ナレッジ

監査手続きにおける「確認」とは

財務諸表項目に関連する情報の入手と評価

確認とは、財務諸表項目に関連する情報について、監査人が会社の取引先等の第三者に対して文書により問い合わせ、その回答を直接入手し、評価する監査手続をいう。監査人は、確認の実施対象項目及び実施範囲について、監査リスク及び重要性、会社の状況及び事業内容並びに回答の入手可能性を総合的に勘案して決定する。

監査上の危険性

監査人は、監査計画の立案にあたり、監査リスクを一定の水準以下に抑えるために、確認を実施するかどうかを含めて適用すべき監査手続を決定する。

つまり、監査リスクを一定の水準以下に抑えるためには、固有リスク(※1)と統制リスク(※2)の2つの要素を結合したリスクが高ければ高いほど、発見リスク(※3)の程度を低くすることが必要となる。このため、取引記録及び財務諸表項目の監査手続の範囲を拡大したり、あるいは証明力の高い監査証拠を入手するための監査手続を選択する等の対応が必要となる。例えば、売掛金は重要な財務諸表項目であり固有リスクの程度が高いと判断することが多いため、売上取引サイクルの統制リスクの程度の評価結果を勘案して、通常、売掛金については確認を実施することになる。

確認によって入手する監査証拠の証明力は、確認状の様式、発信までの手続及び受信後の手続の妥当性、回答者の誠実性等に依存しているものの、経営者の主張(※4)に適合し、その実施時期及び範囲が適切である場合には、決定した発見リスクの程度を低く抑えることができる証明力の高い監査証拠を入手する監査手続となる。

 

※1 固有リスク:関連する内部統制が存在しないとの仮定の上で、財務諸表に重要な虚偽の表示がなされる可能性のことであり、経営環境により影響を受ける種々のリスク、特定の取引記録及び財務諸表項目が本来有するリスクからなる。

※2 統制リスク:財務諸表の重要な虚偽の表示が、企業の内部統制によって防止又は適時に発見されない可能性のことである。

※3 発見リスク:企業の内部統制によって防止又は発見されなかった財務諸表の重要な虚偽の表示が、監査手続を実施してもなお発見されない可能性、すなわち、経営者の主張に存在する、個別に又は他の虚偽の表示と集計して重要となる虚偽の表示を発見できない可能性のことである。

※4 経営者の主張:経営者が適正な財務諸表を作成していると表明することは、明示的か否かにかかわらず、財務諸表の基礎となる取引や会計事象等の構成要素がこの要件を充足していることを経営者が主張していることを意味する。

国際的な監査基準においてはアサーションという用語により説明されている。監査人は、財務諸表の基礎となる取引や会計事象等の構成要素について立証すべき目標である監査要点としてこの経営者の主張を利用する。

実施項目

確認は、主に以下のような項目について実施するが、会社と第三者との間の契約や取引条件等についても確認を実施することがある。この場合、確認状において、当該契約の締結後等に何らかの変更が行われたかどうか、変更が行われた場合にはその詳細について回答を求めることが必要となる。

さらに、係争事件の有無等の調査のために実施する会社の顧問弁護士への確認や専門家の業務を利用する際の確認なども実施される。

 

【実施項目の例示】

■ 預金及び金融機関 (証券会社を含む。) との取引等に関するその他の情報

■ 受取手形、売掛金

■ 貸付金

■ 倉庫業者、運送業者、外注加工業者その他に保管されている棚卸資産

■ 保護預け又は担保として他に保管されている有価証券

■ 借入金

■ 支払手形、買掛金

■ 偶発債務

■ リース取引に係る債権・債務

積極的確認と消極的確認

確認には、積極的確認と消極的確認の二種類がある。

積極的確認は、確認状に記載した金額や他の情報について確認先が同意するか、又は確認先が有している情報を記入するよう依頼する確認方法であり、必ず監査人に回答することを求めるものをいう。

これに対して、消極的確認は、確認状に記載した金額や他の情報に確認先が同意しない場合にのみ回答を求める確認方法をいう。消極的確認によった場合、監査人は、回答がないことをもって、確認先が確認状に記載した情報に同意したという監査証拠を入手したことにはならないことに留意する必要がある。このため、監査人は、消極的確認を補完する監査手続を実施するかどうかを検討しなければならない。

通常、積極的確認の方が、より証明力の高い監査証拠の入手が可能となる。なお、積極的確認と消極的確認を組み合わせて実施することもある。

確認状の発送と回収

監査人は、確認先の選定、確認状の作成、発送及び返信の回収について自らコントロールしなければならない。つまり、確認状の宛先が適切であることを確かめ、確認状を自ら発送するとともに、返信が名宛人からの回答かどうかを検討する必要がある。

また、積極的確認に対する回答がない場合 (回答未記入の場合を含む。)、原則として、確認状を再発送する等により、確認先に回答を要請する。このような要請によっても回答がない場合、監査人は代替監査手続を実施しなければならない。

回答の信頼性

先に述べたように、確認によって入手する監査証拠の証明力は、回答者の誠実性や確認項目に関する知識に依存することが多い。よって監査人は、必要とする回答が確実に返送されるようにするため、確認状の宛先を適切な部署又は担当責任者等とすることが必要となる。また、監査人は、確認先が会社と特別な関係を有している場合、当該確認先が故意に誤った回答を行う可能性があることに留意する必要がある。

さらに、回答の信頼性について何らかの懸念をもった場合には、監査人は、例えば名宛人へ電話して回答の詳細について問い合わせるといった対応を行う必要がある。これ以外にも、例えばファックスや電子メールで回答を受信した場合、特に回答者の信頼性について検討し、原則として、回答の原本の送付を要請するなどの対応を行う

実施結果の評価

監査人は、確認を実施した結果、十分な監査証拠を入手できたかどうかを評価しなければならない。例えば、確認差異が生じている場合、確認差異が虚偽記載又はその兆候を示していることがあるため、差異調整等によって確認差異の原因を調査し、その有効性や影響を検討する。その上で、十分な監査証拠が入手できなかったと判断した場合、十分な監査証拠を入手するために必要な監査手続を追加して実施しなければならない。

 

(参考 : 監査基準委員会報告書第19号(中間報告) 確認 平成13年7月3日(平成14年11月18日改正) 日本公認会計士協会)

お役に立ちましたか?