連載【保険ERM基礎講座】≪第6回≫

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連載【保険ERM基礎講座】≪第6回≫

「保険ERMと不易流行」

近年、企業経営を取り巻く環境が大きく変化し、リスクが複雑になりつつあります。デロイト トーマツ グループでは、保険毎日新聞に保険会社におけるERMつまり、「保険ERM」を分かり易く解説した連載をスタートしました。(執筆:有限責任監査法人トーマツ ディレクター 後藤 茂之)

出典:保険毎日新聞(12月10日発刊号)

≪第6回≫ 保険ERMと不易流行(3)

第6回目からは、現在のERMの構造の特徴と直近の強化事項を確認いたします。

1. リスクガバナンス

金融危機以降の規制改革論議は、規制が絶え間なく変化し、期待される水準がますます高くなる状況を作り出している。保険会社は現在このようなニューノーマル(New Normal)に直面しており、ERM強化の努力を続けている。この様子は、デロイト トーマツ グループが、2014年下半期に世界71の金融機関(銀行、保険、資産運用)に対してサーベイ(注1) を実施した結果からも窺い知ることができる。85%の金融機関が、取締役会がリスクの監督に費やす時間を増やしていると回答しており、リスクアペタイト・ステートメントの承認や戦略とリスクプロファイルとの整合性レビューに深く関与している様子が確認できる。また、最高リスク責任者(CRO)の職位は、サーベイの回を重ねるうちに、一般的な存在と言えるまでになっている。今日では、CROを取締役会の直属とすることも検討されている(注2) 。

2. 3つの防衛線

バーゼル銀行監督委員会(BCBS)は今年7月に「銀行のためのコーポレート・ガバナンス諸原則」の改訂版を公表した。改定において、リスクアペタイトの確立、リスク文化の確立にかかわる取締役会の責任と役割が強調されており、「リスクアペタイト、経営、管理」という新たなセクションも追加されている。全体的な構造は、図1のようにそれぞれの基本概念が関連づけられている。同原則1の中で、3つの防衛線(three lines of defense)の利用が明示されている。この枠組みは、銀行と同様、保険ERMにおいても、リスクガバナンスの中核をなす概念として浸透している。現実に、ソルベンシーⅡへの整備を進めている欧州のガバナンスの枠組みでは、取締役会が承認したリスクアペタイトに基づき業務執行がなされ、取締役会内の監査委員会がその執行状況をモニタリングする内部監査機能の有効性を重視している。3つの防衛線による多面的なリスクへのアプローチは、リスクアペタイト・フレームワークの機能を担保する上で不可欠である。

3. コンダクトリスク

ERMの実効性を高めるためには、リスクアペタイトフレームワークの整備を通じた取締役会の機能強化や3つの防衛線等の仕組みによるモニタリング強化が重視されている。しかし、人が動かなければビジネスは胎動しない。企業は、目的の実現に向けて、経営理念、経営目標や戦略、組織や制度等の経営システムを構築し、組織構成員の価値観、信念、行動規範等の企業文化を醸成することによって、組織的な企業活動を推進していく。最近規制当局の間で、顧客に悪影響を及ぼすとみなされる行動や市場の健全性に害を及ぼしかねない行動(Conduct)に新たな関心が集まっている。

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注 1) デロイト・ファイナンシャル・サービス・インダストリーグループ「グローバルリスクマネジメントサーベイ第9版―ニューノーマルの中での事業経営: 増大する規制と高まる期待
注2)ただ、今回のサーベイでは、これが当てはまるとした回答者は46%にとどまり、CROがCEOの直属となっているとする回答が68%を占めている。

 

※つづきは、PDFよりご覧ください。

(PDF、1,463KB)

保険ERM態勢高度化支援サービス

デロイト トーマツ グループでは、保険ERM態勢に関し、基礎的な情報提供から、各社固有の問題解決まで幅広く関わり、Deloitte Touche Tohmatsu Limited(DTTL)のグローバルネットワークを駆使し、最新の情報と豊富なアドバイザリーサービスを提供します。

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