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監査手続:実査

当該資産の現物を直接かつ実地に調査する

監査人は、実査を実施することにより、当該資産の実在性に対する証明力の高い監査証拠を入手することができると共に、その対象となっている資産の保全状況等に関する内部統制の信頼性を確かめることができる。以下、実査の実施項目や時期について例示を含めて説明する。

実査とは

実査とは資産の実在性を確かめるため、監査人自らが当該資産の現物を直接かつ実地に調査する監査手続をいう。監査人は、実査を実施することにより、当該資産の実在性に対する証明力の高い監査証拠を入手することができると共に、その対象となっている資産の保全状況等に関する内部統制の信頼性を確かめることができる。

また、関連帳票など会計記録との突合を行うことで、当該資産に係る取引記録の正確性や期間帰属の適正性といった監査要点に対する監査証拠を合わせて入手することができる。

さらに、実査の実施により、数量、金額等の情報に加えて、担保差入状況、名義人、裏書人、証券番号、保護預け等に関する追加的な情報を入手することができるほか、副次的には、不正誤謬に対する牽制効果が得られる。

実施項目

実査は、主に以下のような項目について実施するが、これ以外にも実査可能な会社の資産は全て対象となり得る。監査人が実査を行なうべき対象物件及び対象事業所の選定に当たっては、業種・取引形態等、内部統制の信頼性の程度、金額の重要性などを勘案して、監査人が決定する。

 

【実施項目の例示】

■現金

■預金通帳、証書

■受取手形

■有価証券

■その他

(1) 船荷証券、倉荷証券

(2) 有形固定資産

(3) 予備株券

(4) 絵画、貴金属等

(5) ゴルフ会員権等の預託会員券 など

実施時期

実査は、原則として、期末日直後に実施する。また、監査人が必要と認めた場合には、予告なしに実査を行うこともある。

なお、現金、預金証書、受取手形、有価証券等の換金性の高い資産については、同時に実査するよう留意する。また、保管場所が複数の場合も、可能なかぎり、同時に実査すべきといえる。

実査の代替手続

例えば、受取手形や有価証券等の量が著しく多いために、監査人自らが全件実査を行うことが合理的でない場合には、立会をもって代替することもできる(→キーワード解説「立会」参照)が、この場合でもテスト・ベ―スで実査を行う必要がある。しかしながら、内部統制が良好と認められないときは、全件実査を行うことが望ましいといえる。

 

また、取立依頼、担保差入等により外部保管のものについては、保管に関する預り証等を査閲し、必要と認めた場合には、保管先への直接確認を実施するといった代替手続が考えられる。

監査手続の例示

(1) 現金の実査

1.現金に関する保管部署及び保管担当者、補助元帳及び記帳担当者、出納保管に関する取扱い手続並びに小口現金制度についての概要を把握する。

2.実査に際しては会社担当者の立会を求め、現物返還後に実査対象物の受領書を入手する。

3.現金及び現金等価物を実査し、実査表に数量・金額・内容等をボールペン又は万年筆によって記入する(又は、入手した金種別在高表等と突合する)。

4.メモ書き、借用証等による仮払いが現金残高に含まれているときは、金銭出納帳と突合するとともに、その内容について質問を行い、資産性の有無及び勘定処理の妥当性を確かめる。

5.現金実査表と金銭出納帳を突合する。

6.会社所有外の現金を預り保管している場合は、それらについても実査し、管理簿と突合する。また、預り理由の合理性を質問等により確かめる。

 7. 小口現金について定額前渡制度を採用している場合は、現金の実査と同時に支出済の領収証等を検証し、かつ、これらの合計額が定額前渡金額と一致していることを確かめる。

7.小口現金について定額前渡制度を採用している場合は、現金の実査と同時に支出済の領収証等を検証し、かつ、これらの合計額が定額前渡金額と一致していることを確かめる。

8.小切手、手形用紙綴を実査してカット・オフ情報(実査時における最終使用番号及び未使用番号)を入手する。

9.実査手続の結果、検出事項及び後日フォロー・アップすべき事項等を要約する。

 

(2) 預金通帳・証書の実査

1.預金通帳・証書について、保管部署及び保管担当者、補助元帳及び記帳担当者、受払保管に関する取扱い手続等についての概要を把握する。

2.実査に際しては会社担当者の立会を求め、現物返還後に実査対象物の受領書を入手する。

3. 預金残高口座別明細表を入手し、預金通帳・証書及び担保品預り証等と突合する。

4. 会社所有外の他者名義の預金通帳・証書を預り保管している場合は、それらについても実査し、その管理簿と突合する。また、預り理由の合理性を質問等により確かめる。

5. 実査手続の結果、検出事項及び後日フォロー・アップすべき事項を要約する。

 

(3) 受取手形の実査

1.受取手形について、保管部署、保管方法、補助元帳及び記帳担当者、各事業場からの送付方法、割引、取立依頼、担保提供、裏書譲渡に関する方針及び取扱手続等についての概要を把握する。

2.実査に際しては会社担当者の立会を求め、現物返還後に実査対象物の受領書を入手する。

3. 受取手形明細表を入手し、手形現物、代金取立手形通帳、担保品預り証、手形割引依頼書等と突合する。

4. 会社所有外の他者の手形を預り保管している場合は、それらについても実査し、その管理簿と突合する。また、預り理由の合理性を質問等により確かめる。

5. 実査手続の結果、検出事項及び後日フォロー・アップすべき事項を要約する。

 

(4) 有価証券の実査

1.有価証券について、保管部署、保管方法、補助元帳及び記帳担当者、受払保管に関する取扱い手続等についての概要を把握する。

2.実査に際しては会社担当者の立会を求め、現物返還後に実査対象物の受領書を入手する。

3.有価証券明細表を入手又は作成し、証券現物、登録済通知書、払込金領収証、株券不所持申出受理通知書、担保品預り証、保護預り証、利札等と突合する。

4.預り有価証券を保管している場合は、それらについても実査し、その管理簿と突合する。また、預り理由の合理性を質問等により確かめる。

5.実査手続の結果、検出事項及び後日フォロー・アップすべき事項を要約する。

 

(出所:監査委員会研究報告第11号 監査マニュアル作成ガイド「財務諸表項目の監査手続編」(中間報告) 平成12年9月4日 日本公認会計士協会)

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