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2017年度 連邦予算案 ハイライト

Canadian tax alert

2017年3月22日

1. 基本方針

  • 3月22日午後、モルノー財務大臣は下院にて2017年度予算を提示した。昨年度に続き、中間層の支援、経済成長及び雇用創出を主題としている。
  • 政府は、先進製造業、農業食品、クリーンテクノロジー、デジタル産業、ヘルス/バイオサイエンス、クリーン資源の6つの主要分野を対象に“イノベーション/技能支援プラン” を導入した。
  • 予算では、さらにイノベーションのサポートとクリーンテクノロジー産業を助成するための多くのプログラムを掲げている。このプログラムには、イノベーションに取り組むカナダの企業家を支援する “Innovation Canada” の設立や、ビジネス主導型の ”Superclusters” への投資、イノベーションの研究や開発を支援する基金 “Strategic Innovation Fund” の新設、ベンチャーキャピタルを推進するための新たな取り組み “Venture Capital Catalyst Initiative” の着手、クリーンテクノロジー企業への融資等が含まれている。
  • 政府は税制優遇に内在する不平等をもたらす抜け道を解消することを表明している。さらには、カナダ歳入庁(Canada Revenue Agency)に対してこれまでの投資に加え、今後5年に渡って523.9百万ドルを追加投資し、脱税防止と税法遵守の改善を支援することを提案している。

2. 財政見通し

  • 2016年度の財政赤字は230億ドルと見込んでおり、それに対し2017年度は285億ドルの財政赤字が予想されている。財政赤字は徐々に減少し、2021年度までには188億ドルになると見込まれている。
  • 2017年度の連邦債務対GDP比は、およそ31.6%になると予想されている。2021年度にはこの比率を30.9%まで引き下げる計画である。
  • GDPは2017年に1.9%成長し、2018年に2.0%成長することが見込まれている。
  • 消費者物価指数上昇率は2017年に2.0%まで上がるが、その後数年は安定した状態が継続すると見込まれている。
  • 2017年の失業率は6.9%と見込まれており、2021年までに6.4%まで引き下げることを目標としている。

 

以下は日系企業に関係があると判断した改正のみを抜粋しております。

3. ビジネスに関する税制改正

1) 事実上の支配概念の拡大

 ある法人が税務上の関連会社かどうかを判断する際などに、事実上の支配(de facto control)が考慮される場合がある。事実上の支配とは、法人が法人をコントロールしているかどうかを法形式だけではなく事実に着目して判断する基準である。これまでの裁判における判決では、事実上の支配を有すると考えられる場合には、法的強制力をもって取締役会またはその権限を変更する権利がある、もしくは、そのような権利を有する他の株主に影響を及ぼす権利があることが必須とされていた。これにより、事実上の支配として判断されることが限定的になっていた。
 今回の予算では、最近の判例を受けて、事実上の支配(de facto control)の法的意味の拡大が提案されている。具体的には、上記のような条件に縛られず、事実上の支配の検討がなされることを可能にすることが提案されている。改正は、2017年3月22日以後に開始する税務年度から適用される予定である。

2) 国際的な租税回避の阻止

 今回の予算では、カナダは経済協力開発機構(OECD)への協力と税源浸食と利益移転(BEPS)への取り組みのために、従来からの予想どおり、2016年11月24日にリリースされた多国間協定(Multilateral Instrument:MLI)の署名を進めていることを示唆している。MLIは、それぞれの国同士の租税条約に関する二国間交渉なしに、複数国の租税条約の特定の条項を同時に変更する事を可能にする。

3) 非公開企業を利用したタックスプランニング

 政府は、非公開企業を利用した税制上の優遇措置を利用することで、課税上、不公平と認識される可能性があるタックスプランニングに関して、問題の概要や制度変更に関する政策を公表する予定である。現状では、高所得者が非公開企業を利用することで様々な節税戦略が可能となっているが、多くのカナダ人は利用できず、高所得者のみに有利な税制優遇制度が存在している。

