調査レポート

国内植物工場を取り巻く現状と今後の展望

日本の植物工場ビジネスは周辺事業も含めると2025年には、6,700億円の市場規模が予想

2014.08.18 - 1970年代後半にオランダの植物工場が日本に輸入されてから30年以上を経て、ようやく日本独自の植物工場モデルの雛形が確立された。これは日本の強みである農業×工業の異業種融合の結果であり、この新しい日本モデルを広げ、さらに精度を上げて国内外に普及・拡大していくことが重要となる。

植物工場には2つのタイプがあり、事業者数も異業種からの参入も含めて増加

著者: 
有限責任監査法人 トーマツ  マネジャー  早川 周作
デロイト トーマツ コンサルティング株式会社  マネジャー  大和田 悠一

●植物工場の2タイプ

まずはじめに、植物工場のタイプは、太陽光型(併用を含む)と完全人工光型の2種類がある。

太陽光型は、温室等の半閉鎖環境で太陽光利用を基本として、雨天・曇天時の補光や夏季の高温抑制技術等により周年・計画生産を行う方式で、レタス類、ホウレンソウ等の葉野菜類に加えて、トマト、イチゴ等を中心とした果菜類も栽培に適していることが特徴の1つである。また、平面(1面)で栽培するため、栽培面積確保のために敷地面積の拡大が不可欠であり、土地コストの安い地方での設置適性が高いのが特徴である。

一方、完全人工光型は、太陽光を使用せず閉鎖環境を制御して周年・計画生産を行う生産方式で、レタス類、ホウレンソウ等を中心とした葉野菜類(果菜類は極めて限定的)の生産が多い。多段栽培による栽培面積確保が可能となり、土地面積当たりの収量が多く、大消費地に近い(流通コストが低い)都市部等での設置適性が高いのが特徴である。

●事業者数

植物工場の事業者数は、2009年の農地法改正、および経済産業省、農林水産省による植物工場普及・拡大総合対策事業をきっかけにして、2013年には177戸となり、特に製造業などの異業種からの新規参入が増えている。

その背景には、「技術(栽培、設備)の進歩」、「生産管理手法の確立」、「コスト(栽培施設、設備などのイニシャルコスト、光熱費、人件費、物流コストなどのランニングコスト)削減」により、農業関連以外の事業者が参入する土壌が整ってきたといえる。

“実証から普及ステージへ”:栽培技術、生産管理ノウハウ、コスト競争力が普及レベルにまで成長

植物工場の第1次ブームであった1980年代、第2次ブームであった1990年代、2009年以降の第3次ブームを経て、ようやく普及ステージに入ってきたと言えるであろう。

●第1~2次ブーム:実証ステージ

第3次ブーム以前は、外食、食品メーカー、生鮮卸事業者などが原料の安定調達の手段として参入するケースが多かった。

しかし、これらのケースでは、①栽培技術が未確立(農業の視点)、②生産管理手法が未確立(工業の視点)、③生産能力に見合った販売先の未開拓(商業の視点)、などの理由により、生産事業から撤退するケースが多く散見された。

●第3次ブーム:普及ステージ

第3次ブームに入り、国や地公体の補助金などを利用して、オランダ等の施設園芸先進国等の技術事例などを積極的に取り込むことにより、植物工場での栽培技術や生産管理手法は飛躍的に進歩した。それと同時に異業種の参入が相次ぎ、農業分野からの参入では解決が困難であった課題が徐々に解決され、最近ようやく普及ステージへの扉が開かれた。

成功要因も含めて、下記で普及ステージの事例を2つ紹介する事とする。

(事例1 ) 大手自動車会社

(事例2 ) 大手電機メーカー

終わりに:日本の植物工場ビジネスは周辺事業も含めると2025年には、6,700億円の市場規模が予想

2025年には野菜自体の生産だけでなく、生産するための設備・プラントも含めると6,700億円の市場規模が予想され、一大産業が形成されつつある。

1970年代後半にオランダの植物工場が日本に輸入されてから30年以上を経て、ようやく日本独自の植物工場モデルの雛形が確立された。これは日本の強みである農業×工業の異業種融合の結果であり、この新しい日本モデルを広げ、さらに精度を上げて国内外に普及・拡大していくことが重要となる。

なお、本文中の意見や見解に関わる部分は私見であり、様々な論点や視点があることをお断りしておく。

図表1 国内の植物工場関連市場規模は、2025年に6,700億円規模まで拡大

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