ナレッジ

グローバルビジネスにおける経営管理

グローバル経営に必要な経営管理と実現のポイントとは

グローバリゼーションが深化し、日本企業にも当然のようにグローバル経営が求められているが、課題を抱えて思うような経営が出来ていない日本企業は少なくない。経営管理のあり方をどのように変えていくべきなのか、グローバル企業の経営管理モデルなども交えて解説する。なお、本内容は、中央経済社発行「企業会計 2012年11月号」の一部を抜粋して掲載しており、また、執筆者の私見であることを申し添える。

日本企業に求められるグローバル経営管理

I 日本企業を取り巻く環境の変化

 

 グローバル企業にとって日本市場の位置づけは以前ほどの魅力が薄れ、中国や他の新興国市場にマーケティングの軸足を移してきている。日本企業にとっても同様であり、国内市場が重要な市場であることには変わりはないが、グローバル企業との競争を勝ち抜くには、以前にも増して海外市場が重要視されており、日本企業の売上に対する海外依存度は増加傾向にある。海外進出をしている日本企業は、コストダウンの要請だけでなく、海外でのビジネスを拡大する手段として海外に現地法人を設立してビジネス展開しているが、近年の傾向としてはM&Aによる現地法人の買収なども多く見られる。

 このようなグローバル展開をしている日本企業にとって喫緊の課題は、グローバルレベルのマネジメントを思うように進められていないという点である。海外のグローバル企業と対等に渡り合うには、海外も含めた自グループの経営状態をきちんと把握する必要があるが、海外拠点を含めた意思決定に必要な情報を必要なタイミング、必要な粒度で取得することが容易ではなく、意思決定が遅れてしまっている例も少なくない。決して日本企業がグローバルマネジメントを怠っている訳ではないが、新興国の台頭、技術革新による消費者動向の変化等、これまで以上にスピード経営を迫られている状況になっていることが、この課題をより深刻なものにしている。

 

II グローバル経営管理の課題

 

 日本企業がグローバルレベルのマネジメントを思うように進められない要因は、グローバルでの経営管理体制の基盤整備が不十分なために発生する課題(グローバルオペレーションに関する課題)とガバナンスの欠如や子会社に対するグリップの弱さに起因する課題(子会社コントロールに関する課題)の2つに大別される。

 

1 グローバルオペレーションに関する課題

 海外に展開している拠点数とそれに伴う機能(販売、生産、製造、調達、等)が多くなればなるほど、意思決定に必要な情報を収集するのが複雑化する。たとえば、製造拠点によって生産方式(自動生産、セル生産、ライン生産、等)が異なる、または混在しているため原価計算方法も拠点ごとに異なるケースが普通である。また、得意先ごとにサプライチェーンが異なる場合や、商流や物流が複数国・拠点を跨る場合の移転価格、輸送費、関税コスト、等の捉え方がグローバルで統一されていなければ、採算・業績管理はより困難になる。グループとしての考え方や方針が曖昧なことによって生じるグローバルオペレーションに関する課題がグローバルマネジメントを思うように出来ない要因になっている。

 このような課題は、これまで日本企業が間接部門に対して必要な投資が十分に行えてこなかった、個々の事業や拠点ごとなどの個別単位ごとに部分最適化してきた、などの過去の経緯から、必要な経営インフラ(ルール、人材、システム、等)が整備されていない状況が生じているケースが非常に多い。グローバルオペレーションに関する課題はビジネス環境の急激な変化などの外部要因から生じるケースもあるが、海外のグローバル企業は必要な経営インフラを整備しており、その影響を最小限に留めている。海外のグローバル企業と対等に渡り合うには、グローバル経営の目線から必要となる経営インフラを再定義し、自社の状態に合わせた経営インフラ整備を進めていく必要がある。

 

