30代イントレプレナーが
描く日本再興戦略とは

PROFESSIONAL

  • 斎藤 祐馬 デロイト トーマツ ベンチャーサポート 代表取締役社長

  • 棚橋 智 デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 パートナー
    Monitor Deloitte Business Produce リーダー

日本企業のグローバル競争力が大きく後退した「失われた30年」。それでも今、日本企業の可能性を信じてチャレンジを続けるファームがある。日本に大規模な事業基盤を有しながらも、グローバルなプロフェッショナルファームの一員として大企業とベンチャーとの“化学反応”を促し、世界で同時多発的に事業創りを仕掛けているのがデロイト トーマツ グループだ。社内外から起業・事業開発・Exit等の経験者及び意欲溢れる人材を集結させ、従来型コンサルティング/アドバイザリーの限界を突破しようとする彼らは、日本経済を変革する「カタリスト」として、新しい形の日本企業のイノベーション創造に取り組む。

デロイト トーマツ グループ1.4万人の組織において、30代半ばでデロイト トーマツのイントレプレナーとしてリーダーシップを発揮するデロイト トーマツ ベンチャーサポート斎藤祐馬社長と、デロイトのグローバル戦略コンサルティング部隊であるモニター デロイトの棚橋智アソシエイトディレクターに聞いた。

従来型の新規事業コンサルは価値を失った

──今、多くの大企業が新規事業開発や、ベンチャーへの出資に意欲的です。

斎藤 私は2010年からベンチャー支援に関わってきましたが、この10年でベンチャーを取り巻く環境は劇的に変わったと感じています。

当時は有望なスタートアップでさえ、大企業に出資を呼び掛けてもほとんど興味を示してもらえませんでした。大企業の社内でも新規事業開発を手がけてはいたものの、経営課題としてあまり重視されてはおらず、多くはサブテーマとしての位置づけでした。ところが今では、大企業は既存事業の延長だけでは未来がないという危機意識を強く持つようになっています。ベンチャー企業への出資や買収への意欲も活発で、有望企業や起業家は奪い合いになるような状況です。社会の意識が一変したことで、今や日本は世界一起業しやすい国になったといえるでしょう。

棚橋 かつては若手任せだった新規事業開発を、「本業を創り出すチャレンジ」として経営のメインテーマに据える大企業が増えてきています。社内外から優秀な人材を集め、以前なら考えられない規模の投資で推進する例も出てきています。

しかし、このままでは2020年を境にかなり厳しい現実に直面するのは間違いありません。

既存事業を回すことには長けていても、不確実性が極めて高い新規事業をゼロから組み立てて、スピード感を持って実行できる人材はこの10年続いているベンチャーブームで大企業内では絶滅危惧種。ほとんどの人材が大企業以外で活躍しています。そこで、新規事業開発を専門とする外部コンサルタントを起用したり、有望なベンチャーを買収する……といった対策も講じられていますが、これも十分に機能しているとはいえません。というのも、大企業と一緒にゼロから創業して事業を拡大させた経験や、トラディショナルな組織の意思決定構造を深く理解できる人材やチームが欠乏しているからです。
今の日本の大企業では、スタートアップやベンチャーという「異分子」を受け入れ、彼らとシナジーを発揮し、人材として成長させていくことは、神業的に難しいのです。

斎藤 大企業は優秀な人材やアセットを豊富に持つ一方で、意思決定には時間がかかることも多く、その過程で新鮮味も大胆さも失われてしまうことがあります。せっかく起業家精神を持つ優秀な人材がいても、こうした大企業特有のハードルに嫌気がさして、会社を辞めて自分で起業しようとする人も相次いでいます。大企業はせっかく新規事業に投資しても、うまくいかないばかりか優秀な人材まで失う結果に終わってしまうのです。

棚橋 多くの大企業は既存事業が今後も稼ぎ続けることを前提とした持続的な成長の姿を描いてきましたが、Amazon Effectを代表とする「破壊(Disruption)」に対してあまりに受け身です。昨今、企業にとっての最適なイノベーション投資配分の比重が大きく変化しています。これまでは既存事業に近い領域=「既知の領域」で決まりきった競争相手との“改善合戦”が経営者の主戦場だったところから、既存事業から遠い領域=「未知の領域」で、遭遇したことがない相手との“価値創出合戦”も主戦場に加わりつつあります。まさに早稲田大学の入山章栄教授が翻訳された「両利きの経営」時代の到来です。

