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OECD 多国籍企業ガイドライン

OECD Guidelines for Multinational Enterprises

OECD 多国籍企業ガイドラインとは、1976年に経済協力開発機構(OECD) が作成したガイドラインである。加盟国政府は、世界経済の発展に大きな影響を有する多国籍企業の行動に関し責任ある行動をとるよう、ガイドラインに基づいて企業に対して勧告を行う。ただし、ガイドラインそのものには法的な拘束力はなく、その適用実施は各企業の自主性に委ねられている。そのOECD 多国籍企業ガイドラインの改訂のポイントを含めて説明する。

OECD多国籍企業ガイドラインとは

OECD 多国籍企業ガイドライン*1(OECDGuidelines for Multinational Enterprises、以下ガイドラインと記す)とは、1976年に経済協力開発機構(OECD)*2 が作成したガイドラインである。加盟国政府は、世界経済の発展に大きな影響を有する多国籍企業の行動に関し責任ある行動をとるよう、ガイドラインに基づいて企業に対して勧告を行う。ただし、ガイドラインそのものには法的な拘束力はなく、その適用実施は各企業の自主性に委ねられている。

また、ガイドラインは、同年、OECD 加盟国間の直接投資を容易にするためにOECD 加盟国政府が同年に採択した政治的コミットメントである「国際投資と多国籍企業に関するOECD 宣言」の下に定められたツールの一つとして位置づけられている。

ガイドラインでは、労働基準、環境、情報開示、技術移転、競争、税等幅広い分野における、責任ある企業行動に関する任意の原則と基準を定めており、グローバル展開を図る企業が直面しうるリスクと、そのグッドプラクティスを取り上げている(個別の内容については、後ほど解説します)。また、CSR(企業の社会的責任)に関する国際的なガイドラインとしては、最も古くから存在するもののひとつとなっており、現在の様々なガイドライン類にも大きな影響を与えている。

 

 

*1)邦訳別称として「OECD多国籍企業行動指針」も使用されている。

*2)経済協力開発機構(OECD)とは、持続可能な経済成長の支持、雇用の増大、生活水準の向上、金融安定化の維持、他国の経済発展の支援、世界貿易の成長への貢献などを目的として活動している国際機関。設立は1961年、北米、西欧諸国を中心に日本も含め34カ国が現在加盟しており、市場経済を原則とする先進諸国の集まりとなっている。所在地はパリ。

ガイドラインの改訂

ガイドラインは2011年5月に4回目の改訂が行われている。これまでも、世界経済の発展や企業行動の変化などの実情に合わせ、1984年、91年、2000年にガイドラインの改訂が行われてきた。今回は2000年の改訂に引き続く大きな改訂となっている。

2011年の改訂は、前回改訂(2000年)以降の国際投資や多国籍企業の状況の変化を踏まえたものである。特に、非OECD 諸国への投資の増加や、ガイドライン支持国以外を母国とする多国籍企業の増加、金融危機の発生と市場経済への信頼低下、地球温暖化への対応の必要性などが背景として挙げられている。

今回の改訂の大きな要素としては、人権に関する章の新設が挙げられる。操業する全ての地域での人権の尊重や、それを実現するためのデューデリジェンスの実施などが謳われている。なお、関連事項として、今回の改訂と併せて、ガイドライン支持国の大臣が、紛争鉱物に関するOECD のデューデリジェンスガイダンスへの同意を示していることも見逃せない。

ガイドラインの内容

ガイドラインの各章の概要を、OECD による説明*3を基に、今回の改訂のポイントを加えて紹介する。

 

序文

ガイドラインの狙いや背景が記載されている。ガイドラインを支持する政府の共通の目標は、経済面、環境面及び社会面の発展に対し多国籍企業が行い得る積極的な貢献を奨励すること、並びに多国籍企業の多様な活動がもたらすであろう困難を最小にすることにある。

 

I.定義と原則

ガイドラインの基本となる原則(遵守が任意であるという性質、全世界での適用、全企業にとって良き慣行の原則であるという事実等)を打ち出している。今回の改訂では、現地法との関係についての説明が加えられている。具体的には、現地法の遵守を優先するが、違法状態にならない限り積極的にガイドラインの内容を尊重することとされている(例:ガイドラインの基準の方が厳しい場合など)。

 