2 子会社コントロールに関する課題

 海外現地法人の買収、現地法人の設立など海外拠点の強化が進みグループ企業内での海外子会社の重要性が高まり、子会社のコントロールを強化する必要性が急速に増している。また、今後導入が想定されるIFRS(国際財務報告基準)の対応においても海外子会社のコントロールが課題となっている企業も少なくない。しかしながら、海外子会社のコントロールは文化の壁(言語、慣例、等)があり、国内子会社に比べて対応が不十分なことが多いケースが見受けられる。また各子会社で異なる業務運用やシステム運用をしており、グローバルレベルで同じ目線で情報を整理しようとすると多大なる業務負荷が発生してしまう。たとえば、海外子会社からの情報が必要なタイミングで本社に上がってこない、海外子会社から提出される情報を本社で加工・集計する作業が必要となり非効率となっている、などの現象が発生している。

 これらの課題は、子会社に自主自立を促し、経営を進めていたということや買収した企業への強制力を控えてきた背景がある。グループ企業全体の成長を目指すうえで、グループ最適化のための事業再編や人材の強化・育成といった観点も重要な視点であり、こういった施策を実行するためにも子会社のコントロールをどのように強化していくかということは重要なテーマである。

 

III グローバル企業の経営管理モデル

 

 海外のグローバル企業を含め、最近のグローバル企業はどのようなマネジメント形態になっているかについて考察していく。

 一般的によく引用されるモデルとしては、 Bartlett and Ghoshal (1989) による「グローバル型」「インターナショナル型」「トランスナショナル型」「マルチナショナル型」の4分類が有名だが、20年以上も前に提唱されたものであり、近年のグローバル企業を当てはめてみるとこの4分類にきれいに分類される例は少ない。実際にはグローバル企業はマネジメント形態の試行錯誤を繰り返し、それぞれの分類を行き来しながら、その境目にポジショニングされる場合が多く、近年では「地域分権型」「本国集権型」「グローバル一体型」の3つに大別されると考えられる。

 

1 地域分権型

 進出先のマーケットに応じた製品展開をしている企業が多く、進出先の消費者嗜好を反映し、製品やサービスの差別化を図りながら競争優位を保っている。ローカルへの対応力、機動力を高めるため、地域統括会社や現地法人に大幅に権限を委譲しているが、グローバル企業である以上、グループとしての統合度が極端に低い例は少なく、グローバル統合度をある程度保っている例が多い。

 

2 本国集権型

 本社で開発した新製品、経営方式、マーケティング、技術などを標準化し、子会社に移転していく方式であり、現地子会社の権限は少なく、本国本社の統制が強い傾向がある。全世界でサービスの提供形態が変わらない企業、戦略としてある程度標準化された製品を販売している企業に多く見られる。標準化に固執しすぎ、現地のニーズへの配慮を欠いたことが業績悪化に陥った例もあり、一般消費者を対象とするような場合には進出先への適合性とグローバル統合度合いとのバランスが必要になる。

 

3 グローバル一体型

 全世界で、グループ共通の戦略目標を持ち、業務プロセスが標準化され、効率性・統合性の高い経営モデルである。グローバルあるいはグループ本社または事業部の権限が強い。マーケティング部門も横断的に機能している場合が多く、地域子会社は本社の戦略を踏まえ、イノベーションを追及しながら地域適合を行い、また各地域のナレッジの吸い上げ・共有にも優れており、その地域の嗜好に合った商品・サービスの提供をしている。

 「地域分権型」、「本国集権型」の体制を採用し続けている企業もあるが、広くグローバルに事業展開し、特にリーディングカンパニーとされている企業については「グローバル一体型」への移行を行っているケースが多く見られるようになってきている。

 「グローバル一体型」へ移行しつつある背景には、「地域分権型」「本国集権型」それぞれの下記のようなデメリットを回避しつつ、メリットを享受していこうという考えがある。

 

「地域分権型」のメリット

・地域の実情・ニーズに合致した製品・サービス展開ができる。

・海外子会社に大幅な権限委譲をするため、現地でのオペレーション変更に柔軟かつ迅速に対応できる。

 

