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M&A会計 実践編 第3回 段階取得の会計処理と価格算定

事例:関連会社を連結子会社とした際に段階取得損益が発生したケース

連載「M&A会計の解説」の続編となる「実践編」では、M&A会計のポイントを、事例を挙げてより実践的な内容でお届けします。第3回目の今回は、段階取得の会計処理において、関連会社を連結した結果、既存持分が時価評価され、「段階取得損益」が発生したケースをQ&A形式でわかりやすく解説します。

段階取得の会計処理と価格算定について、事例を挙げQ&A形式でまとめました。

段階取得の会計処理

-関連会社を連結子会社としたとき、既存持分が時価評価され、「段階取得損益」が発生

Q:先日、ある上場企業が、40%出資している関連会社の株式を追加取得して51%子会社とし、それに伴い「段階取得に係る差益」(特別利益)が1,000億円発生したということで、業績修正発表をしていました。株式を売却したのならともかく、11%分の株式を買い取ると巨額の利益が出る、というのに違和感があるのですが、どのような仕組みなのでしょうか。

A(会計士):ある事業を遂行するためパートナー企業と組むときは、最初は出資割合が20%未満の少数出資や、20%~50%の関連会社出資とするケースがあります。その後に自社の関与を高める目的で、当該会社に追加出資をして支配権を獲得(50%超出資)することがあります。このときに、支配獲得前の既存持分、このケースでは40%持分に対する時価と簿価との差額が「段階取得に係る差損益」になります(M&A会計の解説 第2回~第4回参照)。同じ会社に出資していても、会計上は、支配獲得前の会社への出資と支配獲得後の子会社への出資とでは、投資の性格が大きく違うと考えて、いわば別の銘柄に置き換わったように既存持分を処分して(投資の清算)、改めて新規にその会社の株式を一括して取得したと考えるわけです。「支配」の有無は、会計上は決定的な違いとして扱われているわけですね。

Q:この事例を有価証券報告書でさらに調べてみました。そうすると、企業結合関係の注記で、被取得企業の取得原価は以下の合計からなると記載されていました。

項目

金額

議決権比率

企業結合日直前に保有していた被取得企業株式の企業結合日の時価

1,500億円

(40%)

追加取得に伴い支出した現金預金

800億円

(11%)

合  計

2,300億円

(51%)



A(会計士):
このケースでは、段階取得差益が1,000億円発生しているので、支配獲得前の既存持分の帳簿価額(関連会社株式なので持分法評価額)は500億円だったことになりますね。簿価500億円の被取得企業株式をその時の時価である1,500億円で処分したものとして会計処理したのだと思います。


項目

金額

議決権比率

企業結合日直前に保有していた被取得企業株式の企業結合日の時価

1,500億円

(40%)

追加取得に伴い支出した現金預金

800億円

(11%)

合  計

2,300億円

(51%)

 

項目

金額

議決権比率

企業結合日直前に保有していた被取得企業株式の企業結合日の時価

1,500億円

(40%)

追加取得に伴い支出した現金預金

800億円

(11%)

合  計

2,300億円

(51%)

 

項目

金額

議決権比率

企業結合日直前に保有していた被取得企業株式の企業結合日の時価

1,500億円

(40%)

追加取得に伴い支出した現金預金

800億円

(11%)

合  計

2,300億円

(51%)

 

項目

金額

議決権比率

企業結合日直前に保有していた被取得企業株式の企業結合日の時価

1,500億円

(40%)

追加取得に伴い支出した現金預金

800億円

(11%)

合  計

2,300億円

(51%)

 

既存持分と追加取得持分の評価(1)

-支配プレミアムを含むかどうか

Q:この点に関する企業結合会計基準の定めは、以下の25項(2)の部分ですよね。

取得が複数の取引により達成された場合(段階取得)の会計処理

25. 取得が複数の取引により達成された場合(以下「段階取得」という。)における被取得企業の取得原価の算定は、次のように行う。

(1)個別財務諸表上、支配を獲得するに至った個々の取引ごとの原価の合計額をもって、被取得企業の取得原価とする。

(2)連結財務諸表上、支配を獲得するに至った個々の取引すべての企業結合日における時価をもって、被取得企業の取得原価を算定する。なお、当該被取得企業の取得原価と、支配を獲得するに至った個々の取引ごとの原価の合計額(持分法適用関連会社と企業結合した場合には、持分法による評価額)との差額は、当期の段階取得に係る損益として処理する。

