2.0版】」の作成に着手しており、大幅な改訂が見込まれています。

 

【参考】
日本私立大学連盟「私立大学ガバナンス・コード」(外部サイト)
日本私立大学協会憲章「私立大学版ガバナンス・コード<第1版>」(外部サイト)
日本私立短期大学協会「私立大学・短期大学版ガバナンス・コード」(外部サイト)

 

おわりに

昨年5月に「私立学校法の一部を改正する法律」が成立し、同年12月に参議院本会議で「国立大学法人法の一部を改正する法律」が新たに可決、成立しました。これにより国立大学法人と学校法人のガバナンス強化がより一層求められることとなります。また、公立大学法人においては新たにガバナンス・コードが策定されたことで、遵守状況の公表までは求められませんが、適切なガバナンス体制の構築が促進されることが期待されます。

公的、社会的責任を担っている中で、その役割を果たしながら、利害関係者の理解を得られるようなガバナンスの構築が求められています。
 

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