「地域分権型」のデメリット

・本社・地域統括会社間で業務の重複が起こりやすい。

・地域統括会社の権限に基づいて様々な決定がなされるため、統制が取りにくい。

・会計基準・勘定科目など、財務・会計上のインフラが共通化されず、グループ全体の業績管理が非効率になりがちである。

・独自のシステムを使用している場合が多く、グループ内の共有が容易ではない。

・地域で蓄積されたナレッジが他の地域あるいは本社で共有されない。

 

「本国集権型」のメリット

・迅速な意思決定が可能である。

・全てのアプローチが標準化されることで業務の効率化が図られる。

 

「本国集権型」のデメリット

・本国で標準化された製品展開・マーケティング手法となり、必ずしも地域の実情に合ったアプローチが取れない。

・多くの場合、地域で蓄積されたナレッジをグループに取り込んでいく仕組みができていない。

・本国のスタイルの押し付けと映る場合もあり、現地スタッフ、現地消費者に対して、ネガティブな印象を与える場合がある。

 

IV 日本企業に求められる経営管理モデル

 

 グローバルマネジメントを端的に表現すると、海外を含む各子会社の情報を横断的に把握し、世界各国のグループ企業の各拠点で何が起こっているのか、何が起こりそうなのかを認識し、変化に対応した施策を打つことである。

 欧米を中心とした海外のグローバル企業ではCXO(CEO、CFO、CIOなどの経営層)が意思決定をするために必要な各子会社情報を横断的に把握できる経営インフラを実現している。これらの海外企業はM&Aによって買収した企業にもほぼ例外なく本社と同じ経営インフラへの統合を強制しており、グループ全体で共通化・標準化された勘定科目、業務プロセス、必要とする経理財務データを定義し、グローバルに展開している各拠点の情報取得を効率的に実施している。

 グループ全体での共通化・標準化を推進しているグローバル企業(先進的な日本企業を含む)では、システムを全世界で統一している場合が多く、勘定科目だけでなくデータやプロセスの定義、KPI(業績管理指標)なども共通化されている。また、地域別、事業別、製品別などの複数の視点でパフォーマンスを管理できる仕組みが構築されている。

 海外のグローバル企業のこのような取組みは、グローバルマネジメントのためには情報が非常に重要であり、その情報を如何に早く収集・分析し、意思決定に繋げていくかという点を重視していることに他ならない。これはマネジメント形態が「グローバル一体型」の企業だけでなく、「本国集権型」の企業にも共通しているが、「グローバル一体型」の企業においては、各地域・各国での事業活動はその地域・国のビジネス環境に合わせて実行されているため、ビジネス上必要となる独自性は担保されている。各子会社に統制をかけ、しかも情報収集・分析スピードを重視しているのは、グローバルで意思決定をしていくために必要な情報に関してのみであるところに特徴がある。

 また、各子会社から収集した情報の分析に関する部分にも特徴がある。海外企業の多くは、現在の状況を迅速に把握するだけでなく、将来の予測分析に力を割いており、経営意思決定に際して事前に十分な分析を行った情報をCXOに提示し、CXOはその分析情報を基にその場で迅速に意思決定を行うことが出来るようになっている。

 このようなマネジメントスタイルを実現できるのは、分析を行う専門部隊を企業内に配置し、統合システムから吸い上げた情報に対して必要な分析を迅速にレポートする体制を整備しているためである。また、分析を効率的に実施しレポートできる背景には管理会計のルールがグローバルで統一されているという点がある。

 一方、多くの日本企業はこれまで各子会社の業務プロセスを前提に各社各様のシステムを導入してきたこともあり、既述のような経営インフラは整備されていない。このため情報の粒度も子会社ごとに異なり、横断的な管理を実行するのが困難な状況である。グローバルに情報を必要なタイミングで収集するための経営インフラが整備されておらず、月次で管理連結に用いる連結パッケージをエクセルで収集しているというケースが非常に多い。

