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今からでも遅くない紛争鉱物規制の理解【前編】

規制の必要性や対象の例示および規制のガイドライン

紛争鉱物規制の理解に向けて、2012年5月16日~2012年7月5日までの期間で全8回の記事を連載した。本稿では前編となる、第1回(2012年5月16日)~第4回(2012年6月6日)を紹介する。

第1回:紛争鉱物とは

紛争鉱物開示制度において、紛争鉱物とは次の鉱物をさす。すなわち、
・錫(スズ)鉱石
・タンタル鉱石
・タングステン鉱石
・金鉱石
の4種類の鉱物である。紛争鉱物というと、紛争地帯から産出されるか紛争の元となっている鉱物を連想しやすいが、この制度においては、どこの産地かに関わらず単純に上記4鉱物を紛争鉱物と称している。なお、上記4鉱物を自社製品の製造に使用している場合やその原材料として使用している場合には、その産地について一定の調査が必要となる。加えて、その産地がコンゴ民主共和国及びその周辺国である可能性があることが判明した場合には、紛争への関わりを明らかにするため、より具体的にその産地や加工施設などに関する詳細な調査を行うこととされている。

なお、同制度は上記4種の鉱物のほか、コンゴ民主共和国内の紛争に資金供給をしていると米国の国務長官に認められた鉱物も含まれることになっている。したがって、現行では上記4種鉱物が紛争鉱物であるが、将来に追加される可能性がある点に留意が必要である。
 

第2回:なぜ規制が必要なのか

紛争鉱物の産地であるアフリカのコンゴ民主共和国(旧ザイール)では、長く内乱が続いている。その死者数(暴力・病気・飢えなどを含む)は、一説によると1998年からの10年間で540万人にのぼり、史上最悪の紛争ともいわれている。また、紛争当事者となる武装勢力は、虐殺や私刑、村人の拉致、性的な暴行や奴隷化などの非人道的行為を繰り返し行っている。

そういった武装勢力の資金源となっているのが、鉱物資源である。武装勢力は、住民に鉱物を採掘させて資金源としており、それらの鉱物を購入することは、結果として武装勢力に資金提供することになる。この流れを断ち切るため、紛争鉱物規制ではこのような鉱物の使用を企業に開示させ、個人や法人が紛争鉱物の購入による武装勢力への資金提供を避けることを可能にしている。そして、資金面から武装勢力の弱体化を図ることで状況が改善されることが期待されている。

一方で、コンゴ民主共和国では混乱が続いていたため、経済面でも困難を抱えている。 同国にとって鉱業は主要産業の一つであり、武装勢力とは無関係の鉱山等を支援することも今後の課題といえる。

第3回:どんな会社が適用対象なのか

2010年12月15日に公表された規則案(※)では、紛争鉱物開示制度の適用対象となるのは、米国での上場企業(SEC 登録企業)のうち、「製品機能または製品製造に紛争鉱物を必要とする者」とされている。大まかに言えば、自社製品に錫(スズ)やタンタル、タングステン、金といった金属(つまり紛争鉱物。連載第一回を参照)を使用している米国上場企業である。米国以外の企業であっても、米国で上場していれば、適用対象となる。
なお、以下のようなケースも紛争鉱物を必要とする者に該当し、適用対象になると例示されている。

・製造委託契約により他社が製造している場合の委託元企業
・製造委託をして自社ブランドで販売する小売業
 (単に仕入れて販売するだけの小売業は適用対象とならない)
・該当鉱物を採掘する鉱山業

紛争鉱物の使用量の多寡による閾値は設けられていない。つまり、たとえ紛争鉱物の使用量が少なくても適用対象となる。ただし、製造工程で使用される工具や機械に紛争鉱物が含まれていても、適用対象にはならない。

また、適用対象となった企業が実際に紛争鉱物開示義務を履行するためには、部品や原材料に含まれる金属の産地を追跡調査する必要がある。そのため、部品・原材料を納入しているサプライヤーに産地調査を依頼することがすでに実務として行われ始めており、紛争鉱物開示制度の影響が制度適用企業以外の企業へも広がりも見せ始めている。これらの詳細については今後の連載で述べていきたい。

※規則案の内容は、最終規則となるまでに変更される可能性がある。なお、SECによると、最終規則は2012年6月末までに発行される予定となっている。
 

第4回:どんな規則やガイドラインがあるのか

米国では、2010年7月21日に成立した金融規制改革法(ドッド・フランク法)1502条において紛争鉱物に関する規制を盛り込んだ。この規制では「米国での上場企業(SEC登録企業」」に対し、製品の機能又は製造に紛争鉱物を必要とするかどうかをチェックし、開示することを求めている。また、具体的なルールについてはSECが作成することになっている。

SECでは、2010年12月15日に1502条に基づく規則案を公表し、正式なSEC規則は本来であれば2011年4月に確定する予定であったが、2012年6月現在、いまだ確定していない。SEC規則案では、SEC登録企業に対し、次の3つのステップで対応するよう求めている。

ステップ1:報告義務があるかの判定
      製品の機能又は製造に紛争鉱物が必要かどうか
ステップ2:原産国調査の実施
      合理的な原産国調査を実施しコンゴ民主共和国又は周辺国産出の紛争鉱物かどうか
ステップ3:デューディリジェンス手続の実施と紛争鉱物報告書の提出
      アニュアルレポートへの開示と紛争鉱物報告書を作成し提出する

SECでは、ステップ3で求められるデューディリジェンスに関するガイダンスとして、国際機関である経済協力開発機構(OECD)が公表したサプライチェーンに関するデューデリジェンスガイダンス(OECD Due Diligence Guidance for Responsible Supply Chains of Minerals from Conflict-Affected and High-Risk Areas, 2010)の使用を推奨している。このOECDガイダンスは次の5つのステップからなっている。

ステップ1:強固な管理システムの構築
ステップ2:サプライチェーンにおけるリスクの特定と評価
ステップ3:識別されたリスクに対する戦略の立案と導入
ステップ4:製錬所/精錬所が実施するデューディリジェンスに対する独立第三機関による監査の実施
ステップ5:デューディリジェンス結果の年次報告

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