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英国のコーポレートガバナンス

ターンブル委員会報告書の概要

ロンドン証券取引所ではコーポレート・ガバナンスの観点から、同取引所に上場している企業を対象に、リスク・マネジメント状況などを決算公表時に毎年開示するよう義務付けている。これは1999年に公表されたターンブル委員会報告書が示しているガイドラインによるもので、これらの動きはグローバル・スタンダードになりつつある。この英国のコーポレート・ガバナンスについて、先に述べたターンブル委員会報告書の概要を紹介する。

企業に求められるガバナンス

コーポレート・ガバナンスにはさまざまな定義が存在する。一つには、企業の業績と企業価値を向上させるためのシステムとプロセスであるといえる。

 投資家などのステークホルダーは、市場の国際化の進展に伴い、企業の説明責任基準、企業行動基準、業績基準などの高度な基準を要求するようになっている。この中で企業の内部監査機能は、従来の内部統制システムが意図したように機能していることを保証する機能に加え、リスク・マネジメントにとっても重要な役割を果たすことが期待されているのである。

企業に求められるガバナンスにおいては、(1)リスクを最適化し経営者が意図したとおりに機能する統制環境が整備され、(2)事業目的に適合または機能していることを経営者が確信し、(3)それを監督する態勢が全社的に配備・機能していることが重要となる。

現在、ロンドン証券取引所では、コーポレート・ガバナンスの観点から、同取引所に上場している企業を対象に、企業が直面しているリスクの実態、並びに内部統制の一環として実施したリスク・マネジメント状況などにつき、決算公表時に毎年開示するよう義務付けている。これは、1999年に公表されたターンブル委員会報告書が示しているガイドラインによるもので、これらの動きは世界的なもの(グローバル・スタンダード)になりつつある。

今回は、この英国のコーポレート・ガバナンスについて、先に述べたターンブル委員会報告書の概要を紹介する。

背景

英国では、相次いだ企業の破綻や財務報告の不透明性への批判に対応するために、1991年5月、財務報告評議会、ロンドン証券取引所および職業会計士団体によってエイドリアン・キャドバリー卿を委員長とする委員会が設置された。この委員会は、1992年12月にキャドバリー委員会報告書「コーポレート・ガバナンスの財務的側面」を公表し、英国の上場会社が遵守すべき行動基準としての「最善行動規範」を定めた。

 このキャドバリー報告書を皮切りに、以後、英国のコーポレート・ガバナンス体制を方向付ける報告書が相次いで発表されることになる。まず、1992年公表のキャドバリー委員会報告書において、取締役会および会計監査人のアカウンタビリティー強化や非業務執行取締役の役割強化による取締役会の実効性確保などが勧告された。また、1995年公表のグリーンブリー委員会報告書では、取締役報酬制度の明示と適正な運用が勧告された。さらに、1998年公表のハンペル委員会報告書では、それまでの会社の対応状況を踏まえた最終報告書として、それまでの3報告書の統一化を勧告し、それを受けてロンドン証券取引所は同年、「統合規範(The Combined Code)」を作成した。

 そして、この統合規範を補足するガイドラインとして、ターンブル委員会が1999年9月「内部統制-統合規範に関する取締役のためのガイダンス(Internal Control-Guindance for Directors on the Combined Code)」(以下、ターンブル・ガイダンス)を公表し、統合規範の内部統制に関する勧告を実施する上での実務指針を提供したのである。

ターンブル・ガイダンスのポイント

ターンブル・ガイダンスの特徴は、内部統制についての取締役会の責任を明示することにより、その実効性を担保した点であるといえる。ロンドン証券取引所では、上場企業を対象に、1999年12月23日以降の決算期からターンブル・ガイダンスの遵守を義務付けたが、これは企業自らが適切にリスク・マネジメントを行うことにより、健全な事業の実施・発展を図ることを目的としている。

 

1)健全な内部統制の維持

 健全な内部統制の維持に関する責任は取締役会が負い、企業の置かれている環境と組織目的を十分理解した上で適切な方針を設定し、また有効に運用されてるかについて継続的に確かめなければならないとされている。

 また、リスクと統制に関する取締役会の方針を受けて具体的な導入作業を行うのは、経営者の役割であるとされている。

 さらに、全ての従業員はそれぞれの与えられた領域において、目的達成のために内部統制が適切に運用されていることについて責任を負うとされている。

なおここでは、健全な内部統制の要素についても言及されている。

2)内部統制の有効性の評価

 内部統制の有効性の評価は、取締役会の基本的な職務であるとされている。内部統制の有効性の評価プロセスには、経営陣より定期的に報告を受けることのほか、実効性を継続的にレビュー・評価すること、さらに年次報告において説明することが含まれる。

 経営者の報告には、リスクと内部統制の有効性とに関するバランスのとれた評価が示されていることが必要であり、取締役会は適切に全体状況と重要なリスク・統制が捕捉され、重大な統制の欠陥に手当てが施され、更に突っ込んだレビューが必要であるかを検討することとされている。

3)取締役会の内部統制についての意見書

 取締役会は、企業の重要リスクを識別し、評価し、対応するための継続的プロセスがあること、および年次報告書の承認の日まで取締役会が定期的にレビューしていることを最低限記載する必要があるとされている。

4)内部監査

 内部監査部門を有していない会社においては、毎年のリスク状況の変化を勘案して、その必要性について継続的に再検討しなければならないとされている。内部監査部門は、上級経営者や取締役会にとって、リスクと統制の客観的評価機能として有用であり、こうした内部監査部門が無い場合には、経営者は自らと取締役会のために、何らかの代替的な内部統制の有効性の監視手続を持たねばならないとされている。また、取締役会はその手続の適切性を検証しなければならないとされている。

 なお、内部監査部門がある場合にも、会社はその範囲、権限、資源配分等を十分に再検討する必要があるとされている。

他国の状況

コーポレート・ガバナンスについて最も活発な議論がなされている国の一つであるアメリカ合衆国では、1987年にトレッドウェイ委員会報告書が公表され、ここでの勧告を受けて1992年にCOSO報告書「内部統制の統合的枠組み」が公表された(COSO:Committee of Sponsoring Organizations of the Treadway Commission)。このCOSO報告書の公表以後、そこで示された内部統制のフレームワークは事実上のグローバル・スタンダードとなり、米国会計基準、バーゼル銀行監督委員会の銀行組織の内部管理体制フレームワークなどで採用されている。

 一方、英国以外のヨーロッパ諸国のコーポレート・ガバナンスの状況を見ると、多くの国でターンブル委員会報告書と同様の趣旨の報告書が作成されているほか(オランダ、ベルギー、イタリア、フランス)、法規制化されている国もある(ドイツ)。これらの国々のコーポレート・ガバナンスに関する動きは活発で、これら欧州諸国の法規制等が統合化される動きもある。

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