また、各子会社から情報を収集しても内容のチェック、管理連結作業などのデータ加工に時間を要し、CXOへの報告が翌月の中旬以降という企業が少なくない。

 海外のグローバル企業が導入しているような経営インフラを構築するには、多額のコストと相当の時間(3~5年が多い)がかかるうえ、自主自立を重視してきた文化から中央集権的な考え方を導入することへの強い反発が予想される、等のハードルが存在するのも事実である。これからグローバルマネジメントを本格的に取組もうとする日本企業においては、「地域分権型」のマネジメント形態を採り、「グローバル一体型」に移行していくというのが現実的なアプローチだと考えられる。

 グローバル経営管理の構築においてシステム面の課題は大きく、以前はシステム統合が主な解決方法であったが、最近ではシステム統合をしなくとも既存のシステムを活用しながら各子会社の情報を収集する経営インフラを整備することが可能な方法も出てきており、最新の技術動向を把握しておく必要があるだろう。

 しかしながら、経営管理基盤のシステム投資には得てして多額の投資が必要になることからも、まずは自社が目指すべきグローバルマネジメント形態を明確にし、現状の経営管理基盤(プロセス、管理項目、ルール、人材、システム、等)がどのような状態かを客観的に把握し、実現までのロードマップを策定していくことが重要である。

 一概にグローバル経営管理といっても、その管理レベルにはもちろん差がある。Level1(個社別管理および制度連結を実現しているレベル)の企業がLevel5(リアルタイムグローバル管理を実現しているレベル)をいきなり目指すのは超えなければならないハードルもそれだけ高くなり、その分だけ投資コストや整備するまでの時間、また海外子会社のコントロールにも労力を要することになる。現状の課題は何か、将来どこまでを目指すのか、そのためには何が足りていて何が不足しているのか、実現するためのアプローチはどうすべきか、等を明確にしていき基本構想(改革を実行するためのマスタプラン)を策定することから始めていくことになる。

 目指すべきグローバルマネジメントを実現するには比較的長期間を要することが多い。その間にビジネス環境の変化が発生し、プロジェクトの開始時点の要件と実際のプロジェクト終了時の要件が変わっているケースも考えられる。状況の変化が生じた際にもどのように対応すべきかを早期に判断するためにもマイルストーンを明確にし、海外子会社の巻き込み方、巻き込むタイミング等を含めた綿密な基本構想を策定することが不可欠である。

長きに渡るプロジェクト期間全てが終わらないと成果が出ないようなプロジェクトでは、プロジェクトメンバーのモチベーションが続かず、経営に何のインパクトも出せないまま頓挫するリスクが高まってしまうため、着実に成果を刈り取りながら進めていくためにも、短期間で効果のある施策から取組み、成功体験を身につけ、その体験を基に徐々にその範囲を拡張していくようなやり方で進めていかなければならない。

 

〔筆者〕デロイト トーマツ コンサルティング合同会社  シニアマネジャー 三上 徳朗

グローバル経営管理に必要となる管理連結

I 必要となるグローバル経営管理

 

 前稿「日本に求められるグローバル経営管理」のように国内競争からグローバル競争の様相を呈してきたビジネス環境に置かれている現在の日本企業にとって、グローバルレベルで経営管理を行うことは必須となってきている。しかしながら、どのようにこれまでの経営管理と異なってくるのか、どのように変えていかなくてはならないのか、という点についてはっきりした回答を持たないまま試行錯誤の経営管理を行っている企業が多い。経営管理の形は企業が持つ戦略や置かれているビジネス環境によって異なるため、一言で正解を導くことはできないが、少なくとも以下の点については実現できていなくてはならないと考えられる。

 