ベンチャーと大企業の創発が突破口になる

──両利きの経営の実現のカギはなにでしょうか。

棚橋 日本企業が苦手な未知の領域では、「競合企業のベンチマークを通じて正解を絞り込んでいく」という既知の領域での王道の戦い方から脱却する必要があります。“既知”の領域では、前例を踏襲した「改善/KAIZEN」中心だったのに対して、“未知”の領域では、拠り所がない「決断/KETSUDAN」が求められることが多くなります。それには、大企業とベンチャーが、お互いの強みと弱みを補完し合うことが有効です。なぜなら、しがらみの少ないベンチャー企業が有する機動性は強力なエンジンになりますし、グローバルを含めたマーケットへのリーチ力は大企業ならではの強みです。こうした互いの強みを掛け合わせることで、大きなエネルギーが生まれます。

斎藤 ただ、当事者同士で暗中模索するのは効率的とはいえない場面もあります。必ずしもベストな組み合わせではないかもしれないし、途中で方向性の違いが顕在化することもある。そこで、世界中のネットワークから最適なマッチングを発見し、それぞれが持つポテンシャルを最大限に引き出し、掛け合わせながら、より大きな果実を生み出す「カタリスト」的な存在が必要になります。大企業とベンチャー企業だけでなく、政府や自治体といった「官」への働きかけも大きな力をもたらします。社会を変えていくには各プレーヤーがバラバラに動いていてもだめで、生態系のように連鎖させていくのが効果的です。

例えば、2020年からのオープンイノベーション促進税制は分かりやすい例ですね。産官学にとってのカタリスト(触媒)として我々が機能することで、挑戦者が社会を変革していくエコシステムを活性化していきたいと考えています。

──大企業のイノベーションを阻んできた「実行力の壁」も乗り越えられますか。

棚橋 そこには動的な「カタリスト」として、従来型の新規事業コンサルとはまったく異なる形で事業創出&収益化(=Business Produce)に挑んでいます。コンサルタント、加速支援者やアドバイザーとしての役割にとどまるのではなく、あくまで当事者として事業創造を通じた収益化に挑むスタイルです。具体的には、経営チームを担う人材をデロイト トーマツが送り込んで会社の次なる本業になる領域を見極め、同時多発的にビジネスを立ち上げています。もちろん、リソースの調達や意思決定のスリム化など事業立ち上げ以外のイノベーション組織化に向けた各種機能の高度化支援をステージに応じてアドオンで提供していきます。ステージは日本にとどまらず、海外で立ち上げた新規事業会社に30代前半ながらCOOとして参画しているメンバーもいます。

イントレプレナーとして、共に事業を動かしていく

──コンサルティングファームが新事業をリードしていくとは驚きです。そこまでの自信があるということですか。

斎藤 新規事業は「Jカーブ」といって、アルファベットの「J」のように落ち込む時期を経るのが一般的。なので、あまり早々に失敗の判断を下してしまうと、有望なビジネスの芽を摘んでしまうことになります。ただ、それを若手社員が訴えても、なかなか聞き入れられないこともあるでしょう。グローバル規模でのイノベーションのケイパビリティを基に、想定されるトライ・アンド・エラーと成功までの道筋やプロセスに応じたKPIを示すことで、早すぎる評価を防ぐことができます。挑戦する人=イントレプレナーが社内でつぶされないようにすることも、私たちの重要な役割だと考えています。

棚橋 市況が極めて不透明な今だからこそ、次世代の本業を生み出すための“聖域なき”Business Produceがマッチします。現在、デロイト トーマツでは私が所属するモニター デロイト※1と、斎藤が代表として率いるデロイト トーマツ ベンチャーサポート※2が中核となり、1.4万人組織であるデロイト トーマツとクライアントとの共創型のイノベーション/Business Produceを多数リードしています。

──共にビジネスを開拓するパートナーとしての存在は心強い半面、顧客企業の依存を生みませんか。

斎藤 「新規事業の成功」だけを目的にしてしまうとそうした可能性があるので、若手リーダーの育成プログラムを並走させています。新規事業を指揮する若手社員に対し、企業全体を率いるスキルを養成するのです。

