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骨太の方針のうち教育行政に係る事項と取組み

「経済財政運営と改革の基本方針2022」(骨太の方針)が決定されました

わが国を取り巻く環境変化や国内における構造的課題など、内外の難局が同時かつ複合的に押し寄せています。骨太方針2022や新しい資本主義に向けた改革・実行計画をジャンプスタートさせるための総合的な方策について解説します。

執筆者: 公認会計士 高橋 由佳

 

1.「経済財政運営と改革の基本方針2022」(骨太の方針)の概要

令和4年6月7日(火)、「経済財政運営と改革の基本方針2022 新しい資本主義へ~課題解決を成長のエンジンに変え、持続可能な経済を実現~」(骨太方針2022)が、経済財政諮問会議における答申を経て、閣議決定されました。

骨太方針2022では、「新しい資本主義に向けた改革」の中で「人への投資と分配」として、特にその中でも「質の高い教育」の実現に向けて、給付型奨学金等を多子世帯等の中間層へ拡大、柔軟な返還・納付(出世払い)、大学等の機能強化(成長分野への再編促進、自然科学(理系)分野の学生割合の目標設定、文理の枠を超えた人材育成)などを盛り込んだ指針を掲げています。

出典:内閣府 令和4年6月7日 令和4年第8回経済財政諮問会議 資料4-2 経済財政運営と改革の基本方針2022概要 (外部サイト)

 

少子化対策と子供政策については、予想を上回る進展や、児童虐待、いじめ、不登校など子供を取り巻く状況の深刻さを指摘しながら、「こどもの視点に立って、強力に進めていく」としています。学校関連についてはは、家庭環境、学習環境の格差防止、個人情報保護、教員の勤務実態や働き方改革の状況、教員不足解消などに留意しつつ、教育DXと連動した教育のハード・ソフト・人材の一体的改革の推進を目指すことが記載されています。

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2.教育行政に係る主な事項と取組み

【人への投資と分配:質の高い教育の実現】

人への投資を通じた「成長と分配の好循環」を教育・人材育成においても実現し、「新しい資本主義」の実現に資するため、デジタル化に対応したイノベーション人材の育成等、大学、高等専門学校、専門学校等の社会の変化への対応が求められています。

新たな時代に対応する学びの支援の充実を目指し、給付型奨学金と授業料減免、必要性の高い多子世帯や理工農系の学生等の中間層へ拡大、官民共同修学支援プログラムの創設、地方自治体や企業による奨学金返還支援の促進、そのほか減額返還制度の見直しとして在学中は授業料を徴収せず卒業後の所得に応じて納付を可能とする新たな制度の設計など、誰もが家庭の経済事情にかかわらず学ぶことができる環境の整備を進められてます。

また、未来を支える人材を育む大学等の機能強化を図るべく、デジタル・グリーンなどの成長分野に対する大学等の再編の促進や産学官連携強化について、複数年度にわたる予見可能性をもって再編に取り組めるための支援や組み構築等も進められています。例えば現在35%にとどまる自然科学(理系)分野の学問を専攻する学生の割合を、OECD諸国で最も高い水準である50%程度まで目指すなどの具体的目標を設定するなど、集中的に意欲ある大学の取組みを推進されています。また、あらゆる分野の知見を総合的に活用し社会課題への的確な対応を図る「総合知」の創出・活用を目指し、文系・理系の枠を超えた人材育成を推進するとともに、若手研究者と企業との共同研究を通じた人材育成により大学院教育のさらなる強化が図られています。

【科学技術・イノベーションへの投資】

社会課題を経済成長のエンジンへと押し上げていくためには、科学技術・イノベーションの力が不可欠です。

イノベーション創出の拠点である大学について、競争的な環境の下で大学ファンドから支援を受ける国際卓越研究大学の持続的なイノベーション創出と自律化に資するよう、専門人材の経営参画等のガバナンス体制を確立するとともに、必要な規制改革等の対応が進められています。

イノベーションの担い手である若い人材への支援として、博士課程学生の処遇向上をはじめ、キャリアパス全体として魅力的な展望と研究に専念できる支援策を図るべく、「トビタテ!留学JAPAN」の推進など、若者の世界における活躍を支援し、コロナ禍で停滞した国際頭脳循環の活性化への取組みが掲げられています。

【包摂社会の実現】

少子化は予想を上回る速さで進んでおり、児童虐待やいじめ、不登校等こどもを取り巻く状況は深刻な状況となっています。このため来年にも「こども家庭庁」の創設を計画、こども政策を推進する体制の強化が図られています。

全てのこどもに、安全・安心に成長できる環境を提供するため、教育・保育施設等において働く際に性犯罪歴等についての証明を求める仕組みの導入、予防のためのこどもの死亡検証の検討、未就園児等の実態把握と保育所等の空き定員の活用等による支援の推進、SNS等の活用を含めこどもの意見を政策に反映する仕組みづくり、学校給食等を通じた食育の充実、放課後児童クラブやこども食堂等様々なこどもの居場所づくり等への取組みも掲げられています。地域共生社会の実現に向けては、各市町村における包括的支援体制の整備が進められています。また、地域と学校が連携したコミュニティ・スクールの導入を進めるとともに、夜間中学の設置、医療的ケア児を含む障害のある子供の学びの環境整備、障害者等の様々な体験活動やこれを含む生涯学習が推進されています。

【経済社会の活力を支える教育・研究活動の推進】

コロナ禍を契機に進展した教育DXにおけるリアルとデジタルの最適な組合せの観点も踏まえつつ、あるべき資源配分の方向性を、次期教育振興基本計画において示すこととしています。35人学級等についての小学校における多面的な効果検証等を踏まえつつ、中学校を含め、学校の望ましい教育環境や指導体制の構築が進められています。

官民連携による持続可能な経済社会の実現に向けては、教育・研究・ガバナンスの一体的改革を推進、国立大学法人運営費交付金について客観・共通指標による成果に基づく配分の検証・見直しを進めながら、私学助成等を含めた大学への財政支援の配分のメリハリを強化し、若手研究者の増加を図ります。国際性向上や人材の円滑な移動の促進、大型研究施設の官民共同の仕組み等による戦略的な整備・活用の推進、情報インフラの活用を含む研究DXの推進、各種研究開発事業における国際共同研究の推進等により、研究の質及び生産性の向上を目指すものとなっています。

3.終わりに

骨太方針2022では教育分野施策関連費用の増加につながる政策方針が並べられていますが、これらの財源に関しては「国民各層の理解を得ながら、社会全体での費用負担の在り方を含め幅広く検討」と記すにとどまっています。これら財源確保のための増税について国民から理解を得ることは容易ではなく、骨太方針でも財政健全化に向けて取り組むという姿勢が掲げられているものの、実際にどのような形でこれら方針が具体化されてゆくか、動向については引き続き注目が集まっています。

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