1 海外子会社を含む全子会社を1つの企業体として捉え、企業全体の今と将来を把握できている

2 海外子会社を含む子会社の今と将来が把握できている

3 企業業績を事業別に捉えることができており、各事業の今と将来を把握できている

4 企業業績を市場別に捉えることができており、各市場の今と将来を把握できている

5 企業全体と各子会社、事業と市場、といった切り口で経営課題の原因を把握している

 

 上記を実現していくためには、本社(またはHQ)で状況を判断するための情報を収集できている必要があるとともに、集めた情報を意思決定できる状態に加工しておくことも必要となる。

 

II グローバル経営管理に必要な情報

 

 では、前述の5点を実現し、経営意思決定を行っていくために必要となる情報は具体的にどういうものなのだろうか。各企業の戦略や各事業の置かれているビジネス環境の違い、あるいは展開している地域による違い等により、必要とする情報は変わってくる。各企業でグローバル経営管理を遂行するにあたって必要となる情報は、主に以下の3点における自社の位置づけを吟味した上で定義する必要がある。

 

1 マネジメントスタイル

 企業の行っているグローバルマネジメントの形によって必要となる情報は変わってくる。本社(またはHQ)でほとんどの経営意思決定を行っていくような中央集権型のマネジメントを行っている企業では、本社/HQで意思決定に耐えうるだけの詳細な情報を把握しておかなければならない。一方地域統括会社や各子会社に権限を委譲している地域分権型のマネジメントを行っている企業の場合は、本社/HQにはそれほど詳細な情報は必要なく、地域統括会社に詳細な情報を集めておく必要がある。

 このように意思決定を行う主体となる組織で、要因分析が行えるだけの詳細情報を把握しておく必要があるため、自社の今のマネジメントスタイル、もしくは今後目指すマネジメントスタイルを見据えてグローバル経営管理に必要となる情報を特定する必要がある。

 

2 意思決定が必要な階層

 グローバルな視点で、あるいはグローバルに跨がって意思決定を行う人が誰なのかによっても必要な情報は変わってくる。経営者が行う意思決定に必要な情報は、自社の事業毎の業績や今後の予測といった事業ポートフォリオを判断するために必要な情報が主なものとなる。各子会社の業績だけでなく、事業毎に連結された数値を見ながら意思決定を行っていく必要がある。事業部長や部長といったミドル層にとって必要となるグローバル情報としては、自ら管轄する事業における製品毎の損益や地域毎の損益といった情報をもとに、プロダクトポートフォリオを構成していくために必要な各種指標が挙げられる。現場層にとって必要なグローバル情報は、日々のオペレーションの管理で必要となる海外倉庫の在庫情報や各工場の製造予定といった情報となる。

 このように意思決定を行う階層によって必要となる情報は異なってくるため、自社が目指すグローバル経営管理に必要な情報を見定め、その情報を収集・加工していくことが求められる。

 

3 意思決定のタイミング

 意思決定のタイミングによっても必要となる情報は変わってくる。日々の業務遂行の方向性を判断するために日次で収集する必要がある情報は売上情報等の営業関連情報であり、週次のタイミングでは需給に関する情報や調達状況等の情報を元に次週の動きを決定していく。月次では企業全体のパフォーマンスに関わる情報(月次確定のP/Lや予測情報)が各階層の意思決定のためにそれぞれ必要となってくる。

 このようにグローバル経営管理に必要な情報は各企業のビジネス環境に加え、マネジメントスタイルや階層、タイミングといった要素で各社各様となるマネジメント情報を定義することがまず必要となってくる。その上でその情報を活用したグローバル経営管理を実施していくわけだが、集めてくる情報の多くはそのままで意思決定に使えるものではなく、判断できるように加工を施していく必要がある。特に、判断にあたっては会計数値を元にした情報を用いるケースが多くなるが、各子会社の情報を集め、1つの企業体としての数値あるいは事業や地域といった会社とは違った単位でのくくりで数値を用意する必要が出てくるため、連結処理(連結会計)は必須である。