大企業には次世代ビジネスを開拓できる優秀な若手が多くいるものの、まだ巨大な組織を指揮できる意思決定力やリーダーシップを持つには至っていません。今のトップが思い切った世代交代を図りたくても、若手に必要なスキルが不足している状況もあります。また、今の大企業は、トップも幹部も失敗経験がない、もしくは少ない方々で占められがちです。大企業に蔓延する「失敗してはいけない」というマインドセットが、今の日本の企業や経済の閉塞感にもつながっているのではないでしょうか。これを打破するのは、新しいビジネスにチャレンジし、失敗も経験した「新規事業出身」の若手・中堅社員たちです。

私たちはBusiness Produce事業を通して、若手幹部候補にファイナンスやリーダーシップといった経営に不可欠なスキルを身につけてもらい、経営者へと引き上げていきたいと考えています。具体的には、2030年までに30代の社長を300人、大企業から輩出させるという目標を掲げています。また、私たち自身も社内でこうした取り組みを推進しています。具体的には、今年から新規事業社内公募プログラム「D-nnovator」を立ち上げました。

これは、イノベーションにつながる新たな事業・サービスをグループ内で公募し、事業化を行い、自ら変革をリードするという試みで、予想をはるかに超える応募が集まり、手ごたえを感じています。

世界最高峰の“次世代経営人材の輩出工場”を目指す

──日本再興に向けたデロイト トーマツの真価とは。

棚橋 鉄道、損保、インフラ、メディア、輸送機器メーカーといったそれぞれの業界のリーダー企業様と共創し、2030年以後を見据えたBusiness Produceプロジェクトが多数走っています。デロイトには、「Scaling the edge(新規事業=EdgeがScaleして次代の本業になる)」というコンセプトがあります。大企業にとっての新規事業は短期的に収益を追求するためのものだけでなく、10年後の自社のあるべき姿を先取りするものです。

繰り返しになりますが、今、日本の経済社会が渇望しているのが、大きな組織の中で躍動するイントレプレナーです。欧米だけでなくアジアでも30代の大企業のトップや閣僚(台湾のデジタル担当大臣であるオードリー・タン氏は35歳で閣僚就任)が次々に誕生しているのに比べて、日本では国家や大企業や大きなコミュニティを率いる次世代リーダーが圧倒的に少ない。これからのデジタルが進展する社会の中で、見方を変えれば日本再興の鍵はここにあります。私たちが掲げているビジョンに共鳴した、ミレニアル世代(Under40世代)のイントレプレナーコミュニティができつつあります。このムーブメントを拡げ、イントレプレナーシップを持つ人材を日本の経済社会に大量に生み出すことができたら、これまで日本人が誇ってきたおもてなしの心、緻密さや謙虚さと掛け合わせることで、もう一度、日本発で世界を圧倒できる、驚かせられるでしょう。このビジョンに共鳴下さった方と、是非一緒に2020年からの日本再興の歴史を作り上げたいと思います。

──御社が目指す社会とは。

斎藤 これまで「ユニコーン」は時価総額1000億円程度が目安とされてきましたが、これからは1兆円規模の大企業発のメガベンチャーがイノベーションをリードしていく社会になるでしょう。イントレプレナーとして社内起業を経験した若手トップが大企業を率いるようになれば、まず社内の空気が変わり、世界で勝てる力を生み、それが日本経済の再興につながります。これまでユニコーン企業が少なかった日本に、メガベンチャーが続々誕生する未来をつくりだすことが、私たちの使命なのです。

※1 モニター デロイト:2013年にデロイトが買収したグローバル戦略コンサルティング部門である「モニターグループ」を基盤とする。イノベーション戦略領域でのコンサルティング企業として2年連続No.1の評価をグローバルで獲得(ALM Research: Innovation Strategy Consulting Global Landscape <2018>)。

※2 デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社:国内外の3000社を超えるスタートアップとの密なネットワーク基盤を強みとしながら、オープンイノベーション支援・CVC支援・IPO・Exit支援等、スタートアップの成長に必要な支援メニューを取りそろえ、大企業とスタートアップのマッチングで成果を上げ続けている。

(構成:森田悦子 編集:奈良岡崇子 写真:大畑陽子 デザイン:堤香菜)

NewsPicks Brand Design制作
※当記事は2020年3月24日にNewsPicksにて掲載された記事を、株式会社ニューズピックスの許諾を得て転載しております。役職・職位等は掲載当時のものです。

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