調査レポート

企業の「SDGsに貢献しうる技術イノベーション力」評価への挑戦

自然言語処理技術を活用した企業の特許技術とSDGsの関連性の可視化

モニター デロイト及びDeloitte Analyticsでは、企業/技術イノベーションの潜在的なSDGs貢献度評価の近似値として、企業が有する技術資産(特許)とSDGsの関連性の可視化に向け、自然言語処理技術での分析を実施。

企業が有する技術資産とSDGsの関連性を可視化し、技術イノベーションを加速する

SDGs達成に向けた技術イノベーションが不可欠である事は論を待たず、国連はそれを強調すると共に、方法論の開発等にも積極的だ。

他方で、日本は他国に比した技術イノベーション力の停滞に悩んできた。長年の課題の一つとして言われているのが、研究者/技術者と、経営者および投資家の対話力だ。デロイト トーマツ グループでは、企業の技術開発投資とSDGs貢献度にリンクを設けることで、対話力の一助とすることを試行する。

技術イノベーションの創出には様々な社会課題や顧客ニーズに関する深い洞察力や、技術を付加価値化する為のビジネスモデル構築力など様々な要素が不可欠であることを前提に置きながら、本レポートでは企業が有する技術資産を技術イノベーションに向けた一つのポテンシャルであると位置づけ、それらとSDGsの関連性を自然言語処理技術を用いて分析・可視化 (≒企業/技術イノベーションのSDGs貢献度を評価)する。
 

『SDGsに貢献し得る技術イノベーション』を創発する社会へ [PDF:2.8MB]
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SDGs関連技術は特許出願全体の約4%で、特にSDG3(健康)やSDG7(再エネ)、SDG13(気候変動)の関連技術が多く見られた

テキストマイニング1の手法により各SDGに関連の深いキーワード群を定義したうえで、SDGごとに固有の特許検索式を構築して特許データベース検索を実施した。その結果、分析対象期間(2015年9月から2020年8月)に全世界でなされた特許出願14,044,721件のうち、618,556件(約4.4%)がいずれかのSDGsに関連する特許出願として抽出された2

その中でも、SDG3(健康)、SDG6(水)、SDG7(再エネ)、SDG13(気候変動)、SDG15(生物多様性)については特に技術開発が活発と考えられ、当該5ゴールに関連する特許出願が全体の8割を占めた2

一方で、特にSDG5(ジェンダー平等)やSDG16(平和と安全)などは、上記手法で抽出された特許出願件数が少なく、今回採用した方法論においては特許との強い関連性が確認できなかった2。これらSDGの課題の性質等を踏まえると、技術的な解決策が現状主流となっていない可能性が伺えた。
 

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圧倒的存在感を示す中国、得意領域で立つ米国・韓国に対し、良くも悪くも優等生的な日本

国別出願件数の傾向は、特許全般で見られる傾向と同じく、いずれのSDGにおいても中国が圧倒的首位を占め、次点争いにその他国々の特徴が表れた2

例えばSDG3「健康」ではIBMのヘルスケアサービス関連技術や製薬・医療機器企業が保有する技術等を背景に米国が、SDG4「教育」ではSamsungの情報通信系の技術開発等を背景に韓国が、それぞれ2番手としての存在感を示す2

一方で、今回の分析で日本が2番手に立つSDGは無く、いずれのSDGの中でも3番手から5番手の位置付けにあった。好意的に解釈すれば、どのSDGにおいても一定の貢献度・競争力を持つ、弱点の無い立ち位置ではある一方、特筆すべき強み・特長を見出し難い状態とも捉えられる。
 弱点をリスクと捉え潰すだけでなく、強みを機会と捉え賞賛し、更に尖らせていく環境作りを、企業の経営層、R&D部門、投資家などのステークホルダが連携し進めていく必要性を感じさせる結果となった。
 

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企業別では、中国エネルギー産業と欧米重工産業、欧米製薬産業等の大企業群が大部分を占める一方、規模を問わず存在感を示す企業も