4) カナダ探鉱費用:油田、ガス田の探鉱

 これまでに知られていない石油又は天然ガスの埋蔵地(“discovery well” と呼ばれる新しい貯蔵地の最初の鉱泉)の発見をもたらす掘削に関する支出は、カナダ探鉱費用(CEE:Canadian Exploration Expense)として取り扱われている。CEEは、発生年度に全額を所得から控除することができる。一方、discovery well以外の鉱泉に関する掘削に関する費用は、カナダ開発費用(CDE:Canadian development expense)として取り扱われる。CDEは、年30%の定率法ベースの控除が認められている。
 通常、収益を生む資産の取得に関連する支出は資産化され、その資産の経済的耐用年数で償却される。CEEとされる一部の支出は、事業の成功とより明確に関連付けられていると言われている。特にdiscovery wellの掘削に関連する支出は、その鉱泉が通常、石油やガスの生産にそのまま使用でき、実際にもしばしば使用されるという状況にもかかわらず、現在CEEとして扱われ、発生年度での課税所得からの控除となっている。
 このため予算は、2018年12月31日以降に発生する掘削または油田発見に関連する支出について、2017年3月22日までに納税者がそれらの支出を負担する事を書面で契約していない限りは、カナダ探鉱費用(CEE)ではなく、カナダ開発費(CDE)に分類することを提案している。

5) フロー・スルー株式の投資家が放棄した費用の再分類

 フロー・スルー株式契約の下では、資源会社で発生したカナダ開発費用(CEE)やカナダ開発費用(CDE)を、フロー・スルー株式を保有する投資家に移転し、その課税所得から控除することができる。CEEは発生年度に全額課税所得から控除することができ、CDEは30%の定率法で償却を行うことができる。現状、適格小規模石油ガス会社(カナダで用いる課税資本が15百万カナダドル以下の会社)が、フロー・スルー株式契約の下で株主に移転するCDEは、最初の1百万カナダドルまで、CDEとして扱うことが可能であった。しかし、予算では、2018年以降、適格小規模石油ガス会社が負担するCDEとして認定される費用で、フロー・スルー株式に対する投資家に移転される費用は、もはやCEEに組替えることはできなくなることが提案されている。なお、これに関して制度移行時の救済措置が提供されている。

6) クリーンエネルギー発電装置への税制優遇:地熱発電 

 予算は、熱と電気の両方を生産する地熱発電の開発と利用をさらに促進するために、地熱発電に関する設備投資等に対して、税務上の加速度償却(Accelerated capital cost allowance)の対象資産の拡大を提案している。また、税務上の恩典が受けられるカナダ再生可能保全費用(Canadian renewable and conservation expense)の対象範囲を拡大し、地熱資源の範囲や品質の調査や地熱資源の掘削にかかる費用も対象とすることを提案している。

7) デリバティブの損益認識のタイミング 

① 時価評価の選択的適用

 これまでは、納税者が収益計算の一般原則のもとで、収益勘定で保有しているデリバティブを時価評価できるかどうかについての不確実性があった。最近の連邦控訴裁判所の判決で、時価が納税者の所得の正確な実態を提供しているとの理由に基づき、金融機関ではない納税者が、時価評価法を使用することを認めた。時価評価法は多くのメリットがあるが、納税者は帳簿と税務上の調整が不要になり、政府にとっても、納税者が税務目的でデリバティブ損益を認識できる年度をコントロールできなくなることで、選択的な損益認識の可能性を排除できるというメリットがある。
 これを受けて予算では、時価評価法の選択が租税回避行為にならない事を明確にするために、時価評価の選択適用のためのフレームワークを提供し、納税者が収益勘定に保有する特定の適格デリバティブについて、時価評価法の選択適用を容認することを提案している。時価評価法を選択すると、選択年度以降すべての年度に適用となる。この取扱いは、2017年3月21日以降に開始する課税年度より適用可能である。

② ストラドル取引

 ストラドル取引は、納税者が同額かつ相殺的な損益が予想される2つ以上のポジション(通常はデリバティブ)の売買を同時に行う取引である。この取引を行った場合、課税年度末の少し前に、発生した損失ポジションの処分により損失を実現させ、翌課税年度の開始直後に相殺ポジションの処分により利益を実現させることができた。この結果、納税者は、前の課税年度に実現損失を他の所得から控除する一方で、次の課税年度まで対応する利益の認識を繰延べることができた。2つのポジションは損益的に相殺されるにもかかわらず、利益認識のみを先送りが可能であった。
 今回の予算では、2017年3月21日以降に締結されたポジションについて、租税回避防止ルールが適用されることが提案されている。具体的には、ストラドル取引に関して、まだ処分されておらず、時価評価の対象にもならない相殺ポジションの未実現利益がある場合は、対応するポジションの処分から生じた損失の実現を認めない予定である。

