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連載【保険ERM基礎講座】≪第15回≫

「資本とERM(その3)」

近年、企業経営を取り巻く環境が大きく変化し、リスクが複雑になりつつあります。デロイト トーマツ グループでは、保険毎日新聞に保険会社におけるERMつまり、「保険ERM」を分かり易く解説した連載をスタートしました。(執筆:有限責任監査法人トーマツ ディレクター 後藤 茂之)

出典:保険毎日新聞(4月28日発刊号)

≪第15回≫ 資本とERM(その3)

第15回目からは、資本とERMの関係性について考察いたします。

1. 規制資本

規制は、市場の失敗を矯正し、国民や企業の安心・安全・信頼を確保するために必要なものである。保険事業は、金融事業と同様、国民経済にとって密接かつ重要な位置付けであり、免許事業となっている。保険事故の不確実性への適切な対応や保険金支払の安全性確保のためには十分な資本が必要である。規制の観点から設定された資本のレベルが「規制資本」である。実際、これまで重要な危機が発生するたびに規制資本が強化されてきた。

1980年代後半から世界規模で加速化した資本取引の自由化により、恒常的に国際流動性が供給され、それが拡大している。また、運輸・通信技術の革新が取引のグローバル化を促進させている。このような環境変化が、リスクを変え、必要な資本も変えていく。

2.金融危機以降の資本規制

2008年9月の金融危機では、サブプライム・ローン(※) に関するCDS(Credit Default Swap: 信用リスクの移転を目的とするデリバティブ)やCDO(Collateralized Debt Obligation: 債務担保証券)等の金融取引が破綻が及ぼす、金融システムへの多大な影響を回避するため、幾つかの金融・保険グループ救済として公的資金が投入された。リーマンショックによる米国の金融の混乱は、欧州、新興諸国へと波及した。これは世界的な金余りの中で、異常な投機行動が米国の住宅市場とそれに関連した証券市場で展開され、内包されていた瑕疵(かし)が発現したために生じた。

このような事態の再発を防止するため、2009年11月、G20の首脳によるピッツバーグ会合において、世界経済と金融システムの健全性を回復するため、改革プログラム推進の合意がされた。この合意に基づき金融安定理事会(Financial Stability Borad:FSB)による規制政策、バーゼル規制等による共通ルールの策定、これらの枠組みを踏まえた各国の監督当局によるモニタリング強化等、目指し改革が進められている。。

3. ストレステスト

ストレステストの使われ方は何とおりかある。金融機関の健全性を検証するために監督当局によって金融危機とは無関係に実施されるものがあるが、これは、「監督ストレステスト」と呼ばれている。一方、金融危機において、各国の監督当局が金融システムに対する信認維持を図るための手段として利用する事例も増えている。これは、「クライシス・ストレステスト」と呼ばれている。また、保険当局主導とは別に、保険会社や金融機関自身によっても実施されている。ストレステストは、内部モデルの限界を補完し、一定のストレスバッファーを確保することによってERMを強化する目的で実施されている。

金融危機によってストレステストの重要性は見直されることとなった。つまり、これまでリスクを計量化することによって、モニタリング・管理する定量的アプローチに依存し過ぎていたリスク管理の在り方への問題意識を高めた。今日リスク評価として、ある資産や負債を一定期間保有した場合、その将来の価値の変化を評価する手法としてVaR(Value at Risk: バリュー・アット・リスク)という統計的手法がよく使われる。これは、そもそも1980年代後半以降デリバティブ取引が拡大し、金融機関がデリバティブを1日1回値洗いしリスク内容を把握するために開発されたものである。その後バーゼル銀行委員会によって市場リスク規制導入において標準的方法として認識され、急速に普及したものである。保険事故による損失についても同様の考え方を採り、図表1に示したように過去の損失データから、確率分布を取り、一定の信頼水準の下での損失と期待損失との乖離(かいり)を予想損失としてリスク評価するものである。

※優良客(プライム層よりも下位の層)向けとして位置付けられるローン商品のこと

 

つづきは、PDFよりご覧ください。

(PDF、1,745KB)

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デロイト トーマツ グループでは、保険ERM態勢に関し、基礎的な情報提供から、各社固有の問題解決まで幅広く関わり、Deloitte Touche Tohmatsu Limited(DTTL)のグローバルネットワークを駆使し、最新の情報と豊富なアドバイザリーサービスを提供します。

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