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大学経営とSDGs  

大学経営とSDGsの関係性の概観

少子化の進行で、日本の大学経営は、ますます厳しさを増しています。 そのような中、様々なシーンで「SDGs」というワードをよく聞くようになりました。ここでは、日本の大学経営とSDGsの関係性について、簡単にまとめてみたいと思います。

執筆者: 公認会計士 明定大介

 

はじめに

2015年9月の国連サミットにおいて、SDGsを含む「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」(以下「2030アジェンダ」とします)という文書が採択されました。2030アジェンダは、SDGsを含む5つのパートから構成されており、国連が向こう15年間(2030年まで)の新たな持続可能な開発の指針として策定したものです。この2030アジェンダにおいて、SDGsはその中核を成すものとして位置づけられています。

ここで、SDGsとは、「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称であり、「誰一人取り残さない(leave no one behind)」持続可能でよりよい社会の実現を目指す世界共通の目標と言うことができます。2030年を達成年限とし、17のゴール(目標)と、当該ゴールの下に169のターゲット、232の指標が定められています。

本稿では、この全世界的なコンセプトであるSDGsと日本の大学経営がどのように関係するのか、またどのような役割が大学に求められているのか等について考えてみたいと思います。

 

図1 SDGsの17の目標

(図表1 SDGsの17の目標)
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出典:外務省「持続可能な開発目標(SDGs)達成に向けて日本が果たす役割」

 

 

SDGsと大学

SDGsは、複雑な社会的、経済的、環境的課題を幅広くカバーしています。そして、それらに対処する上で、教育、研究、イノベーション等は重要な役割を果たします。大学は、知識の創造と普及に関する特別な社会的地位と広範な責務を担っており、SDGs達成のために重要な役割を果たすと考えられます。

2015年の国連サミットでSDGsが採択されてから、様々な企業・団体がSDGs達成へ向けた取り組みを実施しています。その中で、日本の大学においても、SDGsの活動が広がりつつあります。

そうした中、イギリスの高等教育専門誌であるTimes Higher Education(以下「THE」とします)は、「THE大学インパクトランキング(THE University Impact Ranking)」を、2019年に初めて発表しました。THE大学インパクトランキングとは、SDGsをもとに大学の社会貢献の取り組みを評価したグローバルな指標であり、2020年の参加大学は、世界で857大学と2019年の560校から297校増加しています。

これまでのTHEが発表する大学に関係するランキング指標としては、主に大学の「研究力」に着目した「THE世界大学ランキング」や、主に大学の「教育力」に焦点を当てた「THE世界大学ランキング日本版」が話題になっていました。そこに、新たなランキング指標として、「THE大学インパクトランキング」が2019年に発表されたことになります。これは、大学の「研究力」や「教育力」だけでなく、大学の「社会貢献力」についても、ステークホルダーの関心が高まっていることを示しています。

 

図2 SDGsへの大学の関わり方

(図表2 SDGsへの大学の関わり方)

出典:SDSN Japan「大学でSDGsに取り組む」日本語版

 

 

SDGsと経営

SDGsの目標を達成するためには、各国政府や自治体の取り組みだけでなく、経済や雇用、環境に密接に関わる団体、すなわち企業の協力が欠かせません。そこで、2016年3月に、SDGs導入における企業の行動指針としてSDGコンパスが作成されました。作成したのは、国際的なNGOであるGRI(Global Reporting Initiative)、UNGC(国連グローバル・コンパクト)、国際企業で構成される組織WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)の3者で、日本語に翻訳したのは、GCNJ(グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン)とIGES(公益財団法人地球環境戦略研究機関)です。SDGコンパスは、SDGsおよびSDGコンパスの概要、企業がSDGsを導入するための5つのステップから構成されており、企業がSDGsにどう取り組むべきかの指針が示されています。

このSDGコンパスは、大規模な多国籍企業に焦点を置いて開発された経緯があります。そのため、一見すると、大学のような非営利組織とはあまり関係がないように思われるかもしれません。しかし、一般企業以外の非営利団体においても、SDGコンパスの内容から新たな発想を生んだり、団体の現状や事業内容に合わせてSDGコンパスの指針を活用することが期待されています。そのため、大学の経営においても、SDGコンパスの要素を取り入れ、持続可能な大学経営を推進していくことが有用であると考えられます。

 

図3 SDGコンパスの5つのステップ

(図表3 SDGコンパスの5つのステップ)

出典:SDSN Japan「大学でSDGsに取り組む」日本語版

 

 

おわりに

最近では小学校や中学校、高校の授業や入試においても、SDGsを学ぶ機会が増えてきています。そのため、大学受験生の間でSDGsに対する理解はますます進んでいくと考えられます。これまでの受験生の大学選びにおける視点は、主に偏差値やブランド力、施設の充実度等が中心でした。しかし、今後はこれらの視点だけではなく、SDGsをもとにした社会への貢献度といった視点も考慮する受験生が増えていくと考えられます。

また、大学のステークホルダーは、受験生だけでなく、学生や保護者、共同研究を行う企業、行政機関、地域住民等、多様に存在しますが、このようなステークホルダーにとっても、大学を評価する上で、「社会貢献力」という要素がこれまで以上に関わってくると考えられます。

世界中で蔓延する新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の状況下において、大学教育の在り方が問われている今だからこそ、SDGsの達成とともに、先進国日本ひいては世界全体が抱える社会問題の解決に向けて、大学への期待がますます高まっていくと考えられます。

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