 しかし、普段決算時に行っている連結処理(連結会計)は、各子会社単位の財務諸表を収集し、子会社間の取引を相殺消去することによって全社としての財務数値を導き出すものであるため、1つの企業体としての数値を捉えることはできても、グローバル経営管理ではそれだけではなく色々な側面からの分析を行った情報(数値)を用意し、意思決定を行わなくてはならないため、決算時の連結処理(連結会計)では要件を満たすことができない。すなわち通常の決算とは違う経営管理のための連結処理を行っていかなくてはならないのである。このような財務会計上の決算処理にて行われる連結処理(連結会計)とは異なる、経営管理のための連結処理(連結会計)のことを通常「管理連結」と呼んでいる。グローバル経営管理を行っていく上で、この「管理連結」は必須の取組みであるにもかかわらず、これまで十分に取り組んでこなかった日本企業が多い。グローバルマネジメントの必要性が高まってきた昨今、改めてその内容に注目が集まっている。

 

III 管理連結の考え方

 

 管理連結を制度決算時の連結会計(以降「制度連結」)と異なるものと捉えるのであれば、これまでも日本企業は月次で子会社から連結パッケージを収集し、月次連結という形での管理連結を行ってきた例は多い。制度連結の場合、海外子会社は3カ月ずれでの決算を行うことが多いため、企業全体の業績を把握するために用いるには精度に問題があるケースが多い。そのため、管理会計上同月で連結を行う必要性に駆られ、月次で管理連結を行ってきているという流れである。しかしながら、これまで多くの日本企業で行われてきた管理連結は子会社単位での連結パッケージをもとに連結処理がなされてきたため、セグメントあるいは事業や地域といった粒度での数値を把握しようにも大雑把な数値しか把握できず、経営意思決定を行ったり、子会社に対する具体的な指示を出したりするには適さないケースが散見された。

 そのような結果となる大きな理由の一つに、本社は組織そのものが事業別に分かれており、管理会計上組織別あるいは事業別といったレベルでの数値を把握することが可能であるのに対し、子会社はそのビジネス規模や人材不足等から子会社という大きなくくりでの業績把握しかできない仕組み(会計伝票に部門や事業といったレベルの情報が付加されないで登録されている状態)になっていることがある。多くの日本企業では海外進出当初よりも海外展開をしている製品や事業が増加している傾向があり、その中で必要となってくる詳細な分析に対して子会社側のインフラが対応できていない(拡充されてきていない)ため、欲しい情報を会計数値からは集められないのである。

 もう一つの大きな理由として、本社と販社間あるいは販社同士のやり取りや工場と販社のやり取りが、海外展開の広がりとともに複雑化してきたことが挙げられる。たとえば、日本の工場で製造した部品を中国の工場に送り、そこで組み立てたものをドイツの販社に送ってそこで梱包するといった流れでサプライチェーンが構築されている場合、各子会社間で発生する関税や輸送費といった費用を含めて事業別や製品別の業績を把握するには、各社の詳細な取引データを捉えるとともに、事業別あるいは製品別に相殺消去を行わなくてはならない。そのような詳細なデータが必要であるにもかかわらず、各子会社のデータを本社(またはHQ)では把握できていないため、同月連結を行った月次の管理連結では意思決定に耐えうる情報が揃わない状況にある。

 現在ほどビジネス環境の変化が激しくない時代であれば、月次で会社単位で同月連結を行っているだけでおおよその業績把握や今後のトレンドの判断というものはできていたが、来月の何が起こるか予測が難しい現在では、より詳細な情報をよりタイムリーに捉え、その情報を元に経営意思決定を行っていかなければグローバル競争に打ち勝てない状況になっている。そのようなビジネス環境の変化を背景に、管理連結についても求められる内容が変わってきている。会社単位で同月連結していたレベルから、グローバル経営管理に必要な事業毎の連結、市場別の連結、主要製品別の連結といったレベルへと粒度がより細かくなっている。それにともない、連結パッケージで収集する情報も詳細にする必要があり、子会社側での対応も工数が増してきているのが現状である。では、このような管理連結をどのように実現していかなくてはならないのか。

