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【保険ERM】 NAIC最新動向:2016年夏

(2016.12)

今回の夏季全国会議は、NAICの前身である全米保険会議(National Insurance Convention)の第1回大会から数えて145周年に当たります。米国の保険監督は各州ベースで行われています。海外の目から見ると各州の運営があたかも別の国のごとき印象を与える局面もあります。最近の監督のグローバル・ハーモナイゼーションの流れの中で変化が感じられます。その意味で、NAICでの論議内容は注目されています。

会議の概要

<NAICの意義>

NAICは、各州の保険監督の方向感を醸成したり、国際的流れの中で米国保険業界の立場を擁護する機能を果たしてきた。この点、NAIC夏季全国会議では次の言及がある。「保険監督者国際機構(IAIS)が長年にわたり、欧州連合の規制当局が保険資本基準などの世界的な保険の問題をめぐる戦いを優位に進めてきた。多くの業界代表者が、ソルベンシーⅡの導入を受けて欧州の一部管轄区域が競争制限的な施策を取っている。」と。一部の業界メンバーの州当局への不満表明に対する論議の中でNAICは米国保険業界の代表者・擁護者としての立場を強めている印象が見受けられた。

<主要トピック>

今回の会議における実務上の主要なトピックは、PBR(原則主義的責任準備金評価)とサイバーセキュリティー法であった。また、その他特筆すべき事項としかいて、全米保険契約検索サービス(National Insurance Policy Locator)を創設したこと、NAICの保険政策調査センター(Center for Insurance Policy and Research:CIPR)が開催した自動運転車に関するセミナーを実施したことなどが挙げられる。

【補足】

PBR(原則主義的責任準備金評価)

次の報告がなされた。
米国アクチュアリー会(Society of Actuaries:SOA)の調査の結果報告、パイロットプログラムに基づく実績データ提出状況が報告されている。また、春季全国大会で確認されたPBRに関する企業実績データ収集プロジェクト(Company Experience Data Collection Project)の状況も報告された。
SOAはPBRへの準備状況に関する調査を実施した。
また、全体の44%は2017年1月1日時点の2017年CSO(中央統計局)表を使用する予定、38%は使用しない予定、18%は未決定である、との報告がなされている。

ビッグデータ

ビッグデータの利用について、2つの見解が述べられた。
1つは、リスクの価格設定や予測可能性がより正確になり、保険引受に際してバイアスではなく客観性が高まり、市場の利用可能性が拡大し、不正の低減および消費者にとってのコスト低下の機会が生み出される可能性である。
もう1つは、保険の本質はリスク・プーリングにあるのに対し、ビッグデータに基づくモデルはセグメント化に移行していく。その結果、プーリング機能が変質するという見方である。
この論議は、古くて新しい問題であり、保険制度をどのように考えるか、という2つの視点といえる。また、実際面での懸念も提示されている。それは、これら細分化されたリスクに対する関係書類の提出と、規制当局によるレビューは、膨大な仕事になるというものであった。
現在、全米保険立法者協議会(National Conference of Insurance Legislators:NCOIL)が、誰がテレマティックスから受け取ったデータの所有者としてそれを使用許諾できるかという問題を検討していることが報告されている。
業界代表者の多くはビッグデータの利用を支持している。ある情報提供会社の代表者の指摘によると、消費者文化に変化が生じており、次世代の大規模な消費者であるミレニアル世代は、自動的で効率的なアクセスやカスタマー・エクスペリエンスを望んでおり、より低価格で効率的な商品が得られるのならプライバシーについてさほど懸念していないとの報告もなされている。

ソルベンシーⅡをめぐる同等性の問題

米国のある大手保険グループの代表者は、「米国とEU間の現在の状況は全く筋が通らない。欧州側について言えば、状況は悪化している」との問題点を指摘した。自身のグループは英国に子会社があり、19のEU加盟国で直接業務を行っている。そして、企業がイングランド銀行の健全性規制機構(PRA)に情報を送付することを要求される免責プロセス(waiver process)が負担となっている。そして、ソルベンシーⅡ規制の食い違う解釈、ソルベンシーⅡの見直し、ブレグジットなどの様々な外的影響などから、不確実な環境にさらされていることを指摘している。このような状況を解決する方法として、カバード・アグリーメントに言及されている。
ソルベンシーⅡ規制下にある一部の欧州各国で事業を行う米国の保険会社や再保険会社が、同等性の合意やカバード・アグリーメントがないために、支店から現法への転換や100%の担保差し入れの要求など、新たな困難に直面している実態も共有された。
このような背景から、欧州市場への完全かつ自由なアクセスを獲得すべきであることを要請する発言があった。Brexitにからみ欧州の不確実性は高まっており、今後の動向を注視したい。

サイバーセキュリティー・モデル法

米国で発生した、サイバーセキュリティ事故、賠償問題といった動きの中で、NAICのモデル法に対する論議も盛んである。改定した2版についても多くの改善要求がでており、NAICの中で引き続き検討が続けられる課題の一つとして取り上げられるものと考える。

 

「カバード・アグリーメント(Covered Agreement)」とは、ドッド・フランク法において導入された概念であり、米国において、州による保険や再保険事業の規制に対して、必要な場合に、財務省や通商代表部(USTR)が行使する独自の予備権限のことである。現在、EUの保険会社は、ソルベンシーⅡと米国の再保険担保要件を遵守しなければならない。カバード・アグリーメントが採択されれば、米国において、EUの保険会社が事業展開することが容易になり、一方で米国の保険会社が欧州で事業展開することを容易にするソルベンシーⅡの同等性評価に向けた足掛かりになるものと見なされている。現在、EUと米国の間で、「カバード・アグリーメント」の採択に関する協議が行われている。

 

論議の詳細については、Deloitte USのレポートを参照。 

原文:NAIC Update Summer 2016 (PDF)

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(ブロシュア、PDF、384KB)

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