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Industry Eye 第14回 資源・エネルギー(電力市場)

電力自由化に係るビジネスの方向

2016年4月には電力の全面自由化が本番を迎えます。価格とその資源配分を規制によって決める仕組みから、市場が決める方向へと舵が切られます。現時点において不確実性は多いものの、収益機会と捉えてさまざまな企業が電力市場への参入を目論んでいる現状を解説します。

Ⅰ. はじめに

2016年4月には残された低圧部門が自由化されることにより、電力は全面自由化となる。また、ガスについても、その約1年後に自由化が予定されている。震災後電力料金は上昇しており、経済産業省は自由化によって、価格競争を促すことを意図している。

民間企業の関心の多くは、「販売量」と「価格」に集約される。自由化を受けて「地域独占(安定供給義務)」から「自由競争」に経営環境が移行する結果、電力会社も収益重視の経営をより意識することが予想される。規制による価格とその配分から市場による価格と配分へと舵が切られる。現時点において不確実性は多いが、この舵切り局面を収益機会と捉えてさまざまな企業が電力市場への参入を目論んでいる。

II.不確実性(リスク)を収益機会(チャンス)に

1.販売量

地域独占環境下では、安定供給義務のもと、地域の需要予測に応じた供給を確実に実行することが電力会社のビジネスであった。しかし、自由化市場においては、「あらかじめ」販売量は決まらない。なぜなら、自由市場では供給側が想定した通りに販売できるとは限らないからである。

2.価格

供給原価に基づき料金が決められる総括原価方式の下では、発電や送配電のいわゆる設備投資はほぼ確実に回収することができた。また、燃料価格上昇分は燃料費調整制度により自動的に小売価格へと転嫁されてきた。しかし、全面自由化後は、総括原価方式は無くなる見通しである。他のさまざまなビジネスでは実は当たり前のことであるが、今後は電気事業者が市場リスクを背負うことになる。しかし、チャンスであることも認識すべきである。

3.取引市場

上記1、2を吸収し、事業者リスクをヘッジし調整し、収益化する場の一つが電力取引市場である。

取引所では、取引する電気の受け渡し時期によって、2つの定型商品市場が現在用意されている(図1参照)。翌日受け渡す電気を取引する「スポット市場」、および一定期間後に受け渡す電気を取引する「先渡定型市場」である。また、今後導入が検討されている「先物市場」は一ヶ月後や一年後など将来の価格不確実性を緩和する。流動性さえ機能すれば、将来リスクをヘッジすることができ、また「価格発見機能」を市場に期待できることになる。

上記の2つの市場で定型化された商品の取引を行うのに加え、自由な取引の場として先渡掲示板市場が用意されている。いずれの市場も、地域別市場ではなく、全国市場となっている。

図1:取引の種類 参照

約定処理では、各会員の入力した入札シートを積み上げ、量‐価格曲線上の「売り」と「買い」の交点をもって約定価格(システムプライス:連系線制約を考慮しない、全国統一約定価格)とする。但し、エリア間を跨ぐ約定量が、送配電等業務支援機関より通知される連系線の送電可能量を上回る場合は、当該エリア間で市場を分断し、個々に約定処理を行い、約定価格および量を求める(市場の分断処理)。

市場がさらに機能し始め、価格への信頼が高まれば、全ての企業が市場メカニズムへと移行を余儀なくされる。市場規制機関による価格監視機能も設定されるため、、競争状態が監視されることになる。

この市場価格は、発送電分離に移行する電力会社においても、発電会社と小売会社間の内部取引上の公正価格として参照せざるを得なくなると考えられる。発電事業者による設備投資の投資判断の基準、小売事業者による最終小売価格基準として、電力事業に大きな影響があると考えられる。問題の流動性であるが、原子力再稼動ペースが鈍いこともあり、資源・エネルギー業界は電力会社による強制玉だし(一般電気事業者による一定量の入札制度の導入)にはトーンダウンしている感がある。現在の市場規模では、その規模を上回る販売量をもつ電力会社がいくつもあり、第三者から見れば市場操作が可能(プライスリーダー)と映るため、先物市場も影響されかねないことには留意が必要である。

図1:取引の種類

出典:JEPX 「日本卸電力取引所における取引の概要」より、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

4. 常時バックアップ制度

常時バックアップ制度とは、新規参入者が自らの需要に対して電力供給を行ううえで、供給力が不足している場合に、既存の電力会社から継続的に卸売での供給を受けることおよびその契約のことで(電力会社は需要家ではなく、新規参入事業者に電力を供給する)、新電力のベース電源として機能している。オンオフが即可能なため、他のベース電源にはないオプション性を備えた電源である。量については、高圧・特別高圧について新電力の新規需要拡大量の3割程度、低圧自由化後については新電力の新規需要拡大量の1割程度が妥当との見解が示されている。暫定的な制度であり、将来的には取引市場に移行されるため、市場リスクに連動する電源となる。

5. 発電事業者

総括原価方式が廃止され、市場により電源が選択される(メリットオーダ)時代が来る予定である。電源(発電方式)にはベース電源(一般水力、石炭火力、原子力等)、ミドル・ピーク電源(LNG、石炭、揚水式水力等)、出なり電源(太陽光等)があり、資源エネルギー庁発電コスト検証ワーキンググループの電源別の発電コスト試算結果(2014年度建設想定発電プラント)は以下のとおりである。2011年との相違において化石燃料電源は、為替と燃料費による影響が大きい。