 まず、管理連結の基本的な考え方について確認しておく。制度連結に対する管理連結という枠組みの中では、以下の原則が存在する。

 

1 管理連結は経営管理上必要となる会計数値を導き出すために用いられる。したがって、経営管理上意思決定できるレベルの数値が捉えられれば良く、制度連結のような精緻さは求められない。

 制度連結の場合は法律に基づき、且つ会計監査に耐えうる精緻さでの連結会計が求められるが、管理連結の場合は経営管理上の経営意思決定に耐えうる精緻さを確保できれば良く、その精緻さの度合いは企業によって異なってくる。事業別に業績を捉える場合に、100万円単位であれば意思決定できるのか、億円単位でも意思決定できるのか、等については事業の規模によって変わってくる。たとえば、1億円の単位での業績を捉えれば意思決定できる事業の場合、各子会社から収集する連結パッケージの精度も同じ1億円単位のもので十分である。そういう意味では各子会社で100万円単位で確定していない処理(月次の決算整理仕訳や請求書未達等)があったとしても、その状態で連結パッケージを子会社で作成して本社(もしくはHQ)に報告しても意思決定に影響は無い。また、グローバルベースの事業規模がA製品100億円、B製品200億円、C製品5億円というケースの場合、C製品については情報を収集しなくても事業全体の意思決定には影響が無いようなケースも考えられる。逆にC製品が今後伸ばしていきたい製品であれば、たとえ5億円であっても情報を精緻に収集することになる。

 このように企業の置かれている環境や製品構成といった変数によって必要な管理連結の精度が決まってくるので、必要以上に精緻になりすぎないレベルでどう線引きするかを明確にしておく必要がある。

 

2 管理連結の目的はタイムリーな経営管理上の意思決定のサポートにあるため、連結処理のスピードが求められる。

 制度決算上の連結会計では収集までに数日、連結処理に数日といった具合に数日間の時間を費やして連結処理を行っていくが、管理連結は経営管理のための数値を作っていく処理なので、月次決算では3営業日程度で処理を行って連結数値を確定し、ただちにその月のアクションを決定していくようなスピード感が求められる。そのようなスピードを確保するためには、各子会社での決算処理を2営業日以内に終え、3営業日目で連結処理を行うようなスケジュールを想定する必要がある。1の原則で述べたように、数値の精緻さは意思決定を妨げない程度のレベルを確保できれば良いので、そのレベルを確保できる最短の方法での管理連結処理が求められることになる。1で例として挙げたような確定前の数値を用いることで子会社から収集する連結パッケージの期日を前倒しにしたり、原価が確定するまで待つのではなく予定原価や標準原価ベースでの原価を用いて連結パッケージを作成したりすることによってスピードを上げるといった施策が考えられる。

 また、制度連結ではシステム上自動で売り買いのデータが各子会社で登録されるような仕組みがない場合、相殺データの突合処理に多くの時間を費やしている場合が多いが、管理連結の場合はそこまでの精緻さを求める必要が無いケースがほとんどのため、親会社基準(親会社の伝票データを正として相殺消去を行う)もしくは出荷(検収)側基準(子会社間取引の多い場合は売り側もしくは買い側のデータを正として相殺消去を行う)を用いることによって連結処理の時間を短縮する施策が用いられることも多い。各企業で必要な精度と各子会社での処理スピードを鑑みて、どういう施策が有効かを判断していく必要がある。

 