8) 育児スペースに関する投資税額控除の廃止

 現時点の育児スペースの投資税額控除は、認可育児施設の育児スペースを建設または拡張するために発生した費用に対して25%のノンリファンダブルな(税額がゼロになるまでしか控除できない)税額控除制度である。当該施設は、納税者の従業員の子供のためで、納税者の事業に付随するものでなければならなかった。
 今回の予算では、2017年3月21日以降に発生した支出については、育児スペースの投資税額控除を廃止することが提案されている。2017年3月22日以前に書面で締結された契約については、2020年までに発生する支出は引き続き税額控除の対象となる。

9) 医薬品の寄付に関する追加控除の廃止

 現在は、企業が登録慈善団体に寄付を行う場合は、一定の制限のもと、課税所得からの控除が認められている。これに加えて、企業が自社商品の医薬品を登録慈善団体に寄付を行う場合、寄付した医薬品の「原価」と「公正価値が原価を上回る金額の50%」のうち、低い金額を追加で控除申請できる。
 予算は、2017年3月21日以降になされる医薬品の寄付に対する追加控除を廃止することを提案している。なお、この追加控除部分を廃止するのみで、医薬品を含む通常の寄付に関する税額控除には影響しない。

10) 請求ベースの会計

 納税者は、通常、進行中の業務の対価を課税所得計算に含めることが要求される。しかし、一部の指定プロフェッショナル(弁護士、会計士、医者、歯科医、獣医、カイロプラクティック医)は、進行中の業務の対価を課税所得計算から除外することが選択可能である。当該選択により、作業の対価を請求した段階(請求ベースの会計)で所得を認識することができた。収入に対応する支出のみを課税所得計算に含めることができ、課税の先送りが可能になっていた。
 このため、予算では2017年3月21日以降に開始される課税年度において、当該規定を廃止されることが提案されている。移行措置として、従来は所得計算から除外されていた進行中の業務に関する対価を、段階的に所得計算に含めることが提案されている。

 

4. 個人に関する税制改正

1) 障碍者税額控除

 障碍者税額控除を受けるためには、認定された医療関係者の証明が必要である。予算では2017年3月22日以降、認定医療関係者のリストに看護師を追加することを提案している。

2) 不妊治療費に関する税額控除

 不妊治療に関係する費用の多くはすでに医療費控除の対象であるが、この範囲を拡大する提案が行われた。この規定は2017年以降の10課税年度のうち、選択した課税年度に対して適用される。

3) 介護税額控除

 予算では、介護者が利用できる3つの税額控除(身体が虚弱な要介護者に対する控除、介護控除、家族介護控除)は、カナダ介護税額控除(Canada Caregiver Credit)に統合することが提案された。カナダ介護控除による控除可能額は、以前の3つの控除で利用できる額と同額である。ただし、成人した子供と同居している身体が虚弱でない高齢者は、この税額控除を利用することができない。

4) 鉱物探査に関するフロー・スルー税額控除

 フロー・スルー株式は、資源会社がカナダの資源開発活動に費やした税額費用を、フロー・スルー株式を保有する投資家に移転し、その課税所得から控除することができる制度である。鉱物探査税額控除は、フロー・スルー株式により資源会社に投資した個人に対して追加の税額控除を提供している。具体的には、フロー・スルー株式制度のもとで、資源会社から投資家に移転される特定の鉱物探査費用の15%を投資家は追加で税額控除できる。
 予算では、2018年3月31日以前に締結されたフロー・スルー株式契約について、追加税額控除の対象をその翌年に発生する費用にも拡大することが提案された。現在のLook-back ruleと呼ばれる制度では、フロー・スルー株式で資金調達した年と翌年の費用を、資金調達した年の費用として控除することができるが、上記の税額控除についても翌期に発生した費用まで対象とすることを提案している。

5) T4のペーパーレス化

 予算では、2017年課税年度から、従業員の事前の同意なくT4(源泉徴収票)を電子的な方法で配布することを認めることを提案している。この効率化を目指す改正においては、プライバシー保護の措置も考慮される。

6) 授業料税額控除

 授業料に関する税額控除となる対象の拡大が提案されている。大学や他の中等教育後(日本でいう高校卒業後)の教育機関で提供される職業訓練コースで、中等教育後の教育機関のレベルにないものは、従来は授業料税額控除の対象ではなかったが、予算では、2016年以降に履修される税制適格な当該コースの授業料は税額控除の対象とすることを提案している。この変更により税額控除の対象となる学生は”税制適格な学生”となり、2017年の奨学金収入は免税の対象となる予定である。