図2:2014年度建設想定発電プラント 参照

図2:2014年度建設想定発電プラント

出典:資源エネルギー庁 発電コスト検証ワーキンググループ 「長期エネルギー需要見通し小委員会に対する発電コスト等の検証に関する報告」(2015/5/26)より、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

【火力電源】

相応規模のベース電源を探した場合、原子力、一般水力、石炭火力の3種類に限られる。この中で民間事業者が入手可能な電源は石炭火力に限られるため、全国で発電所建設計画が発表されている。原子力発電所再稼動が不透明な中、日本国内における「ベース電源ギャップ」は、中三社と呼ばれる東電・中電・関電管内が大きく且つ暫く続くと予想され、当該需要に向けた民間事業者の発電所計画は熾烈を極めている。

また、電力会社の火力入札案件を加えれば、今後数兆円のファイナンスが必要となることが予想されており、プロジェクトファイナンス市場が拡大するであろう。地方銀行は預貸率低下(預金の伸びの大きさが貸出の伸びの大きさを上回るのが一つの背景)が顕著であり、今後成長が見込まれるセクター(環境エネルギー)に対しては、貸出額増加のポテンシャルがあるため、注目すべきである。

火力発電開発事業者にとってのリスクは、環境省による環境規制の強化であり、自治体レベル環境アセスメントの基準となている石炭火力10万kw級の発電所新規建設にもどの程度の影響があるか注目されている。CO2対策費用の不透明さは残るものの、それ故にアセスが今後通らない可能性を踏まえれば、現時点で通っているまたは通りそうな案件のプレミア化は容易に予想され、安価なベース相対電源として小売事業者の注目を浴びている。多くは現新電力による自社電源としての開発計画であるが、一部独立系発電事業者による計画もあるため、特に新規小売事業参入者にとって相対電源のチャンスはあると筆者は考えている。
 

【変動性電源】

再生可能エネルギーそのものは、2030年の本邦エネルギーミックスにおいても大きな割合を占めることとなった。

図3:2030年の電源構成|温室効果ガスの長期削減目標 参照

発電事業者にとっては、FIT(固定価格買取)制度がある限り系統に売却すればよいため、接続制限問題さえ除ければ、自社事業利益のハードルレートを越えれば事業化できる。

問題は、その変動性(出なり)が小売事業者にとって魅力的であるかどうかである。風力は効率が想定より低いことが常態化しており、太陽光は変動割合が高くとれるベースロードが少ないため、小売事業者にとって調達ポートフォリオ上の頼るべき電源にはならない。さまざまな地域を組み合わせれば、統計的には平準化されるはずではあるが、契約要件のひとつである30分同時同量遵守には厳しい。

小売事業者の頭をもう一つ悩ませているのが、調達価格である回避可能費用問題である。回避可能費用が今後市場価格連動することが予想され、再エネ調達コストが市場リスクとなってしまうためである。足元では2014年4月以前の回避可能費用が低いバイオマス発電(ベース電源)入札に新電力が殺到している。
2015年度は、太陽光2MW以上案件の最後の刈取り場であり、商社大型案件後の外資系やファンドによる案件のファイナンスアレンジが多くなっている。

図3:2030年の電源構成|温室効果ガスの長期削減目標

出典:経済産業省「総合資源エネルギー調査会資源・燃料分科会-報告書」(2015/7/17)より、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

6.電気小売事業者

電力を商材の一つとして考えるセット割、ライフサイクルビジネスとして地域のインフラ事業を総合化する事業者等、新規参入者のニュースが連日紙上を賑わしている。

筆者は、所謂ホワイトラベル供給(電力版OEM)による販売は、所詮過渡期のビジネスであると考えている。値下原資拠出のアライアンス交渉難航、またアライアンスが成功しても電力小売ビジネスに慣れた後には(ホワイトラベル調達に依存することなく)自社単独による電力事業展開を見据えることが予想される。但し、低圧のみの電力需給管理を行うことは大手電力会社でも経験していないため、家庭のロードカーブだけでは困難が予測され、自社グループの業務用ビル需要等を組み合わせることが必要ではないだろうか。最終的には、面をとった者と資本の論理による合従連衡といった再編ステージへと移行していくことは想像に難くない。関電による中央電力(マンション一括受電)への出資、KDDIによるJCOM買収(ケーブルTV)と電力ビジネス等、電力といった商材を軸にさまざまなビジネスモデルを多くの新規参入者が日々考えており、参入に対するコンサルティング業務が花盛りである。

III.おわりに

既存電力事業者は「防衛」、新規参入者は「攻め」となる。限られた電力需要のパイを取り合う「面取合戦」の幕開けである。経済産業省は「総合エネルギー企業」を唱えているが、持久戦になれば資本の論理により、合従連衡(再編・統合)が起きることが予想される。また、力のある企業は国内実績を携え海外自由化市場へ飛び出すであろうし、逆に海外からもSpark Energy(米電力小売)のように参入もある。

当社は、電力ビジネスに係る戦略から実行支援まで事業者を支えつつ、買収、再編や統合支援まで幅広いサービスを提供している。また、電力バリューチェーン中下流と同時に、上流である資源案件も手がけている。
大事なことは、スピードを持って実行すること、明日にはビジネスが変わっているかもしれない。

以上

※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。


デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
資源・エネルギー担当
ヴァイスプレジデント 亀田 尚史

(2015.08.31)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。 

執筆者


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