3 管理連結には制度連結と異なり法的なルールが存在しないため、自ら管理ルールを設定して良い。別の言い方をするとどのような処理を行ってもかまわない。

 繰り返しになるが、管理連結はグローバル経営管理を行っていく上で必要な連結数値を導き出すために行っているものであり、グローバルに意思決定をしていくために必要なレベルを確保できれば制度連結のような精緻さを追求する必要はない。また、合わせてスピードが求められるため、精度を犠牲にしながらもスピードを確保する施策が必要となる。

 このように精度とスピードのバランスを追求していく上で、もう一つ重要な要素となるのは、管理連結では自由にルールを設定してかまわないということである。制度連結の場合法的なルールが存在するためそのルールを無視することはできなかったが、管理連結の場合はグローバル経営管理に必要な数値を作ることが目的であり、企業内独自に用いられる数値であるため、意思決定に支障が出ない程度であれば少々数値が歪んでいても大きな問題にはならない。スピードを確保するために、意思決定に影響がない程度に大雑把な処理を行うようなルールを作ってかまわないということである。制度連結との具体的な違いを挙げると、制度連結の場合は連結する子会社の範囲が明確に決まっており、原則対象会社は全て連結することになる。管理連結の場合は意思決定できるレベルのデータになれば良いので、通常企業の売上の内90%から95%を確保できる範囲の子会社のみを連結すれば意思決定可能な例が多い。50社の連結子会社を持っている場合、制度連結上は50社の財務数値を連結する必要があるが、売上の90%をこのうちの15社で稼ぎ出しているなら15社のみを連結すれば意思決定が可能であるため、15社分の連結パッケージを収集し、その会社間のみで連結消去を行うことによって、スピードを確保することができる。管理連結対象会社を減らすことは、経営管理上必要となる分析もやりやすくなる(要因分析も15社のデータのみ行えば済む)というメリットもある。

 もう一つ典型的な例を挙げると、制度連結では通常いくつもの内部取引消去等の連結処理を行っていくことになるが、管理連結の場合この処理を全て行う必要はない。たとえば、親会社を含むグループ会社間で月次の固定資産売買はほとんど行われない、あるいは各社の資本についてはほとんど変動がない、といった企業は多い。この場合、固定資産の未実現利益の消去や資本連結といった連結処理は、月次で行ったとしても数値に大きな影響は及ぼさないため、はじめからこれらの連結消去を省略することで連結処理を簡略化できる。商品は代理店等に直送されるため販社にはほとんど在庫が置かれないような商流を持っている企業の場合、資産に含まれる棚卸未実現損益の消去を行わなくても意思決定を歪めるほど数値に影響は及ぼさないと考えられる。

 このように連結処理のステップを無くしていくことによって月次での管理連結処理のスピードを高めることができる。制度連結の数値とは乖離が生じることになるが、1の原則で述べたように意思決定に影響を及ぼさない程度の乖離であれば問題はない。逆に、意思決定に影響を及ぼすほどの乖離が生じるような処理の場合は、その処理は簡略化せずに管理連結のルール上盛り込んでいく必要がある。たとえば販社の在庫が比較的高止まりしているような企業の場合は資産に含まれる棚卸未実現損益の消去を行わないと意思決定を誤ることになる。また、総合商社のように月次で子会社やJVが相当数増減するような業界の場合は、月次で資本連結を行う必要がある。このように簡略化できない場合には、スピードを確保するためにシステム化を図って自動化による早期化を模索する必要がある。

 1と2の原則を満たしながら、企業独自の管理連結ルールを作成していく上で、システム的な連結処理インフラは重要な要素の一つとなるが、その詳細については管理連結の実務の項に譲ることにし、ここでは連結処理のスピードを追求する=意思決定できるレベルを確保できるぎりぎりまで処理を簡略化すること、もしくは極限までシステムによる自動化を試みること、といった考え方を理解し、それらは意思決定ができるレベルでの精緻さを確保することが前提であることを踏まえておけば良いだろう。

 

〔筆者〕デロイト トーマツ コンサルティング合同会社  パートナー 安井 望

お役に立ちましたか?