7) 住宅移転ローンに関する控除

 住宅移転ローンに関する控除(従業員が新たな仕事を開始するために新しい住居を取得するためのローンで、新しい住居が少なくとも古い住居よりも40km職場に近くなるもの)は2018年以降、廃止することが提案された。

8) 公共交通機関税額控除

 公共交通機関税額控除(適格公共交通機関を利用時の費用に対する15%の税額控除)は、2017年7月1日をもって廃止することが提案された。

9) 租税回避行為防止ルール(Anti-Avoidance rules)の拡張

 登録退職貯蓄制度(RRSP)、登録退職所得基金(RRIF)、非課税貯蓄預金(TFSA)に適用可能な租税回避行為防止ルール(過度な税務ベネフィットの享受を排除する仕組み)を登録教育貯蓄プランや登録障害貯蓄プランにも拡張することが、予算で提案されている。いくつかの例外はあるが、この提案は2017年3月22日以降に発生した投資や取引に適用される予定である。

10) エコギフトプログラム

 エコギフトプログラムは、カナダの生態学的に重要な環境遺産を保護するために、対象となる土地やその地役権等の寄附(エコギフト)に特別な税制優遇を与える制度であるが、この取組みを強化するためにいくつかの変更が提案された。

  • 組織間で土地の寄附(エコギフト)が行われた場合、その土地が別の目的で使用されないことを確実にするために、譲受人が環境気候変動当局 (Environment and Climate Change Canada) の許可なく土地の使用用途を変更したり、不動産を処分したりすると土地の公正価値の50%の税金を課されることが提案された。
  • 現状、特定慈善団体はパブリック基金とプライベート基金に区分される。プライベート基金の役員の大部分は、他の組織から完全に独立した運営は行われていない。さらに、プライベート基金に対する寄附は、通常は基金を支配しているグループや個人からのものである。プライベート基金が上記のエコギフトを受け取ることができるが、潜在的に利益相反についての懸念があり、プライベート基金のエコギフトの受取りを認めないことが提案された。

11) 議員・特定の役人に対する手当

 地方自治体の議会に選出された議員等に対する一定の手当(使途報告不要)は、2019年より課税対象となる。なお、特定の費用の払戻しは非課税のままである。

5. 売上税及びその他の税に関する改正

1) タクシーとカーシェアリングサービス

 現状では、タクシー運営者は、料金に対してGST/HSTが課税されているが、商業的なカーシェアリングサービスについては、タクシービジネスの定義に合わないとして、タクシー運営者が課されているGST/HSTの対象となっていない。予算では、タクシーとカーシェアリングサービスの取り扱いと平仄をとることを目的として、2017年7月1日よりタクシーサービスに関する定義を変更し、カーシェアリングサービスの料金に対してもGST/HSTを課税するようにルールを修正することが提案されている。

2) パッケージツアーに含まれる宿泊料金に関するGST/HSTの非居住者への還付

 適格パッケージツアーに含まれる宿泊料金に関するGST/HSTの非居住者への還付を廃止することが提案されている。この還付は2018年1月1日より前に料金全額の決済が完了しているものについては、継続される。

3) たばこ税

 たばこメーカーの利益に課せられている10.5%の付加税を2017年3月23日より廃止する一方で、たばこ製品に掛けられている物品税を増加させることが提案されている。

4) 酒税

 2017年3月23日より酒類の物品税を2%引き上げることが提案されている。また、2018年からは、毎年4月1日に当該税率を消費者物価指数に応じて自動的に調整する事が提案されている。

5) 後発開発途上国からのマーケットアクセスの改善

 さらに多くのアパレル製品を後発開発途上国から無関税で輸入することを可能にするために、カナダの関税制度における原産地規則の改定が提案されている。

6) 輸入システム強化施策
 2017年度予算において、カナダの輸入システムを強化し、WTO規則におけるカナダの義務の遵守を確かにするために、特別輸入措置法(Special Import Measures Act)及び関連規則の修正が提案されている。

詳細は財務省のウェブサイトを参照ください。

本内容は、デロイトカナダによって配信されたCanadian tax alertと連邦予算 租税措置 (Tax Measure)を参考に、日系企業の皆様に関係すると思われる箇所を抜粋し、取り纏めた日本語参考訳です。本和訳はあくまで便宜的なものとしてご利用頂き、詳細については原文(英語版)をカナダ政府公式ウェブサイトこちらよりご確認頂くようお願い致します。

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