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ドローンを取り巻く現状《後編》

ドローンはさまざまな産業で活用できる可能性を秘めた、新しい飛行デバイスといえる。しかし日本では事件や事故が先行し、法整備に追われているのが現状だ。日本はドローンの活用だけでなく、ドローンそのものを開発する技術もあるため、今後の展開に期待したい。今回は、ドローンに関する法整備と海外事情、セキュリティへの懸念についてまとめる。

急ピッチで進むドローンの法整備

日本においては、これまでドローンを規制する明確な法律はなかったが、2015年4月に発生した首相官邸でのドローン墜落事件を受け、法整備の動きが加速している。ただし、ドローンの法整備については2014年から議論がスタートしている。それが「JUIDA(一般社団法人 日本UAS産業振興協議会)」の発足だ。JUIDAは、東京大学の鈴木真二教授が中心となり、ドローンを活用した新たな産業・市場の創造を目的に設立された。
(JUIDA:http://uas-japan.org/

 JUIDAでは、製造技術や安全基準について経済産業省、飛行に関して航空局のある国土交通省、ドローンを制御する通信を管轄する総務省をオブザーバーに安全委員会を開催し、2015年夏までにガイドラインを策定しようとしていた。それが事件を受け、2015年4月23日には政府が関係省庁連絡会議の設置を決め、翌24日には杉田和博官房副長官の総括により第1回目の会議が開催されている。2015年7月2日には、国土交通省がドローンの規制を盛り込んだ航空法改正案を自民党国交部会に示し、了承を得たという。

 改正案では、「無人航空機」を「構造上人が乗ることができないもののうち、遠隔操作または自動操縦により飛行させることができるもの」などと定義し、人口密集地域は飛行禁止としている。また、飛行可能な地域においても、「日の出から日没までの間」に「周囲の状況を目視で常時監視」しながら使用し、「危険物や爆発物を搭載しない」などの規制を設けており、罰則も規定している。
この改正案を受けて、JUIDAでは2015年8月4日に安全指針(ガイドライン)を公表した。

 また総務省は、2015年6月29日に「『ドローン』による撮影映像等のインターネット上での取扱いに係るガイドライン(案)」を公開し、パブリックコメントを募集している。業界動向としては、ドローンの安心安全な操作環境およびデータ送信環境を確立し活用することを目的に企業6社が協議会を設立し、さまざまな活動を開始している。
(総務省:http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban08_02000181.html

海外におけるドローン事情

 海外においても、急激に普及したドローンへの対策が進んでいる。特に欧州や北米では早期からドローンの規制に取り組んでおり、すでに罰則規定を盛り込んだ法整備も進んでいる。具体的な規制は、「「25kg以上のドローンは日中のみ操縦者の視界の範囲内での飛行に限定し、152メートル以下の高度を速度160km/h以下で飛行する」などとされている。飛行禁止地域をあらかじめドローンのプログラムに組み込むなど、システム的な制御も行われている。

 また、ドローンを活用したビジネスも複数立ち上がっており、主にインフラや構造物の定期検査などを行っている。また、災害時の救援物資などの輸送にドローンを活用する取り組みも盛んだ。一方、エンドユーザーに対する配送サービスなどは法規制が壁になっており、業界団体が改正を求める動きも活発になっている。ドローンの製造企業は欧州、北米、アジアが盛んだが、日本製の電子部品なども採用されているという。

ドローンのセキュリティ上の懸念

ドローンが従来のラジコンや航空機と大きく異なる点は、無人機であることとソフトウェアによる制御が可能なことだ。ホビーとして販売されているドローンの中にも、Androidベースのソフトウェアで操縦が可能なものもある。これがドローンのセキュリティ上の懸念のひとつだ。Androidは基本的にオープンソースのソフトウェアであるため、脆弱性が発見され悪用される可能性がある。

 実際に、ドローンのサイバーセキュリティについて研究する専門家も多く、いくつか脆弱性を悪用する攻撃手法も発表している。そのひとつが、ドローンの制御システムに感染するウイルスだ。侵入経路には、ドローンを制御するための通信に割り込むパターンと、制御用のプログラムにあらかじめウイルスを埋め込むパターンが紹介されている。現実的には、アップデートを装った偽アプリなど、現在のマルウェア感染に使用される手法が使われると思われる。

 感染した場合、ドローンを乗っ取って自在に操作したり、ネットワーク経由でPCにも感染を広げることなどが実証されている。さらにドローン版「DoS攻撃」が実行される可能性もある。ドローンは2.4GHz帯域を使った無線通信によって操作するが、この帯域はWi-Fi(無線LAN)も使用している。たとえば、ドローンが飛行している周辺で大人数、あるいは数十台のスマートフォンでテザリングを行うか、モバイルルーターでインターネットに接続すると、2.4GHz帯域に大量の通信が発生する。これによりドローンを操縦するための無線通信を妨害できる可能性がある。

 以上のように、ドローンにはセキュリティやプライバシーの懸念もあるが、ビジネスや産業として非常に大きな可能性がある。日本では事件や事故が多発したために法規制が先行している状況だが、同時にビジネスや産業を伸ばすという視点での取り組みも必要だと思われる。ドローン本体の技術や構成される部品、ソフトウェアにおいても、日本は世界と対等以上に戦える技術力がある。ドローンのさらなる活用や発展に期待したい。

 

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