SDGs全ゴールを対象に、関連特許出願件数順に企業をランキング化すると、いくつかの傾向を確認することができた。

1つは、SDG7(エネルギー)およびSDG13(気候変動)に関連する特許出願を多数保有する中国エネルギー産業や欧米重工産業の企業群だ。中国エネルギー産業は中国政府の再生可能エネルギーシフトを背景とした中国国家電網公司やGoldwindが、欧米重工産業はGEがそれぞれ存在感を示す2

もう1つは、SDG3に関連する特許出願を多数保有する欧米製薬産業の企業群だ。特にMSDやノバルティスなど、医療用製剤に強みを持つ企業が存在感を示す2

日本企業に注目すると、上位10社の中には確認できず、SDG7(エネルギー)、SDG13(気候変動)や、SDG12(生産・消費)の関連技術を擁し11位となった日立製作所を筆頭に、28位三菱電機などが続く結果となった2

そして、売上高が数兆円規模に達するような“超”大企業が顔を揃える中で、例えば日本の栗田工業のような企業もTOP100内に名を連ねるのは注目すべき点だ。規模を問わず、真にSDGs推進に資する技術イノベーションポテンシャルが高い企業に注目が集まり、取組みを加速する環境・仕組み作りは今後ますます重要性を増すと考えられる。
 

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企業に加え、諸外国では大学がSDGs関連技術開発の底上げを果たすも、日本の大学の活動は限定的

中国や米国、韓国では大学1校あたりのSDGs関連技術出願数が平均25から30件程度で、大学以外の出願人による平均出願数(5件程度)を大きく上回り、SDGs関連技術の底上げに寄与している2

対して日本は1大学あたり平均5.9件、大学以外の出願人あたり平均4.1件と、出願件数はほぼ同程度2。大学以外の出願人によるSDGs関連出願件数は諸外国と同程度であり、大学由来の出願件数が上位国と比較して少ない傾向にあった。

SDGsの背景にある複雑・難解な社会課題を解決する為には非連続な技術イノベーションが不可欠であり、商用化前のearly stageにある技術に対し、長期的な視点から投資・開発していくことが不可欠と考えられる。

産学連携強化というスローガンは常に掲げられるテーマではあるが、SDGsという共通のベクトルの下、改めて連携を加速するスキームを模索する事も求められるだろう。
 

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SDGsゴール毎の分析では、特に研究開発が進む技術領域が明らかに

今回、1,000件以上の関連特許出願が確認されたSDG2から7、SDG11から15、については、抄録文書に基づいたクラスタ分析を行い、特に研究開発が進む技術領域を明らかにした。

例えばSDG13(気候変動)では、蓄電技術や太陽光・風力発電設備に関する技術等がクラスタとして顕在化する等、今後の研究開発や投資判断のヒントとなり得る結果も得られた2

その他ゴール含め、詳細については各パートを参照されたい。
 

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SDGsに貢献する技術や企業が正当な評価・賞賛を獲得し、技術イノベーションが促進される世界創りに向けて

今回の調査・分析で採用したアプローチにより、上記のような一定の結果は得られた一方、例えば社会課題色が強く技術関連性が低い用語は必ずしも特許文書中に記載されておらず、捕捉しきれない特許文書が存在し得るなど、一定の課題も残る。今回の調査結果を教師データとした機械学習モデルの構築など、調査・分析アプローチについては発展的に精度を高めていく必要がある。

また、企業やESG投資家の投資判断に資するインサイトを強化していくために、分析結果の応用も検討していく。例えば時系列分析を加味した、注目すべき技術領域変化のモニタリングや、スタートアップの投資動向との掛け合わせによる技術領域毎の投資額の可視化など、引き続き工夫を重ねていく。

本取組みの有効性を高め、「SDGsに貢献する技術や企業が正当な評価・賞賛を獲得し、技術イノベーションが促進される世界創り」の一助としていく為に、今後は特に企業やESG投資家、アカデミアの方々との広範な連携を模索しながら、挑戦を続けていきたい。

 

脚注

1. テキストマイニングとは、定性情報である文章を定量的に扱うための分析手法のことを指す。

2. DWPI(Derwent World Patent Index:世界50以上の特許発行機関のデータをカバー)の、最先の優先権主張日が2015/09~2020/08までの出願データを基に分析

 

>> レポート全文はこちら [PDF, 2.8MB]
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