ナレッジ

航空運送業における会計上の主要論点

航空機の整備と整備関連費用の会計処理

航空会社において主要なコストの1つである整備関連費用に関する会計処理について検討します。 著者: 有限責任監査法人 トーマツ 航空運輸事業ユニット 公認会計士 野川澪

はじめに

航空会社における主要なコストは機材関連費用(減価償却費やリース料)や、燃油費、人件費、整備関連費用等です。本稿では、そのなかでも整備関連費用に関する日本基準の会計処理について検討していくものです。なお、本文中の意見に関わる部分は私見であり、デロイトトーマツ グループの公式見解ではなく、また会計処理は個別の状況に応じて異なる可能性がある点をお断りします。

 

航空法と航空機整備

非常に多くの乗客を乗せて重力に逆らって飛行する航空機は、一つの事故が大惨事に繋がってしまうおそれがあるという点で、自動車や鉄道など他の輸送手段と異なります。そのため、航空機には他の輸送手段に比べてより高い安全性が要求されています。
特に、航空会社にとって、安全運航の要となるのが航空機の整備です。航空法では安全性の維持及び管理のために、航空会社に対して、整備に関する規程を策定し国土交通大臣の認可を受けること、認可を受けた整備規程に従って整備を実施することを義務づけています。
 

航空機整備の分類

航空法では、航空機の整備の方式について、定例整備、非定例整備および特別整備の3つに区分して規定されています。
このうち定例整備とは、機体、エンジン、APU(補助動力装置)やランディングギアなどの重要な装備品に対して、その飛行時間や飛行回数に応じて定期的に実施される整備を言います。
一般的に定例整備はその段階別に以下のように分類されています。 

定例整備の分類表

各航空会社は、航空法に従って、このような定例整備を定期的に実施することで安全性を確保しています。

ところで、上記の整備の呼称は航空会社によって様々に用いられており、また、整備項目や整備間隔についても様々に規定されています。
そのため、航空機の整備関連費用に関する会計処理を考える際には、運航計画や整備計画に従って航空機ごとに個別に適切な会計処理を検討することが重要です。
 

各航空会社における整備関連費用の会計処理(1)

それでは我が国の主要な航空会社では、航空機の整備関連費用について、どのような会計処理を行っているのでしょうか。
各航空会社の直近の有価証券報告書には、整備関連費用に関連する会計方針について以下のように記載されています。

 

 

 

 

 

各航空会社の会計方法

※1「機材数」以外は直近の有価証券報告書を参照
※2「機材数」は各社の安全報告書(各社HPに掲載)を参照
 

各航空会社における整備関連費用の会計処理(2)

このように、各航空会社が開示している会計方針によれば、中小の航空会社において、定期整備に関する将来の費用を引当金として計上していることが読み取れます。さらに、一部の中小航空会社においては、リースにより使用している航空機を返還する際に、発生することが見込まれる整備関連費用についても引当金として計上しています。

定例整備と引当金

定例整備のうち、フライトごとに実施されるライン整備や、約1ヶ月ごとに実施されるA整備やB整備は、整備間隔が短く整備を実施した都度、費用処理を行うことが適切であると考えられます。
しかし、約2年ごとに実施されるC整備や、約4~6年ごとに実施される重整備(D整備)は、整備間隔が1年を超えて長期にわたること、また、通常整備費用が多額になりやすいことから、将来の費用を合理的に見積り、見積期間にわたって各期の損益計算に配分することができれば、費用の平準化を図ることができ、より適正な期間損益計算に役立つと考えられます。我が国における航空会社の中でも、中小の航空会社に整備関連費用を引当金として計上している航空会社が多いのは、整備費用が財務諸表に与えるインパクトがより大きいためであると考えられます。

なお、引当金を計上するためには、以下の4つの要件を全て満たす必要があります。(企業会計原則注解18より)
・将来の特定の費用や損失であること
・当期以前の事象に起因すること
・発生する可能性が高いこと
・その金額を合理的に見積もることができること

例えば、将来の整備に関連する費用は、その航空機を当期に運航業務に使用したという事象に起因して発生すると考えられ、事業計画や運航計画に従って初回または次回の整備を実施するまでの間、その航空機を継続して運航業務に使用することが合理的に見込まれている場合には、将来、当該航空機に係る整備関連費用が発生する可能性が相当程度高いと考えることができるかも知れません。

その上で、将来の整備計画や過去の整備実績などに基づいて、将来の整備関連費用の金額を合理的に見積もることができる場合には、将来の整備関連費用のうち、当期に属する金額については引当金として計上するという会計処理の方法が考えられます。

リース機における返還時費用の会計処理と論点

リース機については通常の定例整備のほか、返還時に一定の返還条件を満たすための費用が発生することが想定されます。
航空機のリース契約には通常、返還時における航空機の状態や飛行能力に対する条件が規定されていて、航空会社はリース機の返還時に機体の重整備やエンジンのオーバーホール、装備品等の交換などを行ったり、航空会社側では整備や交換は行わずに契約上の算定方式に基づいて金銭で補償したりします。
このように、リース機の返還に際して返還条件を満たすために多額の費用が発生することがありますが、この返還時費用についても上述の引当金の4つの要件を満たすために、定例整備とは別に引当金として計上している事例があります。
 

関連するサービス

オムニチャネル戦略(航空・運輸業種向け)

多くの顧客を魅了してやまない多様な商業事業を展開する航空・運輸業界。オムニチャネルへの取組みは親子間連携・異業種間連携にまで踏み込み、論理と感性の融合する世界にテクノロジーとオペレーションを適合させ、顧客の「心動」を創生します。

MRO (Maintenance Repair Overhaul)関連サービス

航空機、防衛製品、大規模設備等は、定期的なMRO(Maintenance Repair Overhaul)により求められる稼働率を維持することが必須であり、法的な要件となっている場合が多い。MROには様々な規模や期間のものがありますが、いずれの場合も課題は効率化(短期間、低コスト)です。デロイト トーマツ グループはこの課題解決のために様々なご支援が可能です。

街づくり計画策定支援

一般にハードウェアの新規性で語られがちな都市開発のあり方は既に終わりました。いま求められているのは、生活する消費者、生産者たる企業、公共サービスを提供する行政が有機的に作用しながら持続的な成長を実現する開発です。このようなソフト面にもフォーカスした開発計画の有無が都市間競争の優劣を決めることになります。

 

お役に立ちましたか?