II.一般方針

第一の具体的勧告(人権、持続可能な開発、関係する供給業者の責任、地域の能力の開発に関する条項、より一般的には、事業活動を行う国で確立した政策を十分に考慮に入れる)が含まれている。また、今回の改訂では、リスクマネジメントに組み込んだ形でのデューデリジェンスの実施や、ステークホルダーエンゲージメントが新たに追加となっている。さらに、推奨事項としてサプライチェーンにおける対応や、自由なインターネット利用(表現の自由)への協力が新たに挙げられている。

 

III.情報開示

企業業績や所有権といった、企業のあらゆる重要な事項に関する情報公開を求めるとともに、社会、環境、リスクに関する報告のように、報告の基準が提案・形成されている途上の領域におけるコミュニケーションを奨励している。また、今回の改訂では、外部の監査人による年次監査の実施が盛り込まれ、報告の信頼性が一段と求められるようになっている。

 

IV.人権

今回の改訂で新しく追加となった章である。国家による人権保護の義務とともに、企業による人権の尊重、人権侵害への加担の回避、方針の策定、デューデリジェンスや救済の実施などが打ち出されており、ISO26000と同様に、国連で採択された保護、尊重、救済という人権問題への対応に関する、ラギー教授のフレームワーク(ラギー・フレームワーク)の考え方が取り入れられています。

 

V.雇用及び労使関係

この分野での企業活動の主な側面(児童労働、強制労働、差別禁止、誠実な従業員代表によって代表される従業員の権利、建設的交渉の権利など)を取り上げている。今回の改訂では、改めて国際的な労働基準の遵守が強く打ち出され、児童労働や強制労働に対する強い対応や、発展途上国で優越的な地位にある場合の労働条件への配慮などが盛り込まれている。

 

VI.環境

健康や安全への影響も含め、企業が環境保護で成果を上げるよう奨励している。この章では、環境管理システムに関する勧告、環境に深刻な影響を与える恐れがある分野での予防措置等が掲載されている。今回の改訂により、温室効果ガスの削減が明確に盛り込まれるとともに、環境について企業全体、さらにはサプライチェーンで取り組むこと、企業や商品に関する環境情報の開示を(なるべく検証可能な形で)行うことを推奨している。

 

VII.贈賄の防止、賄賂要求・恐喝への対応

公的および民間部門の贈賄、受動および能動的汚職を取り上げている。今回の改訂では、贈賄行為そのものだけではなく、対抗するための仕組みについても踏み込んで記載されている。内部統制や、倫理コンプライアンスプログラムの構築、リスクベースの防止策の策定などが示されるとともに、(望ましくはないのですが)少額の「手数料」の支払いが発生した場合については、記帳を行うこととされている。

 

VIII.消費者利益

企業が消費者と接する際に、公正な事業、販売及び宣伝慣行に従って行動し、消費者のプライバシーを尊重するとともに、提供する物品やサービスの安全性と品質を確保するためあらゆる合理的な措置を実施するよう勧告している。今の改定では、持続可能な消費(sustainable consumption)を支援するために、環境や社会への影響についての情報を消費者に提供することや、社会的弱者への配慮、e- コマース特有の問題への対応も取り上げられている。

 

IX.科学技術

多国籍企業が事業活動を行う国において研究開発の成果を普及させ、その国の革新能力に貢献するよう奨励している。なお、この章はほとんど改訂が無かった。

 

X.競争

オープンで競争的なビジネス環境の重要性を強調している。今回の改訂では、経営層(senior management)への啓蒙の促進について、記載が追加されている。

 

XI.税

企業が税法の条文及び精神を尊重し、税務当局と協力するよう求めている。今回の改訂では、税に関するガバナンスやコンプライアンスの問題は、リスクマネジメントの重要な要素として位置づけられている。税に関する件も含め、経営層がリスクマネジメントをしっかりと実践することが推奨されている。

 

*3)OECD 東京センター「OECD 政策フォーカス」No. 29,2001年8月

 

 

 

参考資料

・OECD『OECD Guidelines for Multinational Enterprises』2011年5月25日

・OECD ウェブサイト『2011 Update of the OECD Guidelines for Multinational Enterprises』2011年8月23日アクセス

・OECD ウェブサイト『New OECD guidelines to protect human rights and social development』2011年8月23日アクセス

・外務省ウェブサイト『OECD 多国籍企業行動指針』2011年8月16日アクセス

・OECD 東京センター『OECD 政策フォーカス』No. 29,2001年8月

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