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カーボンニュートラルにかかる大学の取り組み

大学等コアリション

温室効果ガスによる地球温暖化を防ぐために、世界でカーボン・ニュートラルへの取組みが行われています。日本では、大学等コアリションと呼ばれる大学を中心とした情報共有、プロジェクト創出、情報発信の取組みが2021年7月から開始されました。

執筆者: 公認会計士 十二 壮志

 

1. カーボン・ニュートラルの必要性と日本における状況について

【地球の気温上昇とカーボン・ニュートラル】

世界の気温は年々上昇しており、気候変動や海面水位の上昇、農作物への被害など私たちの暮らしに重大な影響を及ぼすことが予測されています。この影響を危惧し、2021年11月に「世界の平均気温の上昇を産業革命前(1750年ごろ)と比べて1.5℃に抑える」ことが、国連気候変動枠組条約締約国会議(COP26)で決定されました。いわゆる地球温暖化と呼ばれる気温上昇現象は、二酸化炭素などの温室効果ガスが増加し続けていることが原因と考えられており、COP26の決定を受け、温室効果ガス削減(カーボン・ニュートラル)への動きが世界的に加速しました。

【日本におけるカーボン・ニュートラルへの目標】

日本においては、政府が2030年度の温室効果ガス排出量を2013年度比で46%削減し、2050年までに温室効果ガスの排出量を全体としてゼロにする脱炭素社会の実現を目指すことを宣言(2050年カーボン・ニュートラル)しています。環境省が公表している2020年度時点での温室効果ガス排出量は2013年度比で▲18.4%ですから、残り10年間でこれまで以上の削減効果を上げないと、目標が達成できないこととなります。また、削減のためには多額の金銭が必要です。経済産業省の試算では、2050年カーボン・ニュートラルの目標を達成するために主要な分野において必要な投資額が、2030年で約17兆円、更にその後10年間で約150兆円に上るとしています。

以上から分かるように、この非常にハードルの高い目標を達成するには、一団体の努力では実現が難しく、産学官民の垣根を超えた、日本全国一丸となっての取り組みが必要となります。

 

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2. 大学等コアリションとは

【大学等コアリションの目的】

日本政府のカーボン・ニュートラル宣言を受け、文部科学省、経済産業省および環境省による先導のもと、大学等による情報共有や発信等の場として、「カーボン・ニュートラル達成に貢献する大学等コアリション」を2021年7月29日に立ち上げました。

コアリション(Coalition)は、連合を意味し、文字どおり産学官民一体となって連携し、カーボン・ニュートラル実現へ向けた取り組みを行うことを目的としています。当該コアリションのホームページでは、以下の目的を具体例として挙げています。

  1. 大学等の取組に係る知見の横展開(情報共有)
  2. 自治体や企業等との連携強化による研究成果の社会実装やニーズに応じた研究開発の推進(プロジェクト創出・研究成果の社会実装)
  3. 国内外への発信力の強化

また、コアリションについて、「国、地方自治体、大学、企業等のあらゆる主体がそれぞれの立場や強みに応じて一丸となって取り組むことが必要であり、なかでも、国や地域の政策や技術革新の基盤となる科学的知見を創出し、その知を普及する使命を持つ大学が国内外に果たすことのできる役割は極めて大きいと考えます。大学と地域が連携し、地域の脱炭素化を進めること、そのモデルを国や世界に展開していくことをはじめとして、地域における大学の機能はますます重要になってきています。」とあるように、教育・研究機関としての大学に対する、カーボン・ニュートラル貢献への期待の大きさが伺い知れます。

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【大学等コアリションの構成】

コアリション設立時点では、積極的な取組を行っている、または取組の強化を検討する国公私立大学・大学共同利用機関・研究機関等、188機関が参加しています。また、民間企業などが現在進行形で協力機関として参加しており、その輪は広がっています。

コアリションは、①参加機関の代表者(学長等)が集まりコアリションの活動状況や方向性のとりまとめを行う総会(年1回開催)と、②大学職員や研究者等のレベルで参加するテーマ別のワーキンググループ(年2~4回開催)の二層構造になっています。

<図1:大学等コアリションの構成概要>

ワーキンググループは図1に示すようなテーマ・目的別に、1.イノベーションワーキンググループ2.ゼロカーボン・キャンパスワーキンググループ3.国際連携・協力ワーキンググループ4. 地域ゼロカーボンワーキンググループ5.人材育成ワーキンググループの5つで構成され、コアリションに参画している団体は複数のワーキンググループに登録することができるため、ワーキンググループ間で相乗効果を生み出すことが期待されます。(図2参照)

<図2:ワーキンググループ(WG)ごとのロードマップ>


出典:大学等コアリションHP

 

 

3. 各大学の具体的取組み

上述のうち、ゼロカーボン・キャンパスワーキンググループでは、「2025年までに、コアリションの全参加大学が方針やロードマップ等を策定し、順次取組の推進を目指す」とされており、2023年1月末時点で各大学において、続々とカーボン・ニュートラルに向けたスキームやロードマップの公表がなされています。その中でも、具体的な取り組み事例をいくつか紹介いたします。

  • 東北大学:環境科学研究科の建物「エコラボ」をネット・ゼロ・エネルギー・ビルディング化
  • 千葉商科大学:政府のFIT制度を適用し所有地内に太陽光発電所を設置、同学の消費電力・ガス量より太陽光発電量が超過
  • 立命館大学:カーボンマイナスプロジェクトを立ち上げ、農林水産省の「脱炭素・環境対応プロジェクト」受託研究共同採択、バイオ炭に関する研究センターを設置
  • 神奈川大学:横浜市と相互協力協定を締結し、横浜港内の海上に太陽光パネルを設置、海中ソーラー発電システムの実証実験を実施
  • 信州大学:地球温暖化防止実行計画として、具体的な取組みを公表(再生可能な建築物資材や省エネ空調・電気設備の選択など)
     

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4. 終わりに

以上、本記事では大学等コアリションの概要を取り上げました。日本全国一丸となってカーボン・ニュートラルへ取組み始めていることを強調してきたところですが、その一員には需要家(消費者)である私たち一人ひとりも含まれます。

カーボン・ニュートラルへの関心を一層高め、日本国民である私たちが、できることから一歩ずつ進めることが、住んでいる環境を守る助けになるのだという理解につながれば幸いです。
 
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