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事業再生ADR

ビジネスキーワード:ファイナンシャルアドバイザリー

ファイナンシャルアドバイザリーに関する用語を分かり易く解説する「ビジネスキーワード」。本稿では「事業再生ADR」について概説します。

事業再生ADRの概要

ADR(Alternative Dispute Resolution)とは「裁判外紛争解決手続」の略称で、訴訟手続によらずに民事上の紛争の解決をしようとする当事者のため、公正な第三者が関与して、その解決を図る手続のことである。この広義のADR法に基づき、民間紛争解決手続を業として行うことを法務大臣により認証され、かつ産業活力再生特別措置法(以下「産活法」という)に基づく事業再生ADRに関する特別な用件を満たし、経済産業大臣の認定を受けたADR事業者が行う事業再生手続が事業再生ADRである。現在、事業再生ADR業者として法務大臣の認証、経済産業大臣の認定を受けている団体は事業再生実務家協会(以下「JATP」という)のみである。 

図表1:事業再生関連制度整備の経緯

事業再生ADRの制度上の特徴-その1

事業再生の手法には裁判所を利用する「法的整理」の仕組みと裁判所を利用しない「私的整理」の2種類の仕組みがあるが、従来の仕組みは双方ともいくつかの問題点を抱えていた。これら従来の仕組みの問題点を解決するために、私的整理の柔軟性をベースにしながら、法的整理のメリットを加味した新たな制度が事業再生ADRである。

まず、私的整理に関するガイドラインによる私的整理手続においては、債務者とメイン行が債権者調整の役割を担うことになるが、メイン行が交渉の矢面に立つことにより、他行からメインの責任を追及されることによるいわゆる「メイン寄せ」が常態化していたため、メイン行にとって私的整理をすることの経済的合理性が低下し、メイン行が事業再生に積極的に関与することを妨げていた。そこで事業再生ADRにおいては事業再生ADR業者が中立的専門家として債権者調整の主体となること、また経済産業省令において「プロラタ返済」(非保全債権の残高の比率に応じた返済)を原則とすることを定めることにより、「メイン寄せ」を回避し、メイン行が積極的に事業再生に関与するための工夫がなされている。 

事業再生ADRの制度上の特徴-その2

次に、従来の私的整理においては、私的整理手続の開始から、終了までのつなぎ融資(プレDIPファイナンス)に関しては、私的整理が失敗して法的整理に移行した場合に他の債権と同様に弁済が禁止され、債権放棄の対象となってしまうのが原則であることから、金融機関はプレDIPファイナンスに消極的であった。そこで事業再生ADRにおいては事業再生ADR手続中のプレDIPファイナンスについて一定の要件を満たしていれば、仮に法的整理に移行した場合であっても、プレDIPファイナンスの優先性を考慮して債権の取り扱いを判断することを規定した(産活法52条~54条)。また、プレDIPファイナンスの更なる促進のため、事業再生ADR手続中のプレDIPファイナンスに関しては独立行政法人中小企業基盤整備機構が債務保証を行う制度も存在する。

また、仮に債権者全員の同意が得られずに私的整理が不成立となり法的整理に移行する場合でも、裁判所はADRの調整を引き継いで手続きを行うことになっているので、その他の私的整理から法的整理に移行する場合と比較して迅速な手続きを行うことができる。

さらに、事業再生ADRを利用して事業計画を策定した場合には、債務者サイドでは、資産の評価損の損金算入、青色欠損金の期限切れ欠損金に対する優先利用、また債権者サイドでは債権放棄による損金算入が認められる等、法的整理に準じた形での税務上のメリットが明確になっている。 

図表2:事業再生ADR手続の流れ

図表3:法的整理・私的整理に関するガイドライン・事業再生ADRの制度比較

事業再生ADRの限界

事業再生ADR手続は、債務者の事業価値の毀損が少ない私的整理の枠内で従来の私的整理の問題点を解決するための新たな事業再生手法であるが、それでも以下の点に関しては、法的整理と比較していまだ問題点が存在するといえる。まず1つ目に法的整理手続に関しては計画の認可は基本的には債権者の過半数の合意により成立するが、事業再生ADRに関しては他の私的整理手続同様金融支援を受ける債権者全員の同意が必要となるため、法的整理と比較し、依然として債権者調整が困難であるといえる。また2つ目に再生手続中の債権者の権利行使に関しても、他の私的整理手続と同様に強制的に遮断する方法はない。

なお、事業再生ADRは制度上大企業に限定されているわけではないが、10億円未満の企業の申請が2010年11月末現在において社名が判明している29社のうち2社と中小企業の利用が圧倒的に少ない(図表4を参照)。

このような現状は事業再生ADRの実施に当たって、JATPに対する審査料や報酬の支払い負担が重いのに加えて、デューデリジェンスおよび再建計画の策定に関しては企業自らが負担する必要があるため、申請できる企業が実質的に相当規模の社内リソースを有し、且つある程度の資金捻出のできる企業に限定されてしまっていることが原因のようである。

図表4:年商規模別の事業再生ADR手続申請者の状況(2011/11月現在)

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