 

(1)の個別財務諸表上は、既存持分は(時価評価されることはなく)取得原価のまま繰り越されることになるので素直に理解できました。一方の(2)では「個々の取引すべての企業結合日における時価をもって、被取得企業の取得原価を算定する」とされていますが、この2つの事例を見ると、その時価が2つあるように思うのですが。具体的には、既存持分は1%当たり37.5億円(=1,500億円/40%)、追加取得持分は1%当たり72.7億円(=800億円/11%)と倍近い差があります。なぜなのでしょうか。

A(会計士):確かに同じ企業結合日の時価といっても、2つの時価が存在しているようですね。これはコントロールプレミアム(支配プレミアム)が影響しているのだと思います。持分を50%超取得することにより、取締役の選解任、配当、組織変更等、会社の運営を株主総会の決議を通して支配できるので、その分、支配権がないときよりプレミアムが付くわけです。買い手にとっては支配の獲得によりシナジーによるメリットがあるので、通常、市場で売買される株価より高い金額で取得され、それでも採算が合うと判断しているわけですね。

Q:時価の算定方法(評価技法)には、どのようなものがあるのですか。

A(会計士):いくつかの手法がありますが、ここでは「類似会社比較法」と「DCF法」を取り上げたいと思います。類似会社比較法は、上場している類似企業の株価(正確には各種指標の株価に対する倍率)を参照して、評価対象会社の株式評価を行う方法で、マーケット・アプローチの代表的な評価方法です。この評価手法は市場で売買される株価を基礎としていますので、少数株主としての価値を表しています。もう1つのDCF法は、将来生み出すと予想されるキャッシュフローの現在価値の合計をもとに企業の評価を算出する方法で、インカム・アプローチの代表的な評価方法です。この評価にあたっては、「将来生み出すと予想されるキャッシュフロー」に企業が支配権を獲得することによって実現されるシナジーも織り込むことになるので、支配プレミアムが反映された評価となります。このため、通常、類似会社比較法より高い評価がなされることになります。

Q:そうすると、先ほどのケースでは、支配獲得前から保有していた既存持分の時価を算定するときは、支配プレミアムを含まない類似会社比較法により評価し、支配の獲得が関係する追加取得持分については支配プレミアムを考慮したDCF法による評価を行っている可能性がありますね。

 

既存持分と追加取得持分の評価(2)

-財務諸表に与える影響と開示の充実

A(会計士):既存持分の評価は、「段階取得に係る差損益」の金額に影響を与えるわけですが、のれんの金額にも影響を与えることになります。つまり、既存持分の取得原価(時価評価後)が大きければ、「段階取得に係る差益」(特別利益)が大きくなりますが、同時に、のれんの額も大きくなるわけで、それは将来の償却負担の増加につながることになります。このように、既存持分の評価は、会計処理を行ううえで、特に重要な意味を持つことになります。

他方、支配獲得時の追加取得持分の評価は、のれんの金額に影響を与えますので会計処理上も大切ですが、追加取得の対価の額は、それが子会社化をするための適正な対価の額なのかどうか(取引価格の算定)という点が、特に重要になります。

Q:先程の例では、プレスリリースの中で、既存持分と追加取得持分については時価評価の考え方が異なること、会計処理の重要性を踏まえてそれぞれ別の評価専門会社からの株式価値算定書を入手していることなどが記載されていました。

A(会計士):時価の算定は、前提や判断が必要であり、その結果は、財務諸表に重要な影響を与えることになります。このような場合には、価格算定や対価の決定プロセス、会社の考え方など、財務諸表利用者にしっかり開示することが、経営者の説明責任の観点から、とても大切なことですね。

Q:本日はありがとうございました。

会計上のポイント

  • 段階取得が行われると、支配獲得時に既存株式の時価と簿価との差額が段階取得損益として特別損益に計上される。
  • 既存株式の時価の算定は、段階取得損益のみならず、のれんの金額にも影響を与える。
  • 既存株式の評価と支配獲得時の追加取得株式の評価は、支配プレミアムを含むかどうかにより大きく異なる金額で算定されることがある。財務諸表に重要な影響を与える場合には、関連する事項を適切に財務諸表に開示することが大切である。

 

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
M&A会計実務研究会 萩谷和睦 森山太郎

(2017.5.25)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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